黒鎧の救世主

木嶋隆太

第四十七話 家購入

 朝食の時間にリートさんがやってきた。一緒に食事をしたあとに家を案内してもらう。
 智也が前回見た場所で、智也がいいと思った場所に案内してもらい、アリスとクリュに決めてもらうことにしたのだ。


「どこかいい場所はあったか?」


 リートさんの問いかけに、智也は二人を見る。


「一つ目の場所と、二つ目の場所はよかったですね」
「どこも同じじゃない?」


 クリュはどこでもいいようだ。智也もアリスと同意見だった。


「一つ目の場所はどうだ?」


 智也が一番気に入った場所だ。


「はい、いいですよ」
「あたしはどこでも」


 二人も同意してくれたので、そこにすることにした。商人が書類を渡してきて、ぺらぺらと大事な場所を呼んでいく。
 読むのに問題はなかったが、文字を書く必要があり智也は頬をかく。


「あ、俺は文字書けないんだアリスは?」
「私も書けませんよ」


 智也はリートさんに困ったような表情を見せる。


「そうか、なら……」


 リートさんが、声をあげようとしたところで、クリュが待ったをかける。


「あたしには聞かないの?」


 クリュが不満そうな表情になり、智也が答える。


「聞く必要あるか?」
「あるわよ」


 クリュがイラついたように指を動かす。智也は棒読み気味に訊ねた。


「クリュは字書けるのか?」
「字? 簡単なことくらいしか書けないわよ?」


 ふふんと調子よさげに腕を組む。「最初から申し出てくれ」という言葉は喉の奥で止める。


「強がりじゃないよな?」
「書いてやるわよ。ここに書けばいいんでしょ」


 クリュが、全員分の名前を書いてみせた。書けることにも驚いたが、全員の名前をちゃんと覚えていたのにも驚いた。


「どこで習ったんだ?」
「……小さい頃に習ったのよ。母さんからね」
「そうか……意外な才能を持ってて驚いた」
「意外って何よ」


 クリュはむくっと頬を膨らませる。クリュの故郷についてはここで話さないほうがいいだろう。
 契約する家は一年で十万リアムだ。
 財布から札束を取り出し、契約書と一緒に金を払う。すぐに鍵を渡してもらう。


 契約は済んだので今日からもう住んでいいらしい。こんな簡単に決まってしまうと智也のほうが不安になったが、アリスもクリュも簡単に受け入れているのでそういうものだと納得する。


 この家の内装を思い出す。
 確か――最低限の家具は以前住んでいた人物が残してくれているので、暮らせないこともなかったはずだ。
 それでも、ベッドなどは足りていなかったので購入は必要だ。
 それらはひとまず置いておき、リートさんに頭を下げた。


「リートさんありがとうございました。おかげでいい家を借りられました」
「いや、オレは別に感謝されるようなことはしていない。偶然、知り合いが家について話してて、引き合わせただけだ。紹介料も多少もらってるしな」
「とにかく、今日はありがとうございました!」


 智也は無理やりぎみにお礼を押し付けた。リートさんは頬をかき、照れくさそうに呟く。


「その、なんだ。暇だったらまた遊びに来い。妹もきっと喜ぶ」
「はい、そのうち時間が出来たら」


 智也は心からの笑みを浮かべると、リートさんはさらに困ったように顔を背けた。


「……慣れないことはするもんじゃないな。オレは帰る」


 リートさんはそれでさっさと帰った。その背中を見送り、智也は
 玄関で靴を脱ぎ、久々の木の感触を足の裏で味わう。
 きゅっきゅっと音が響く。掃除もきちんとされているようだ。
 一階は大きなリビング、リビングと繋がったキッチン、風呂、トイレだけだ。二階には四つの個室があり、ようやく自分一人の空間が持てると智也は密かにうきうきしていた。


「この建物はワープはできないみたいですね」
「ワープで入れない建物とかあるんだな」


 前にも似たような話を聞いたことがあるなと智也は腕を組む。


「詳しくは知らないんですけど、空気に魔力が流れているのは知ってますよね?」
「ああ、俺たちのMPが自然回復するのは魔力を吸うからだろ」
「はい。その魔力を震わせることによって、ワープが使えなくなるんです。多くの建物の壁は魔力を震わせるように出来てるって、聞いたことがあります」
「へぇ……」
「トモヤさんって物知りだと思ってましたけど、意外と知らないこともあるんですね」
「まぁな」
(戦い関連しか情報は集めてないからな……)


 日常生活については、生きていられればいいといった感じなので、細かいことは何も知らない。
 そもそも物知りとなぜ勘違いしていたのだろう――文字が読めるからか?


「とりあえず、最低限必要なものを買いに行きましょう」
「アリスがいれば大きな荷物も簡単そうだな」
「はい、任せてください!」


 智也は家の中を楽しそうに歩いているクリュに声をかける。


「クリュはついてくるか?」
「置いていったら怒るわよ」


 三人は家に鍵をかけて、近くの店に向かう。
 適当に会話をしながら、家具屋を何件か周り、安くて使い勝手のよさそうなベッド、マットレス、シーツなどすべて合わせて三人分購入した。購入した物は運んでくれるようなので、お願いした。
 運ぶための用意に時間がかかるようなのでアリスが欲しいという掃除道具も買っておく。
 家具屋に戻ると、運ぶ準備が終わったらしいので店員とともに自宅に戻る。
 三つの部屋にベッドを運んでもらって、店員にお礼を言う。


 買ってきた荷物を置いて、もう一度生活に必要そうなものを探しにいく。
 食材などを買い終え、氷魔石の力で冷えている冷蔵庫に食材を入れているときにアリスが声を荒げる。


「クリュさんの服を買いに行きましょう!」


 そんなことで騒がないでほしい。
 智也は疲れていたので、どうぞご勝手にと送りだそうとしたがアリスに無理やり連れて行かれてしまう。
 疲れた体をひきずられながら、廊下で足に力を入れる。


「俺はいいだろ……」


 クリュとアリスの買い物は長く、智也はついて回るだけで疲れてしまった。


「服を買うときは男性の意見も大事なんです」
「動きやすければ何でもいいんじゃないか?」
「クリュさんも可愛い服を着たいですよね?」
「まあ、動きやすいのを前提で、だけどね」


 クリュが頬を染めている姿を新鮮な気持ちで見る。
 そういえば、以前クリュが服を買うときも可愛い服を選んでたなと思う。そうなると、女らしい部分は以前からあったのか。


 服屋に向かい、クリュが動きやすいと思う服を適当に取っていく。
 金に余裕はあるので、智也もいくつか着替えを購入しておいた。


「そういえば、洗濯は手洗いなのか?」


 家具の中に、そんなものがあった。 
 風魔法と水魔法を合わせたもので、洗濯機に似ている。
 だが、アリスは左右に首を振る。


「近くに洗濯機が置いてある店もありますよ? 風魔石と水魔石を組み合わせたもので洗うのですけど、手洗いに比べれば汚れは落ちませんけど、ラクですし光魔石で服を乾かすこともできるそうですし」
「……知らないな」


 本当にこの世界は案外暮らしやすい。


(早く携帯電話やパソコンなども開発してくれないか)


 あと少し頑張れば出来そうなものだがと智也は長い買い物を誤魔化すためにあれこれ考えていた。
 時計を確認すると、日も落ちてきたので、二人に伝える。


 長い買い物がようやく終わり、
 夕食はアリスの出番だ。地味に料理スキルを持っているだけあり、どれもおいしい。クリュも顔を顰めながら、それでも口に入れるたびに目元を細めている。


「静かだなっ!」


 自分以外誰もいない部屋で、智也は楽しそうに声をあげる。久しぶりのプライベート空間だ。
 ベッドしかないが、それに飛び乗り、ゴロゴロする。現代ではこれでゲームをしていたが、そんなものはない。それでも、十分に休憩できた。


 智也は静かな部屋で久しぶりに何も意識せずに眠ることが出来た

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