よくあるチートで異世界最強

木嶋隆太

第一話 転生

 1


「おまえは死んだのじゃ」


 海斗の前には神と名乗る女の子が立っていた。
 自信にあふれた様子で腕を組んでいる。
 どことなく神秘的な見た目をしていて、可愛らしい。
 発言と、どこかぬけた様子の表情をまともにすれば、さぞかし人に好かれる。
 死んだ、という確かな記憶はあった。
 色々とやり残したことはあったが、海斗は首を振った。


「……それで、俺はどうなるんだ?」
「そう疑いの目を向けてくるな。このまま、死にたいとは思わないじゃろう?」
「……」


 即座に返答できなかった。
 生きるも死ぬも……正直どちらでも良いというのが海斗の感想だ。


「ふふーん、そこでじゃ。おまえ、わしのペットにならんか?」
「ペット?」
「そうじゃ。簡単にいえば、今神様の間で『メイキング』が流行っておるんじゃよ」
「『メイキング』? ……一から詳しく話してくれ」


 海斗は彼女が言った言葉を頭の中で反復する。
 『メイキング』。
 それは、神たちの遊びである。
 転生した人々の行動が小説となり、神たちはそれをみて楽しむ。


 選ばれた人間には、目に見えない妖精のようなものがくっついていく。
 その妖精が小説を書き……担当になった神が、神たちのネットワークに公開する。
 他の神たちがそれをみて、神が持っているポイントをその小説に振りこむ。
 この振り込まれたポイントが転生者の力となる。
 ポイントを使い、スキルを取得したり、種族としての進化を行えるようになる。


「……なるほどな」
「でじゃ、わしも自分の作品を持ちたいんじゃよ。おぬしの容姿とおぬしの性格をみて、わしは気に入ったんじゃよ」
「性格……?」
「そうじゃ。その雑な行動と、危険を好んで飛び込む性格。まさに物語の作り手として……何か面白いことを起こしてくれそうじゃろ?」
「そうか?」
「そうなんじゃよっ。とにかくじゃ、おぬしが望むのならば、わしはおぬしをペットにするんじゃよ。どうするんじゃ?」
「……そうだな」


 色々と整理したい気持ちもあった。
 特にマイナスもないようなので、首を縦に振る。


「まあ、わかったよ」
「おぉっ! やる気になったんじゃなっ。それじゃあ、詳しい説明は脳内に書き込んでおくんじゃよっ。頑張るんじゃよ!」
「その前に、あんた名前は?」
「わしか? わしは……神のアオイじゃっ。それでは、異世界にれっつごーじゃ!」
「まて……世界は選べないのか?」
「悪いが、世界は自分が作ったものしか無理なんじゃよ。わしが作った世界は一つしかないんじゃ……じゃから、勘弁じゃな」
「……わかったよ」


 そうして、海斗は異世界に放り出された。




 2




「働け、魔物どもが!」


 第一声がそれだ。
 何者かの声が届くと同時、海斗の尻に鞭がぶつかった。
 痛みと熱がじんわりと肌を襲う。
 突然の乱暴に苛立つが、状況を確認する余裕はあった。


 磨かれた鉄に海斗の姿が映る。
 それをみて、驚きに目と口を開く。
 恐らくは自分が映っているのだが、人間ではない。
 ゴブリンだ。
 人間時代の顔がけっして良いというわけではなかったが、さすがに潰れた顔であるゴブリンよりは何倍もマシだ。
 色々と言いたいことがあったが、荷物を運ぶことにする。


(ああ、すまんすまん。……伝えるのを忘れておったがな、元の人間になるのはまず不可能じゃ)
(なぜかというとじゃな。人間の体のままでは、転移が難しいのじゃ!)
(詳しい話をするのは面倒なんでパスじゃ! あまり深く干渉もできないんじゃ! わしと会話出来るのは一日一回じゃ! 毎日午後の九時くらいに仕事が終わるから、それ以降に念じれば返事をするんじゃよ! というわけでじゃ、生活を楽しみながら、スキルを獲得して、執筆を頑張るのじゃぞ!)


 一方的にアオイの言葉が流れていった。
 視線を周囲にやる。
 自分のような魔物が、荷物を運ばされている。
 巨大な施設の中で、みながそれぞれの仕事をしている。
 工場か、それに準ずるものだ。


「あんた……ちょっといいか?」


 近くにいたゴブリンに声をかける。


「ゴブ? ゴブブブ! ゴブブ!」


 まるで話が出来る様子ではない。
 諦めて、荷物を指定の場所に運ぶ。
 状況はうっすらと把握した。
 荷物を男に渡す。
 それからしばらく彼を睨みつける。


「おい! 貴様! さっさと働け!」


 それでもまだ男を睨んでいると、男は警戒した様子で水晶をとりだす。


「な、なんだ!? この魔物っ、言うことを聞け!」


 男の水晶によって、周囲にいたゴブリンたちはきびきびと動きだす。
 魔物たちを操る力があるようだ。
 海斗はじっと睨みつけ、男に近づいていく。


「ま、まさか……き、聞かないのか!?」
「これでも、心は人間だからな」


 ゴブリンの腕力によって男を殴りつける。
 男の体が弾かれ、水晶が砕け散る。
 海斗は満足に動く体を理解しながら、これからどうするかを考える。
 これで、解放ではない。
 すぐに慌しく人がやってくる。また、水晶玉を持っている。


「何事だ!」


 別の騎士が飛び掛ってきて、戦いが始まる。
 結局、体は押さえつけられてしまう。


「……俺を解放しろ」
「こ、こいつ……魔物のくせに人間の言葉を使いやがるぞ」
「気味が悪いな……とりあえず牢屋にぶちこんでおけ。明日の朝に見せしめで殺してやろうぜ」
「それがいいな」


 引きずられるようにして連れて行かれる。
 騎士たちにボコボコにされた体が痛む。
 ゴブリンの身体は小さいわりには力が出る。が、生前のほうが明らかに動けた。
 工場から運び出され、街の中を歩いていく。
 町の人々の蔑んだ目にさらされる。


「やだ汚いゴブリンだわ」
「また、工場で問題でも起こしたのかしらね」
「ただのいやしい生物なんだから、人間に大人しく従っていればいいのにね」


 そんな視線は、道をぬけたところでなくなった。
 騎士たちが多くいる大きな建物。
 その地下へ続く階段を下りていく。
 暗い場所を想像していた海斗だが、魔石の明かりが多くあり、歩行に問題はない。


 やがて、いくつもの鉄格子が並んでいる地下へと到着する。
 雑に管理されたそこには、海斗以外の罪人もいる。
 みな、足や腕に鎖がつけられ、壁にくくりつけられている。


「オープンっ」


 海斗をつれてきていた騎士がいうと、鉄格子の鍵が解除される。


「おいおい、鍵はどうしたんだよ」
「へっ、別にいいだろ。面倒くせぇんだ」
「まあいいか。それにしても、鍵開けのスキルはいいな」


 牢屋へと、海斗は放り投げられる。
 うまく着地したために痛みはない。


「手錠はどうするんだ?」
「明日には殺すんだ。別にいいだろ?」
「ちげーねぇな!」


 鉄格子が再び閉じられる。海斗は鉄格子にタックルをぶつける。
 しかし、騎士たちの嘲笑しか成果は得られない。


「そこで大人しくしていろよ、クソゴブリンがっ」
「けっ、最低の最弱の魔物クセに調子に乗るんじゃねぇぞ、ゴブリン風情がっ!」


 騎士たちが去っていく中、海斗は顎に手を当てた。




 3






(早速面白いことになっておるのうー!)


 一度目の会話。
 現在時刻は午後の九時だ。
 念じれば、なんとなく時間はわかる。
 アオイに与えられた力の一つだ。


(それで、スキルとかはどうすればいんだ? 今の俺はいくつポイントを持っているんだ?)
(アレ? それ伝えてなかったかの? 念じればいいんじゃよ、そうすれば……おぬしのステータスが出てくるはずじゃ)


 ステータス、と念じるとゲームのような画面が出現する。


(これ、他人には見られていないのか?)
(もちろんじゃ。まあ、かなりの力を持つ相手には見られるが、まあ、滅多にいないんじゃ。たぶん大丈夫じゃよ! それで……ポイントは右上じゃな。おぬしの今のポイントはお、増えておるんじゃ。7ポイントじゃよ)
(最初は5か?)
(そうじゃっ。それで、スキルの獲得方法は簡単じゃっ。わしはあまり詳しくは教えられないから、スキルについては自分で選ぶんじゃよ)
(了解)


 スキルを見ていく。
 まだ、スキルは少ない。
 格闘術Lv1、魔物操作、鍵開け、鑑定、進化の五つだ。
 スキルの仕組みについても、海斗はまだまだ理解していないことばかりだ。
 レベルのあるもの、ないものがある程度の知識だ。
 回線はまだ繋がっているため、アオイの笑いがたびたび聞こえてくる。


(見ているのはいいが、静かにしろ)
(なんじゃなんじゃ。良いではないかっ。お、スキルが増えておるんじゃな)
(増えている?)
(そうじゃよ。格闘術、鍵開けは最初からはないんじゃよ。ま、効果は自分で考えるんじゃな。わしが説明できるのは、鑑定と進化の二つだけじゃ)
(じゃあ、その二つは頼む)


 調子の良い笑い声が響く。


(本来、転生する人間は一つだけスキルを渡されて旅立つんじゃ。その一つが鑑定じゃな。鑑定の効果は、さまざまな物を分析する力じゃ、人、物……なんでもじゃな。で、進化は魔物には絶対に必要なものじゃ)
(魔物としてのレベルがあがる、というところか?)
(そうじゃな。進化に必要なポイントは基本的に多いんじゃ、もしも人間になりたいのならば、それでポイントを稼いでいくしかないじゃろうなー。進化じゃと、50使うことになるから、気をつけるんじゃぞ)


 50というのは大きな壁だ。
 海斗はしばらく悩んだ末に、鍵開けのスキルを獲得する。ついでに、鑑定も取得する。
 ボーナスならば、タダでくれればいいのにと恨みをぶつける
 二つの獲得に必要なポイントは4。
 ためしに隣にいた罪人を鑑定する。


 サトウ Lv3 盗人


 と、表示される。


「あんた、少しいいか?」


 声をかけると、サトウはやる気のない顔をあげる。
 ひげがはえ、だらしのない格好。牢屋の中なのだから、おしゃれなほうがおかしい。


「ご、ゴブリンが喋りやがったぁー!」
「うるさい、黙れ。あんたはここから逃げる手段はあるか?」
「……ね、ねぇよ」
「なら、鍵開けの魔法でどうにか出来ると思うか? さっきの、騎士が使っていたものだ」
「あの魔法か? まあ、それさえあればどうにでもなるだろうな。だけど、あれ、A級のレア魔法だぜ? どうやっても無理無理。おまえ、明日には殺されるだろうな、けけっ」
「せっかく助けてやろうと思ったのに、うざいなおまえ」
「え、助ける!? 何が出来るんだよ、おまえに!」


 笑ってきたサトウは、無視することにした。
 早速、習得したばかりの鍵開けを使用する。
 途端サトウが鉄格子を掴んできて、激しく揺らす。
 鉄が引っ張られるような音が響き、うるさい。


「た、助けてくれ!」
「……土下座しろ、そして床を舐めろ」
「わ、わかりました!」


 海斗が言うと、サトウ以外の罪人たちも同じように行動する。
 満足して、全員の鍵を解除する。


「……へへ、兄貴どうするんですかね?」


 サトウが舌なめずりをしていると、階段のほうから誰かが駆けてくる。


「騒がしいぞ罪人共が!」


 騎士が苛立った様子で叫び、そして目を見開く。
 しかし、仲間を呼びに戻る余裕はない。
 近くにいた男が騎士を殴って気絶させる。
 騎士が握っていた剣を掴み、楽しげに振り回す。


「後はおまえたちの好きにするがいい」


 海斗が言うと、罪人たちは下種な笑みを浮かべ階段を登っていく。
 この隙をつかい、海斗は逃げるだけだ。

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