黒鎧の救世主
第五十五話 進む攻略
「今日の授業はこれで終了だ。何か分からないことがあれば、私の実験室に来て質問をしてくれ」
パラさんの一声によって、今日の授業も無事に終了した。
明かりがついた教室は、それでも薄暗い。今日一日雨が強く、フードつきの外衣で雨をしのいで登校した人間も多い。智也も外衣を持ってきているが、アリスがワープで学園近くまで連れてきてくれたので、外衣もそれほど濡れていない。
授業が終わり、智也はパラさんとすぐに実験室に戻った。生徒に話しかけられるが、今日は本当に用事があるのでいつも通り断った。あからさまに落ち込まれて、智也の心も多少ぶれた。
パラさんは棚から魔石の入った袋を取り出して渡してくれる。三人分頼んでおいたが、仕事が早い。
「私の知り合いが今度の休みなら行けるらしい。キミは大丈夫かい?」
「はい、問題ありません」
サードさんの薬を取りに行く件だ。
元々予定なんてない。暇ならば塔迷宮を登るくらいだ。
「それで、だ。今日の夜、七時からクックがやっている宿に来て欲しいそうだ。それだけを伝えれば、分かるとリートから言われた」
「はい、大丈夫です」
まさかリートさんが関わっているとは思っていなかった。会ったら、家について改めてお礼を伝えよう。パラさんは、意外そうな顔をこちらに向ける。
「それにしても、驚いたな。キミは天破騎士をまとめているリートさんと知り合いだったのか?」
(あの人、そんな凄かったのか。でも、リーダーとか似合いそうだな)
「以前、ギルドの依頼で一緒に行動したことがあったんです。それから、色々と関わっています」
「キミはあれだな。出世しそうだな」
パラさんは薬を持って、立ち上がる。サードさんに薬を渡しに向かうのだろう。智也も魔石の入った袋を手に持って、
「それじゃあ、俺はそろそろ戻ります。また、明日」
「ああ、雨が降ってるから気をつけるんだぞ。キミまで風邪を引いたら、私が大変だからね」
パラさんの冗談に智也は笑みを浮かべて、外衣を着る。それほどいい服ではないが、雨をしのいでくれるだけで十分だ。
水溜りを避けて、家までの道を歩いていく。探せばどこかに傘はありそうなものだが、道行く人は全員外衣で雨を防いでいる。
「ただいま」
家について、鍵を開けるとたたたと廊下を走る音がして、アリスがやってくる。
「トモヤさんお帰りなさいです。お昼は食べるんですよね?」
「ああ。昼を食べたら、休憩して塔迷宮に向かうけど大丈夫か?」
「もちろんです。濡れた外衣はそこのカゴに入れて置いてください。後で洗っておきます」
玄関に木で出来たカゴがあったので、そこに外衣を入れる。
おにぎりだ。昼ごはんなので、このくらいのほうがいい。塩で味付けされた簡素なもので、智也の口は懐かしさを楽しんでいた。
「これ、おいしい?」
クリュが怪訝そうな表情でこちらを見てくる。クリュにはおにぎりのおいしさが分からないらしい。智也は肩を竦めて、やれやれと鼻で笑うとクリュがうざそうなジト目に変化する。
「おにぎりは、シンプルだからいいんだ。毎日食べても俺は飽きないね」
「あっそ、なら毎日食ってればいいんじゃない?」
クリュが小さく笑ってから、おにぎりをばくばくと食べる。文句は言っても、やはりクリュも好きなようだ。アリスは両手でおにぎりを持ちながら、
「おにぎり好きなんですか?」
「まあ、故郷でもよく食べてたよ」
おにぎりを三つほど腹に入れて、しばらく各自が適当に休んでから塔迷宮に向かう。
雨が降っているので、アリスのワープで塔迷宮の入り口まで飛んでもらう。雨に打たれる前に、塔迷宮に入る。
「今日は何階層に行きますか?」
「少し試したいことがあるんだ、十七階層に行ってくれ」
「……? 分かりました」
アリスは一瞬首を傾けたが、自分が何か考えているとのだとすぐに察してくれる。察しの悪い、クリュは嫌そうな声とともに腰へ手を当てた。
「あそこの魔物なんて弱すぎじゃない。何がやりたいのよ」
「別にお前は見てるだけでいいぞ。むしろ、今日は三十七階層に向かうから温存しててくれたほうが俺としても嬉しいぞ」
暗に強いヤツと戦えると教えると、クリュの眉が嬉しそうにあがる。分かりやすいヤツだ。
「ふぅん、ならあたしは適当に体解してるわよ」
アリスがジャンプで十七階層に跳ぶと、すぐ近くに二種類の魔物がいる。アースサラマンダーとサンダーフライだ。
アースサラマンダーの鱗は乾いた砂のような色をしていて、体は地球のトカゲを何倍にもしたような魔物だ。
サンダーフライは黄色い羽をばたつかせて浮遊している。トンボを大きくしたような姿だ。
「少し魔法を試してみるから、二人は敵に狙われないように下がってて。クリュ弱点属性は?」
「トカゲが、水、飛んでるのが土よ」
アリスたちが離れたのを確認してから、昨日作った魔石を両手に持つ。
アースサラマンダーへアクアボールを、サンダーフライへアースボールの魔石を向ける。足場に魔法陣が発生する。
「アクアボール、アースボール」
魔法発動の鍵である言葉を放つと、MPが僅かに減り魔石から青と茶色の球が生み出される。拳大ほどの大きさになると、それぞれが発射されて着弾。
それぞれ弱点を突かれたからか、体をよろめかせ魔法の発生源であるこちらを睨む。
サンダーフライがこちらへと飛んでくる。飛びながら、口から雷を発射するが智也はなんなくそれを回避して、アースボールをぶつける。
崩れたサンダーフライを蹴り、アースサラマンダーへとぶつけて、二体を巻き込むようにアクアボールとアースボールを打ち続ける。
回数の五回を終えたところで、二体の魔物はようやく消滅した。
初級の魔法ではあるが、弱点をつけばそれなりに倒せるようだ。
MPの減りは八十ほどだ。魔法だけで倒すとなると効率は悪いが、先制攻撃に使うのならいいが、戦闘中にわざわざ魔石を持って攻撃するほどではない。
実戦で使うにはもっと強力な魔法のほうが便利だ。今後も魔法の勉強をしていこう。
魔法の実験はこれで終わりだ。やっと攻撃的な魔法を使うことができて、ちょっぴり感動はあったが、今日は三十七階層に挑むのだ。気を緩めてはいられない。他の属性の魔石は、アリスに簡単に説明する。このパーティーでのアリスの役目は何でも屋だ。
かゆいところに手が届く存在になってもらいたい。
「火が赤で、風が緑。それと、魔法については俺が使ったときよりも効果は弱くなるから」
「え、そうなんですか?」
「魔石は書き込んだ本人が一番威力があるんだ。なんでも、人それぞれMPの質が違うらしく、質が離れれば離れるほど威力が下がるんだ」
「あ、MPの質が人それぞれなのは知ってましたけど、魔石にも影響するんですね」
アリスが袋から赤い魔石を取り出して、覗き込んでいる。「綺麗ですね」と呟いて、袋に戻す。
「私、魔法は初めてなんで知りませんでした。トモヤさんって皆が知っていることを知らないのに、物知りですよね」
「はは、馬鹿にしてる?」
「褒めてますよ?」
アリスは目を閉じるように笑い、歯を見せるように笑う。多少バカにしているのは分かったが、仲間なので冗談だと分かっている。意外と毒を吐く人物だったのは最近接していて分かってはいたので、智也も冗談を返すくらいには慣れている。
「これから三十七階層に向かう。初めのうちは敵の少ない場所に行って、どんな魔物が出るのか確かめてからだ。無茶だと思ったら、アリスを使ってすぐに逃げる」
「分かりましたっ、私大活躍しますよ」
アリスがやる気を出しすぎて空回りしないことを祈りながら、三十七階層に向かう。
塔迷宮はボス部屋以外はほとんど景色が変わらないといってもいい。
新しい場所に来たにもかかわらず、先ほどと大した変化がないので感覚を狂わされている気分だ。
アリスのスキルに任せて、魔物を探しに行く。彼女のスキルは自分で意識する必要があるらしいので、歩く表情は難しい顔になっている。
「向こうに二体いますけど、どうしますか?」
「クリュ、準備はいいか?」
「もう、骨を折る妄想はしなくていいってことね?」
「準備万端ってことだな」
クリュが本当に嬉しそうに破顔する。彼女が一番笑うのはやはり他者の命を奪うときだ。それはもう、仕方ない。誰かに殺しをいいことだと教えられたのだろう。
(エフルバーグも、変なことを吹き込んだよな)
とはいえ、おかげで扱いやすくもあるので怒りだけを向けることもできない。
「いました、一匹はビッグゴリーラのようですね」
「みたいだな。もう一体は、飛行モンスターか」
三十六階層で何度も戦ったビッグゴリーラはクリュに任せるとして、もう一体をどうやって倒すか作戦を立てる。
フレイムホーク。巨大な鳥は全体が真っ赤に染まっている。時々呼吸をしているのか、口からは火が漏れている。
火属性の遠距離攻撃もあるだろう。
敵はビッグゴリーラの頭の位置で飛んでいる。マシンガンで攻撃する必要があるだろう。
「クリュ、鳥の弱点はなんだ?」
「くちばし、矢、水と雷」
(二属性か珍しいな)
「矢……マシンガンも含まれると思うか?」
アリスが顎に手をあて、
「遠距離攻撃だからいいんじゃないですか?」
マシンガンという存在は、恐らくこの世界にはなかった。青服については、今どこの国の所属なのか調査されているが、今まではなかった。
なら、この世界のステータスの仕組みにも組み込まれていない可能性が高い。ステータスがどういったものなのか分からないので、断言は出来ないが。
智也が思考にふけっていると、クリュがぽつりとつまらなそうに呟いた。
「遠距離攻撃って言葉。なんか、言いにくいじゃない。だから、あたしは嫌いなのよ。魔物は拳で殴ってこそなのよ。相手の苦しみは肌から伝わってくるの」
「理解しがたいな。なら、近距離攻撃だって言いにくいだろ」
クリュは、ふふんと腕を組む。
「近接戦闘。かっこいいじゃない」
「なら、遠距離攻撃も言えばいいだろ」
「ちょっと待ちなさいよ。遠距離ってどう言えばいいのよ」
「自分で考えろ」
バカな会話はやめて、改めて智也は鳥に目を向ける。
「……遠接?」
クリュがドヤ顔で言ったが、智也は呆れてしまう。
(ていうか、漢字で説明して分かるのだろうか?)
ここまでの会話も、実際ちゃんと通じていることに首を捻りたくなる。
少し気になったので、言ってみた。
「遠って言葉と、接って言葉、矛盾してると思わないか?」
「そう? 結構かっこいいわよ」
(通じているのか?)
相手がクリュなので判断に迷う。隣のアリスを見てみると、あははっと苦笑いをしているので通じているようだ。
(俺の言葉がこの世界の言語に自動変換されているのか? そして、クリュたちの言葉も勝手に日本語に変換されている、んだよな。この力は、考えれば考えるほどわけが分からなくなってくるな)
自分がなぜ異世界にいるのか、そういったことは考えないようにするのが一番なのかもしれない。考えようにも情報がないのだから、悩みが増えるだけだ。
切り替えるように息を吐き出し、クリュにフレイムオーラをかけて、智也はスパークオーラを自分に使う。
クリュの弱点察知では分からないが、魔物には耐性もある。何となく火が効くビッグゴリーラに水属性はあまり効かないと思い、雷属性にした。
マシンガンを生み出して、アリスに渡す。智也はクリュにビッグゴリーラを任せて、アリスとともに空中にいるフレイムホークへマシンガンを打ち続ける。何も出来ずに体を震わせて、フレイムホークは死に、クリュも鮮やかな動きでビッグゴリーラを危なげなく倒した。
「三十七階層も、余裕そうだな。今日はここでレベル上げを主にして、階段を探そう」
アリスに先導を任して、フレイムホークは智也とアリスの力の暴力で倒し、敵が大きければ黒の鎧、覚醒強化を使い、智也は敵をアリスに寄せ付けない。
しばらく狩りをしてから、アリスの持つ腕時計で時間を確認して塔迷宮から出る。今日はリートさんとの約束があるので、遅れるわけにはいかない。
ギルド、教会でいつものを済ませてから自宅にワープする。クリュから順に靴を脱いであがっていると、アリスが振り返ってきた。
「トモヤさん夕食何か食べたいのありますか? 私が、腕をふるいますよ」
えへんと腰に手をあてて、子どもらしく胸を張る。智也ははりきるアリスに申し訳ない顔を向け、
「七時から、少し用事があるんだ。クックさんの宿にいるから、事件があったらすぐに来てくれ」
家の時計はまだ六時を回ったところだ。智也の家からならば、歩いて十五分もあれば着く。アリスは特に追及することなく、前で手を組んで柔らかく微笑む。
「そうですか。気をつけてくださいね」
「ああ、ありがと。早めに戻るつもりだけど、遅かったら先に寝てもいいから」
智也はフードを被って、扉を開ける。外の雨は未だに降り続いていて、智也の気分を下げたが一歩を踏み出す。
靴が水に曝されていて、明日からは違う靴だなと智也は肩を落とした。
パラさんの一声によって、今日の授業も無事に終了した。
明かりがついた教室は、それでも薄暗い。今日一日雨が強く、フードつきの外衣で雨をしのいで登校した人間も多い。智也も外衣を持ってきているが、アリスがワープで学園近くまで連れてきてくれたので、外衣もそれほど濡れていない。
授業が終わり、智也はパラさんとすぐに実験室に戻った。生徒に話しかけられるが、今日は本当に用事があるのでいつも通り断った。あからさまに落ち込まれて、智也の心も多少ぶれた。
パラさんは棚から魔石の入った袋を取り出して渡してくれる。三人分頼んでおいたが、仕事が早い。
「私の知り合いが今度の休みなら行けるらしい。キミは大丈夫かい?」
「はい、問題ありません」
サードさんの薬を取りに行く件だ。
元々予定なんてない。暇ならば塔迷宮を登るくらいだ。
「それで、だ。今日の夜、七時からクックがやっている宿に来て欲しいそうだ。それだけを伝えれば、分かるとリートから言われた」
「はい、大丈夫です」
まさかリートさんが関わっているとは思っていなかった。会ったら、家について改めてお礼を伝えよう。パラさんは、意外そうな顔をこちらに向ける。
「それにしても、驚いたな。キミは天破騎士をまとめているリートさんと知り合いだったのか?」
(あの人、そんな凄かったのか。でも、リーダーとか似合いそうだな)
「以前、ギルドの依頼で一緒に行動したことがあったんです。それから、色々と関わっています」
「キミはあれだな。出世しそうだな」
パラさんは薬を持って、立ち上がる。サードさんに薬を渡しに向かうのだろう。智也も魔石の入った袋を手に持って、
「それじゃあ、俺はそろそろ戻ります。また、明日」
「ああ、雨が降ってるから気をつけるんだぞ。キミまで風邪を引いたら、私が大変だからね」
パラさんの冗談に智也は笑みを浮かべて、外衣を着る。それほどいい服ではないが、雨をしのいでくれるだけで十分だ。
水溜りを避けて、家までの道を歩いていく。探せばどこかに傘はありそうなものだが、道行く人は全員外衣で雨を防いでいる。
「ただいま」
家について、鍵を開けるとたたたと廊下を走る音がして、アリスがやってくる。
「トモヤさんお帰りなさいです。お昼は食べるんですよね?」
「ああ。昼を食べたら、休憩して塔迷宮に向かうけど大丈夫か?」
「もちろんです。濡れた外衣はそこのカゴに入れて置いてください。後で洗っておきます」
玄関に木で出来たカゴがあったので、そこに外衣を入れる。
おにぎりだ。昼ごはんなので、このくらいのほうがいい。塩で味付けされた簡素なもので、智也の口は懐かしさを楽しんでいた。
「これ、おいしい?」
クリュが怪訝そうな表情でこちらを見てくる。クリュにはおにぎりのおいしさが分からないらしい。智也は肩を竦めて、やれやれと鼻で笑うとクリュがうざそうなジト目に変化する。
「おにぎりは、シンプルだからいいんだ。毎日食べても俺は飽きないね」
「あっそ、なら毎日食ってればいいんじゃない?」
クリュが小さく笑ってから、おにぎりをばくばくと食べる。文句は言っても、やはりクリュも好きなようだ。アリスは両手でおにぎりを持ちながら、
「おにぎり好きなんですか?」
「まあ、故郷でもよく食べてたよ」
おにぎりを三つほど腹に入れて、しばらく各自が適当に休んでから塔迷宮に向かう。
雨が降っているので、アリスのワープで塔迷宮の入り口まで飛んでもらう。雨に打たれる前に、塔迷宮に入る。
「今日は何階層に行きますか?」
「少し試したいことがあるんだ、十七階層に行ってくれ」
「……? 分かりました」
アリスは一瞬首を傾けたが、自分が何か考えているとのだとすぐに察してくれる。察しの悪い、クリュは嫌そうな声とともに腰へ手を当てた。
「あそこの魔物なんて弱すぎじゃない。何がやりたいのよ」
「別にお前は見てるだけでいいぞ。むしろ、今日は三十七階層に向かうから温存しててくれたほうが俺としても嬉しいぞ」
暗に強いヤツと戦えると教えると、クリュの眉が嬉しそうにあがる。分かりやすいヤツだ。
「ふぅん、ならあたしは適当に体解してるわよ」
アリスがジャンプで十七階層に跳ぶと、すぐ近くに二種類の魔物がいる。アースサラマンダーとサンダーフライだ。
アースサラマンダーの鱗は乾いた砂のような色をしていて、体は地球のトカゲを何倍にもしたような魔物だ。
サンダーフライは黄色い羽をばたつかせて浮遊している。トンボを大きくしたような姿だ。
「少し魔法を試してみるから、二人は敵に狙われないように下がってて。クリュ弱点属性は?」
「トカゲが、水、飛んでるのが土よ」
アリスたちが離れたのを確認してから、昨日作った魔石を両手に持つ。
アースサラマンダーへアクアボールを、サンダーフライへアースボールの魔石を向ける。足場に魔法陣が発生する。
「アクアボール、アースボール」
魔法発動の鍵である言葉を放つと、MPが僅かに減り魔石から青と茶色の球が生み出される。拳大ほどの大きさになると、それぞれが発射されて着弾。
それぞれ弱点を突かれたからか、体をよろめかせ魔法の発生源であるこちらを睨む。
サンダーフライがこちらへと飛んでくる。飛びながら、口から雷を発射するが智也はなんなくそれを回避して、アースボールをぶつける。
崩れたサンダーフライを蹴り、アースサラマンダーへとぶつけて、二体を巻き込むようにアクアボールとアースボールを打ち続ける。
回数の五回を終えたところで、二体の魔物はようやく消滅した。
初級の魔法ではあるが、弱点をつけばそれなりに倒せるようだ。
MPの減りは八十ほどだ。魔法だけで倒すとなると効率は悪いが、先制攻撃に使うのならいいが、戦闘中にわざわざ魔石を持って攻撃するほどではない。
実戦で使うにはもっと強力な魔法のほうが便利だ。今後も魔法の勉強をしていこう。
魔法の実験はこれで終わりだ。やっと攻撃的な魔法を使うことができて、ちょっぴり感動はあったが、今日は三十七階層に挑むのだ。気を緩めてはいられない。他の属性の魔石は、アリスに簡単に説明する。このパーティーでのアリスの役目は何でも屋だ。
かゆいところに手が届く存在になってもらいたい。
「火が赤で、風が緑。それと、魔法については俺が使ったときよりも効果は弱くなるから」
「え、そうなんですか?」
「魔石は書き込んだ本人が一番威力があるんだ。なんでも、人それぞれMPの質が違うらしく、質が離れれば離れるほど威力が下がるんだ」
「あ、MPの質が人それぞれなのは知ってましたけど、魔石にも影響するんですね」
アリスが袋から赤い魔石を取り出して、覗き込んでいる。「綺麗ですね」と呟いて、袋に戻す。
「私、魔法は初めてなんで知りませんでした。トモヤさんって皆が知っていることを知らないのに、物知りですよね」
「はは、馬鹿にしてる?」
「褒めてますよ?」
アリスは目を閉じるように笑い、歯を見せるように笑う。多少バカにしているのは分かったが、仲間なので冗談だと分かっている。意外と毒を吐く人物だったのは最近接していて分かってはいたので、智也も冗談を返すくらいには慣れている。
「これから三十七階層に向かう。初めのうちは敵の少ない場所に行って、どんな魔物が出るのか確かめてからだ。無茶だと思ったら、アリスを使ってすぐに逃げる」
「分かりましたっ、私大活躍しますよ」
アリスがやる気を出しすぎて空回りしないことを祈りながら、三十七階層に向かう。
塔迷宮はボス部屋以外はほとんど景色が変わらないといってもいい。
新しい場所に来たにもかかわらず、先ほどと大した変化がないので感覚を狂わされている気分だ。
アリスのスキルに任せて、魔物を探しに行く。彼女のスキルは自分で意識する必要があるらしいので、歩く表情は難しい顔になっている。
「向こうに二体いますけど、どうしますか?」
「クリュ、準備はいいか?」
「もう、骨を折る妄想はしなくていいってことね?」
「準備万端ってことだな」
クリュが本当に嬉しそうに破顔する。彼女が一番笑うのはやはり他者の命を奪うときだ。それはもう、仕方ない。誰かに殺しをいいことだと教えられたのだろう。
(エフルバーグも、変なことを吹き込んだよな)
とはいえ、おかげで扱いやすくもあるので怒りだけを向けることもできない。
「いました、一匹はビッグゴリーラのようですね」
「みたいだな。もう一体は、飛行モンスターか」
三十六階層で何度も戦ったビッグゴリーラはクリュに任せるとして、もう一体をどうやって倒すか作戦を立てる。
フレイムホーク。巨大な鳥は全体が真っ赤に染まっている。時々呼吸をしているのか、口からは火が漏れている。
火属性の遠距離攻撃もあるだろう。
敵はビッグゴリーラの頭の位置で飛んでいる。マシンガンで攻撃する必要があるだろう。
「クリュ、鳥の弱点はなんだ?」
「くちばし、矢、水と雷」
(二属性か珍しいな)
「矢……マシンガンも含まれると思うか?」
アリスが顎に手をあて、
「遠距離攻撃だからいいんじゃないですか?」
マシンガンという存在は、恐らくこの世界にはなかった。青服については、今どこの国の所属なのか調査されているが、今まではなかった。
なら、この世界のステータスの仕組みにも組み込まれていない可能性が高い。ステータスがどういったものなのか分からないので、断言は出来ないが。
智也が思考にふけっていると、クリュがぽつりとつまらなそうに呟いた。
「遠距離攻撃って言葉。なんか、言いにくいじゃない。だから、あたしは嫌いなのよ。魔物は拳で殴ってこそなのよ。相手の苦しみは肌から伝わってくるの」
「理解しがたいな。なら、近距離攻撃だって言いにくいだろ」
クリュは、ふふんと腕を組む。
「近接戦闘。かっこいいじゃない」
「なら、遠距離攻撃も言えばいいだろ」
「ちょっと待ちなさいよ。遠距離ってどう言えばいいのよ」
「自分で考えろ」
バカな会話はやめて、改めて智也は鳥に目を向ける。
「……遠接?」
クリュがドヤ顔で言ったが、智也は呆れてしまう。
(ていうか、漢字で説明して分かるのだろうか?)
ここまでの会話も、実際ちゃんと通じていることに首を捻りたくなる。
少し気になったので、言ってみた。
「遠って言葉と、接って言葉、矛盾してると思わないか?」
「そう? 結構かっこいいわよ」
(通じているのか?)
相手がクリュなので判断に迷う。隣のアリスを見てみると、あははっと苦笑いをしているので通じているようだ。
(俺の言葉がこの世界の言語に自動変換されているのか? そして、クリュたちの言葉も勝手に日本語に変換されている、んだよな。この力は、考えれば考えるほどわけが分からなくなってくるな)
自分がなぜ異世界にいるのか、そういったことは考えないようにするのが一番なのかもしれない。考えようにも情報がないのだから、悩みが増えるだけだ。
切り替えるように息を吐き出し、クリュにフレイムオーラをかけて、智也はスパークオーラを自分に使う。
クリュの弱点察知では分からないが、魔物には耐性もある。何となく火が効くビッグゴリーラに水属性はあまり効かないと思い、雷属性にした。
マシンガンを生み出して、アリスに渡す。智也はクリュにビッグゴリーラを任せて、アリスとともに空中にいるフレイムホークへマシンガンを打ち続ける。何も出来ずに体を震わせて、フレイムホークは死に、クリュも鮮やかな動きでビッグゴリーラを危なげなく倒した。
「三十七階層も、余裕そうだな。今日はここでレベル上げを主にして、階段を探そう」
アリスに先導を任して、フレイムホークは智也とアリスの力の暴力で倒し、敵が大きければ黒の鎧、覚醒強化を使い、智也は敵をアリスに寄せ付けない。
しばらく狩りをしてから、アリスの持つ腕時計で時間を確認して塔迷宮から出る。今日はリートさんとの約束があるので、遅れるわけにはいかない。
ギルド、教会でいつものを済ませてから自宅にワープする。クリュから順に靴を脱いであがっていると、アリスが振り返ってきた。
「トモヤさん夕食何か食べたいのありますか? 私が、腕をふるいますよ」
えへんと腰に手をあてて、子どもらしく胸を張る。智也ははりきるアリスに申し訳ない顔を向け、
「七時から、少し用事があるんだ。クックさんの宿にいるから、事件があったらすぐに来てくれ」
家の時計はまだ六時を回ったところだ。智也の家からならば、歩いて十五分もあれば着く。アリスは特に追及することなく、前で手を組んで柔らかく微笑む。
「そうですか。気をつけてくださいね」
「ああ、ありがと。早めに戻るつもりだけど、遅かったら先に寝てもいいから」
智也はフードを被って、扉を開ける。外の雨は未だに降り続いていて、智也の気分を下げたが一歩を踏み出す。
靴が水に曝されていて、明日からは違う靴だなと智也は肩を落とした。
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