よくあるチートで異世界最強

木嶋隆太

第三話 調査

(海斗! ……なかなか受けが良いんじゃよっ)
(そりゃあよかった。ところで、俺の小説ってどうなってるんだ?)
(うん? あぁ、詳しく説明しておかなったのう。それじゃ、ここまでの話を見せてやるんじゃよ)


 そういって、アオイが言うと脳に話が送り込まれる。
 公開されている分の話を脳内で読む。
 アオイ曰く1、2、3と書かれた1つ分を一話として投稿しているらしい。


(俺の心境まで見事に書かれてるな気持ち悪っ)
(そういうことを言うんじゃないのじゃ! 妖精ちゃんはお前に憑依しているようなもんじゃ、そして、お前が関わったことのある相手にも憑依できんじゃよ!)
(……で、ポイントシステムについて詳しく教えてくれないか?)
(そうじゃな……まず、わしはおぬしにポイントを入れることが出来ない。次に、一神様には与えられるポイントの限界があるんじゃよ)
(ばんばんくれればいいのに、けちだな)
(じゃから、そういう発言はやめるんじゃ! 今のような発言はわしがみて、適宜削除するんじゃよ!)


 海斗はふむと、顎に手をやる。


(で、ポイントの入り方は?)
(神様たちは、神様ネットワークで一つのアカウントを持っているんじゃよ。でじゃ、小説をお気に入りに登録できる機能があるんじゃよ。お気に入りされた)
(なるほどな。そのお気に入りに入れられるとポイントが入るのか)
(そうじゃ。1ポイントじゃけどな)
(けちだなぁ。どっかのサイトだって2ポイント入るぞ? まあ、神たちが適当にお気に入りしまくってくれれば、転生……転移かは知らんが俺たちみたいなのは助かるな)
(一神様がお気に入りできるのは50までじゃぞ。あと最初の一回しかポイントは入らないし、外されらばポイントも失うんじゃ)
(じゃあ、常にゼロにしておいたらいいんじゃねぇか?)
(新しく入ったポイントから引かれるだけじゃ)
(ち、面倒だな)


 うまい方法がなく、寝転がる。


(どんな物語が受けているんだよ?)
(そうじゃなぁ……特にこれといってはないんじゃよ。おぬしの場合は日本人じゃから、それだけで注目されてるんじゃよ。今の神は日本人がどれほど異世界で生きていけるのか、それが楽しみなんじゃよ。……実際、いっぱい異世界に連れて行かれているんじゃが、一日目を生き抜いたものも少ないもんじゃ。その点おぬしは凄いんじゃ! さてさて、ここからどうなるかじゃな?)
(一生遊び尽くしてやるよ。あんたら、神のポイントが必要ならなくなるくらいな)
(じゃから、神様を敵視するのはよくないんじゃよ。それに、わしは違うからな? わしは、おぬしを……神様の範囲ではあるが全力でサポートするんじゃよ! 死なれたら嫌じゃからな!)
(困ったときには頼らせてもらう。……ってじゃあ、この会話は神様ネットにはアップしないほうがいいんだよな?)
(任せるんじゃ。こっちでどうにでもしておくんじゃよ)


 海斗が変身したゴブリンは冒険者たちに見つかれば、容易に狩られてしまう。
 世界最弱の魔物。
 神たちは、わざわざゴブリンに転生させて……どこまで人間が生きられるかを見るのが楽しみなのだ。
 今での最高は一年ほど。
 ゴブリンなんかでは、大した時間は生きられない。
 転生のチャンス、などというが二度目の死を体験する人間のほうが多いだろう。




 1




 短く息をはき、アオイとの回線を切る。
 午後の十時を過ぎたところだ。
 ポイントが新しく入ったことで、なんとかスキルを獲得することはできる。


 ――あれから。
 一日近く歩いたことで、どうにか街を見つけることはできた。
 時々街から出てくる冒険者たちの会話を盗み聞きすることで、あの街がどういった場所なのかは理解した。
 レイドン。
 この国の首都である。
 どうりで大きな城があるわけだ。


 空の闇を見ながら、今ある4ポイントで何をするか考える。
 一番必要なのは攻撃の手段だ。
 殴りかかるだけでは、ゴブリンくらいしか倒せない。
 ならば魔法を取得するべき。しかし……魔力が足りるかどうか。
 デコイの魔力が特別多くて使えなかったというのならば別にいいが、もしもファイアーボールなども使えなかったら。
 そう考えると二の足を踏んでしまう。


 海斗は切り替えるように息をはく。
 弱い間に最悪を考えていても仕方ない。
 こそこそと長い時間をかけるのは雑魚にはあわない。
 生き抜く道を掴むには、一発逆転を狙っていくしかない。
 ただし、あくまで勝率の高い賭けを選択する。
 以前のサンダーボルトとファイアーボールを思いだす。
 サンダーボルトは素早い一撃だ。ただし、単体攻撃。
 ファイアーボールは威力はそれなりで、全体攻撃。


 海斗はゲームだと仮定して、思考していく。
 ゲーム脳で考えれば、サンダーボルトのほうが必要魔力は少ない。
 大抵、全体攻撃よりかは単体攻撃のほうが魔力は使わない。
 ……ただし、雷と火という問題もあるが。
 雷のほうが威力が高く、消費魔力が多いかもしれない。
 ゲームによってはサンダーとファイアは同じようなランクとして扱われることもある。
 そもそも、海斗は雷魔法のほうがかっこいいと考えている。
 ここまできたら、好みで選ぶしかない。


 どうせ失敗するのならば、サンダーボルトで失敗したい。
 最後は自分の思いを優先して、サンダーボルトを獲得した。
 後は近くにいる魔物に試してみるだけだ。
 ちょうどよく、ウルフを発見する。


「サンダーボルトッ!」


 発動には、魔法名を叫べばいい。
 手を振り下ろすと、体から力が失われる。
 魔力がごっそりともっていかれた。
 しかし、何とか魔法が放たれる。
 ウルフを雷が打ち抜いた。
 ウルフが怯むが、一撃ではない。
 接近して殴打した。


 ステータスを開いた海斗は眉根をよせてしまう。
 ポイントが増えていない。




 2




 それから、一つの仮定をもとに海斗は行動する。
 魔力が回復したところで、ウルフをサンダーボルトで殺す。
 魔法は良い。使ったあと、少しだけだが魔力が成長しているのが分かる。
 そんな喜びもむなしく、やはりポイントは増えない。
 それから、今度はゴブリンを発見する。
 なぜか、ゴブリンは気づいても襲い掛かってこない。
 同じ仲間だと思っているのかもしれない。


 そんな仲間意識の高いゴブリンに近づき、拳と蹴りで殺す。
 ステータスを開くと、ポイントが一つ増えていた。
 神様がくれるポイントは、毎日午後の九時に換算される。
 そのため、これは紛れもないゴブリンがくれたポイントだ。
 ここで可能性が増える。


 一度倒した魔物からは、ポイントをもらえない。
 自分の力のみで倒さないと、ポイントは入らない。


 恐らく前者だろうと考え、もう一体ゴブリンを探しにいく。
 たまった魔力によってサンダーボルトを放つ。
 闇を切り裂く黄色の線。


 体を貫き、ゴブリンは死亡する。
 ポイントは入らない。
 次に発見したゴブリンを殴打する。
 ポイントは入らない。


 これで、だいたい理解できた。
 ポイント獲得は大きくわけて二つ。
 神が小説を評価してポイントをくれること。
 初めての魔物を倒すこと。


 前者は神たちの心を刺激するような展開を作る必要があり、後者は……強力なスキルを覚えない限り、難しい。
 成長するにしても、大変なものがある。


 こうなれば、まだ倒していない魔物を探すしかない。
 見つけたのはスライムだ。
 ぶよぶよとした緑色の生物であり、あまり見ていたくない気持ち悪さがある。
 冒険者たちの会話で倒し方を知っている。


 スライムの体の中には緑の核がある。
 それを破壊すればいいだけだ。
 基本的には魔法での破壊がラクとされている。
 スライムであれば、魔法で簡単に倒せる。


「サンダーボルト!」


 雷鳴一撃。
 スライムなどゴミのように貫いて、あっさりと破壊した。
 やはりポイントも入った。
 初めてで倒せる魔物がいれば、しっかりと討伐していくことで自身の強化に繋がる。
 しかし、レベルなどが海斗にはない。
 魔物を積極的に殺す必要は必要のない作業だ。
 海斗はステータスを開き、


「なんだこれ?」


 思わず声をあげた。
 今まで無意味だと思っていたステータス画面の中で、経験値という文字を見つけたのだ。
 明日、アオイに聞いてみる必要がある。
 アオイが入れた記憶にロクなものはないため、この世界についてはその都度聞いていかなければならない。




 3




 起床と同時に、周囲を観察する。
 うんと海斗は頷き、満足する。
 大きな木の根元に見つけた小さな空間。
 体をねじ込むとどうにか、そこに収まることができた。


 良い隠れ家だが、この木に魔物が何体か集まってきている。
 木が落とす木の実、くぼみに集まる朝露が人気あるようだ。
 海斗はそこでさらに体を押しこみ、必死に隠れる。
 見つかれば生きて脱出はできない。


 僅かな恐怖を感じながら、魔物を観察する。
 ウルフやスライムはともかく、オークまでもいる。
 しかし、ウルフやオークたちは喧嘩を起こさず、それぞれがそれぞれの目的を達成すると帰っていく。
 この森を利用する最低限のマナーでもあるのかもしれない。


 魔物一同が去ったところで、体を出して街の観察に向かう。
 やることは変わらない。
 遠くから冒険者を観察し、必要な情報を集め、魔物狩りに利用する。
 耳は良いとはいえ、あまり近づけば気づかれる。
 敵によっては探知の魔法も所持しているが……海斗は鑑定を使用する。


 トトウ Lv3 冒険者
 剣術Lv1


 このようにいくらでも情報は見れる。
 とはいえ、相手のスキルを獲得するには、実際に見る必要がある。
 トトウが剣を振れば、それで獲得候補にあがる。


 ポイントはロクにないため、まだ保留だが選択肢が増えるのは嬉しい事だ。
 取得したい気持ちもあるが首を振る。
 剣に並々ならぬ興奮もあった。
 異世界、どうせならばオーソドックスだが剣を振るいたい。
 剣術へと伸びる腕を必死に押さえつけながら、別の冒険者を探していく。


 これが海斗の一日。
 たまにゴブリンやウルフも狩るが、それは暇つぶし以上のものではない。
 仲間、でもいれば経験値についても少しは理解できるかもしれない。
 綺麗な夕陽が沈み、月が顔を覗かせる。
 午後の九時が待ち遠しい。
 魔物の肉を食しながら、来る時間を待つ。


(ただいまーなのじゃー!)
(経験値について教えてくれ)
(お!? なんじゃなんじゃ! わしを待っておったなー? 嬉しいんじゃよー! それで経験値かの? う、うーむ……それははっきりとは言えないんじゃ。ヒントだけは出しておくんじゃ)
(なんだ?)
(ヒントは仲間じゃ!)


 それで、予想が確信に変わる。
 海斗にはまるで意味のない経験値。
 しかし、人間にはレベルがある。


 他の魔物はどうだ。
 たまにゴブリンの上位種である、武器を持ったゴブリンがいることがある。
 名前は、ソードゴブリン、アックスゴブリンなどなど。
 ゴブリンから進化したのだろう。
 海斗の進化条件は、ポイントだが他の魔物たちは別の条件があるかもしれない。
 例えば、経験値。
 一定以上の魔物を殺すことで進化することが出来る。
 人間の場合はレベルアップ。


(経験値を他の人間、魔物に譲渡できるといったところか?)
(さ……さぁーのー)
(わかりやす)


 冒険者をみても、大人の平均がレベル3、といったところだ。
 あくまであの街の基準であるため、そこは定かではない。
 とはいえ、そこまで高レベルにはなれないはずだ。


(一つ聞いてもいいか?)
(本当に一つなのかえ?)
(俺は経験値でレベルアップしないのか?)
(そうじゃな。かわりにどんなスキルも取得できる。経験値だって決して無駄ではないんじゃ。これから仲間を増やせるようになれば、の話じゃがな)


 確かに仲間が増えればこの経験値システムは悪くない。
 例えば、仲間と一緒に魔物を狩ればその経験値が二人に入る。
 海斗の経験値を仲間に与えれば、経験値二倍で狩りを行うようなものだ。 


 ただし、この仮定は経験値の分配が起きない場合のみ。
 魔物をたおして、それぞれに100の経験値がはいればいいが、二人で倒して50ずつしか入らなければ、あまり意味はない。
 とはいえ、レベルの低い仲間を一気に強化する手段としても使える。
 すべて、仲間がいればの話だ。


(ぼっちには関係ない技じゃねぇか)
(ぼ、ぼっちいうな! その言葉は嫌いなんじゃよ!)
(……あんた、ぼ――一人でいることが多いのか?)
(そ、そうなんじゃよ……周りの奴らとは空気が合わないんじゃ。おぬしは別じゃよ? おぬしのような賢い奴は嫌いじゃないんじゃ)
(別に賢くはない)


 海斗が賢いというわけではなく、単純にアオイの知能が残念なだけだ。
 それは考えないようにした。


(海斗、まずいんじゃが……ここ最近は地味な話が多いんじゃ。何が言いたいというとじゃな)
(刺激がほしい、だろ?)
(そ、そうなんじゃ……最近閲覧数が減っているのは事実じゃ。盛り上がったのは、街から脱出したときじゃな。ここらでてこ入れが必要なんじゃよ)
(いくつか、盛り上がる要素は考えている)
(な、なんじゃ!?)
(それを言ったらダメだろ?)
(そ、そうじゃな! わしは海斗を信じるんじゃよ! それじゃあ、がんばっ)


 回線が切れる。
 アオイが話を出来るのは午後の九時から十時の間のみ。
 ステータスをみる、ポイントが6になっていた。


 神様たちはまだ海斗の物語を評価してくれている。
 平凡な日が続いてしまっている。
 海斗からすれば十分に波乱万丈だ。
 安全、とはいえ百パーセントの命の保障はないのだから。
 海斗は周囲に気配を感じ、そちらに向かう。


「ま、魔物……!?」


 ちょうど相手も気づいたのか、がっちり目があう。
 剣を構えた少女に海斗は両手をあげる。
 一応は降参を示すポーズだが、少女がしっかりと剣を構えているため伝わっているかは微妙だ。
 じっくりと観察する。


 今は土や葉がつき、おまけに裾が切れているが、それでも平民と比べれば明らかに綺麗で豪華な服。
 森の中には不釣合いな、まるで家を飛び出してきたような服装だ。
 恐らくは貴族。
 たまに街の外へ護衛を引き連れてやってくるのをみる。


「……き、きなさいよ! やってやるわよっ!」


 ナツキ・アルフェルド Lv1 元小学生
 剣術Lv1 肉体強化Lv1 経験値五倍 熟練度五倍 
 圧倒的天才だ。
 ナツキの能力の高さに感動し、説得を試みる。


「……待てっ! 俺はあんたを傷つけない」
「に、人間の言葉……あ、あんた何者よっ!?」
「俺はゴブリンだ。けど、あんたを傷つけることはしない」


 攻撃するつもりはない。ただ、それを伝えるしかない。
 そうすることでしか、ナツキの信頼を勝ち取ることはできない。
 頭を深く下げ、両手をつく。
 見たところ、七歳くらいの子どもだ。


「え……?」
「俺はもともと人間だったが……呪いによってこんな姿になってしまったんだっ。嘘じゃない! その証拠が、この言語だっ! 知能だってきちんとあるしなっ!」


 口がよく回った。
 彼女を保護できれば、出来ることが増える。
 自分のことでも精一杯であった海斗だが、いくつか検証したいことがあった。

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