黒鎧の救世主

木嶋隆太

第四十五話 魔法使い

 次の日の朝。クックさんに、リートさんへの伝言を残してから、智也たちは武器屋に来ていた。
 探しているのは、クリュの武器だ。さすがにこれ以上拳で戦うのはつらいだろう。


「わはっ! 矢がいっぱいありますー!」


 クリュの武器を探しに来たのだが、クリュよりもアリスのほうが元気だ。
 しまりのない顔をしたまま、アリスは棚に並べられているクロスボウの矢を手にとる。


「アリスの武器はそういや、クロスボウだったな」
「この矢は、火魔石がついていて、撃った瞬間に火の線が走って綺麗ながらもとても強いんです。こちらは回復矢です――」
「クリュ、こっちにある武器を見よう」
「むぅ、話の途中で去らないでください!」


 アリスがぶぅと頬を膨らませているが、矢の話に付き合っている余裕が智也にはない。
 武器屋のおっちゃんがカウンターで紙を見ながら、こちらに顔を向けて友好的な笑顔を向けた。


「よぉっ、トモヤ。なんだ、随分とモテモテじゃねえか」


 前からよく来ているので、武器屋のおっちゃんには顔を覚えられている。
 智也はにこやかに、今日探している武器について訊ねた。


「アームさん、拳で戦う人のための武器ってありましたよね?」
「あるぜぇ? グローブっつうんだが、これをつけてると殴ったときの痛みがなくなるんだよ。威力もあがるしな」


 アームさんが適当に出したものは、手にぴったりはまりそうな武器だ。
 武器や防具には魔法がかかっていて、装備者にぴったりとはまるようになっている。


「どれかいいのはあるか?」
「ピンクはないの?」
「ぶふっ、おほ、おほっ!」
「……なんで、笑ったのよ?」


 智也は笑いすぎて、むせてしまった。


「だって、お前がピンクって」
「別に、ピンクが好きなだけだけど。何? 何か面白いことでもある?」


 クリュが珍しく、頬を染めてこちらにキツイ眼差しを向けている。


「いや、悪い悪い。アームさん、ピンク色はありますか?」
「あるぜ」


 アームさんが引っ張り出してくれたものをクリュは手に嵌める。
 中々似合っていて、強そうだ。


「こっちの黒のヤツのほうがかっこいい気がするんだけどな」


 智也も一つ掴み、はめる。ぴったりとフィットして、手首の部分でぱちんと固定する。


「剣を使う人間もつけることはあるな。手を守るのにもいいし、滑り止めとしてもそこそこ使えるしな」
「そうですか。黒とピンクの二つを購入します」
「へい、まいどあり」


 それほど高くはないので、智也は自分の分も購入した。クリュに手渡すと早速装備を整え、その様子を見ていたアームさんがぽつりと漏らした。


「そっちの穣ちゃんはいいグリーヴを履いてるみたいだな」
「足の装備ですか?」
「ああ、蹴るときに使うんだ。見た目は普通の靴と対して変わらないけどな」


 クリュはよく蹴りをしていたが、ちゃんと武器をつけていたのか。
 アリスもいくつか矢を購入して頬を嬉しそうに赤らめている。


「ああ、そうだったそろそろ祭りがあるんだが、うちも色々とレアなアイテムを出すからその時はよろしくな」
「祭り、ですか」


 最近街のあちこちが騒がしいと思っていたら、そんなことがあったようだ。
 言われると、ギルドにも張り紙があったように記憶している。
 武器屋を出て、塔迷宮の入り口で今日挑む階層について話し合う。


「三十六階層、一つランクがあがって敵もかなり強くなるらしい」
「私も聞いた事があります。三十六階層以降は敵一人対複数で挑むようにしないと勝つのは難しいって」


 それは普通の冒険者の場合だが、智也もそのくらいの気分で臨むことにする。


「全員、回復丸は十個以上持ってるな?」


 腰につけた袋に、全員分入れてあり、智也は一応確認する。
 心配だったクリュもちゃんと持っている。もしも強敵が出現した場合などの戦い方などを聞いてから、三十六階層の入り口にとぶ。


 構造自体は今までの階層と変化はないが、冒険者がいない。この階層になると、迷宮内で冒険者に会う機会も少ない。
 緑豊かな迷宮を歩く。
 智也はいつ襲われてもいいように武器を展開して、周囲を警戒する。智也が気張らなくても、アリスのスキルで分かるのだが、智也は塔迷宮では警戒を怠らない。


「トモヤさん。一体の魔物が近づいてます」
「どっちの方角だ?」
「あっちです」


 案の定アリスが先に気づく。そちらを警戒していると大きな魔物が出現した。
 ゴリラのような魔物だ。巨大な体に太い二本腕。調査を使うと、ビッグゴリーラという名前だった。


「へぇ、中々強そうね」


 クリュが好戦的な目つきになり、口元を歪ませる。


(おいおい、マジかよ……)


 クリュは相手の強さが分かると言っていて、それは恐らくスキルに関係がある。
 そして、今まで迷宮内で強そうとクリュは一度も言っていない。気を抜けない敵だとそれだけで分かる。


「クリュ、まずは全員で戦うぞ」
「邪魔だけはするんじゃないわよっ」


 クリュが駆け出し、智也は二刀流でクリュの反対側に移動する。
 先制攻撃はアリスのクロスボウだ。放たれた矢はビックゴリーラに当たると爆発する。あれほどの威力は初だ、アリスも全力だ。
 魔石爆弾がついた強力な矢だとアリスが言っていたが、効果は薄い。


「クリュ弱点はなんだ?」
「首、剣、火属性よっ!」


 ビッグゴリーラの豪腕の一撃を回避し、クリュが懐を殴りつける。
 智也は斜めに跳び、首に二本の剣を刺して飛び上がり着地する。
 ビッグゴリーラの体が後退し、顔に火矢が刺さり火炎が剛毛を焼いていく。


 顔面を燃やして苦しそうに顔を掻き毟っているビッグゴリーラへ、智也は槍を生み出し、大振りに投げる。
 風を切りながら進む槍は、ビッグゴリーラの腹を突き破り殺した。


「一体ならどうにか……なりそうだな」
「それでも、弱点をついたのにこれだけ攻撃してようやくです」
「……あたし、つまらなかったんだけど」


 クリュはあまり攻撃に参加していないので、不満がたまっているようだ。


「ゴゴリラ! ゴゴリラ!」
「ゴゴリラーン!」


 さらにビッグゴリーラが二体もやってくる。
 そして、もう一体見慣れない人型――ヒューマンスライムがやってきた。


「休みなしかよ……」
「ヒューマンスライムは気をつけてくださいっ! 攻撃がまずいってギルドで聞いた事があります!」


 アリスがクロスボウをヒューマンスライムに放ち警戒する。
 クリュがもう一体のビッグゴリーラを相手取り、一人一体になってしまう。
 この状況はあまりよくない。クリュと智也は問題ないが、アリスでは荷が重過ぎる。


「弱点は!」
「剣、火、背中っ」


 目の前にいるビッグゴリーラの弱点をクリュに訊ねると、ビッグゴリーラが殴りつけてきた。
 智也は攻撃を回避しながら、銃弾で体力を削る。
 ビッグゴリーラが突撃してきて、覚醒強化を発動して横に移動し背中に飛びかかる。
 巨大な剣を両手で持ち、重力のままにビッグゴリーラを串刺しにした。


「トモヤさん助けてくださいっ!」


 アリスの右手がヒューマンスライムの体に取り込まれている。
 やはり、アリスのステータスではまだこの階層はきついようだ。
 智也は銃弾でヒューマンスライムの頭を打ちぬき、アリスを片手で引っ張りだす。


「クリュ!」
「打撃、火、頭!」


 クリュがうざそうに叫んで、ビッグゴリーラを叩き潰していた。


「右手に力が入りませんっ、たぶんスライムの影響です……」
「まずいですっ! また、水の弾を撃ってきます」


 ヒューマンスライムの周囲に液体が浮かび、こちらに飛来する。


(防具は作りにくいんだよな)


 武器を優先していたので、防具についてはまだまだだ。盾を生み出して、ヒューマンスライムの液体弾丸を防ぐ。体にいくつか当たるが、服が破けるだけで痛みはない。覚醒強化は攻撃、防御ともに活躍する。
 近寄り、盾でぶん殴ってから巨大ハンマーを叩きつける。能力は切れてしまったが、ヒューマンスライムを倒すことに成功した。


「あっ、力が戻ってきました!」


 右手をグーパーするアリス。奪われた力は倒せば戻るようでホッとする。


「トモヤさんっ、また敵がこちらに近づいてきてます!」


 魔物察知のスキルで分かるようで、アリスが焦り交じりの声をあげる。


「アリス、ジャンプで一階層に飛ぶ用意をしてくれ!」
「わ、わかりましたっ!」


 クリュもビッグゴリーラを倒し終えたようで、高笑いをしている。楽しそうだ。
 智也は魔物が落としたアイテムの回収をしてから、クリュに話しかける。


「クリュいったん避難するぞっ」
「はぁ? こんな楽しいのになんで?」
「命が楽しくないんだっ!」
「あたしは楽しすぎるわよ」
「準備終わりましたっ」
「よし、いいからこい」


 クリュの説得はあきらめる。クリュを力ずくで引っ張り、アリスの体に触れて一階層にジャンプした。
 景色は変わらないが、冒険者が複数いたり、弱い魔物を見て安心する。
 ようやく緊張が体から抜け出て、ため息を吐くように声をだした。


「まだ、戦うには早いな」


 智也の態度が気に入らないのか、クリュが声を張り上げる。


「楽しかったじゃない! いつ死ぬか分からないあの緊張感っ。あたし、久々に興奮して夜も眠れそうにないもの!」
(戦闘狂の意見はアテにならん)


 第一アリスのレベルをもう少し上げない限り、戦い切るのは難しい。


「死んだら元も子もないだろ」
「強敵と戦って死ねるなら本望じゃない?」
「お前だけだ。戦うのはまだ早いんだ。もっとレベルをあげてからだ」


 魔物相手となると、ステータスは重要になってくる。智也のように、スキルで補えるならまだしも、アリスには攻撃的なスキルはない。
 クロスボウの強化矢でどうにかなる相手ではない。


「今日は三十三階層あたりで戦うか」
「あそこは、敵が弱くてつまらないのよね」
「……あそこも結構強いですよ」


 智也とクリュはどちらも高い才能を持っているが、アリスは平凡だ。
 だが、アリスは元々荷物持ちとして入っている。戦いは専門じゃない。
 ジャンプで三十三階層に飛んでから、智也は少し気になったことを訊ねた。


「強化矢は一本どのくらいかかるんだ?」
「さっき使った爆弾矢は二百リアム、火矢は百リアムですね」


 三十三階層の敵はアリス一人でも十分相手できる。倒すことはできなくても、先ほどのようにダメージをくらうことはない。
 宝箱もいくつか見つけたので、お金は大量に手に入った。
 教会によってレベルアップをしてもらうがアリスのレベルはまだまだ足りない。


(魔法を使える人間をパーティーに入れたいな……)


 思ったのはそれだった。魔物に対抗する手段としては弱点を突くのが一番だ。
 クリュが敵の弱点が分かるので、属性攻撃をどうにか出来ればより効率よく倒せる。


 武器によっては属性が付加されているので多少はそれで補うこともできるかもしれない。
 だが、属性は火、水、風、土、雷、氷、光、闇と八つもあるので、金はかかるし荷物持ちに負担がかかる。
 第一戦闘中に装備を変える余裕なんてない。


(図書館であったパラさん。あの人なら全属性の魔法を持ってたよな)
「……ちょっと俺、図書館に行ってくるよ」
「今日もですか? 勉強熱心ですね」


 クリュは勝手にどうぞと言った様子でさっさと宿に戻る。いつも通り、アリスにクリュのことを任せてから智也は図書館に移動する。
 魔法を持った人――どうにかパーティーに引き込めないだろうか。
 

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