よくあるチートで異世界最強

木嶋隆太

第十九話 突破

 1


 二人の魔法は強力だ。
 特に厄介なのは、サーファだ。
 世界を作りかえる。
 その能力はぶっちゃければ、反則級だ。
 だが、時空の狭間であるここでは……それはうまく発動できないようだ。


「くっ……シフォンお願いしますわ!」
「わかっています!」


 サーファが作り出した剣をシフォンが取る。
 海斗が振りぬいた剣とぶつかる。
 シフォンは確かに剣は得意なようだが、それでも今の海斗であればまるで押さえにもならない。


「……悪いが、手加減するつもりはねぇからな!」


 海斗は叫び、その場で一呼吸をする。
 周囲に魔力を流し、それらすべてを固体化させる。
 異常なほどに膨れ上がった魔力があるからこそ行える、反則の魔法運用。
 相手だって異常な存在だ。対抗するにはこれくらいやるしかない。


 空中を自在に移動し、シフォンを四方から切り裂く。
 怪我はしないように、なるべく加減をするが、シフォンの身体がぐらついていく。
 シフォンは危険を察したのか後方へ飛んでいく。


「シフォンッ! 大丈夫ですの?」
「ば、化け物です……私についてくるのだって……訓練のときはやっとでしたのに」
「進化、ですわね……どこまで進化していますのよ」


 察しがいい二人を睨みつける。


「言っておくが今の俺ははっきりいって……おまえらじゃあどうやっても止められねぇよ」
「ク……ッ!」


 歯噛みしながらも、サーファは正面にいくつもの目に見えない障壁を作り出していく。


「でしたら、どうすればいいんですの!? 話し合ってどうにかなるのならば、何十年、何百年も争ってはいませんわっ」
「そうですよっ」


 結局、二人が言いたいのはそこだ。
 海斗はだから剣を構え、ここまでに考えていた一つのことを口にする。


「別の敵を作り出せばいいんだよッ!」


 海斗は剣を振りぬき、サーファが作り出した幾重にも重ねられた防壁を破壊する。


「だから、わたくしたちがその敵になりますのよっ」
「別にそれは、おまえたちじゃなくてもいいだろうがっ!」
「魔物ですか? ……どれだけ強力なものを作っても、所詮は魔物です。魔族のせいにされる可能性はあります」
「魔物ももちろんそうだけどな……っ。それとサーファの力を使えばいくらでも、世界に異変を起こらせられるんだよっ。第三勢力、ああそうだ。ようは不気味な敵を作り出せばいい。人間と魔族がいなければどうにもならないような……そんな怪しい敵を作り出せれば、世界は協力するしかなくなるんだよっ!」
「だから、それを作るために私たちはっ」
「別に何でもいいんだよっ! いいから、今は黙って俺の話を……聞け!」


 二人を守るすべての障壁を破壊し、海斗は彼女達の前に立つ。
 二人はすっかり怯えた様子で、お互いに抱きしめあっている。
 そんな二人の肩を掴み、海斗は目を覗きこんだ。


「世界に、不可思議な迷宮を作るんだよ」
「……迷宮?」
「どういう、ことですの?」
「詳しい話は……ここを抜けてからにしよう。さすがに、身体が持たねぇよ」


 海斗が言うと、シフォンとサーファは困惑げな表情で頷いた。




 2




 久しぶりに戻ってきた世界。
 時間は午後八時をまわったところ。
 静けさの中で、たまに魔物たちの鳴き声が耳に届く。
 気温は暑く、少し動いただけで汗が出て服を濡らしていく。
 海斗がシフォンたちと出会って三ヶ月と少しが経過している。
 季節が変わっていてもおかしくはないだろう。


 場所はわからないが、海斗の知る街ではない。
 近くの森の中に避難しながら、海斗たちは一度呼吸を整える。


「……迷宮、とはなんですか?」
「そうだな――」


 海斗は大雑把に迷宮についてを説明する。
 すると、二人は盲点とばかりに目を瞬かせた。


「……それなら、確かに世界の人々は恐怖に怯えるようになりますね」
「……迷宮を地下だったり、空だったりに作り……その最深部にはボスを用意し、倒せば迷宮は破壊されるというわけですわね?」
「ああ。それで、一番大事なのは、この迷宮にパーティー制度を導入することだ」
「……パーティー?」
「どういうことですの?」
「チームみたいなもんだ。迷宮に入るときに、『パーティーに人間と魔族のチームでなければいけません』と伝えるようにするんだよ」
「……なるほど。奴隷ではなく、普通の人間と魔族とすれば、嫌でも協力せざるを得ませんわね」
「……だろう?」


 迷宮を作る、までが海斗の考えだったが、話をしていくうちにどんどん良いものが浮かんできた。
 海斗が座りながらさらにどうしようかを考えていると、シフォンとサーファの視線が突き刺さった。
 二人はもう我慢できないといった様子で、海斗に飛びついてきた。


「……カイトさん!」
「カイトさんっ! ありがとうございますわっ」
「お、おいっ! まだ何もうまくいってねぇだろっ。喜ぶのは全部終わってからにしよう」


 海斗が怒鳴りつけるが、二人は離れてくれない。
 ごりごりと体を押し付けてきて、変身が解けた海斗の体をがんがん傷つけていく。


「……そういえば、カイトさん。姿、人間みたいですね」
「……けれど、右半身は魔物のようでもありますわね」
「……ああ、俺は精霊王に進化したんだ」


 その前の進化が、魔王と勇者。
 つまりは……その二つが合わさることで、精霊王は誕生するのだろう。
 その両者の体を持っているから、海斗の身体は人間と魔族の両方になっていた。


「……精霊王、ですか」
「……わたくしたちが憧れた、人間と魔族をまとめる最強、ですわね」


 二人が顔を離し、海斗は立ち上がる。


「俺たちは世界に迷宮を作っていく。そして……どこかしらで魔族と人間の代表に向かって、伝えるんだ」
「……そうですね。私たちは第三勢力として、姿を隠しながら」
「わたくしに任せてくださいまし。わたくしは、人の姿も信頼関係さえあれば変えることができますわ」
「別に変えなくても、影のようにしてくれればそれでいいんだけどな」


 海斗ははりきっているサーファに苦笑を向ける。


「……サーファ、俺たちの姿を消せるか? 俺の顔は変わってはいるが、知り合いがいないとも限らないんだ。これからどこかの街に行って、情報を集めたい」
「了解しましたわ」


 シフォンがサーファの手にキスをして、指を鳴らす。
 海斗たちの姿が消えさり、海斗たち自身も見えなくなる。
 困っていると、ぴたりと二人が張り付いてくる。


「……おまえらな」
「こうすれば、わかりますよね?」
「ですわよね?」


 二人が楽しげに笑みを浮かべているのは、見えなくても手に取るようにわかった。




 3




 近くの街は人間の街だった。
 つまりここは、人間の国であり――人間の世界でもっとも権力を持っているドグルド国だ。
 現在ドグルド国は勇者を一人手中に納めており、魔族に対しての切り札としている。
 その街で海斗は、そこで驚きの事実と直面していた。


 まず、どこか街の様子が浮き足立っていること。
 そして何より、近くの街で聞いた年月を聞いて驚いた。
 現在はE656年の七月。
 ナツキと出会ったのが、E654年の三月だ。
 ナツキと別れてから多く見積もっても、一年ほどだ。
 ……なのに、すでに二年近くも経過している。


「……どうしましたか?」
「俺があの世界に迷い込んでから、こっちに戻ってくるまでに……異常に時間が経っているんだ」
「時空の歪みですわ。出る時代を間違えた、という可能性もありますわね」
「もう一度挑戦すれば、どうにかなるかもしれません。失敗すれば、私たちは時空の流れに飲み込まれて、ばらばらに砕け散ると思いますが、やってみますか?」
「んな恐ろしいこと言われて誰が挑戦するんだよ。別に、この時代でも問題ねぇよ。とりあえず……だ。これをどうするか、だな」


 海斗は街の広場の掲示板に大きく張り出されている紙を見る。
 ざっと文字を読むと、そこには戦争についてが書かれている。
 現在、ここから北の魔族の大陸と人間の大陸を繋ぐ場所で戦争が起こっている。
 その兵を集めているという話だ。
 戦争はもうだいぶ前から始まっているが、勇者と魔王のぶつかりあっていて、どちらもせめあぐねているというところだ。


「……今から、そこに、向かうか」


 戦争がいつどちらに傾くか分からない。
 海斗は体を動かそうとするが、疲労によって前に崩れかかる。
 シフォンとサーファが支えてくれる。


「カイトさん、いけません。体のダメージがそれなりにあるのですから、今日は休みましょう」
「……そうですわ。わたくしが外の森の中にいくらでも休む場所は作れますのよ。そこで、きちんと休んでから行動しますわよ」
「だけど……出来る限り早くしないと……っ」
「バカ」
「ぶっ」
「バカですわね」


 左からシフォンが叩き、サーファが右の頬を叩く。
 痛みがじんわりと両頬を襲う。


「……明日の戦争では、勇者と魔王がぶつかっています」
「権力的にはわかりませんが……実力的には人間と魔族の代表、ですわよね?」
「うまくすれば……そこですべてを終わらせられるかもしれません」
「そうですわよ。派手に登場して、勇者と魔王を圧倒し……それから迷宮を見せてやれば、彼らは第三勢力に怯えて過ごすことになりますわ」


 疲労でまともに動けない海斗よりも、よっぽど二人の思考のほうがマシであった。
 言われて気づいた海斗は確かにそうだと深呼吸する。
 二人に引きずられるようにして、海斗たちは一度街から離れた。
 離れた森の中に家を作る。
 中には大きなベッドが一つ用意されただけだが、海斗たちはそこで横になる。


 横になりながら、明日の流れについてを話し合う。
 シフォンがやることは少ない。
 しかし、サーファにかかる負担が大きい。
 それでもサーファは何の気負いもなく頷いた。
 頼もしい仲間に感謝しながら、海斗は疲労に任せて目を閉じる。
 夢の中で……その声が聞こえた。


(……海斗、海斗。聞こえたら返事をするんじゃよ)
(お、生きていたのか)
(勝手に殺すんじゃないんじゃよ!)


 最近声を聞いていなかったために、海斗がとぼけて見せると予想通りの反応を見せてくれる。
 夢の中だからか、久しぶりにアオイが姿を見せる。


(……何やらじゃ、シフォンとサーファの持つ力が異常じゃから調べてみたんじゃが、こちら側の不手際がわかったんんじゃよ)
(不手際?)
(ああ。二人が持つ世界を構成するような力は、本来神が持っている力なんじゃよ。で、調べてみたんじゃが……この世界を作っているときに、神様が廃棄したスキルの中にそれがあったんじゃよ)
(で、だからなんだ?)
(……それでじゃ。魔物製造スキル、世界変化スキル。これらは本来人間には獲得できないように片付けたんじゃ。じゃが、その片付け方に問題があったんじゃよ)
(どんなミスをしたんだ?)
(あれじゃよ……ゲームとか作るじゃろ? レアアイテムをフィールドに設置するじゃろ? けど、削除しないで、マップの外にぽーいって捨てるときあるじゃろ?)
(知らん)
(それと同じじゃよ。この世界を作った神は、その力を世界の外に捨てたんじゃ。ついでに、本来作る予定だった島もじゃ。……彼女らは偶然、その力を獲得してしまったということじゃ)


 苦笑いを浮かべているアオイに、海斗はじとりと目を向ける。


(さっきから、すげぇ他人事っぽく言っているが、確かおまえ、自分が担当する世界でないと人を送れないとか言っていたよな?)
(ふんふんふんーじゃ)


 とぼけようとした彼女の頭を鷲掴みする。
 悲鳴をあげながらアオイが両手をふり、やがてしょんぼりと頭を下げる。


(……すまんのじゃ。その神――つまりわしが捨てた力の一部に、時空の流れの中で触れてしまったんじゃよ。だから、二人は……異常な力を持ち、こうして異常な歳を獲得したんじゃ。ロリババアじゃ)
(最後のはいらねぇよ)
(……それに、海斗だって同じようなもんじゃ。今のおぬしは、年をとることはないんじゃよ。まあ、おぬしもシフォンたちも……わしのミスじゃ。まさか、あんなにポイントを稼いで、精霊王になるとは思ってもいなかったんじゃよ。じゃから、いつでも、寿命の呪いを解くことはできるんじゃよ)


 これもゲームでありそうなミスだった。
 多くのプレイヤーが見つけることはできないだろうと、放置しておいたバグが見つかったような感覚だろう。


(……いや、今はやめておく。これからどれだけかかるか分からないからな)


 人間と魔族が柔軟な思考を持っていれば、一年もすれば表面上の協力はするだろう。
 そこから、何年かければ……本当の意味でわかりあえるだろうか。
 不安はあるが、海斗たちでそれを見守っていけばいい。


(……あんたのおかげで、色々と考える余裕が持てた。ありがとな)
(……そうか。別にわしは、ただ遊びたかっただけじゃ。じゃから……感謝を言われるようなことはないんじゃ)
(そうかもな……)


 アオイは確かにぬけているが、そのおかげで海斗たちはこうして、世界をどうにかできるかもしれない。
 後は、明日に備えて体を休めるだけだ。

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