ニートの俺と落ちこぼれ勇者
第十二話 訓練
六時間目は外に出た。
学園から少し移動したところに学園が管理する森があり、そこで別のクラスと合流する。
その中にタケダイ先輩の姿を認めた。散々な目にあったが、タケダイ先輩は何事もなかった様子で片手を上げてきた。
爽やかな手のあげ方。それだけで、少し威圧されたように感じてしまう。
あの人……嫌いだ。さすがにあそこまでされれば、苦手になってしまった。
なるべく関わらないようにしたいが、無視して面倒なことになっても嫌だ。
無駄な争いを避けるために、俺は片手をあげかえす。事件は未然に防いでいくべきだ。
……なにより、俺が傷つくだけならまだいいしな。あり得ないとは思うが、これが悪化してジェンシーに何かをされるのだけは避けたい。
「あ、あれって……二年最強のタケダイ先輩か……?」
「みたいだな。……たぶん今日の訓練は、模擬戦だろうぜ」
他の生徒たちの声から、タケダイ先輩が優秀であることを知る。
……だが、勇者はいない。それはジェンシーをまだ狙っているからだろう。
ライバルが強すぎないか。大丈夫、俺。
「おまえたち、そこに並べっ」
先ほどの教師が引き続き授業を行うようだ。
盛大な声に操られるように並んでいく。
「今日は模擬戦を行ってもらう。一年は好きな五人に別れてくれ。二年は三人だ。時間は一分だっ!」
一分で別れるって……友達いない俺には高難易度のミッションだな。
しゃあねえ、頑張って声をかけまくっていくしかないか。
「先生っ、一年の合計人数的に、ぴったりは少し難しいと思います!」
「そうか、ならば、五から七人で組め!」
「わかりましたっ」
一年たちはざわざわと声をかけあっていく。俺を誘ってくれるような奴は一人もいないだろうから、積極的に行かないといけない。
「なぁ、俺をここにいれて――」
声をかけるが、わざとらしく顔をそっぽに向けられる。
ただ声をかけるだけではダメだ。
俺は次の相手の肩に手をおきながら、もう一度訊ねる。
「俺もまぜてくれねぇか?」
「……ふん」
今度はかけた手を叩きおとされる。これはマジで難しい。
同じように女子にも話しかけてみるが、簡単に無視されてしまった。どうすりゃいいのこれ。もっとイケメンだったら相手にしてくれたのだろうか。
意志の強い相手には厳しい。ならば、と俺は全体を見渡す。
全員の会話を聞き分けながら、だいたいの交友関係を察知していく。
段々とクラスメートにグループが出来ていき、輪に入れていないものが数人いることに気づく。
人間なんて様々だ。こういったときに積極的になれない者もいる。
彼らならば、俺が誘っていけばチームメートになってくれるはずだ。さすがに無視して参加できないことを望むとは思えない。
俺はそう決意し、早速一人のぼっちくんに声をかける。
「誰かとチーム組めたか?」
「ううん、まだだけど……」
「だったら、俺と組んでくれないか?」
「え、えと……」
感触は悪くない。
ぼっちくんが頷きかけたその瞬間、俺はタックルを喰らう。不意な衝撃に痛みよりも不快さを感じた。
「よかった、こんなところにいたのか? 一緒にパーティー組もうぜっ」
別の男にぼっちくんが連れて行かれてしまう。
俺が仕返ししてやろうとするが、申し訳なさそうなぼっちくんの表情を見て、矛を治める。
……まだ、他にもいるし、どうにかなるだろ。
その後も数人に声をかけるが、完璧な妨害とブロックに阻まれ結局一人も誘えない。
全員俺の動きをチェックしすぎだ。実は好きなの?
というか、俺はぼっち救済係かよっ。
結局一分が経った時、俺は教師のもとへいく。
「すいません、どこにも入れなかったっす」
「なにぃっ!?」
背後にいた生徒たちの馬鹿にするような目が気に食わない。誰のせいだこんちくしょう。
教師は悩むようにして、それからポンと手を打つ。
「とりあえず、今日はヒサガのチームに入れてもらえ!」
「えぇ!?」
ヒサガたちが大声をあげる。
「ま、待ってください! 俺たち本当に二年生を倒したいんです! 足手まといなんかチームに入れたくありません」
ヒサガの班にいた赤い髪をした男が大声をあげる。
断言されちゃったよ。足手まといにならないようにはしたいが、難しいから否定できない。
「キョウ。どんな人間にだって特技がある。それを見極め活躍させるのも、リーダーにとって大事な技術だ」
「その男に特技なんてあるわけないでしょう!?」
「ほぉ? なぜだ?」
「見ればわかりますよ」
「凄いな。将来はスカウトにでもなるといい」
そういって教師は俺の背中を押した。
軽く一歩を前に踏み込む。あの人結構強く押すな……。本当にこの世界の人間は化け物揃いだ。
弱い体を少しは考えてほしい。
「……?」
教師は何かを考えるように俺の背中と手を見た後、首を捻って去っていく。
「作戦会議の時間を五分やる。二年生チームを本気で倒せるように頑張ってくれ」
教師は二年生たちと話をはじめ、俺は居心地悪くヒサガたちのチームにちょこんと割り込む。
「……このゴミをどうする?」
「埋めたい」
こいつら怖っ。
六人のメンバーの視線が集まり、俺は頭をかいて誤魔化しの笑みを浮かべる。
「え、えと……足を引っ張らないように頑張るからな」
「……とりあえずだ、ゴミはゼロとして考えるぞ」
ですよねー。
俺は顎に手を当てながら、つんつんとキョウの肘をつつく。
始めは無視していたが、俺が強めにつつくとさすがにうざったそうに声を荒げた。
「なんだ!?」
「ええと、キョウ、でいいのか?」
「不快だ。どうせ、おまえノーランクだろう?」
「ノーランク?」
「知らないのか? 入学時に試験を受けるだろう? それで成績評価がされるはずだ。最低ランクがFで、最高がS。Fに満たないものはノーランクだ。一学期試験終了までにFにあがらなければ、そのまま退学だ」
そんなもの受けていないのだが……。
いったいどうなっているのやら、ジェンシーの家の権力は計りしれない。
よく考えれば、住所もなかった俺を一日でどうやって学園に通えるようにしたのだろうか。
色々と根回ししているのか? ……金かかっていたら嫌だな。
ていうか、不合格って大丈夫だろうか。まだ先の話だし気張っても無駄だな。
「ここにいる奴らは全員Dランクだ。一年の最高メンバーと言ってもいい」
「凄いんだな」
俺が褒めると、少しばかり照れた様子を見せる奴がいたが、キョウがその者たちを強くにらんだ。
「おまえの勇者さんに褒められるなら嬉しいが、おまえの言葉なんていらないんだよ」
「それで、だ。俺が言いたいのは、今回の模擬戦って何をするんだ?」
メンバーの目が点になった。チームメートたちの視線が集中したため、俺は顎に手を当てて考える。
「もう一度言ってみろ」
どうやら聞こえなかったようだ。俺は出来る限りの友好的な笑みを浮かべて、言い放つ。
「いや、模擬戦のルールとか知らないからさ、教えてくれねぇか?」
「ルールも知らないくせに口を出してくるんじゃない。ゴミが。時間の無駄だ」
キョウはメンバーたちと打ち合わせを進めてしまう。
俺も周囲や彼らの話を聞いて情報を集めていく。
今回の模擬戦のルールは簡単だ。
攻撃側と防御側に分かれる。攻撃側が防御側の勇者を倒すというものだ。
攻撃側は二年生がつとめ、防御側の一年生がチームから勇者役を一人指名し制限時間内守りきれば勝ちだ。
各自が、白のゼッケンをつけ、ペイント弾を打ち込まれたら退場となる。つまり、指名した勇者役がペイント弾で撃たれれば、他の全員が生き残っていても負けとなる。
魔法によって相手に傷をつけた場合も退場扱いとなるため、使用する攻撃や技などはかなり制限される。
ほっとしたよ。これなら、俺でも死ぬようなダメージを負うことはない。
それから俺は彼らの作戦へ耳を傾ける。
キョウたちの作戦はチャージを終えた目くらましようの魔法をぶっ放し、敵を一人倒すというものだ。
魔法の一つだけならば、マジックストックにチャージしておけるからな。
ていうか、ここのメンバー全員魔法を使えるようだ。……まあ、貴族の最低条件が魔法といわれるくらいだからな。
勝てば名前が売れるだろう。それがこの学園内でどれほどの力になるかは不明だが、そのために仲間たちは全員やる気だ。
ジェンシーが周りからいじめを受けないよう、俺が出来る行動は二つだ。
最強か……最弱になるか。
最弱ならば、わりかし簡単だろう。だが、俺がコテンパンにやられたところを見て、ジェンシーは何を思うだろうか。
優しいジェンシーは俺に絶望する前に俺を心配するかもしれない。
……そんなの嫌だ。
だったら、最強とはいかなくても強くなって周りを実力で認めさせていくしかない。
……いっても、今の俺が出来るのは逃げ足の速さだ。それを活かすには、この戦いでは意味ない。
まあ、勇者役の盾くらいにはなれるだろう。そのあたりでまずは仲間と認めてもらうことから始めるしかない。
「よし、それじゃあ、最初のチームを発表するぞ」
先輩たちは、全部で十のチームがある。俺たちは大体その倍であり、先輩たちは二回戦うことになる。
後半に戦うチームのほうが有利であるだろう。
「キョウたちの班はやる気だったな? ならば、一年代表として、二年代表チームと戦え」
「……わかりましたっ」
キョウはやる気に目を輝かせる。強い相手だと燃える、ってことか。
タケダイ先輩が俺のほうを見てくる。彼は笑顔を浮かべながらも、どこか勝気な眼差しである。
……ここで負けると色々と面倒なことになりそうだ。
教師の指示に従い、一組目が発表される。
俺たちはこの森の入り口からその戦いを見ることになる。用意されたモニターにいくつかの画面が展開され、
「それでは始め!」
教師が声をあげると、森中から声が届いてきた。
すぐにモニターの映像に変化が見られた。
一年生二人が二年生とぶつかる。二人の連携攻撃は簡単に見切られ、魔法を放たれ一人が吹き飛ばされる。
ちょっと待て、あれ負傷の範囲じゃねぇのか?
木に直撃して痛みに耐えるように顔をしかめている。その隙に一人のゼッケンにペイント弾が当たり戦闘不能となる。
もう一人の一年生が魔法を放つが避けられてしまう。
二年生は一年生にペイント弾をあて、すぐに魔法のチャージを始める。今だけは隙だらけだが、タイミング悪く誰も近くにいない。
モニターを眺める一年生たちが声援を送っているが、森には雑音程度にしか届かないだろう。
そうして、一年生チームは一分ほどで全滅した。
二年生に連れてこられた一年生たちは、ボロボロだ。
「よし、怪我はないな。次」
どうみてもボロ雑巾のようになっているが、あれはギャグ漫画的なノリなの?
あれが怪我に入らないって、パートナー学科の人たちの怪我は死ぬときくらいじゃないのか?
……冗談じゃねぇぞ、これ。
その調子で模擬戦は進んでいく。
一年生チームは時々粘りをみせるが、誰も勝つことができない。二年生チームの読みや魔法、作戦のかみ合い具合が完璧で、一年生チームは泥沼にはまりこんだように負けを重ねていく。
そして、最後……。俺たちのチームにとうとう出番が回ってきた。
俺は拳銃を受け取り、ペイント弾を確認する。使えるのはマガジンに入っている七発だけだ。無駄うちは出来ない。
拳銃の扱いなら慣れている。ゲームでもたくさんしているし、学校でも習っていた。
木剣も装備していいようだが、俺は多分使う機会ないし持たなかった。
木剣の間合いに入られたときは、たぶん負けるときだ。
出来る限りがんばるかね。
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