義娘が誘拐されました
第三話 ルーウィン奪還2
まずは情報を集める。ということで、ルナとともにルーウィンの街近くまでやってくる。
小川が流れているために、街までは迷わずにこれた。
ルーウィンの街の周囲は、木の柵で覆われている。
ざっと見た感じ、特に突破できそうな穴はない。
街の内部はルナにざっと説明してもらう。
それらの情報をパワードスーツに残していき、出来上がった地図を映し出す。
「……こんな感じか」
「わっ!?」
ルナが驚きに目を見開いた。
ルーウィンの街を外から見ただけでわかったが、やはり、このような科学技術はないようだ。
「ま……魔法、ですか?」
「一応、言われたとおりに地図を作ってみたけど……細かい場所を教えてくれないか?」
「……えーとですね」
ルナの説明を受け、より正確なルーウィンの地図を作っていく。
ルーウィンの街は円に近い作りだ。
北と南にそれぞれ門があるが、今は固く閉ざされている。
中央に領主――ルナの家があり、そこを囲むようにして家が展開している。
西に大きな建物があり、そこは自警団の建物らしい。今は魔族たちに完全に支配されてしまっているが。
逃げるには適していないが、守るという点では優秀な作りである。
櫓が二つあり、見張りさえおけば全方位を見張ることも可能だろう。
街を覆うように作られた木の柵は、容易に人間が通れないようになっている。
「難しいな、こりゃあ」
「……そ、そうですよね」
「な、泣くなって!」
慌ててなだめると、ルナは落ち着くように頷く。
「……だ、大丈夫です。……泣かないように、気をつけます」
「意識するってのは大事なことだな。……後は、敵の規模はわかるか?」
「魔族は十人程度……だったはずですが、魔兵が百人近く、いた、そうです……」
「魔兵?」
「……えと、魔力で作った兵士のことなんですが、知らない、のですか?」
「詳しく教えてくれ」
「は、はい。……魔兵とは、魔力を切り分けて作る自分の分身、です。薄い……透明のような感じになっているのが特徴で、見た方が早いですね」
ルナがいうと、彼女の体から切り離されるように薄い人間が作られる。
「うぉっ! 幽霊!」
「きゃぁ!? ど、どこですか!」
「……いや、おまえのその魔兵ってのが……俺のイメージする幽霊にぴったりだったからさ。ごめんごめん」
じろっと睨まれ、両手を合わせて謝罪すると、ルナは魔兵を消した。
「それにしても、魔兵を知らないなんて……戦は初めて、なのですか?」
「まあ、こんなでっかい戦いは初めてかな。それにしても……魔兵か」
ゲームや部隊のシミュレーションで無理やり学ばせられたことはある。
とにかく、いかに上手に兵士を集めるか、兵士の士気を高めるか……この辺りが大事になってくるが、魔兵ではそこまで必要ないのかもしれない。
もともと頭を使うのは嫌いであるため、下手に考えるのはやめる。
「この街の兵力はどのくらいあったんだ?」
「……そうですね。少し前に聞いた話ですと、魔兵が六十程度で、若く戦える人間が……十人程度です」
「そうか。別に圧倒的な差があるってわけじゃなかったのか」
百十対七十だ。状況さえ変われば、もしかしたら撃退できたかもしれない。
「……それが、この魔兵はあくまで術者の分身体を作り出します。魔力は、分配されてしまいますし……身体能力もそのままです。……こちらの魔兵を作れる人間は五人が老人、老婆だったので……」
「肉体レベルで負けちまったってことか」
「……はい。それに、奴らは……宣戦布告をしにきた、といって中に入ってきたんです」
「宣戦布告? それがなんなんだ?」
「……この国の戦争のやり方は知りませんか?」
「……お、おう。この国のは知らないんだ」
「……そうですか」
少し、悩むようにしてから、ルナは心地よい声音で教えてくれた。
「……私たちは戦争を行う際にそれぞれの神に誓います。……戦争において、私たちは正々堂々と戦う、と。宣戦布告から二週間後が、問答無用で戦いの日です。その、一日限りの戦闘で……単純な兵力を競い、勝者を決める……ことになっているんです。なのに、あいつらは……そういって中に入って……いきなり魔兵を召喚して……私のお父さんを……殺した、そうなんです。……届いた手紙に書かれていました」
怒りと悲しみを混同させた表情でうめく。
「……それって国の決まりごとなんだろ? だったら、国に報告さえ出来れば」
「……はい。事実の確認、それから部隊を編成して……。しかし、魔族の狙いは……どうやら、あの街にある『神器』のようなんです」
「……神器?」
「はい。私の父が大事にしていた神器が、あの街には隠されているんです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 神器ってなんなんだ?」
問うた瞬間、ルナはいよいよ眉間に皺を刻み、一歩離れた。
「……あの、失礼ですがあなたは、いったいどこに住んでいたのですか?」
「……え、えーと、だな。森の奥深くで、その田舎暮らしをしてて、なんていうか」
「その纏っている鎧は、神器ではないのですか?」
疑いの視線はどんどん鋭くなっていく。
もともと、嘘は苦手なほうだ。
ここは素直にぶっちゃけてしまったほうがいいだろうか。
ルナの警戒はさらに強まっていく。
「……先程、この国、といいましたが……世界中どこにいっても、この戦争のやり方は変わっていません……あなた、どこにいたのですか?」
「なるほど、ね」
まだ、田舎暮らしだったから、でも押し通せたかもしれない。
だが――素直にすべてをぶちまけてしまおう。
ルナだって、つらいことを話してくれたのだ。
冬樹はその場で座り、いつでも土下座を出来るようにする。
その動きに、ルナはさらに強張った顔を作ってしまう。
警戒をとくように、パワードスーツを解除して頭を下げる。
「……ごめん! 嘘ついてた!」
「嘘、ですか?」
みるみる、ルナの目から感情がなくなっていく。
「俺は……異世界、こことはまったく関係ない世界から来たんだ」
「……異世界?」
「信じられないかもしれないけど、俺は嘘は言っていない」
言ってから後悔する。これ、嘘言っている奴のいう言葉じゃね、と。
しかし、今さら撤回することもできない。
審判を待っていると、
「……一つだけ、いいですか?」
「いくつでも、どぞどぞ」
「……どうして私に協力しようとしたんですか?」
彼女は今何を考えているのだろうか。
「おまえが、俺の娘に似てたんだよ」
「……娘、さんですか?」
「別に全然髪色とか顔たちとか違うんだけどさ……泣いてる姿は……放っておけなくてさ」
「それだけ、ですか?」
「いや。もちろん、助けたあとには、俺の娘についての情報も色々聞きたいと思ってたんだよ」
「……娘さんの? 私たちは何も……見合った情報は渡せませんよ」
それをすぐに言ってしまうあたり、彼女は交渉には向かないだろう。
人のことは言えないか。
苦笑しながら、首を縦に振る。
「……ここから、さらに南についての情報がほしいんだ」
「……それはっ」
「何か知ってるのか!?」
「……ここから南は、一ヶ月ほど前に魔族に落とされました。……今は、魔族の世界です」
「マジで……ヤユの奴……大丈夫、かな」
「……わかりません。が……殺されるようなことは、たぶんないと思います。……敗北した人間たちも、労働力として生かされているそうですし……」
「……だろうな」
よっぽど恨みでもない限り、奪った相手の土地の人間を惨殺して回ることはないだろう。
だが、これで必要な情報を手に入れることができた。
「教えてくれてありがとな」
「……え?」
ルナはしばらく考え込むように顎に手を当ててから、はっと表情を青ざめる。
「……さ、さっきの忘れてくれませんか?」
大事な情報をあっさりとばらしてしまったのに気づいたようだが、忘れるのは難しい。
「ばっちし覚えてるよ」
「ま、待ってください! お願いします! 街を助けるのに協力してください! 私一人では……絶対に無理なんです!」
「もちろんだっての。あんだけ情報を教えてくれたんだ、協力しないわけないだろー?」
「……え?」
ルナからすれば予想外だったのかもしれない。
とはいえ、義理を守れない人間にはなるな、と兄にたんと仕込まれて育っている。
恩を受けたら百倍にして返せ、とも。
「必ず、おまえの街を取りかえすぞ!」
「……あ、ありがとうございます!」
ルナは勢いよく何度も頭をさげてくる。
壊れたおもちゃのように何度も、何度も。
涙に月明かりが反射する。彼女が落ち着いたところで、一つ褒める。
「それにしても、結構しっかり調べてるんだな」
「……情報が大事なのは、知っています」
敵との戦力差を理解してしまったからこそ、ルナは逃げたい気持ちが強くなってしまったのだろう。
「……さて、神器とやらってのはまだ見つかっていないんだよな?」
「……そうですね。街中を総動員で探されたら……三日も持たないかもしれません」
「じゃあ、仮に二日と仮定して……どこかから兵士を大量に借りることはできないかな?」
「……無理ですね。借りるには、知り合いの貴族か、冒険者ギルドに行く必要がありますが……ここから一番近い街へは、一日近くかかります」
それでは、細かい事情の説明、連携の相談、部隊の編成……などなどしていればあっさりとなくなってしまうだろう。
「神器ってのはなんだ?」
「……神器は異常な力を持つ道具ですね。例えばルーウィンには、土を良くする神器が埋められているんです。そのおかげで、ここでとれる作物やそれを食べる動物がおいしくなるんです」
「はぁ……すっげぇな。このあたりに生えてる雑草も食べられるんじゃないか?」
「そうですね。こういった雑草を食べる魔獣たちまで、活性化してしまうは難点ですが……」
「確かに、そんな神器どっかに売り飛ばせれば一生遊べる額になりそうだな」
魔族たちに狙われるのも無理からぬことだ。
「……ですが、そもそも、神器があることは私たち家族しか知らないはずなんです。それがどうして漏れたのか……」
「ま、それは街の人の誰かがもらしたとかじゃないのか?」
「……それが、妥当、ですね」
街の人たちが、この街は不思議な加護がある、とでも言えば、そこから賢い人間ならば推測できるかもしれない。
「とりあえず、引き続き……情報収集だな」
敵の強さが分からない以上、突っ込むわけにもいかない。
それに、ルナは言葉にこそしないが、街や住民たちが傷つけられるのは嫌なはずだ。
今のまま突っ込んでも、人質を見せつけられて終わり。
頭を使うのはあまり好きではない。
だから、冬樹が担当していた部隊には賢い人間ばかりを集めるようにしていた。
誰か一人でも部下がいれば……この状況をあっさりと打破してくれたかもしれない。
ぐるりと街を一周し、おおよその高低などについても、自作の地図に書き込んでいった。
小川が流れているために、街までは迷わずにこれた。
ルーウィンの街の周囲は、木の柵で覆われている。
ざっと見た感じ、特に突破できそうな穴はない。
街の内部はルナにざっと説明してもらう。
それらの情報をパワードスーツに残していき、出来上がった地図を映し出す。
「……こんな感じか」
「わっ!?」
ルナが驚きに目を見開いた。
ルーウィンの街を外から見ただけでわかったが、やはり、このような科学技術はないようだ。
「ま……魔法、ですか?」
「一応、言われたとおりに地図を作ってみたけど……細かい場所を教えてくれないか?」
「……えーとですね」
ルナの説明を受け、より正確なルーウィンの地図を作っていく。
ルーウィンの街は円に近い作りだ。
北と南にそれぞれ門があるが、今は固く閉ざされている。
中央に領主――ルナの家があり、そこを囲むようにして家が展開している。
西に大きな建物があり、そこは自警団の建物らしい。今は魔族たちに完全に支配されてしまっているが。
逃げるには適していないが、守るという点では優秀な作りである。
櫓が二つあり、見張りさえおけば全方位を見張ることも可能だろう。
街を覆うように作られた木の柵は、容易に人間が通れないようになっている。
「難しいな、こりゃあ」
「……そ、そうですよね」
「な、泣くなって!」
慌ててなだめると、ルナは落ち着くように頷く。
「……だ、大丈夫です。……泣かないように、気をつけます」
「意識するってのは大事なことだな。……後は、敵の規模はわかるか?」
「魔族は十人程度……だったはずですが、魔兵が百人近く、いた、そうです……」
「魔兵?」
「……えと、魔力で作った兵士のことなんですが、知らない、のですか?」
「詳しく教えてくれ」
「は、はい。……魔兵とは、魔力を切り分けて作る自分の分身、です。薄い……透明のような感じになっているのが特徴で、見た方が早いですね」
ルナがいうと、彼女の体から切り離されるように薄い人間が作られる。
「うぉっ! 幽霊!」
「きゃぁ!? ど、どこですか!」
「……いや、おまえのその魔兵ってのが……俺のイメージする幽霊にぴったりだったからさ。ごめんごめん」
じろっと睨まれ、両手を合わせて謝罪すると、ルナは魔兵を消した。
「それにしても、魔兵を知らないなんて……戦は初めて、なのですか?」
「まあ、こんなでっかい戦いは初めてかな。それにしても……魔兵か」
ゲームや部隊のシミュレーションで無理やり学ばせられたことはある。
とにかく、いかに上手に兵士を集めるか、兵士の士気を高めるか……この辺りが大事になってくるが、魔兵ではそこまで必要ないのかもしれない。
もともと頭を使うのは嫌いであるため、下手に考えるのはやめる。
「この街の兵力はどのくらいあったんだ?」
「……そうですね。少し前に聞いた話ですと、魔兵が六十程度で、若く戦える人間が……十人程度です」
「そうか。別に圧倒的な差があるってわけじゃなかったのか」
百十対七十だ。状況さえ変われば、もしかしたら撃退できたかもしれない。
「……それが、この魔兵はあくまで術者の分身体を作り出します。魔力は、分配されてしまいますし……身体能力もそのままです。……こちらの魔兵を作れる人間は五人が老人、老婆だったので……」
「肉体レベルで負けちまったってことか」
「……はい。それに、奴らは……宣戦布告をしにきた、といって中に入ってきたんです」
「宣戦布告? それがなんなんだ?」
「……この国の戦争のやり方は知りませんか?」
「……お、おう。この国のは知らないんだ」
「……そうですか」
少し、悩むようにしてから、ルナは心地よい声音で教えてくれた。
「……私たちは戦争を行う際にそれぞれの神に誓います。……戦争において、私たちは正々堂々と戦う、と。宣戦布告から二週間後が、問答無用で戦いの日です。その、一日限りの戦闘で……単純な兵力を競い、勝者を決める……ことになっているんです。なのに、あいつらは……そういって中に入って……いきなり魔兵を召喚して……私のお父さんを……殺した、そうなんです。……届いた手紙に書かれていました」
怒りと悲しみを混同させた表情でうめく。
「……それって国の決まりごとなんだろ? だったら、国に報告さえ出来れば」
「……はい。事実の確認、それから部隊を編成して……。しかし、魔族の狙いは……どうやら、あの街にある『神器』のようなんです」
「……神器?」
「はい。私の父が大事にしていた神器が、あの街には隠されているんです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 神器ってなんなんだ?」
問うた瞬間、ルナはいよいよ眉間に皺を刻み、一歩離れた。
「……あの、失礼ですがあなたは、いったいどこに住んでいたのですか?」
「……え、えーと、だな。森の奥深くで、その田舎暮らしをしてて、なんていうか」
「その纏っている鎧は、神器ではないのですか?」
疑いの視線はどんどん鋭くなっていく。
もともと、嘘は苦手なほうだ。
ここは素直にぶっちゃけてしまったほうがいいだろうか。
ルナの警戒はさらに強まっていく。
「……先程、この国、といいましたが……世界中どこにいっても、この戦争のやり方は変わっていません……あなた、どこにいたのですか?」
「なるほど、ね」
まだ、田舎暮らしだったから、でも押し通せたかもしれない。
だが――素直にすべてをぶちまけてしまおう。
ルナだって、つらいことを話してくれたのだ。
冬樹はその場で座り、いつでも土下座を出来るようにする。
その動きに、ルナはさらに強張った顔を作ってしまう。
警戒をとくように、パワードスーツを解除して頭を下げる。
「……ごめん! 嘘ついてた!」
「嘘、ですか?」
みるみる、ルナの目から感情がなくなっていく。
「俺は……異世界、こことはまったく関係ない世界から来たんだ」
「……異世界?」
「信じられないかもしれないけど、俺は嘘は言っていない」
言ってから後悔する。これ、嘘言っている奴のいう言葉じゃね、と。
しかし、今さら撤回することもできない。
審判を待っていると、
「……一つだけ、いいですか?」
「いくつでも、どぞどぞ」
「……どうして私に協力しようとしたんですか?」
彼女は今何を考えているのだろうか。
「おまえが、俺の娘に似てたんだよ」
「……娘、さんですか?」
「別に全然髪色とか顔たちとか違うんだけどさ……泣いてる姿は……放っておけなくてさ」
「それだけ、ですか?」
「いや。もちろん、助けたあとには、俺の娘についての情報も色々聞きたいと思ってたんだよ」
「……娘さんの? 私たちは何も……見合った情報は渡せませんよ」
それをすぐに言ってしまうあたり、彼女は交渉には向かないだろう。
人のことは言えないか。
苦笑しながら、首を縦に振る。
「……ここから、さらに南についての情報がほしいんだ」
「……それはっ」
「何か知ってるのか!?」
「……ここから南は、一ヶ月ほど前に魔族に落とされました。……今は、魔族の世界です」
「マジで……ヤユの奴……大丈夫、かな」
「……わかりません。が……殺されるようなことは、たぶんないと思います。……敗北した人間たちも、労働力として生かされているそうですし……」
「……だろうな」
よっぽど恨みでもない限り、奪った相手の土地の人間を惨殺して回ることはないだろう。
だが、これで必要な情報を手に入れることができた。
「教えてくれてありがとな」
「……え?」
ルナはしばらく考え込むように顎に手を当ててから、はっと表情を青ざめる。
「……さ、さっきの忘れてくれませんか?」
大事な情報をあっさりとばらしてしまったのに気づいたようだが、忘れるのは難しい。
「ばっちし覚えてるよ」
「ま、待ってください! お願いします! 街を助けるのに協力してください! 私一人では……絶対に無理なんです!」
「もちろんだっての。あんだけ情報を教えてくれたんだ、協力しないわけないだろー?」
「……え?」
ルナからすれば予想外だったのかもしれない。
とはいえ、義理を守れない人間にはなるな、と兄にたんと仕込まれて育っている。
恩を受けたら百倍にして返せ、とも。
「必ず、おまえの街を取りかえすぞ!」
「……あ、ありがとうございます!」
ルナは勢いよく何度も頭をさげてくる。
壊れたおもちゃのように何度も、何度も。
涙に月明かりが反射する。彼女が落ち着いたところで、一つ褒める。
「それにしても、結構しっかり調べてるんだな」
「……情報が大事なのは、知っています」
敵との戦力差を理解してしまったからこそ、ルナは逃げたい気持ちが強くなってしまったのだろう。
「……さて、神器とやらってのはまだ見つかっていないんだよな?」
「……そうですね。街中を総動員で探されたら……三日も持たないかもしれません」
「じゃあ、仮に二日と仮定して……どこかから兵士を大量に借りることはできないかな?」
「……無理ですね。借りるには、知り合いの貴族か、冒険者ギルドに行く必要がありますが……ここから一番近い街へは、一日近くかかります」
それでは、細かい事情の説明、連携の相談、部隊の編成……などなどしていればあっさりとなくなってしまうだろう。
「神器ってのはなんだ?」
「……神器は異常な力を持つ道具ですね。例えばルーウィンには、土を良くする神器が埋められているんです。そのおかげで、ここでとれる作物やそれを食べる動物がおいしくなるんです」
「はぁ……すっげぇな。このあたりに生えてる雑草も食べられるんじゃないか?」
「そうですね。こういった雑草を食べる魔獣たちまで、活性化してしまうは難点ですが……」
「確かに、そんな神器どっかに売り飛ばせれば一生遊べる額になりそうだな」
魔族たちに狙われるのも無理からぬことだ。
「……ですが、そもそも、神器があることは私たち家族しか知らないはずなんです。それがどうして漏れたのか……」
「ま、それは街の人の誰かがもらしたとかじゃないのか?」
「……それが、妥当、ですね」
街の人たちが、この街は不思議な加護がある、とでも言えば、そこから賢い人間ならば推測できるかもしれない。
「とりあえず、引き続き……情報収集だな」
敵の強さが分からない以上、突っ込むわけにもいかない。
それに、ルナは言葉にこそしないが、街や住民たちが傷つけられるのは嫌なはずだ。
今のまま突っ込んでも、人質を見せつけられて終わり。
頭を使うのはあまり好きではない。
だから、冬樹が担当していた部隊には賢い人間ばかりを集めるようにしていた。
誰か一人でも部下がいれば……この状況をあっさりと打破してくれたかもしれない。
ぐるりと街を一周し、おおよその高低などについても、自作の地図に書き込んでいった。
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