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召喚先は魔王様の目の前だった

木嶋隆太

第二十話 変化



 ボコボコにされた後、傷を治してもらってドラちゃんの元に向かう。


「おう、今日もドラちゃんか?」
「ま、そんなところかなぁ」
「その前に、ドラゴンたち全体を見ていってくれねぇか? 何体か、元気のない奴がいるんだよ」
「わかった」


 その何体かのもとに行くと、新しい餌がまずい、とか、最近あんまり運動していない、とか、とある調教師の体臭がきつい、とか言われてしまった。
 ……それをそのまま伝えたが、果たして体臭の人は明日も元気に来れるのだろうか。
 ドラちゃんは今日ものんびりと大きな口をあけている。
 可愛らしいあくびであるが、人の体に穴を開けそうな鋭い牙が光り、体がぶるっと震える。


「ドラちゃん、よ」
『……ふん』


 つーんとドラちゃんはそっぽを向いた。
 ……へ?


「どうしたんだ? 体調悪いのか?」
『貴様は主に何日会いに来ていない?』
「二日、くらいか?」
『そうだっ。眷属としての自覚が足りない! どういうことだ!』


 ドラちゃんが唾をばらまかんばかりに吠える。
 ブレスでも飛んでくるのかと思ったが、体が汚れるだけですんでよかった。


「いやあ……最近忙しくてさ。そんなに怒るなっての、悪かったって」
『ふん……。悪いと思うのならば、これから飛ぶぞ』
「わかったよ……。調教師さんっ、ドラちゃんが飛びたいみたいなんで、良いか?」
「了解だ!」


 いつも通りドラちゃんの背中に乗せてもらい、俺は大空へと飛びこむ。
 強い風が吹くが、ドラちゃんが魔法でそれなりに防御してくれてくれるため、呼吸は問題なくできる。


『やはり、空を飛ぶのは楽しいものだな』
「だなー。夕陽が綺麗だ」
『我の元に来なかったのは何だ。我がつまらないからか』
「楽しいって。色々あったんだよ。前にも言っただろ? エルフのことで少し困っててさ」
『ふむ。聞いてやらないこともないが』
「とりあえず、一段落ついたから、大丈夫だ」
『……そうか』


 また落ち込んでしまったよ。
 な、何か話すことはないだろうか。
 そうだ。職業についてでも聞くか。


「ドラちゃんは、職業がドラゴンだったんだろ?」
『ああ』
「ドラゴン以外で生きたいって思ったことはないのか?」
『ふむ……そうだな。人間として生きたい、とかは考えたことはなかったな。ドラゴンのままで楽しい毎日だ』


 ……本当に楽しいの? 一時期滅茶苦茶怯えていたんじゃなかったっけ。


「魔物たちの職業って、やっぱり自分の種族のものなのか?」
『いや、そんなことはなかったはずだ。例えばゴブリンが戦士の職業を持っている場合もある。レアモンスター、と魔族は呼んでいたな』
「ほーん。そういうこともあるのか」
『おまえは……ものまねだったか? その職業とやらも、いずれはスキルが見つかるかもしれないな』
「スキルもものまねなんだよ」
『……ふむ。何かをまねすれば良いのではないか? 例えば、相手のスキルを何度も練習するとか……それで習得できるのならば最強のスキルだがな』


 何度も、か。
 使い方がよく分からなかったから、そっちに時間をかけたことはなかったが、出来るのならばやる価値は十分あるよな。
 けど、まだ剣も完璧に扱えるわけじゃないし、余計なことをするとまた調子を崩す可能性もある。
 難しいところだ。


 ドラちゃんとともに地上へと戻ってきたところで、バルナリアがやってくる。
 もう帰る時間のようだ。バルナリアとともに暗くなり始めた道を歩いていく。
 魔石の街灯を頼りに歩いていると、バルナリアがこちらを見た。


「一応報告をしておきますと、我らの部隊の一つが人間とぶつかりました」
「……何? それで、どうだったんだ?」
「我々の部隊は、謎の女性によって壊滅寸前になりました。その女性は異常な力を持っていたそうです。……黒髪黒目の、少女、と戻ってきた一人の騎士が言っていました」
「勇者……俺の友達かもしれないっ! どこでだ!?」
「詳しい場所などは、地図を見ながら話したほうが分かりやすいので、屋敷に戻ってからにします。とりあえず、魔王様からの伝言として、勇者が出てきた場合、あなたにも戦ってもらう可能性があるということです」
「……ああ、わかってるよ。俺じゃないと殺しちゃうだろ?」
「そうですね。けれど、もしもどうにもならないようでしたら、殺すことも視野に入れています。我々としては、あなたが簡単に無力化してくれるのならば、あなたに任せます。もしも、戦闘が必要ならば、我々が介入し、殺すという手段になるということを伝えておきます」


 ……。それには、気軽には返事ができなかった。
 俺の反応はわかっていたようで、バルナリアは何も言わない。
 そもそも、魔族たちが俺を生かしているのは、そのためだよな。
 俺に利用価値がないとわかれば、俺の身だって危険か。
 屋敷に到着したところで、食事をしていく。


「……あれ? テーレとメイド長はどうしたんだ?」


 いつも一緒に食べているわけではないが、メイドたちの食堂に二人だけがいなかったので、気になった。


「二人とも今庭で仕事をしているはずだけど? 何……二人が気になるの? どっちかにしなさいよ」
「何の話だよ……」


 なんとなくは分かるけど、二人に失礼だろ。
 二人ともがいなくて心配だったが、庭なら大丈夫だろう。
 というか、最近良く話していたからって、そのように疑うのは良くない。
 メイドたちがじっとこちらを見てきたが、俺は知らないふりをして食事をかきこむ。


 バルナリアの話が早く聞きたい。すたすたと書斎まで行き、ノックをする。
 返事を受けてから中に入り、バルナリアの近くに向かう。
 豪華な机には大きな地図がある。
 この世界には目立つ大陸が四つほどあるようだ。そのうち二つが魔族のもので、二つが人間のものだ。
 小さな大陸もあるようだが、それらは明確に誰のものだとは決まっていないようだ。
 そのうちの一つ。縦長の大陸を示し、バルナリアが説明を始める。


「最近、人間たちの無謀な攻撃によって攻め込まれてしまいましたが、今はまだ大陸の端に押さえ込んでいる状態です。この場所に、勇者と思われる者が現れ、圧倒的な力でこちらを退けました」
「……結構距離があるな」
「そうですね。問題は、襲われたのが今朝で、知らせが来たのが昼過ぎということです。敵がどこまで侵攻しているのか……予想としてはこの森ですね」


 指差した場所には、森があるようだ。


「さすがに夜になれば、この森に入ることもないと思います。そのため、この地点で野営をしているのではないか、というのが我々の予想です」
「……それで?」
「現在、部隊を編成し迎え撃つために準備をしています。私もそこに加わり一つの部隊を指揮するつもりです。そこにあなたも同行し、もしも勇者を止められるのならばとめる、という算段です」
「わかったけど……これからか?」
「はい。あなたはそもそも、必要な準備などさしてないでしょう?」
「……そりゃあ、そうだけどさ。戦争なんて一度も見たこともないんだよ。足がほれ、震えているだろ?」
「自慢げに言うものではないと思いますが。私は先に城に向かいます。あなたも用意ができたら、来てください」
「って、今回は俺一人で良いのか?」
「友人、でしたか? それを殺しても良いというのであれば。まあ、所詮人間なんてその程度でしょう? 別に、見栄を張って助けたいとか言わなくても良いですから」


 挑発するように言い残して、バルナリアはさっさと言ってしまった。
 ……俺もすぐに向かってやろうかと思ったけど、その前にテーレとメイド長の姿を一応確認しておきたい。
 そろそろメイドたちのところにいるだろうと思って向かう。


「あれ? まだ来てないのか?」
「さすがに遅いから、じゃんけんで負けたのが今見に行っているよ?」


 残っていたメイドがのん気にいうと同時、部屋の扉がばんと開けられる。


「こ、これ!」


 メイドが手に何かを持っていた。
 ……俺は急いで駆け寄りその手の紙を掴んだ。
 汚い字で読めなかった。


「……なんて書いてある?」
「『連れて行かれた』だそうよ。……どういう意味なの?」


 その意味がすぐにわかった俺は、駆け出そうとしたが足をメイドに引っ掛けられる。


「……何か事情知ってるのかもしれないけど、連れて行かれたって……場所わかるの?」
「どっかの森か……近くの店だ」


 エルフたちの住処は人がいない、森の中と言っていた。
 もう夜だし、遠くまでの移動は考えられない。遅くても明日の朝までは、敵も長距離は移動しないはずだ。
 ……早くしなければ、テーレたちが手の届かない遠い場所へと連れて行かれる可能性もある。
 その前に、近くの店に待機している可能性もある。
 ……何にせよ。早くしなければ羽をもがれる痛みを味わうことになるだろう。それは絶対に阻止したい。


「それで……何が起こっているの?」
「……短くいうと、テーレがエルフってことを知っている男がいて、ずっと狙っていたんだよ。まさか、屋敷にまで攻め込んでくるとは思っていなかったから、油断していたけど」
「……その相手、相当よ? この屋敷、貴族街の中でももっとも奥にあるのよ? 一応、貴族街は常に騎士が見張りでいるし……見つからずにここまで潜入して、魔族二人も連れて行くなんて……普通は無理な話よ?」
「かなりの実力者か、貴族とかなのかもしれないな」


 ……敵が用心棒を雇っていたとしても、おかしくはないか。


「……とりあえず、俺はこのまま城に向かってバルナリアに相談する」


 走っていけば、たぶんまだ追いつけるだろう。
 こくりと頷いたメイドは、


「私も騎士に相談してみるわ。……あんまり意味ないかもしれないから、あてにはしないで」
「いや、それだけで十分だ。あと、おまえたちも危険かもしれないから、とにかく屋敷から出ないこと! 怪我したら俺が悲しむからな!」
「あんたに悲しまれてもべっつにー」


 そっぽを向いてメイドたちが言う。
 ……メイドたちも結構不安だと思ったけど、なんだ、俺より全然落ち着いているじゃないか。
 出来る限りの笑顔を浮かべる。
 ……はっきりいって、ただの虚勢だ。それでも、メイドたちよりかはたぶん強い俺が、不安がっている場合じゃない。男だし!


 屋敷を飛び出して駆けると、城に入る前にバルナリアの姿を見つける。腕を掴むと、気づけば俺は宙をまって地面に倒されていた。


「……変質者かと思いましたが、正解でしたね」
「ちげぇだろ! バルナリア、大変だ! テーレとメイド長が誘拐された!」
「……思っていたよりも早くきたと思ったら、そんなことですか」
「そんなことって……おまえ、本気で言っているのかよ!」


 胸倉で掴みあげてやろうと思ったが、体を押さえ込まれているのでそれどころではない。
 情けないが、いもむしのようなままで叫ぶ。


「……ええ。彼女らは、屋敷に迷惑をかけましたか? 特に被害がないなら、別にどうでも良いですよ」
「……本気で言っているなら、一発殴ってやる! 体、離せ!」
「代わりなんて誰でも良いじゃないですか。そんな他人の……それも特に価値もない人を、助けるだけ時間の無駄ですよ」
「あんたにとってはそうかもしれないが、俺にとってはもう仲良くなった友達だ。どうにかできるかもしれないってのに、見捨てるつもりはねぇよ!」


 暴れようとしたところで、バルナリアの顔が予想以上に苛立っているのに気づいた。
 ぎりぎりと歯噛みした彼女は、やがて普段は出さないような大声をあげる。


「……他人なんて! どうでもいいでしょう! そんな奴らに構っているから、そんな人たちを庇っていなければ……逃げ延びられたはずなんですから」


 何かを思い出すように、バルナリアは視線をさげ、それから俺の拘束を解いた。
 立ち上がったところで、俺はバルナリアを見据える。


「……まさか、あんたの父親のことか?」
「……誰に聞いたんですか?」
「そ、それは……秘匿事項っす」
「誰でも……いいですが。そうですよ。私の父は、魔族たちを逃がすために、死にました。どうでも良い他の魔族なんか助けて……自分は娘と母を残して先に死んだんですよ? みんな口をそろえて、言いますよ。立派な魔族だったって。家族を守れていないのに、立派な魔族ですか?」


 ……恐らくは、色々なことがあったのだろう。
 無事だった母は……どうなったのか。守れなかったということから、母も悲惨な死を遂げてしまったのかもしれない。
 そして、バルナリアはこうして悲しんでいる。確かに何も守れていない。
 父親としては、失格だったってことだろうけど、だからって魔族としてまでダメだってことはないだろう。
 だが今は、そんな表現の違いを指摘する場合ではない。


「俺はテーレたちを助けに行く」
「なら、友人は見捨てるということですね? 散々言っていたわりに、情けない友情ですね」
「あいつらも助ける」
「……何を言っているのですか? エルフと友達両方ともを? 出来もしないことを言うのが……一番苛立つのでやめてくれませんか? 時間的に無理でしょう?」


 普段は冷静な彼女がここまで怒りを見せているのは珍しい。おかげで、俺のほうが冷静に思考できていた。


「救うっての。無理だと思うなら、俺に時間とドラちゃんを貸してくれ」


 ドラちゃんさえいれば、もしかしたら……二つを同時に行うことができるかもしれないのだ。







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