黒鎧の救世主

木嶋隆太

第二十二話 化け物



 次の日の朝。
 珍しく一番に起きた智也は、立ち上がり伸びを一つ。
 ざっとクリュを見たが、傷が開いた様子もなくすやすやと眠っている。安心した智也は寝室から出て、巨体に目を向ける。


「エフルバーグ、戻ってたんだな」


 肝心なときにいなかった大男だ。何を考えているか分からない目が、こちらを睨んでくる。


「ナイジュルガを殺したんだな」
「どこで知ったんだよ」
「紙がなくなっていたからな」
「それだけで判断できるのか?」
「お前の反応を見ればわかる」


 つまりはかまをかけられたということで、智也は歯噛みする。
 昨日そのせいで荒事に巻き込まれた智也は、ついつい視線に力が込められる。


「それで、文句でもあるのか? 殺されるのが嫌だったらそんな紙ずっと持ってればいいだろ」


 エフルバーグの倍は文句を言える自信がある。


「いや、文句など一つもない」


 エフルバーグは表情こそ変化はないが、どこか嬉しそうである。
 その様が不気味で智也は顔を引きつらせる。


「クリュは無鉄砲なんだ。あいつの好きそうなモノを残してどこかに行かないでくれ」
(俺に迷惑だから)
「クリュが心配か?」
「心配じゃない。だけど、勝手に死なれるのは困る」


 これ以上話すことはない。智也の胸の内にあるエフルバーグへの怒りは大きいが、今は朝の散歩のため外に出る。
 まだ戦う時期じゃない。




 トモヤが去った部屋。
 エフルバーグは外に向かったトモヤを窓から見下ろす。その目には一切の感情は映らない。


「そろそろ、頃合か」


 エフルバーグは一人呟いた。












 迷宮に入り、智也たちはいつも通りに狩りを進めた。
 入った階層は二十六。


 智也にとっては多少苦戦したが、戦うことはできた。クリュもすっかり元気になり、また殺す殺すと叫んでいる。これがクリュの普通なので、物騒だなと思いながらも安心している。
 プラムもクリュへの心配などすべてなかったように、クリュへ突っかかっている。智也はどこか二人の様子を微笑ましく見ていた。塔迷宮から、北の国に戻ってくる。


「エフルバーグさん?」


 塔迷宮に繋がる建物から、少し歩いたところでエフルバーグを見つけた。珍しい。
 いつもなら夜にはいなく、普段と違うことがあるとそれは大抵いいことではない。


「トモヤ、お前はオレが憎いか?」


 プラムの問いには答えず、真っ直ぐに智也へ視線をぶつける。相変わらず何を考えているのか分からない、底の深い目に智也は、


(何を考えているんだ?)


 薄ら寒さを感じる。エフルバーグからは元々圧倒的な実力差による恐怖を抱いてはいたが、それとは別種の――嫌な予感がする。


「ああ、ずっと憎い」


 嘘をつくつもりはない。この国を出る障害になるのなら、エフルバーグを殺す覚悟もできている。
 だが、まだ勝てるとは思っていない。だから、今は従ってやる。エフルバーグもそれをすべて理解して、自分をここにおいている気がする。


「そうか」


 エフルバーグは空を一度見て、ゆっくりと顔をこちらに戻す。急激に身体から力が放たれるようにして、エフルバーグが地を蹴る。加速――分かったのは自分の身体が吹き飛んでからだった。
 思考が追いつかない。痛みにより閉じてしまった目を開け、肺からあふれた空気を抑える。


 速すぎた。スピードを使っても勝てるかわからない圧倒的な実力差は、まだまだ全然埋まっていない。
 何とか受身を取り、呼吸もままならい体を立ち上がらせる。息が乱れながらも、智也は憎しみを多分に含んだ目をエフルバーグへ向ける。


「エフルバーグさん、何をっ!?」
「ちっ、離しなさいよっ」


 プラムとクリュの頭を掴み持ち上げるエフルバーグだ。クリュは抵抗しているようだが、全く歯が立っていない。


(何を、しようとしているんだ?)
「何をしているのか、わからない、といった様子か」


 エフルバーグは冷ややかな目つきのまま、二人を掴む手に力を込める。
 クリュとプラムが傷みに悶え、クリュがエフルバーグの腕にナイフを突き刺す。
 が、まるで痛みなど感じていないようだ。


「何、してんだよエフルバーグ!」
「見てわからないか? 殺そうとしているんだ」
「ざけるなっ!」


 黒い鎧を発動させ、剣を右手に持つ。一気に駆け込み、攻撃する前にスピードを発動させる。エフルバーグの心臓を狙った一撃。ためらいなんて欠片もない。
 だが、エフルバーグが軽く体を動かして避けた。スピードが通用しないのは分かっているのだから、驚きはしない。
 体当たりしながら、エフルバーグを蹴り飛ばす。エフルバーグは壁に当たり、もろかったそれを破壊し瓦礫に飲み込まれる。
 手から逃れた二人を確認してから、倒れているはずのエフルバーグへの警戒を怠らない。


「殺す、殺してやる! あの男ッ!」


 クリュが頭の痛みに耐えるように手をあてて、怒りのままにナイフを取り出す。


「クリュ、敵うわけない」


 逆にプラムはどこか落ち込んだ様子でクリュの腕を掴む。


「はぁ? あんたから先に死にたい? 邪魔しないで」
「ここで死ぬなら、いいでしょ。私も、あなたもエフルバーグさんがいなければもっと早くに死んでいた」
「……だからなに? 黙って殺されろっていいたいの?」
「そう。この命はエフルバーグさんによって助けられた。だから、殺す権利はエフルバーグさんにある。エフルバーグさんが死ねと言うなら、私はここで死ぬ」
「バカじゃないの? だったら勝手に死ねば? あたしは生きるわよ」
(この二人、何をふざけたことを言ってるんだよ……)


 どちらにも死んでほしくない。智也はプラムとクリュの頭を掴み、自分の目へと無理やり向けた。


「なによ」


 クリュがいらついたようにこちらを睨む。


「死ぬ、とか簡単に言うなよ。俺はもうお前たちと知り合って、俺は……友達だと思ってる」
「だから、あたしは死ぬなんていってないわよ。そこのチビに言いなさい」


 クリュが睨んでくるが、智也は構わず続ける。


「わがままかもしれないけど、俺はお前たちには死んでほしくない。お前たちはかなり性格悪いけど、話し相手にはちょうどいいんだ」


 プラムは表情に影を漂わせ、すべてをあきらめたように座り込んだままだ。


「プラム、死ぬなんて二度と言わないでくれ」
「私の人生は昔終わった。だから――」


 智也はプラムが言おうとしている言葉を遮るように声を出す。


「知らない、頼む。俺は弱いから目の前で誰かが死ぬのに耐えられない」
「……」
「プラム、頼む」


「その辺りでつまらない会話は終わりにするんだな」


 エフルバーグは首を傾けながら、周囲の瓦礫を吹き飛ばして何事もなかったように立ち上がる。
 体に傷は一つもない。クリュに刺された腕、智也の蹴り。どちらの傷も完全に治っている。


(不死身、なのか……?)


 普通に戦っても勝てるか難しいのに、さらに絶望的な状況に追い込まれた。
 智也はそれでも表情には出さない。


「私は……」
「プラム下がってろ。クリュできるか?」
「はっ、あんたこそ足引っ張るんじゃないわよ」


 クリュが走り出し、智也も後を追う。
 連携なんてモノはない。迷宮内でもそれぞれ好き勝手に戦っている。迷宮内では智也はとにかくクリュとプラムに合わせていた。
 人に合わせるのは得意だ。


 クリュがナイフを投げる。エフルバーグが掴もうとした瞬間に、智也も真似して剣を投げつける。
 クリュの蹴りは片手で止められ、死角から智也は切りかかる。エフルバーグはクリュを掴み、智也へ投げつける。クリュの体に阻まれ、智也は攻撃するタイミングを逃してしまう。
 二人とも回りながら態勢を戻し、ふたたびエフルバーグへ突進する。同時に放った攻撃をクリュの拳を止め、智也の剣をも掴む。
 片腕の力にどちらも敵わない。押し勝ってやろうと、さらに力を込めるが動く気配は見せない。


(こいつ、本当に化け物かよ!)


 一人では無理でも、クリュとならばどうにかできるかもしれないと考えていた。それは本当に愚かな考えだと後悔した。
 格が違いすぎたのだ。たかがアリ二匹じゃドラゴンには勝てない。
 力の差が痛いほど理解できてしまう。


「最後にお荷物になるのがプラムだとは思わなかったな」


 エフルバーグが戦いながら余裕そうに呟いた――お荷物? 智也は目をつり上げ、涼しい顔をしたエフルバーグを睨みつける。
 負けるかもしれない、殺されるかもしれない。そんな弱気な気持ちを吹き飛ばすように声を荒げた。


「プラムはあんたのことを信用してたんだぞ! なのに、なんだよ、その言い草はっ!」
「だからどうした。人を信頼させておいたほうが殺すのは簡単だ」
「ざけるなっ!」


 智也が斬りかかるが、簡単に避けられる。右、両手で持ち直し左に剣を返すが、すべて当たらない。


「この程度で、勝てると思ったのか?」


 エフルバーグの動きが目で追えない。気づけば腹を殴られ、吹き飛ばされていた。クリュがエフルバーグに殴りかかるが、片手で止められる。
 エフルバーグは武器を持たないのに、こちらの武器は通じない。高速で動き、武器を無力化する。


「づぅっ!」


 クリュが殴り飛ばされ、珍しく悲鳴をあげる。智也は僅かに生まれた隙に入り込むため体を捻り、無理な態勢から剣を振るうがそれを手の甲に弾かれる。
 剣では敵わない。智也は体で右腕を隠しながら、銃を生み出す。


 武器を認識される前に拳銃を発砲する。エフルバーグに二発当たるが、エフルバーグの表情は変わらない。
 受けたはずの傷はすぐに治ってしまう。本当にどうすればいいのかわからない。


「あんたならこの武器についてもわかるよな?」


 俺は近距離で拳銃を構える。何か、倒す手がかりが欲しい。地球のものに比べれば大きい不恰好なものだ。
 これを自分はどこで知ったのか、ナイジュルガと戦ったときから考えていた。
 ワイルドベアーを倒しに行く前、エフルバーグに脳内をかき混ぜられた。たぶん、あの時にエフルバーグに何かをされた。
 その時にこの武器を知り、以前の戦いで拳銃を生み出せたのだ。


「あんたはなんなんだ? なんで拳銃を知ってる、俺に何をしたんだ」
(この世界にはないはずだ)


 その言葉はぐっと飲み込む。もしかしたら地球から来た人間かもしれない。だけど、この状況では何の意味もない。
 むしろ地球の人間で合ってほしくはない。
 自分も将来、エフルバーグのようになってしまうのかもしれない。


「拳銃は人に対しては強力な武器だ。だが、魔物にはそれほど効果はない」
「なら、あんたには有効なんだろ?」
「そうだな。殺すつもりなら、もっと早くに、急所を狙うべきだ」


 エフルバーグの身体がぶれた。視界から消え、智也は慌てて周囲を見る。


「どこを見ている」


 背中を殴られ体が不自然に曲がる。不意打ちに耐えられるような頑強さは持ち合わせていない。
 弾き飛ばされ、地面を転がる。


「お前が黒の力を全開で使わないのはなぜだ? 感情の高ぶりが少ないか?」
「使ってやるさ……」


 まだ、一度も自分の意志では使えていない。
 片腕が限界なのだ。理由はエフルバーグが言った通りかもしれない。


「お前にとってプラムとクリュどちらのほうが大切だ?」
「聞いて、どうする」


 立ち上がろうとするが、ダメージが大きく身体が動かない。


「どちらも変わらないようだな。なら、まずはクリュからだ」
「おい、何、するんだよ」
「質問しなければわからないか? 人の感情を揺さぶる簡単な手段を実行するだけだ」


 エフルバーグは足の折れたクリュの頭を掴む。軽々と持ち上げられた、クリュはははっと嗤う。


「あたしを、殺すの……? あははっ、これから死ぬのは、あんたに決まってるじゃない!」


 クリュは口の中にあった血をエフルバーグの顔に吐きつける。赤色がエフルバーグの顔に付着するが、一切表情を変えずにクリュを見続けている。


「あたしは最強よ! 誰にも殺されない、あんたが先に死ぬのよ! さあ死ねっ、今すぐ死ねっ!」


 クリュはまだ自由な右腕でナイフを突き出すがあっさりとエフルバーグに止められ、逆向きに折られる。だが、痛みごときでクリュは止まらない。


「あははっ、腕が折れたわね。そういえばこの前も腕を折られたわね。最近流行ってるのかしら、あははっ」


 狂ったように笑いながら、折れた腕を持ち上げようとする。智也は痛む身体に鞭を打ち、立ち上がる。
 エフルバーグはクリュの手からナイフを奪い、クリュの腹に突き刺す。エフルバーグは肉をえぐるようにナイフを上下左右へ動かす。


「痛み、お前の顔に随分と表れているな」
「痛い、わけないわよっ。あんたを殺すまでは痛みなんて感じないわよ!」


 クリュの表情は明らかに痛みに染まっているが、それでもクリュは強がっている。
 エフルバーグは食事でもとるようにクリュの腹からナイフを引き抜いた。
 それでもクリュの闘志は衰えない。圧倒的に不利な状況にありながら、それでも殺すことだけを考えた獣のような目を向けている。


「クリュ……」


 この国に来てから、クリュには色々と面倒をかけられたがいい友人だ。殺しに関しては面倒な人間ではあるが、何度も彼女の遊びに付き合ってきた。
 目の前で殺されて黙っていられるほど浅い仲じゃない。


(ざけるな、ざけるなよっ!)


 智也の中で感情が爆発する。同時に体の奥底から力が沸きあがる。前に感じた力――感覚を思い出すようにして黒い鎧を解放していく。


「これで、いいか?」


 智也は両腕を、両足を黒の鎧に包ませ、血走った目を向ける。
 エフルバーグはただ何も言わずこちらを見ていた。
 使用時間に限界があるが、スピードを使いエフルバーグへ殺しにかかる。ゆっくりと動くエフルバーグの背中へ剣を突き刺す。
 スピードを解除し、ふらついたエフルバーグの身体を横に蹴り飛ばす。
 クリュの状態を確認するよりも先に、倒れたエフルバーグの頭に剣を生み出して突き刺す。


「死ね、死ね、死ねよっ!」


 エフルバーグの頭、腕、胸、足。
 弱点になりそうな場所を徹底的に突き刺していく。拳銃を頭へ、剣を首へ。
 血が溢れる。自分の服が血で汚れることも気にしないで、何度も、何度も剣と銃を使い続ける。


 ――何度目だろうか。淡々と腕をふりあげ、剣をエフルバーグの体に突き刺す。
 どれだけの時間戦っていたのか。それさえもわからない。肩で息をしながら自分の下にある肉塊から離れる。


(殺した、のか?)


 確認するまでもなかった。顔はつぶれ、誰かどうかもわからない。
 体のあちこちが潰れていて、もはや人間ではなかった。それでも、まだ完全には死んでいないようで魔石は出ていない。


(不死身の力も、発動していないのか?)


 もしも本当に不死身なら、いくら潰しても意味がない。動けない状態にして、さっさとこの国を出てしまおう。
 智也は鎧を解除すると激しい疲労に襲われる。まともに立っていることもできずに、膝をつく。


「……案外、あっさり死ぬのね、化け物でも」


 クリュに肩を借りて、智也は「ありがとう」と立ち上がる。彼女はいくつか回復丸を食べたのか傷もそれなりに塞がれていた。
 案外元気そうだ。そして、エフルバーグの死体を見る。


「後悔でもしてるのか?」
「さぁ? ただ、何も感じないのよ。今まで人を殺したときは楽しかったり、つまらなかったり。何かしらの感情を味わっていたのよ」
「今は、何も感じないのか?」
「もしかしたら、あんたが殺したせいかもね」


 ぺろりとクリュは服についた血を舐める。それからプラムの場所に移動する。
 プラムは地面についたまま呆然とエフルバーグの死体がある場所を眺めている。


「……エフルバーグさん。なんで、私を」


 プラムは本当にエフルバーグを信頼していた。今はもう、それは関係ない。


「行こう。もうこの国に残る意味もないだろ」


 智也は差し出すが、プラムはうつむいたままだ。


「……私はあの国にはもう、戻りたくない」
(もう……?)


 プラムの発言に引っかかったが、彼女にも深い事情があるのだろう。詳しく訊くことはしない。
 何か、苦しい過去があるのかもしれない。だから、当たり障りない範囲で答える。


「楽しいことや苦しいことはどこにでもあるだろ。それは、どこの国でも変わらないと思うんだ」
「……」
「この国を、出よう。俺はお前の友達だから、何かあったら相談に乗るから」


 プラムはゆっくりと立ち上がる。まだ表情は曇っているが、時間が経てば戻るだろう。
 智也は道具袋から回復丸をあるだけ取り出す。そのうちのいくつかを、全快ではないクリュに渡してすべて飲ませる。傷は瞬く間に塞がった。
 残りを智也が飲み、傷を癒す。まだ多少痛むが、後は休めば大丈夫だ。一度寝床にしている部屋に戻り、必要なアイテムを回収する。
 すべての準備を終えて、家を出る。そこで智也はもう一度二人に言う。


「改めて頼みたいんだ。一緒に来てくれ。この国を出よう。二人が、必要なんだ」


 迷宮の攻略にも。そして、友人、仲間として。まだ答えをもらってはいなかった。クリュはふぅんと腰に手を当て、あまり興味もなさそうに告げる。 


「あたしは……別に構わないわ。もう、あの男も死んだし、この国に残る価値もなくなったし」


 クリュはこちらをジッと見て、それから視線を外す。


(ああ、まだ俺は殺しの対象なのね)


 外に行っても大変そうだ。クリュはもうついてきてくれるようで、金の詰まった財布を二つほど取り出して自身の服に隠した。


「国を、出るまでは着いていく。だけど、私には……帰る場所がある」


 プラムの発言にまた興味を持った。


「帰る、場所?」
「詳しく話すつもりはない。だけど、エフルバーグさんがいないこの国にいる価値はない」
(つまりは、クリュと二人……)


 それは嫌だ。だが、プラムを止めようとも思えなかった。
 どこか決意を固めた彼女の両目を見て、無理やり引きとめようとも思えなかった。
 二人を連れて先頭を歩く。迷宮への道――智也は先ほどエフルバーグと戦った道に戻ろうと角を曲がり、すぐに引き返す。


「なによ、さっさと行きなさいよ」


 靴の踵を蹴られた。クリュの目を見ながら智也は力強く言う。


「別の道から、行こう」
(死体が、ない……)


 誰かに回収されたのか、それとも――いや、ありえない。
 嫌な考えにたどり着きそうになり、智也は首を振る。


「面倒なことするわね。理由は?」
「危険なヤツらがあそこにいるんだよ。エフルバーグの死体を眺めに来たヤツらがな」


 プラムがぴくりと眉をあげる。


「なら、助ける。エフルバーグさんは――」
「死んだんだ。これ以上関わるのはやめよう」


 あの状態で生きているとは考えにくい。いや、たとえ希望だとしても死んでいてほしい。
 あれほどの強敵とは二度と戦いたくなかった。


(本当に不死身だったのか?)


 今は北の国を出ることを優先しよう。

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