黒鎧の救世主

木嶋隆太

第十二話 ボス

 図書館でスキル一覧という本を見たが、黒い鎧の力について明確に記されてはいなかった。武具精製、スピードについては今知っている範囲の情報しかなかった。


 習得については、記してさえなかった。リリムさんが知らなかったのは、自分が初めての能力だからかもしれない。
 そう考えると習得のスキルを誰かに聞くのはデメリットが多い。レアなスキルを持ってると利用される可能性がある。


 だが、分かったこともある。スキルには感情によって威力があがるものもあるらしい。それを根拠に推察するなら、武具精製のスキルの暴走である可能性はある。
 あのときは死にたくない気持ちで一杯だったから、暴走してもおかしくない。


(それにしても、クリュの持つスキルは恐ろしいな)


 以前襲われたクリュの対抗策を考えるために、彼女が持つ特殊技とスキルを調べた。スキル、ソウルバインドは魂から敵の動きを封じるものらしいが詳しいことは載っていない。


 弱点探知は見ただけで魔物の属性、武器、部位の三つの弱点が分かる。危険察知は自分へ迫る危険がすぐに分かるようだ。
 何よりも殺しというスキルが恐ろしい。殺した人間から少しずつ力を蓄えることができ、それらはステータスとして能力に反映はされないが、身体能力が向上していくらしい。
 呪われたスキルと言われていて、このスキルを持つ人間は親に捨てられることもよくあるようだ。 


 絶対に戦いたくないと智也は改めて認識し、今日の目的である昨日警備をしたダンジョンの探索について思考を変える。
 昨日は戦いをしていなかったが、少し調べたいこともあったので教会に行く。予想でしかなかったが、レベル5になっていた。
 ギルドで解毒丸げどくがんをいくつか購入してから、ダンジョンへ向かいながらレベルアップについて考える。


 昨日は魔物を倒していない。倒したとすれば、リートさんが敵を追っ払ったくらいだ。それでレベルが上がったとするなら、一つの考えに行き着く。


(一緒に行動している場合は、経験値が分配されるってことか?)


 ただそれが可能なら、この世界にはもっと高レベルの人間がいてもおかしくない。例えばリートさんと一緒に迷宮の三十階層辺りに挑めば、どんどんレベルが上がるはずだ。
 最高レベルはあがらないかもしれないが、冒険者の平均レベルももっと高くなるはずだ。これについては検証するのは難しい。まずパーティーを組むことが少ないからだ。
 昨日のダンジョンに向かうと、


「トモヤか。今日はダンジョンに来たのか?」
「そうですね」


 リートさんともう一人調査スキルを持った人がいた。軽く頭を下げてから、ダンジョンの中に入るために進む。


(昨日の女の子――アリスはどうなったんだろ)


 聞いていいのか迷う。ギルドに預けたから、智也は深く関わっていない。リートさんなら何かを知っているかもしれない。
 だが、アリスのことも考えるとあまりしていい話ではないと思う。悪い話を聞いてしまったら、これからの戦いに支障をきたす恐れがある。


「……頑張れ」
「はい、ありがとうございます」


 入る直前にリートさんがぼそっと言ってくれて嬉しかった。ダンジョンは相変わらず道と小部屋だ。どこも同じようだ。
 歩いていると不快な羽音が聞こえ、壁から魔物が出現する。


 ドクビー 


 例の毒を使うという魔物だ。全体的に黄色がかっており、蜂をそのまま大きくしたようなモノだ。人間の子どもほどのサイズのドクビーは見ているだけで鳥肌が立ちそうだ。
 こいつのために解毒丸を用意したのだ。どうやって毒状態にしてくるのかはわからないが、さっさと倒すべきだろう。


「らっ!」


 まずは棒を投げ、空中にいるドクビーを落とす。近づき、上段からのかかと落とし。緑の液体がぶちまけられる。
 ドクビーの羽を踏みつけ、近くに転がっている棒を蹴り上げる。
 手に収まった棒をドクビーの頭に叩きつければ、簡単に潰れて消えた。いつもより動きにキレがあり、智也は満足げな表情を浮かべる。


 残ったアイテムは、ハチミツ。
 丸いゼリーのようなもので、簡単に飲み干せそうだ。表面には薄い膜があり、汚れなどがつかない。スライムが落とす炭酸水同様おかしなアイテムだ。
 ハチがハチミツという、なんとなく予想できるものだったので、思わず苦笑する。


(この世界の魔物はどんだけ食料落とすんだよ)


 その調子で、脳内で道を覚えながら地下二階に向かう。地下二階の魔物もドクビーだ。
 空中にいるが、棒をぶつければ落ちるので戦うこと自体は苦労しない。


(魔法とかあると便利なのかもな)


 今まで見たことはないが、使ってみたい。またドクビーがやってきて、さっさと倒そうと接近する。
 すると、尻尾の針がこちらに向き、緑色の霧のようなものが噴出する。


「うぐぅっ」


 油断していたわけではなかったが、直撃してしまう。敵の行動パターンを理解する前に、近づくのは危険なようだ。
 何か身体に異変はあるかと確認するために動くと、脳が揺れるような感覚。まるで高熱でも出してしまったように、視界が定まらない。立っていることもままならない。


(ど、毒か!)


 焦りながらも、後ろに倒れるように跳び、攻撃を回避する。ポケットから錠剤を取り出し、口で噛み砕く。
 すぐに効果は現れ、さっきのが嘘のように体調は戻る。


(おっそろしい技だ)


 迂闊に近づくのは危険だ。棒を投げ、怯んだところで倒す。ダンジョンでは一つの手間を面倒がっただけでピンチに陥る。痛いほどよくわかった。
 二階層も基本的な造りは変わらないようだ。慎重に歩いていき、ドクビーが出たら怯ませてから攻撃する。


 どうやらこのダンジョンの敵は自分には弱いようだ。ここがFではあるので、Gランク――迷宮の7階層までは今の自分でも大丈夫そうだ。
 それでも気を抜かないように前に進んでいく。向こう側からも四人ほどのパーティーが来る。


 すかさず顔を強張らせ、相手に舐められないようにする。敵のパーティーのリーダーがこちらを見て、


「これから、地下三階に行くのか?」


 話しかけてくる。冒険者という職業は人と話す機会が多いなと智也は内心文句を垂れる。一瞬アッソが頭によぎったおかげで、警戒を怠ることはなかった。


「その予定です」
「なら、あんた気をつけろよ。三階に行くにはボス部屋を通る必要があるからな」


 男が親指をくいと向けた先は壁だ。ただ壁の中心に片手サイズの丸い魔法陣がある。本で見たのと同じだ。


「ボス……」


 ダンジョンの中や塔迷宮にはボス部屋、ボスエリアと呼ばれる物がある。昔は、塔迷宮の十ごとの階層に強力なボスがいたらしい。今はほとんどどの階層にもボスエリアはある。
 次の階に行くために必ず通らなければならない場合もあるが、全く必要のない場合もある。
 今回の場合は、地下三階に行くために必要なのだ。


「ドクビー相手に余裕なら、それほど強くはないから、気にしなくても大丈夫だと思うぜ。ドクビーの体力があがったようなもんだったからな。じゃ、お互い見習い同士頑張ろうぜ」


 四人組みのパーティーの平均レベルは4だ。年齢的に見てもみな自分よりも若そうだ。彼らが向こうからやってきたということは、ボスを突破したのだろう。


(ボス、か……戦おうか)


 迷う。四人組のパーティーに回復役や魔法使いはいない。
 全員才能も4~6の者で、ステータスはさほどではない。単体で見れば、自分と並ぶ人間はいない。挑んでみる価値はある。スピードを使った不意打ち気味の一撃で倒すことだって可能だ。
 ただ、懸念もあった。ボス部屋はボスを倒すか、自分たちが死ぬ以外では脱出できない。一度入ってしまったら最後なのだ。裏技的にジャンプのスキルで逃げることもできるらしいが、智也にはその手段はない。
 本音を言えばもっとレベルに余裕が出来てから挑むのがいいのだろう。
 ただ、現在このダンジョンはレベル11までの人間しか入れない。11を越えたら許可証なしでは入れなくなってしまう。


(お金に多少余裕はできたけど、まだまだギリギリだ。だったらボスを倒して先に進んだほうがいい)


 一日千五百リアム以上稼ぐ必要がある。じゃなければ、回復丸や解毒丸といった冒険をサポートするアイテムも購入できない。道具を整えるためにも、ここで自分の実力を確かめる必要がある。


 自分の最終目標は塔迷宮の踏破だ。そして地球に戻ること。あまりにも長く時間をかければ地球に戻ったときに自分が不利になる。
 智也は決意し、壁にある魔法陣に触れる。扉は光ると、すぐに消える。ここから中に進めば後戻りはできない。
 不安はあるが、今は自信を持って挑む。智也が入ったのにあわせるように、部屋の中心へ霧のようなものが集まっていく。


(きもっ、きもちわるっ!)


 出現した魔物を見て、智也は顔をしかめる。ビックドクビーという魔物だ。ドクビーを巨大化させたような身体。成人男性ほどのサイズになり、尻尾の針に刺されば毒とか関係なしに死んでしまいそうだ。


 ビックドクビーがこちらに気づき飛んでくる。突進を避けて棒を殴りつけるが、怯まずにすぐに針を突き刺してくる。棒で受けると、智也の腕が僅かに曲がるが押し負けるほどではない。
 魔物のステータスはわからないが、今の自分と同等の筋力なのだろう。いなすように回避し、間抜けな頭へ棒を突き刺す。ダメージはそれほど通っていない。


 ボスだから体力が多くてダメージがないのか。どうにも棒による攻撃が通っている気がしない。
 魔物には苦手な武器があるらしく、斬撃、打撃、矢撃などにわかれている。同じ魔物でも、次戦うときは弱点が変わることもあるらしいが、基本的に魔物は似たような武器が弱点だ。
 逆に武器に態勢を持つ魔物もいる。低層では滅多に現れないが、ボスは別のようだ。


(いい機会だし、やってみるか)


 ここ最近、練習していた違う武器の精製。魔物ごとに苦手な武器があるので、多くの武器を所持できたほうが強い。
 この先、棒だけで戦うのはキツイんじゃないかということ。宿屋で練習し、昨日とうとう成功した剣の精製。やっぱりファンタジーなら剣を使いたい。
 智也は敵の攻撃を回避しながら、剣を想像する。


 形、長さ、色、重さ。武器屋で触った感覚などを思い出し、それらを頭の中で明確に想像する。
 創造するためにはより正確に記憶しなければならない。今まで棒しか作れなかったのは、手に取ったことがあるのがそれぐらいしかなかったからだ。
 だが、今は違う。武器屋で毎日店主の訝しむ視線に耐えながら覚え続けた。


(来い……っ!)


 右手を伸ばすと、黒い渦に包まれる。右手が何かを握り、それは手にぴったりとはまるような感触だ。黒い渦が消えると、しっかりとした黒い剣があった。剣の色は銀色に近い物にしたはずだが、真っ黒だ。 こればかりは棒と同じでどうにもならないようだ。
 片手で操れるサイズ。ずっしりと手に感じる重み。それらは武器屋で手に取ったものと同じだ。
 ふうと息を漏らす――成功した。少し嬉しかったが、首を振る。


(敵に集中だ、集中、集中……)


 ビックドクビーは動きが不規則だ。空を飛ぶこともあり、剣を振っても急所に当てるのは難しいだろう。敵の攻撃もすべて避ける。
 新しい武器を持ち、気分が高揚する。どこか狂った感情が混ざりこんでくる。破壊したい、あの魔物を早く殺したい。


(いやいや、何を考えてるんだ俺は)


 一度呼吸を整える。殺すことはあっているが、そこまで衝動的になる必要はない。
 落ち着いて見切る。ビックドクビーがこちらに針を向ける。
 あれはドクビーにやられた毒霧噴射だ。
 一度その攻撃範囲は見ている。主に正面二メートルほどが限界だ。横は安全なはず。


(待て待て、油断するな)


 それで痛い目を見るのはごめんだ。
 あの攻撃を回避し、敵の後ろに回れば、敵に一気に切りかかれる。スピードを使えば容易いが、この先どこまで戦うかはわからない。


 敵の懐に踏み込むことはしないで様子を見る。ビックドクビーの少し斜めに立ち、毒霧を見守る。
 直線三メートルほどまで伸び、それから横に広がる。出ている時間はドクビーよりも長く、攻撃範囲も広い。突っ込んでいたら喰らっていたかもしれない。
 霧が消えると、ビックドクビーが自慢の針を向けながら飛んでくる。針を避けて、剣を振る。
 敵の膨らんでいる尻を切り、上へと流す。頭を落としてやると力強く横に一閃するが、その前に距離を開けられる。
 ふたたび、霧を放ってくる。
 霧を警戒しながら近づいていくと、また針をこちらに向ける。中々思ったように攻撃が出来ない。


(出し惜しみは……できないな)


 このままではジリ貧だ。このボスを倒したら一度戻ろうと考えを変更し、スピードを発動する。数秒の加速により、ボスの背後を取る。


「はっ!」


 もう一つ剣を生み出し、左手で掴み振るう。右、左と連続で切り刺していく。連続攻撃によりビックドクビーをどんどん追い込んでいく。
 羽を重点的に狙っているからか、ビックドクビーは逃げることもできない。
 両利きではないので、左による一撃はどうにも不安定だ。呼吸が苦しくなっても、敵が死ぬまで剣を振るのをやめない。


「ビィィィ……」


 ビックドクビーが一際大きな悲鳴をあげると、ダンジョンの床に落ちてそのまま痙攣する。死んだようだ。


「はぁ……はぁ、はぁ、はぁ」


 連続により、呼吸は乱れ今にもぶっ倒れそうだった。剣を一つ消し、一本は地面に突き刺して座り込む。


(……疲れた)


 ビックドクビーの死体はゆっくりと迷宮へと消えていく。
 残った物は、調査を使って調べたところ防具石だった。ラッキーと智也は掴んで空中に投げて遊ぶ。
 魔物が持つ武器や防具は呪いをかけられており、小さな石の状態なのだ。解呪かいじゅのスキルで呪いを解いてやると、真の姿を見ることができる。


 ギルドに行ってからが楽しみだ。体力やMPを考えて地下三階には向かわない。
 ダンジョンを出ると午後を回ったところだろうか。水分を補給しながら、ギルドに戻り、素材を売る。


 防具石については、軽装な鎧だったがいらないので売り飛ばした。五百リアムだった。


 軽い昼食を取ってから、薬草を摘む。
 ギルドに緑草を持ち込み、回復丸を作れないか頼むと七十リアムで作ってもらえた。通常よりかは少し安いくらいだが十分だ。


 いらない薬草を売り払い教会でレベルアップ。


 自分のステータスも、ようやく冒険者らしいステータスになってきた。
 午後は図書館に移動する。いつもの司書さんがこちらに気づいて小さく手を振ってくれたので、簡単に頭を下げる。


 どこに本があるのかわからない場合は司書さんに聞くのだが、今日は適当に本を読んで知識を蓄えるつもりなので、目に留まった本を取り中を見ていく。
 黒い鎧については一応は答えを出したつもりだ。本を探しながら、周囲を見てどこに座るか考える。図書館を利用する人間は多くはないが、少なくもない。白衣を着た科学者のような人や、冒険者の格好で訪れている人もいる。


 気になった本を見つけ、人がいない席についた。これは、奴隷に関わる本のようだ。
 この世界には奴隷がいる。それなりの額はいくが、自分の言うことを何でも聞く奴隷を買うことができる。
 家事をさせるもの、迷宮攻略に利用するもの、性の処理をさせるもの。用途は様々であるが、奴隷は非常に便利なのだ。


 それほど長くなかったので、さっさと読み終えて本を閉じる。どっと疲れがたまった気がする。


(買うのは、無理だな……)


 金の問題以前に心の問題だ。異世界だからとそこまではっちゃけることはできない。小さな心の智也には、どうしても難しい。
 毎日魔物と戦ってることでさえ、結構苦しいのだ。読み終えた本を戻しに向かい、新たな本を探す。


(ほんと、どの本を手にとっても問題なく読めるんだよな)


 不気味でしかたない。
 英語の成績が危うかった智也だが、今なら英語も読めるかもしれないと苦笑する。苦笑していなければやってられない。あまりにもおかしい状況なのだから。
 本を戻し、新しい本へと手を伸ばすが、一冊だけ他とは違った色をした本を見つける。


(これ、ここじゃないだろ)


 誰かが本を戻す場所を間違えたようだ。地理について書かれた本が多く並ぶ中、一冊だけ小説が置かれていた。
 小説のタイトルは「異世界への冒険」というタイトルだ。
 なんとなく、自分の境遇に似ていて、興味惹かれた智也は本を手に取り、誰も座っていない机についた。

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