ニートの俺と落ちこぼれ勇者

木嶋隆太

第十四話 ストークドリ

 放課後になり、俺はジェンシーのもとへと向かう。
 ジェンシーとともに教室を出て、下駄箱についたが、ジェンシーはそこで立ち止まることがなかった。


「あれ、帰らないのか?」


 俺の問いにジェンシーは思いだしたように振りかえる。


「そういえば、言っていなかったな……私はその、実技があまり良くないだろう? でだ、この学園では、成績の足りない部分をボランティアで補えるようになっているのだ」


 本当は家庭の事情などで、授業日数が足りない人を救済するためのシステムなのだがな、と照れ臭そうにつけたす。
 これは、俺もやっておいたほうがいいかもしれない。
 今後も今日のような授業が続くとなれば、俺の成績も微妙なものになるだろう。


「俺も手伝うよ」
「え?」
「いや、どうせ家帰っても暇だし」


 パートナー学科の件はあまり話題に出したくない。既に耳に入っているかもしれないが、ジェンシーは腕を組んで頷く。


「そうか? ならば一緒に行くぞ」


 だが、そこまでしてなぜジェンシーはこの学園に通いたいのだろうか。
 第一、成績がギリギリなら多少反感を買ったとしても、あの先輩と組んだほうがいいと思うのだが。
 日にちがたてば、授業でダンジョンに挑む機会も増えるはずだ。その場合、俺よりもタケダイ先輩のほうがいいだろう。
 今度時間があるときに聞いてみようか。
 ジェンシーはやがて一つの掲示板の前で立ち止まる。
 そこには新聞部の新聞が貼られていたり、職員室からの不審者の報告、または部活動の誘いなどがある。
 良く分からない部活動がある中、俺は一つの紹介に目を近づける。


「料理部が女子部員を募集しているみたいだぜ?」


 友達の少ないジェンシーに勧めると、ジェンシーはあからさまな嫌悪を見せた。


「……私はその部に行ったことがあるが」


 あるんだ。意外だ。


「その部にいる人間は全員どこかうざーい、喋り方をしておったな。……二度と行くかっ!」


 ジェンシーが吠え、部活動の脇にあった依頼の欄へと顔を近づけた。
 俺もそれ以上は言わずに、依頼を見ていく。ここで自分にあった依頼を選択できるようだ。
 ここで仕事を受け、仕事を完了して、依頼者にサインをもらい、内容をまとめて提出する。それで学園への報告は終了のようだ。


「簡単でいいな」
「そうだろ? 依頼によっては面倒なこともあるがな」


 依頼は様々だ。
 魔物討伐や素材回収などの戦闘能力を要するもの。
 または荷物運びや誰かの相談にのるなどの非戦闘の依頼。
 この二つに大きく分類されるようだ。また、依頼者もこの町の人だったり、学生であったりするようだ。


「学生同士が組んでボランティアを行ったりしないのか?」
「そのあたりは教師も調べているからな。過去にそれをやってばれたものは退学させられている」


 俺もジェンシーの横に並んで、依頼を見ていく。


「あっ」


 思わず声をあげてしまう。ジェンシーが俺の顔を見る。


「どうしたのだ? 何か気になるものがあれば今日はそれにしようぞ」


 といって、ジェンシーは俺の目線から大体の依頼の位置を把握し、わかりやすく顔をしかめた。


「おまえは、まさかジーニの依頼をみていたわけではないな?」


 不機嫌な顔は人に嘘を付かせる力があると思う。思わず頷いてしまいそうなほどの目つきであるが、俺は自分の意志をしっかりと伝えた。


「いや、受けてみるのもどうかなぁ……って思ってさ」
「嫌だ」
「検討はしないのか?」
「そうだな……無理だ」


 検討した結果も変わらないようだ。
 だが、俺は少し気になっていたのだ。
 あの自由奔放なジーニがいったい何を相談したいのか。
 でも、ジェンシーとは仲が悪い。毎日のように喧嘩していて、ある意味仲がよく見えなくもないのだが。
 俺はそこで、素晴らしいことを思いついた。


「ジーニがもし弱みを見せたらどうする?」
「行こう!」


 途端に楽しげな様子だ。
 ジェンシーは依頼書をはがして、依頼書に書かれた校内の駐車場へと歩いていく。


「なるほどな、私のために考えての行動なのだな?ジーニを想ったわけではもちろんないな?」


 多少気にはなったが、威圧が怖いので黙っていよう。
 にこりと微笑みだけを返すと、ならば良いと歩いていく。
 依頼の内容は不明だ。直接会ってから話を聞いて、引き受けるかの判断をすればよいようだ。
 ただ、戦闘は必要ないと書かれているのでその点は問題ないだろう。
 駐車場につき、前にみた車と同じナンバーを見つけて、俺たちは歩いていく。


「おまえ、一度覚えていたのか?」
「ナンバーなんか一度見りゃあ覚えられるだろ」
「さすが私のパートナーだなっ」


 満足げに頷かれ、俺は少し心が痛む。
 ジーニのパートナーの件を思い出して、頬をかいてしまう。
 ジェンシーが近づくと、ジーニが車から降りてきた。


「何のようかしら?」
「依頼について話を聞きにきた。何をすればいいんだ?」
「へえ、まさか、あなたが来るとは思っていなかったわ。どうしたの? 雨でも降るのかしらね」
「やはりこいつ……腹が立つぞ」
「あら、私は楽しいわよ。それで依頼を受けてくれるのかしら」
「まずは内容を話してもらう」


 二人はこれから殺し合いでも始めるかのようににらみ合う。なんでこんな殺伐としているの? ここは戦場なの?


「とりあえず、車の中に入りなさい」


 依頼内容はそこで話すわ、とジーニが車の中へ手招きする。
 ジェンシーの後に続いて、俺も車に入る。


「それにしてもでかい車だな」


 中は普通の車と作りこそ同じだが、規模は段違いだ。
 ここで暮らせと言われても喜んでと答える。
 温度調整も完璧だ。


「あら、毎日迎えに行ってあげてもいいわよ?」
「俺をか?」
「ええ」


 ジーニがニコリと微笑むと、ジェンシーが俺の肘を掴んでくる。


「おい、馬鹿! おまえ私のパートナーなのだからジーニと目を合わせるな!」
「あら、別にいいじゃない」


 ジーニは俺のほうを見て目を細める。……まだ話していないのね、と言っているように見えたので軽く首を縦に振る。


「何がだ!」
「それは……まあ、いいわ依頼の話をしましょうか」


 苛立たしそうなジェンシーだったが、俺をジーニから遠ざけたあとに話に耳を傾ける。


「ある鳥を探しているのよ」
「鳥だと?」
「この子よ」


 そういって、こちらに一枚の写真を差し出す。
 俺が受け取ると、ジェンシーが身を寄せて来る。
 腕に寄りかかるようになっていて、ジェンシーの柔らかな体が当たる。この子ちょっと天然な部分があるみたいだな。将来彼氏が出来たら、大変そうだ。
 文句を言われるまでは堪能していようと、俺は何も言わずに写真を見る。
 写真はベランダで撮られたものだ。クッキーの破片が多く転がっていて、一匹の鳥が食事をしている。鳥の色は茶色だが、ところどころに紫の線が入っている。
 毒々しいなおい。鳥はクッキーに向かってくちばしを近づけているようだ。その小さな足には、可愛らしいピンクのリボンがつけられている。
 察するに、ジーニのペットを探せ、という依頼だろうか。


「ほぉ、これはストークドリだな」
「へえ、そんな種類だったのね?」
「知っていて購入したのではないのか?」
「まさか、それは野生の鳥よ。たまにベランダに遊びに来るから餌をあげていただけよ」


 ペットじゃないのか。ならなんで気にかけているのだろうか。


「餌というのは、クッキーか? あまりクッキーはよくないぞ」
「そうなの? 喜んで食べているように感じたのだけれど」
「野生の生き物には野生で得られる食べ物をやるのが基本だ。私も飼ったことはないが、ストークドリは穀物などが良いと聞く」
「こくもつ? 国の物?」
「馬鹿か……」


 ジーニは髪に手をかけながら、ため息をつく。


「馬鹿とは心外ね。知識がないだけよ」
「そのくらい知っておけ……穀物といえば、私たちもよく食べているだろう。稲や小麦などがそうだ」
「へぇ……まあ、そんなことはいいのだけれど」


 ジーニの物言いに、ジェンシーはむっとしながらも、現在の話題には関係のないことだと自覚があったからか、押し黙った。


「この子、ハチというのだけれど、最近飛んでこないのよ。だから、心配になって探してもらいたいと思ったの」


 なんか犬に、つけそうな名前だな。
 依頼内容を把握して、ジェンシーは頷いた。


「まあ、そのくらいならば大丈夫だろう」
「おいおい、ジェンシー。この街結構広いぞ?」
「ふふん、そこは頑張って推理していけば良いのだっ」


 ジェンシーは腕を大きく広げ、それから写真を食い入るように見る。
 この写真だけで推理できるのだろうか。とてもじゃないが、無理だと思うぞ。


「ストークドリの平均体重は20グラム程度だ。だが、写真で見た限り、普通のものよりも太っているぞ?」
「そういえば、最近はよくきていたから、餌が足りないのかと思って一杯あげていたのだけれど……」
「飛び去った姿を見たことはないか?」
「そうね……少し酔っ払ったみたいな感じだったわ」
「飛び去った方角はわかるか?」
「方角? ……私、北、南、東、西が地図のどの方角かさっぱりなのだけど。北って地図のどっちだったかしら?」
「なら、この写真でどこから飛んできた!?」
「えと、こちらね」


 ジーニが指をあて、ジェンシーは顎に手をあてる。
 なんか、俺の出る幕ないんだけど。
 俺も写真を見ながら、ジェンシーの手助けが出来ないかを考える。


「もう写真はないのか?」
「あと一枚だけあるわ」
「あるのかい! さっさと出せ、馬鹿ジーニ!」
「馬鹿馬鹿とうるさいわ。もう少し上品な言葉遣いはできないのかしら、アホジェンシー」


 ジーニが写真をテーブルに置くと、ジェンシーが吠えた。


「さらに太っているではないか! ハチが死ぬぞ!」
「だっておいしそうに食べているのだもの……あげたくなるでしょう?」
「こちらが制限しないければいけないのだ! おまえだって、コックがおいしい物を出してきたらついつい食べてしまうだろう? 鳥だって同じなのだ!」
「……誰が太ったって? ここ最近は少し食べ過ぎたけれど、まだ平均体重より少し軽いくらいよ」
「おまえのことではないっ! もう、とにかく写真に集中するから、少し黙っていろ」


 ジェンシーが強気にジーニに言い放ち、写真を見始める。
 どうやら同じように写真を撮ったようだ。クッキーの破片が転がり、それをおいしそうにストークドリが食べている。


「むぅ……どうするかの……」


 ジェンシーが眉間に皺を寄せている。この顔のジェンシーを眺めているだけで一日が終わってしまいそうだが、俺は。二枚の写真を見比べ違和感を見つけた。
 なんというか……。二枚目のはベランダの傷が違う。
 どちらのベランダも同じ作りで、掃除もされているのかあまり汚れていない。
 しかし、二枚目のはどこか古い感じである。


「どうしたのだ?」


 ひょこりと、ジェンシーが俺の顔を覗き込んできた。


「いや、この二枚目の写真を見ていて思ったんだが……これ、別の場所で写真をとったのか?」
「よくわかったわね。二枚目は本家でとったものよ。なぜか私が本家に戻っているときも飛んできたわね」


 そのタイミングでジェンシーがふふんと人差し指をたてる。


「ストークドリの特性だ。一度気に入った相手の居場所を見つける力が抜群なのだ。少し前までは、恋人同士がこの鳥を育て、手紙のやり取りに利用されていたこともあるらしい」
「なるほどな……」


 ジェンシーって普段何を読んでいるの? 本当に授業に関係のある勉強しているの?
 ストークドリなんて授業で出てくるとは思えない。たとえ、理科の授業で出てきてもここまで詳しくやるとは思えないが。
 ジェンシーの意見を受け、俺はハチの気持ちを考えてみる。


「ジーニのところにハチが来なくなったのはいつからだ?」
「四日ほど前ね」
「それで、その間に何度本家と今住んでる家を行き来したんだ?」
「そうね。色々と用事があって毎日行き来しているわ。今日もこれから私は本家に戻る予定よ」
「ならばハチが一日くらい戻れなくてもおかしくないではないか!?」


 そこでジェンシーが割り込んでくる。だが、ジーニは余裕な様子で返事をした。


「私は自宅に、いつも明け方には戻って来るのよ。で、ハチは明け方には飛んでくるわ」
「なのに、最近は来ない、と?」
「そういうこと、だから心配しているの」
「ふむぅ……」


 ジェンシーは顎に手をあて、それからぽつりと言う。


「というか、一日くらい家で様子を見れば良いのではないか?」
「緊急の用事なのよ」
「……ほぉ」


 さすがにそこに突っかかることはしないようだ。
 同じ貴族同士、何かしら面倒な問題があることを察したのかもしれない。


「一応、私がハチを虐めているわけではないことを証明するために、緊急の用事を話しておくわね」
「なんだ、重要な問題ではないのか?」
「私にとっては人生に関わる問題よ」
「ほぉ……それでなんだ?」
「大体一週間ほど前に私は婚約者との仲がなくなったのよ。それについて、色々と話をしたかったので、本家に戻っていたの」
「……おまえ、婚約者いたのか?」


 ジェンシーが少し驚いた様子を見せ、俺も首を絞められたような声をあげそうになる。
 ……こいつ、その元婚約者が俺だと自覚しているのか?
 だが、時間的なことから考えれば、彼女は俺のことを知らないはずだ。
 初めてあったときに、俺について質問をしていたし、名前も間違えられた。
 となれば気づいていないのだろう。


「ええ、いたわ。小さい頃に二度会ったことがあるのだけれど、まあその時の縁でね。で、なぜ婚約がなくなったのか、理由追及のために本家に戻っていたというわけよ」


 二度……? あれ? 俺って一回しか記憶にねぇぞ。


「なるほどな。そういえば、本家と自宅はどこにあるのだ?」
「そうね……」


 ジーニは運転手を呼び、地図を用意させる。


「本家がここで、自宅がここよ」


 ジーニが両手で示し、俺とジェンシーはそれを眺める。
 ……ジェンシーの家と自宅は近いようだ。十分も歩けば、ジーニの家からジェンシーの家まで歩いていけそうだ。
 そして、俺とジェンシーが出会った公園も、その間にはある。ジェンシーがちらと俺のほうを見て頬を染めたのはそれが理由だろうか。
 鞄を盗まれたことは話すなよ、ってことだろうか。俺だってあの状況は口に出したくないので、黙っているつもりだ。


「何か思いついたのか?」
「ん、まあな」


 俺の思案顔にジェンシーは少し誇らしげだ。


「ならば話してみよ」 
「恐らく、ハチは人間の餌を好んで食べているはずだ」
「まあ、可能性は高いだろうな」
「え? なぜかしら?」
「一度人間の食べた生物は、野生の物をあまり食べなくなることが多いのだ」
「なるほほ」


 もごもごとジーニの口が動き、ジェンシーがジト目で彼女を追及する。


「……貴様、今何か食べているな?」
「……お菓子よ。あなたたちも食べる?」
「そんな子供だましのもの……」
「んじゃあ、俺はもらうな」
「私も食べるぞ」


 一度全員でお菓子を食べてから、再び会話に戻る。


「飛んでいった方角から予想するに……たぶん、ここの公園とおまえの家を行き来しているはずだ。すみかもこの直線上のどこかにあるはずだ」
「なるほど……」
「で、ここからが重要な問題になるんだが……俺、そのデブハチを見たかもしれねぇぞ」
「え?」
「ほら、俺たちが会った公園あるだろ? あの付近で小鳥……というかかなり大きな鳥が走っているのを見てさ。珍しいものを見たから良く覚えていた」


 ……本当はあいつを食えないかどうか画策していたのだけど。


「だから、この鳥がこの近くの公園にいる可能性は高いと思うぜ」
「さすが、私のパートナーだなっ! よし、行ってみるのだっ」


 ジェンシーが立ち上がると、ジーニはあからさまに嫌そうな顔をしてみせた。


「近くまでは車で行きましょう。私は運動が嫌いなのよ」
「……はぁ、まあ良い。それじゃあ、近くまで行くぞ」


 車に揺られて数分。すぐに目的の場所に到着して、俺たちは歩き出した。
 学園の生徒もこの辺りに住んでいる人がいるためか、それなりに見かける。
 女二人を連れているため、生徒とは関係ない目線も多く浴びながらも、俺は鳥を探して周囲を見ていくしかない。
 たまに目が合うと睨まれるのがたまらなく面倒だ。
 目的の鳥はすぐに見つかった。


「ぴぴーっ!」


 鳴きながらハチはばたばたと羽を動かす。
 悲しいことに、ハチの体は少し浮かぶだけですぐに地上へと戻る。
 ハチはだだっとそこらの陸の生物よりも素早く走り、ジーニのほうへとやってくる。


「まあ、随分と太ったわね。少し飛んでみせて」


 色々な場所で人に餌をもらっていたのだろう。写真よりもさらに一回り太っているように見えた。
 ジーニが言うと、ハチは威勢よく鳴いて、再び羽をばたつかせる。
 数秒ほど飛んだハチは疲労に任せるように地面へ着陸した。
 ジーニとの再会を喜ぶように何度か、その場でジャンプをしている。ジーニは嬉しそうにハチを眺めていた。


「それにしても、簡単な依頼だったな」


 ふわっとジェンシーはあくびを手で隠す。


「普段はどんな依頼を受けてるんだよ?」
「うーむ……考えてみるといつもこんな感じがしてきたぞ……」


 ジェンシーは小鳥の傍らに座り、ハチを眺める。ハチもジェンシーを見つめ返し、ジーニは立ち上がって俺の横に並ぶ。
 と、ハチはジェンシーの周りを楽しげに走る。ジェンシーもその様を見て、喜んでいたが不意にハチは尻を見せるような姿勢になる。


「ぬぅっ!」


 絶叫とともに、ジェンシーが後ろに飛び退く。遅れてハチの尻から食事中には言いたくないものを発射した。そりゃあもう凄い勢いだ。消防車の放水のように綺麗にまっすぐ。


「大丈夫か?」


 ジェンシーの体を支えると、ジェンシーは少し頬を染めながらため息まじりに呟いた。


「この鳥は……懐いた相手に糞をかけようとするのだ。危なかった……」


 ハチはまだ諦めきれないのか、ジェンシーを追いかける。


「私に懐くなー!」
「私、毎日餌をあげていたのだけれど……癪ね」


 とりあえず、これで依頼は完了だろう。
 俺は依頼書を取り出し、ジェンシーにぺらと見せる。


「サインをもらっていいか?」
「そうだったわね。感謝するわ」


 ジーニはポケットを漁り、ペンを取り出す。すらすらと彼女は自分の名前を書き込みながら、小さく口を動かす。


「あなた、私のパートナーであることについては、いわないのかしら?」
「……言わないとダメなのか?」
「ふふ、それも秘密の関係、みたいで嬉しいわね」
「……一ついいか? どうして俺をパートナーにしたんだよ?」
「特に理由はないわよ」
「……そっか」


 本音かどうかはわからないが、サインが終わる。
 ジェンシーが俺のほうへとかけてきて、俺の後ろに隠れる。


「助けてくれ!」
「って! ふざけんな!」
「ぴぴー!」


 ジェンシーへと向けて放った糞に、俺の制服が盛大に汚れた。
 服を着るのは、身を守るためだと俺は考えている。
 だから、糞から身を守るという服本来の活躍をしてくれたのはいいが……いざ汚れると疲労に襲われるのはなんでなんだろうな。
 俺は肩を落としながらも、楽しそうなジェンシーとジーニを見てとりあえずはため息だけに留めておいた。 

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