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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

妹視点 第二十六話



 剣を肩にのせて、彼は軽く首を鳴らしながら現れた。


「……まさか」


 啓がそうつぶやき、あたしはすっとこちらへ顔を向けてきた兄貴に腕を組む。


「兄貴、遅いよ!」
「……まあ、感謝はするけどな。おまえ、なんでここにいるの?」
「とにかく! 兄貴! あたしはまだやることがあるの!」
「そうですわ、勇人。あなた、さっさと世界を救うために力を貸しますのよ」
「……ちょっと待てなんで必死に探し回った大精霊がここにいるんだ? おい、こら」
「……」


 クワリがそっぽを向いて口笛でも吹きそうな勢いだ。
 じろっとした兄貴の視線から、あたしもそらす。あんまり追及されると、こっそり色々していたことがばれてしまう。
 だから、今は強引に進めてしまうしかない。


「とにかくっ! あたしの友達が捕まっちゃってて、あたしたちでどうにかするしかないの! だから、世界の半分は任せたよ!」
「……はぁ、世界の半分ねぇ。事情はさっぱりだが、もう半分はおまえに頼っていいのか?」
「ばーんと、頼っていいよ!」


 胸を張って、ばんと叩く。
 と、啓の体がこちらへと突っ込んでくる。


「半分の力のオレに苦戦したおまえに、オレが倒せると思っているのか!?」


 啓の槍を兄貴は剣で受け止める。彼の赤い鎧に似たものを、彼もまたまとう。
 それは、啓ほど明るいものではない。けれど力強さにあふれたものだ。


「俺だって、てめぇが兄貴だっていうから加減してたんだよ。……もう、手加減はしないからな?」


 そういった瞬間、兄貴の体もオーラのようなものがまとわれた。
 啓と兄貴の打ち合いは、どちらも一歩もひかない。
 今のうちに……あたしはゴブッチとともに城へと走り出す。
 城の中に入ると、鎧をきた何かがこちらへと迫る。
 ……魔物、のようだ。アナライズで判明するが、その数はすさまじい。


「……これは、侵入者を阻む警備魔物ですわね」
「どうにかできないの!?」
「倒せば可能ですわ。けど、こいつらは魔力を吸って何度も再生しますの。……簡単にいえば、魔法で破壊したところでその魔力でまた回復してしまいますわ」


 みたらわかるよ……。
 あたしの魔法では、どうしても倒すことができない。相性が悪すぎるよ。
 敵の数の暴力に少しずつ押されていく。
 ……早く咲葉を助け出して、兄貴の援護もしないといけないのに。


「沙耶の姉貴……あっしに魔力を貸してくれないっすか?」
「何か作戦があるの?」
「時間、稼ぎくらいならできるっすよ」
「クワリ、どうやって魔力を渡すの?」
「契約をしていますのだから、こちらから魔力を流すことはできますわよ。ただ……多すぎる魔力はゴブッチの体では受け止められないですわ。魔力のような体をしているゴブッチが、その体を維持できなくなる可能性もありますわ」
「……それって、死んじゃうってこと?」
「そうですわね。性格には、今のゴブッチが死んでしまうということですわ。新たな記憶を持ったゴブッチを、召喚することはできますの」
「あっしは死なないっすよ。それに、今この敵を止められるのはあっしだけっす」
「……ゴブッチ」
「だから、魔力を貸してくださいっす。あっ、返せるアテはないっすけどね?」


 ……わかった。ゴブッチにあたしは魔力を渡す。
 ゴブッチは軽い笑みを浮かべてすぐに、魔法の準備を始める。


「お返しはいらないよっ。だから、絶対に死なないでね!」
「任せるっすよっ……分身!」


 ゴブッチの体から影が生まれ、それがわんさかあふれ出す。
 あたしの体内からどんどん魔力を吸い取っていくけど、あたしにとってはそれほどの問題はない。
 大量の影が現れ、鎧の魔物とぶつかっていく。
 まるで戦争のようだ。ゴブッチが顔をしかめながら、顎をしゃくる。
 連続で襲いかかる魔物たち相手に、ゴブッチは互角の戦いを繰り広げる。
 一対一では、厳しい状況でも、ゴブッチは複数をぶつけてどうにか魔物を足止めする。
 通路を抜け、襲いかかる魔物たちを、あたしがヒートバレットで弾き、再生したのをゴブッチが止めていく。


 その圧倒的な数は……戦争のようであった。お互いにぶつかり合っていく中で、あたしを守るようにゴブッチが並走する。
 呼吸が乱れている。けど、ゴブッチに頼るしかない。
 目の前をまた魔物がふさぐ。


「あっちですわ!」


 クワリが叫んだ先の扉――。魔物が邪魔でその先にいけない。
 その瞬間だった。呼吸を乱しながらゴブッチが突進する。


「姉貴! 先に行くっす!」


 ……わかってる。ここで先にいかないといけない。ゴブッチにこくりと頷いて、その脇を抜けて扉を蹴り開ける。
 長い廊下が続いているが、魔物の姿はない。
 その先――。
 わずかな光がさしこんだ場所は……宇宙にでもいるような気分だった。
 プラネタリウムが一番近いかもしれない。
 ただ、星の代わりに中央に大きな青い石があった。その中には、咲葉の姿がある。


「咲葉!」


 あたしの声に反応するように、空間が歪み。そこから現れたのは巨大な赤い体だ。
 巨大なその体は鎧に包まれている。右手には巨大な一振りの剣だ。
 目のあたりに光が流れる。青い光があたしをとらえると、その剣が振り上げられた。


 大剣士と表示された文字にあたしの体がぶるりと震える。


「……こいつを倒さないと咲葉は助けられないってわけ?」


 上等だ。
 あたしは魔法の準備を始める。
 先手必勝だ。大剣士が動き出すまえにさっさと倒してやる。


 放った一撃はヒートバレットだ。弱点などは特に表示されていなかったから、たぶん聞くはずだ。
 と、大剣士の体を赤い光がまとった。途端、あたしのヒートバレットはそれに飲み込まれてしまう。


 な、なにあれ!?
 あたしが驚いていると、すぐに大剣士が動き出す。
 大剣士が剣を振り下ろしてきて、それを横にとんでかわす。
 転がりながらヒートバレットをさらにいくつか展開する。即座に用意した魔法では、相手に脅威を与えることはできない。


 それを受けた大剣士は一瞬だけ足を後ろに下げたが、ダメージはない。
 連続で落とされる剣は、あたしを咲葉のようにいかせないように動いていた。


「クワリ! さっきの魔法吸収みたいなのは何かな!?」
「……わかりませんわ。ただ、連続で使ってはいないみたいですわね」
「試して、みるよ!」


 これは賭けだ。今あたしがストックしておいた魔法はヒートバレットとサークルフレイムの二つだけだ。
 これを使えば、どこかで隙を作って自分で魔法を作る必要がある。
 強力なこの魔法二つをいなせるかどうか……っ!


 ヒートバレットを大剣士へと放つ。そうしながら、いつでもサークルフレイムを放てるように準備をする。
 大剣士と視線がぶつかる。大剣士はあたしのヒートバレットに剣を当てる。
 その巨大な剣とぶつかりあって、大剣士の体を突き飛ばす。


 大剣士がふらついた。再使用までに時間が必要なのだろうか。とにかく、今しかない!
 サークルフレイムを即座に展開する。しかし、その瞬間大剣士の体がまた光った。
 あたしのサークルフレイムが吸収された。
 そうして、大剣士は落ちていた剣を拾って突っ込んでくる。


 重圧とともに迫ってきた一撃に、あたしは魔法を展開し、後退しながらなんとかヒートバレットを放つ。
 周囲にいくつもヒートバレットを展開し、大剣士に当てる。


 リトライアローを放ち、大剣士に当たるが何の影響もない。
 打つ手がない。
 大剣士の放った攻撃を、魔力を固めてどうにか防御する。


 ……いった。全身の骨が折れたかと思ったけど、何とか防げたようだ。


「沙耶っ! 大丈夫ですの!」


 クワリが遅れてあたしのもとに飛んでくる。
 くー、今のは効いた。
 けど……どうしようか。あの大剣士の魔法を防御する手段をどうにか調べないと、突破できない。


 ……いや、一つだけあるかもしれない。
 リトライアローは魔法にも影響する。あの吸収の魔法にうまくタイミングを合わせればいいんだ。
 最強の魔法を放つために、まずは準備をしなければならない。
 大剣士が足場を蹴って加速する。
 あたしは、大した威力のない魔法を大量に展開して、大剣士に放つ。
 大剣士は攻撃を捌いていく。魔法をものともしない巨躯で、あたしを潰そうとする。
 衝撃に重点を置いたヒートバレットを放つ。即座に爆発させ、その爆風を使ってあたしは横に逃れる。


 魔法は完成した。あとは、大剣士の隙をつくだけだ。
 あたしは咲葉へと走り出す。大剣士が急いだ様子で追いかけてくる。
 これで、状況は作り出した。
 あたしは振り返り、ありったけの魔力を込めたヒートバレットを放つ。


「これで……終わりにしてやる!」


 叫びながらヒートバレットを放つ。その後をリトライアローが追う。
 大剣士は不利な態勢だ。その状況からなら、さっきの吸収魔法を放つしかないはずだよね。
 予想通り、大剣士は赤い光をまとった。その光に魔法が当たるより先に、あたしはリトライアローをヒートバレットに直撃させる。


 大剣士の目の前で魔法が消滅する。消滅、ではない。維持できなくなって、姿が見えなくなった。
 まだそこに、魔法自体は残っている。


 大剣士の魔法吸収が終わる。あたしの魔法が不発に終わったことを理解した大剣士が動き出す。
 不発じゃないよ。あたしはそこに残る魔法に干渉する。
 崩壊した魔法への干渉――冷歌さんがやっているのをみて、なんとなく理解はできた。


「リロード、ヒートバレット!」


 魔法をもう一度構築する。用意した魔法は、あたしのどれだけの魔力も受け止めてくれる。
 大剣士の背後から、ヒートバレットが放たれる。その体を貫き、全身を燃やす。
 それから数秒が立つと、大剣士が火の中で膝をついた。淡い光とともに、その体が消滅していく。


 勝った……勝ったよ!
 って余韻にひたっている場合ではない!


「咲葉! クワリ、どうにかできる?」


 急いで咲葉のほうへと駆け寄る。石に覆われてしまっていて、どうしようもない。


「魔法でぶっ壊せるかな?」
「沙耶の魔法ですと、咲葉もろとも……ですわね。わたくしに任せてください。……ここはわたくしの部屋、ですもの。どうにかしてみますわ」


 彼女片手を石にあてて目を閉じる。力がいくつも感じられる。周囲に力があふれ、あたしはそれからクワリを見た。


「クワリ、これからどうするの?」
「世界の再生を始めますわ……少しだけ、魔力を貸してくれませんこと?」
「……わかったよ」


 クワリに魔力を渡すと、彼女はそれを使ってその姿を変える。
 ……一人の美しい女性がそこにはいた。
 小さかった頃の姿をそのまま大きくしたような、そんな姿。
 これでクワリは大精霊、に戻ったのだろう。


 なんだか少しだけ寂しい気持ちもあった。
 彼女が石に触れるとすぐに砕けて、中にいた咲葉の体が落ちる。
 石の中にいた咲葉はまだ暖かい。呼吸もしている。……よかった、問題ないよ。


 あたしが咲葉を受け止めると、クワリは軽い笑みを浮かべてさらに言葉を紡いでいく。
 ……もう、あたしにできることはこのくらいかな。



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