黒鎧の救世主

木嶋隆太

第三十五話 グランド

 次の日になり、ミルティアさんが作った朝食を頂きながら、智也たちは塔迷宮に必要なアイテムについて話を切り出す。


「塔迷宮に行くために回復丸とMP回復丸が必要だよね」


 とはいえ、智也は金がないので補充できない。


「あったほうがいいのは言うまでもないね」
「買うためにギルドに行かないと、だよね」


 食事を終えて、簡単に身支度をすませた智也は自分の持ち物を確認していた。
 現在回復丸は一つもない。


「そう、だね。ボクもあんまり持ってなかったし、買わないとだね」
「とりあえずギルドに行って、簡単に情報を集めてから向かおうか」


 智也が提案するとミルティアさんの顔が強張る。頬を掻いて、手をばたばたと振る。


「うん、そうだよね。だったらボクが全部やってくるから。ここで待ってるといいよ」
「いやいや、女の子に買い物をさせて家でごろごろしてるなんて出来ないよ」
「あ、う、その、ね。まだまだ、怪我のダメージも残ってるかもしれないし」
「大丈夫だけど……?」


 明らかにミルティアさんがうろたえている。 


(俺をギルドに行かせたくないのか?)


 しばらく理由を考えるが、よく分からない。


「何かあるの?」
「いっ、いや別にないけどなぁ……?」


 理由がないのに、ミルティアさんに押し付ける気はない。それにミルティアさんが何かを隠してるのは見てわかる。


「じゃあ、いこうか」


 少々強引に智也はミルティアさんの手を引き、家の外に連れて行く。


「わ、わかったよ。ワープ使うから掴まってて」


 一瞬でギルドの前に移動する。


「これ便利だけど、頼りすぎるのも問題だよね」
「そうだね。だから、たまにはちゃんと歩いたりもするよ」


 ミルティアさんはどんどん顔色を悪くしていく。
 それほど熱くもないのに、額には水滴が張り付いてる。
 気にしながらも智也は中に入る。ミルティアさんの隠していることがあまりよくない気がする。


 自分にとって不利益だとかそんなものではなく、何となく。
 中に入ると、入り口近くにいた数人がこちらを見て、ミルティアさんの姿を見て聞こえるように舌打ちする。


(嫌われているのか?)


 彼女のさっぱりとした性格は万人受けすると思うのだが。


「おいおい、男を連れて力で脅したのか? それとも、誘惑でもしたのか? クソ種族」


 舌打ちした男がミルティアさんに対して暴言を吐く。
 智也は頬をぴくりと動かすが、状況がわからないため何も言わない。
 ミルティアさんは自分の顔をちらちら見ながら、


「やめてよ……」


 弱々しく言う。いつもの元気な様子はない。


「あぁ? 他種族に嫌われてることをちったぁ自覚しろよ、廃人族。さっさと街から出て行け、腐った種族が」
「……っ!」


 ミルティアさんは歯噛みする。すると、相手の男は舌を出して馬鹿にする。


「はは、廃人族はみんなそうだな」
「それは、お前たちが酷いことを……」
「テメェらは人間族に負けたんだ」
「それは、過去の……ボクはそんなことをするつもりはないよ」
「ろくでなしの種族の言葉なんて信用できるかよ」


 ミルティアさんは智也へ悲しそうに目を向ける。
 悪さがばれてしまった子どものように、ミルティアさんは申し訳なさそうに顔を伏せる。
 ――隠し事はこれか。


「そうですね。廃人族は世間一般じゃ、そうだったらしいですからね」


 廃人族との戦いがあったのはこの時代のほうが近い。
 まだまだ差別は多いのだろう。
 智也としてはどうでもよいい。


 今は目の前の男を適当にあしらう。
 レベル的には簡単に潰せるが、わざわざ敵を作る必要はない。第一、そんなことをしてもミルティアさんの立場を悪くするだけだ。


「ご忠告ありがとうございます」
「テメェも気をつけたほうがいいぜ」
「そうですね。頭の片隅には置いておきますよ」


 男はがははと笑ってどこかに去っていった。
 ミルティアさんの表情はよろしくない。


「ごめんね……一緒にパーティーを組んでって頼んだのに、隠し事して」


 智也としてはどうでもいい。


「別に、誰にだって言いたくないことはあるでしょ? 俺だって、色々隠してることもあるんだから」
「でも、嫌、だよね」
「廃人族ってみんな野蛮なの?」
「違うよ!」


 ミルティアさんは表情を濃くし、強く否定する。彼女は別に自分の種族を嫌っているわけではないようだ。


「だったら、うじうじしなくていいでしょ」
「だけど……」


 中々、話が進まない。智也は目を一度閉じて、切り替えるように開く。


「うるさいぞ。俺がいいって言ったんだから、これ以上何か言うことはあるの?」


 有無を言わさぬ眼光を向けると、ミルティアさんは目尻に浮かべた涙をごしごしと拭い、にっこり笑う。
 まだ、笑顔はどこかぎこちなかった。
 だが、泣かれるよりは全然いい。


「べ、別にボクはうじうじしてないよっ。泣いてもいないからね!」
「そうだね。目が赤く見えるのは俺の気のせいなんだよね」
「む、むぅ……うう!」


 智也がからかうとミルティアさんは顔を赤くして追いかけてきた。
 ギルドから必要なアイテムを購入しようとしたが、お金の単位が違っていたので全部ミルティアさんに払ってもらうことになった。
 その時のミルティアさんはちょっとからかってきた。まるで、さっきからかったのをお返しするように。
 それなりに笑っているので、大丈夫そうだ。




 塔迷宮十九階層。
 まずはお互いの連携の練習をするために、ここで腕試しをしていた。
 十九階層の魔物、腐肉の体に剣を刺し、右手にもボロボロの剣を持ったソードゾンビの群れがやってきて、智也たちはそれぞれ武器を構える。
 ちらほらと小さい羽を生やしたフェアリーもいる。


「ボクがフェアリーを倒すから、トモヤくんソードゾンビはお願いねっ」
「ああ、任せてくれっ」


 ソードゾンビの弱点は分からないが、棒を生み出し前方をなぎ払う。
 ソードゾンビは剣で受けるが、ステータス差があるので吹き飛ぶ。
 横から襲ってきたソードゾンビの剣を受けながら、左手に銃を生み出して頭を打ちぬく。


「サーヴァント」


 ミルティアさんの魔法、サーヴァント。
 スキルを発動させて、睨んだ相手を一定時間自由に操ることができる。
 ボスには通用しないが、雑魚と戦う場合は非常に重宝する。


 操られたソードゾンビが背後から仲間に切りかかる。


「サンダーアックス」


 ミルティアさんは攻撃の手を緩めない。
 ミルティアさんの周囲で雷を纏った大きな斧が出現する。ミルティアさんはそれを詠唱しているフェアリーに叩きつける。
 電撃に焼かれ、フェアリーたちは即死した。
 智也は長剣を生み出し、黒の軌跡が流れるようにソードゾンビを切り裂いていく。


「トモヤくん、やるー!」
「ミルティアさんに言われてもバカにされてる気しかしないんだけど……」


 残り二体。
 ミルティアさんも走り寄り、ソードゾンビを高速の居合いで切り裂いた。
 負けじと智也は切り裂き、モンスターの群れの討伐に成功した。
 これで何度目かとなり、ミルティアさんも飽きてきたようだ。
 智也も十分体が温まってきたので、二人は顔を見合わせる。


「それじゃあいこっか」
「そうだね。ミルティアさんMPは大丈夫?」
「問題ないない。それにいくつかMP回復丸も持ってるからね」


 階段で次の階層に上り、ボスがいるはずの魔法陣へ行き、魔法陣からボス部屋へ向かう。
 広いフィールドの中央に佇んでいる。


 相手は人型で、先ほどのゾンビに似ている。
 多少顔色が悪いが、人間に限りなく近い。


 調査を使って調べるとわかるのはグランドという名前だけだ。
 武器は持っていない。拳に篭手をつけ、足にも同様頑丈そうな靴を履いている。


「気をつけて、あいつかなり動きが速いよっ」


 すでに魔法の準備を始めているミルティアさん。智也も武器を構える。


「ニンゲン、魔王の邪魔をする者! コロス!」


 グランドはそう吠えて、拳を構える。体から赤い光があふれ、目が鈍く光る。


(魔王……?)


 図書館で読んだことがある。
 この世界はその昔、魔王にどうたらという話だ。
 いや今は考えることはやめよう。


 グランドは一気に加速する。
 狙いは智也だ。


 剣で相手の拳を受ける。
 重たい一撃が剣にぶつかる。拳を切り裂いてやろうとするが、篭手に阻まれる。


「本当に、速いな……」
(それに、力がある!)


 智也は顔面を殴られそうになり、腕を割り込ませる。そして、吹き飛ばされる。
 何とか立ち上がるが、眼前にグランドが迫る。腕の痛みに気を取られて回避に時間がかかる。


「サーヴァント!」


 驚いて硬直していた智也を操り、無理やり動かした。
 体を操られる感覚は、気味が悪かったが、感謝の気持ちのほうが大きい。


「シネエェイ!」


 グランドは咆哮とともに、周囲をなぎ払う蹴りを繰り出す。普通に回避しては間に合わない。スピードを発動させて、横に転がる。
 MPを気にしながらも今がチャンスなので、智也は横薙ぎに剣を振るう。


 首を狙った一撃。
 グランドが反応して体を横にずらそうとするが、敵の動きよりも智也のほうが速い。
 刃は首をかすり、智也は逃げるために後ろに跳びスピードを解除する。


 ほとんどMPを使い切ってしまいMP回復丸に手を伸ばそうとするが、グランドがそれを許さない。
 こちらに接近したところで、体を覆う光がなくなった。
 同時に動きも先ほどのような異常なスピードじゃなくなる。
 突き出された拳を剣の腹で受ける。思い一撃だが耐え切れないほどじゃない。


「ミルティアさん、一気に魔法使ってくれ!」
「ちゃんと回避してねっ、アイスアッパー!」


 グランドの足場に魔法陣が浮かび上がり、氷の拳が出現する。
 智也はぎりぎりまでひきつけてから背後に飛んで、MP回復丸を口に含み、敵を睨む。
 アイスアッパーにより、グランドの体は空中に舞う。回避は出来ないはずだ。


 拳銃を生み出し、智也は銃弾を撃ち込む。
 グランドは地面に叩きつけられるが、むくりと元気よさげに立ち上がる。


(あとどんだけ食らわせればいいんだよ)


 智也はミルティアさんと並ぶように立つ。


「グランドの体が光ってる間は、俺がスキルを使ってぎりぎり相手できる」
「あのスキル、時間制限があるみたいだよね? 何秒くらいだったかな
「数えてる余裕はなかったけど、一分も持たないみたいだね。それに、今は発動してない。たぶん、一度発動したら発動までに時間制限があるんだと思うよ」
「だったら、さっさと倒すしかないねっ」


 智也とミルティアさんは地を蹴り刃を振るう。
 グランドは二人の攻撃を拳で受け、蹴りを放ってくる。


 二人の流れるような連撃はしかし、すべて致命傷にはならない。
 スピードを使って仕留めたいが、倒しきれるかわからない。
 相手がいつ動きが速くなるのかわからない以上、ごり押しはやめておきたい。


「フレイムブレスッ!」


 ミルティアさんの背後に火の形をした竜が出現し、火の息を吐き出す。
 グランドは両腕を交差させて攻撃に耐えようとする。


「トモヤくん、今だよっ!」


 力負けしないためにミルティアさんの口調には力がこもっている。
 智也はレーザーのようなフレイムブレスの横を走りながら、銃によってグランドの頭を撃ち抜く。
 駆け寄り、長剣で腹部を突き刺そうとし、敵の体が光る。
 グランドはフレイムブレスを弾き返し、迫る智也に回し蹴りを放つ。


 上体をのけぞらせて、智也は蹴りをお返しする。
 一進一退の攻防。だが、先にMPが切れた智也がグランドに腹を殴られる。
 痛みに目を瞑っている間に、背中に強い一撃をもらい、土とキスをする。
 口の中に入った異物を吐き出す前に、背中を踏みつけられる。


「はぁっ!」


 ミルティアさんが声をあげると、背中の重みが消える。
 起き上がり回復丸、MP回復丸をを口に運ぶ。


「……ハッ!」


 グランドが叫ぶと光が一際強くなる。
 相手の時間制限を待っていればこちらがやられる。迷いなくスピードを発動させ、剣を生み出す。


 一瞬。
 相手の拳がゆっくりと自分に迫る。
 体を横に傾けながら、智也は長剣を相手の腹へと向ける。


 肉に刺さる感触。だが、それは途中で止まる。グランドが力で弾き返す。
 長剣を消し、代わりに片手剣を持つ。


 どれだけ攻撃を加えても相手は倒れない。それでも、ダメージは残っている。
 左の拳が迫り、智也は軽く上体をずらし剣に切り替えた刃を喉に突き刺す。


 頑丈な体でも、そこだけは柔らかい。あっさりと喉に刺さり、そこで智也のMPが切れる。
 ゆっくりとした動きから、解き放たれたようにグランドが殴りつけてくる。
 剣を手放し腕を交差させてガードするが、骨がきしむような嫌な音が耳を打つ。


 体を低空飛行し、やがて地面を転がる。


「トモヤくんっ、ヒーリングフラッシュ」


 ミルティアさんが片手を体に向けて治癒魔法をかけながら、口に回復丸を含ませてくれる。
 スキルによる治癒は、回復丸と比べるとより内部の傷を治療してくれる。
 とはいえ、病気などはどうにも治らないらしいが。


「グランドは……?」
「たぶん、倒したよ」

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