黒鎧の救世主

木嶋隆太

第五十話 真実への一歩

 敵襲に関することについて、色々と話を聞かれた。智也は何も知らなかったが、敵を倒すのに貢献したとかでかなりしつこく質問を受けた。
 恐らく共犯の可能性も疑われたのだろう。


 どうやら、今回のテロともいえる攻撃は、あちこちの学園で行われ、民間人も多く巻き込まれたらしい。敵の持つ、透明になる能力のせいですべての敵を倒しきれたかも分かっていなく未だに厳しい警戒態勢が引かれている。


 智也もまだまだ質問させられそうだったが、オジムーンさんが途中で切り上げてくれた。智也は肩にたまった疲れを癒すようにもみながら学園の一室を出ると、壁によりかかっていたパニアさんに睨まれる。


「あんたさぁ、なんだっけ? トモヤだっけ?」


 不機嫌な様子を隠す気のないパニアさんが、腕を組みながら指を動かす。


「はいそうですけど。何か用ですか?」


 パニアさんは女好きだ。男が嫌いなわけではないが、男は石ころのようにしか思っていないようだ。


「プラムちゃんが、あんたと二人きりで話がしたいそうなんだよね。パニア凄いムカつくんだけど」
「そうですか。場所はどこですか?」
「女子寮の入り口で待ってるって」
(女子寮……嫌だな)


 智也は憂鬱げに肩を落とすと、びしっとパニアさんに指を突きつけられる。


「何かしたら、すぐに牢屋にぶちこんでやるからね」
「何もしませんよ。ただの友達ですので」


 どうやら、嫉妬しているようだ。ぷんすか地団駄を踏みながら、パニアさんは廊下の端へ去っていき、他の騎士に見つかって慌てたように逃げ出した。
 オジムーンさん曰く、仕事をよくサボるらしい。


 本校舎から、女子寮へ向かう。途中、女子生徒数人がこちらに気づいてやってきた。


「あの、助けてくれてありがとうございます!」
「いや、俺は別に。たまたま俺の目の届くところにいただけですから」


 助けた相手の顔までは覚えていないので、目の前の女性を本当に助けたかは分からない。


「それで、お礼として一緒に食事でも行きませんか?」
「あっと、これから用事があるので」


 相手はまだ何か言いたそうにしていたが、智也は「今日は早めに休んだほうがいいですよ」と残して女子寮に向かう。
 お礼なんてとんでもない。
 智也からすれば助かってくれてよかったと思っていて、こっちがお礼をしたいくらいだ。自分の知らない場所で死ぬのなら構わないが、近くで死なれるのは本当に勘弁してほしい。敵ならどうでもいいが。


 三階建てほどの女子寮にたどりつくと、入り口に小さな体を見つける。片手をあげてから、プラムに近づく。


「プラム、話があるんだよな」
「そう。ついてきて」
「女子寮だけどいいのか?」
「何かする気でもあるの?」
「ないが……」
「ならいい」
(そういう問題じゃないだろ)


 扉を開けて、中に入る。校舎と同じ綺麗な廊下を歩き、階段を上る。二階の一室に案内される。


「……でかいな」
「私の家が用意した見栄えを気にした部屋。壊してくれて構わない」
「それはクリュに言ってやれ」


 金の装飾がある椅子に腰掛ける。テーブルも同様の装飾があり、これを売り飛ばせば結構な額になりそうだ。
 プラムも対面に座り、ぴんと背筋を伸ばす。


「クリュは元気?」
「元気すぎて、少し落ち着いて欲しいってくらいだ」
「ならよかった。あの子はこの国になじめないと思っていたけど、思ったよりも頑張ってる」
「信用ないのな」
「すぐにあきらめるって信用はある」


 プラムが意地悪く微笑み、智也は首を捻る。


「以前に比べて笑うようになったな」
「あなたと話すときは気がラクだから。たぶん、普段の反動」


 そういうプラムは、確かにオジムーンさんたちがいたときに比べて、声の調子があがっている――そう考えるとちょっと嬉しいな。


「それで? 話ってなんだ」
「あなたも私に話があるはず。違う?」
「まあな。先に聞いてもいいのか?」
「先は譲らない」
「なら聞くな」


 プラムがニヤリと微笑んでから、真剣な表情へと変化する。


「私が聞きたいのは、ヘレン姉さんのこと」
「姉さん……姉妹なのか?」
「義理のだけど」


 智也はふと疑問に思い、


「ちょっと待て、お前、何歳だ? ヘレンは?」
「私は十六。姉さんは十八」
「思ったよりも年とってたんだな」
「ヘレン姉さんのこと? 確かに胸は皆無。誤解するのも無理はない」
「お前もだよ」


 まだ、十二歳程度だと考えていたので、智也は目を見開き、プラムの頭からつま先までを。


「成長が遅いといいたい?」


 プラムのジト目に智也は誤魔化すように笑っておく。


「とにかく、元気そうでよかったよ」
「……嫌味?」
「素直に受け取れ。お前、こっちに来てすぐは、ずいぶんと寂しそうにしてたからさ」


 あまり思い出したくもないはずなので、具体的な人物の名前をあげることはしなかった。黙ってしまったプラムの代わりに、智也は口を開く。


「クリュにも話していいだろ? 街でお前を見かけて元気そうだったって」
「言っても無関心だと思う」
「あいつ、案外人を気にかけられるんだよ。指摘するとムキになって否定するけど。きっと内心で喜ぶはずだよ」
「……余計元気になるだけ」


 プラムは目を瞑りながら頬を染め、恥ずかしさを紛らわすようにそっぽを向く。クリュとプラムが仲が悪いのは、やはり根っこが似ているからのようだ。


「俺も訊きたいことがあるんだが、いいか?」
「駄目」
(無視だ)
「お前がここで暮らしているのは分かった。それについても、色々疑問はあるけど、それよりも青服の『巫女を殺せ』っていうのが気になるんだ。何か知らないか?」


 オジムーンさんに訊ねたら、プラムの家系がどうたらと簡単にだが説明を受けた。詳しい説明は本人から聞くといいですよと言われた。


「……なら、まとめて話す。巫女については家に関係するから」


 プラムはすーっと大きく息を吸い込み、


「私の家は、昔、世界を破滅へ導いた魔王を封印した巫女の家系の人間。ステータスを重んじる、バカな家系よ。だから、私はあの家が嫌いだった」
「それで、北の国に逃げたのか?」


 コクリとプラムは頷く。


「似たようなもの。家を飛び出したら、エフルバーグさんに出会って。私は北の国で自由を手に入れられた」
「縛られる生活が嫌だから、家を飛び出した、ね。よくある話だな。なら、あの青服たちは、魔王の復活でも願う敵ってことか?」


 巫女がどういう存在か知らないが、勇者の仲間を狙うあたり、魔王側の人間と見ても間違いではないだろう。


「そうかもしれない。勇者の巫女は、魔王を封印する力を持っているから」
「なら、勇者は何をするんだ?」
「勇者は時間稼ぎみたいなもの。魔王を封印するのに、巫女は時間がかかるから」
「……それって主役は巫女だよな」
「どっちも同じ。巫女がいなければ、魔王は封印できない。勇者がいなければ、巫女は魔王を封印できない。簡単な歴史の授業は終了。どう、トモヤ先生?」


 プラムはからかいを頬に混じらせ、口元を緩める。


「意外と、面倒な歴史があるんだな」


 歴史については特に知らなかったので、いい勉強になった。


「トモヤは、まだクリュと一緒にいる?」
「ああ。あいつが俺を見限らない限りはな」
「なら忠告しておく。絶対にクリュをこの学園に連れては来てはいけない。もしも、あなたが連れてこようとしたら、家の力であなたを潰す」


 プラムの眉根は真剣な色を帯びて寄せられる。久しぶりに放たれたプラムのプレッシャーを受け、智也は僅かに体を強張らせる。今なら、本気でやりあえば負ける気はしない。だが、それでも絶対とは言い切れない。
 智也はプラムの持つ心を揺さぶるほどの迫力に敬いの気持ちを抱く。


「クリュと学園に何か関係があるのか?」
「あなたにそれを言う必要はない。いや、私の口から言ってはいけないことだから、悪いけど話せない」
「……わかった。クリュから聞けってことだろ?」
「クリュから話すのを待てってこと」


 智也はなんとも微妙な気持ちのまま、


「もう、用事はないんだろ?」


 席を立ち、プラムに顔を向ける。プラムから離れたプレッシャーはすでに空気と溶け合って消え去っている。オンオフの切り替えが早いヤツだと智也は思う。


「うん。帰る?」
「ああ、そろそろ戻る。クリュを家に待たせてるんだ。何かあったら、学校でまた話してくれ」
「そう。下まで送る」
「いや、道なら分かるし」
「見張り」
「信用ないのな、俺」


 プラムが席を立ち、


「トモヤ先生! ここにいましたのね!」


 バンっと扉を壊さんばかりに開け放ち、ずかずかとヘレンさんが踏み入ってくる。


「ヘレンさん? どうしたんですか?」


 びしっとヘレンさんの指が智也の顔面間近に突きつけられる。妙に迫力があり、智也は顔を強張らせた。


「そんな他人行儀じゃなくてもよくってよ、トモヤ先生!」
「なぜ知っている」


 プラムの目つきが鋭くなり、肌にちくちく刺さる殺気が、体から漏れている。ヘレンさんもさすがにまずいと思ったのか、おろおろしながら告白する。


「外で、盗み聞き――っと少し会話が聞こえたの」


 プラムは顔面蒼白にして、それから鬼気迫る表情でヘレンさんへ詰め寄る。肩を掴み、ヘレンさんを揺さぶる。


「どこから聞いていたのっ」
「お姉ちゃんをもっと大切に扱ってですわぁー!」


 声が振動し、ヘレンさんの目はぐるぐる渦を巻くように視線があっちこっちに飛んでいる。


「プラムやめろって。ヘレンさんも悪気があったわけじゃないだろ?」
「そ、そうですわよ!」


 プラムがはぁと息を吐き出して、ヘレンさんから手を離した。


「次に盗み聞きしたら、耳引きちぎる」
「何か隠しているんですのね! ず、る、い、ですわー!」


 ぷるぷると体を震わせて、ヘレンさんは地団駄を踏む。自慢の金髪が部屋の明かりを跳ね返している。


「か、隠し事は嫌いなんですの!」
「何も隠していない。ただ、会話を聞かれたらムカつくだけ」


 プラムはすでに先ほどの優しい空気から一転して、底冷えしそうな雰囲気を身にまとっている。ヘレンさんはそんなの気にもならないのか、智也の手を掴んでキラキラと瞳を輝かせる。


「古代語も読めて、戦いも強い。わたくし、今、すっごく興奮していますわっ。あなたならきっと、あの本も読めますわ!」
(強さは関係ないんじゃないか?)
「後で、時間があったら読んでみますよ」
「期待していますわっ」


 プラムがぴくりと片眉をつり上げて、再度へレンさんへ近づく。


「ヘレン姉さん。また家の書庫から勝手に持ち出した?」
「うぐぅっ、プラムは黙っていてくださいますよね?」


 プラムはニヤリと口元を歪める。


「後でリンゴゼリー」
「わ、わかりましたわ。……今月も財布は寂しいですわね」


 ヘレンさんは肩を落とし、ポケットに入れていた財布の中身を確認する。この人、間抜けだ。


「それで、ヘレンさん。わざわざこの部屋に来て用事はそれだけですか?」
「うん、そうですわよ。頑張ってと言いに来たんですの」


 えへんと胸を張る。プラムの姉だけあり、胸はない。


「なに?」


 智也の視線が一瞬だけ動いたのを、プラムは目ざとく見ていたようだ。無表情ではあるが、体からは怒りが吐き出されている。
 智也は何事もなかったように部屋の外に出る。女子寮の外までヘレンとプラムがついてきて、智也は別れを告げてから実験室へと戻った。

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