オール1から始まる勇者
妹視点 第二十四話
「……とりあえず、一度家に戻りますわよ。もしかしたら、勇人が戻っているかもしれませんわ」
「そう、だね……」
クワリの言葉がどこか遠くで聞こえた気がした。
もっと、何かあの場面でできることがあったんじゃないか?
……咲葉。
このまま、こんなお別れなんて、嫌だよ……。
……けど、だめだ。
うん、だめなんだっ! おちこんでてもダメだ!
兄貴はいつだって、どんな状況でも弱音はそんなに吐かなかった。そんなにだ、愚痴はかなり漏らしてたけど。
クワリがあたしの部屋へと空間をつなげる。あいつがいるかもしれないけど、よかった誰もいない。
とにかく、まずは状況の確認だ。
「ねぇ、クワリ。あいつが言っていたことは本当なの?」
「……そう、ですわね」
「この世界は崩壊する未来が決まっているって……どういうことなの?」
その崩壊を止めるために、あたしたちは第二十階層を目指していたはずなんだ。
その未来へとつなぐために、大精霊はいる、とあの男は言っていた。
それが本当なら、あたしたちはクワリに騙されていたってことだ。
「……わたくしたち大精霊は、世界の管理をしていますの。その役目は、決まった未来に世界を誘導すること、ですわ。……そして世界自体はある期間で消滅しますわ」
「……消滅?」
「世界はいずれ、自発的に消滅しますの。……その先の未来は、何が起こるかわからない世界となりますわ。だから、そうなった場合、わたくしたち大精霊は世界を放棄することになっていますの」
「……放棄して、それで? そこにいる人たちはどうなっちゃうの?」
「世界がなくなり、すべてが終わりますわ。わたくしたち大精霊は新たな世界を作り、未来を管理しますの。また、来るべき終わりの日まで、世界の管理者と、なりますの」
「それって……それじゃあ、やっぱり、あの男が言っていたようにこの世界はなくなって、みんな死んじゃうの?」
「それが、本来の世界、ですわ」
……だったら、どうしようもないってこと、なの?
あたしがクワリをじっと見ていると、彼女はあたしのほうへと飛んでくる。
「それが、本来の世界、ですけれど、不完全な世界を完全なものにする手段も、ないことはありませんわ」
「……どういうこと?」
「大精霊の命を使うこと、ですわ。そのあとに管理する大精霊がいなければ、結局壊れてしまいますけれど……けれど、管理する大精霊がいれば……それを大精霊に近しい存在である精霊の騎士に任せようと思っていましたの」
「精霊の騎士……」
「わたくしが指名した、この世界でもっとも大精霊に近い存在ですわ……。あなたや、咲葉、それに……勇人、ですわね」
どうして兄貴が、というあたしの疑問に、彼女はにこっと微笑む。
「わたくしは、あなたのお兄さんに頼もうと思っていましたの」
「なんで、兄貴が?」
「あなたのお兄さんは、過去に別の世界の崩壊を止めましたわ。世界が生み出した怪物を、その力で仕留めて見せましたの」
そんなこと、いつの間にしていたんだろう。
……だから、兄貴はダンジョンとかが危険だって止めていたんだろうか。
けど、きっとあたしがこっそり入ると思って、肉体強化のためにダンジョンの食材をくれたのかもしれない。
「ですが、わたくし、まさか記憶がなくなるとは思っていませんでしたの。あの男の襲撃の最中に力を隠すために分けましたら、こんなことに……」
ちょっとだけ、恥ずかしそうに彼女は舌をだす。
なんだ、つまりあたしたちはただの勘違いだったわけか。
大精霊はあの男に力を気づかれないようにこのダンジョンに封印してたんだ。
「だけど、勘違いでもあなたたちは天才でしたわ。またたくまに力をつけて、こうして導いてくれましたわ」
「うん……」
「だから、あなたと咲葉にも、わたくしは力を貸しましたの」
「あたしたちの魔力が精霊のようなものに変化してるってこと?」
「そうですわ。嬉しいことでもありますが、それを敵も利用できてしまうのが問題ですわね」
「それじゃあ、咲葉は……」
「生け捕りにされているはずですわ。精霊の力は殺して奪ったところで大したものにはなりませんの。だから、生け捕りにして、世界の管理に使うはずですわ」
「じゃあ、咲葉を取り戻せばいいんだね!」
生きているなら、いくらだってやれる。
あの男をどうにかして、あたしが咲葉を取り戻す。そうして、世界だって救ってやる。
「世界の未来っていうのは、大精霊が決めているんじゃないんだよね?」
「そうですわ。わたくしたちが未来を決めているのではなく、世界が未来を決めていますの。……新しい世界ができれば、その世界の終わりまでの未来は、すべて世界が構築してしまいますわ。わたくしたちは、あくまでそれを導くための存在ですの。……世界の終わりは何度かありますの。それを、大精霊はどうにかして抑えていますのよ」
「あいつが大精霊を恨んで、大精霊を消して世界の管理者になろうとしているって間違っているんだよね?」
だったら、必ずしも倒すだけじゃない。
戦うだけが解決ではない。
「そういう、ことですわ。世界を作ったら、勝手に崩壊までの未来ができてしまいますの。ですから、彼の本当の敵はわたくしたち大精霊ではありませんの」
「……そう、だよね」
やっぱり、間違っているんだ。
けれど、彼は世界の未来を定められたくなくて、妹が何も不自由のない世界を作りたがっている。
きっと、それはできない。……この世界だって、まだ崩壊するのが決まったわけじゃない。
だから、止めないと。あたしは、この地球が大好きなんだ。
「この世界の終わりは、どういう結末なの?」
「ある人間によって破壊される未来になっていますわ。あの者はそうして破壊した世界の先で、新たな世界を構築して未来のない世界を作ろうとしていますわ。……けれど、それは不可能、ですわ」
「うん」
「……わたくしは世界を維持しますわ。世界を破壊しないように努めていますの……そして、それを達成するには人間の協力者が必要ですわ」
「……協力者?」
「決められた未来を変えるには、どちらか片方の力では足りませんわ。……だから、二つの力を持つものの協力が必要で、あなたの家にダンジョンを作ったのもそれが理由ですわ」
「兄貴に、でしょ?」
「そう、ですわね」
その失敗がなければ、もっとうまくいっていたかもしれない。
けど、仕方ないよね。襲撃されている間に、そんなことうまくできるわけがない。
「まとめると……えーと、あいつを倒して、世界をクワリが、命をかけて維持、するんだよね?」
「そうですわね」
「……命を、かけないとダメなの? あたしも、協力するよ?」
「……それはうれしいですわ。けれど、そうなるとあなたの命までも危険にさらされてしまいますわ。ですから、わたくしが一人でやりますの」
「……うん」
その解決方法は、まだ一日ある。だから……考え抜いてどうにかする方法があるかもしれない。
「とにかく……あたしがやることは、決められたあいつが崩壊させるこの地球の未来を、止めるために、あいつを倒すってことだよね!」
「……非常に、難しいですけれどね」
わかってる。ぶるりって体が震える。それをすぐに首を振って拳を固める。
「弱気なこといわない! そんなこといっても、意味ないんだよっ。できるってだけ考えればいいんだよっ。あたしはあいつを倒して、咲葉を取り戻して、クワリが世界を救う! わかりやすい、シンプルなこと!」
「戦力差はかなりありますわよ?」
「そこは、気合でどうにかするしかないよ。いままで、勝てる相手としか戦ってこなかったのが、そもそも運が良かっただけなんだよ」
格上だろうがなんだろうが、やるしかない。
「それに、ゴブッチもやってくれるからね」
「うっす。咲葉の姉貴がいないんじゃ、あっしたちチームとして成り立たないっすしね」
そうだよ。ここまできて、いまさら咲葉だけいないなんて嫌だ。
「ていうか、さ。兄貴は何やってんの?」
「……さぁ? 何をしていますの?」
どっかでさぼっていたら怒るよ……っ。
あたしがぷんすかしていると、部屋のドアチャイムが鳴る。
まさか、兄貴か!?
この緊急事態に間に合ったのなら、まだ許そう。どっかで遊んでいたとしてもね!
急いで玄関へと向かう。扉をあけ放つと、そこには何とも言えない表情の女性がいた。
……この人、先週まであたしの学校にきて、それで朝も兄貴を迎えにきた――冷歌、だったかな?
「その、えと、……こんにちは、だぜ」
「うん、こんにちは」
何か、兄貴のことだろうか?
「そう、だね……」
クワリの言葉がどこか遠くで聞こえた気がした。
もっと、何かあの場面でできることがあったんじゃないか?
……咲葉。
このまま、こんなお別れなんて、嫌だよ……。
……けど、だめだ。
うん、だめなんだっ! おちこんでてもダメだ!
兄貴はいつだって、どんな状況でも弱音はそんなに吐かなかった。そんなにだ、愚痴はかなり漏らしてたけど。
クワリがあたしの部屋へと空間をつなげる。あいつがいるかもしれないけど、よかった誰もいない。
とにかく、まずは状況の確認だ。
「ねぇ、クワリ。あいつが言っていたことは本当なの?」
「……そう、ですわね」
「この世界は崩壊する未来が決まっているって……どういうことなの?」
その崩壊を止めるために、あたしたちは第二十階層を目指していたはずなんだ。
その未来へとつなぐために、大精霊はいる、とあの男は言っていた。
それが本当なら、あたしたちはクワリに騙されていたってことだ。
「……わたくしたち大精霊は、世界の管理をしていますの。その役目は、決まった未来に世界を誘導すること、ですわ。……そして世界自体はある期間で消滅しますわ」
「……消滅?」
「世界はいずれ、自発的に消滅しますの。……その先の未来は、何が起こるかわからない世界となりますわ。だから、そうなった場合、わたくしたち大精霊は世界を放棄することになっていますの」
「……放棄して、それで? そこにいる人たちはどうなっちゃうの?」
「世界がなくなり、すべてが終わりますわ。わたくしたち大精霊は新たな世界を作り、未来を管理しますの。また、来るべき終わりの日まで、世界の管理者と、なりますの」
「それって……それじゃあ、やっぱり、あの男が言っていたようにこの世界はなくなって、みんな死んじゃうの?」
「それが、本来の世界、ですわ」
……だったら、どうしようもないってこと、なの?
あたしがクワリをじっと見ていると、彼女はあたしのほうへと飛んでくる。
「それが、本来の世界、ですけれど、不完全な世界を完全なものにする手段も、ないことはありませんわ」
「……どういうこと?」
「大精霊の命を使うこと、ですわ。そのあとに管理する大精霊がいなければ、結局壊れてしまいますけれど……けれど、管理する大精霊がいれば……それを大精霊に近しい存在である精霊の騎士に任せようと思っていましたの」
「精霊の騎士……」
「わたくしが指名した、この世界でもっとも大精霊に近い存在ですわ……。あなたや、咲葉、それに……勇人、ですわね」
どうして兄貴が、というあたしの疑問に、彼女はにこっと微笑む。
「わたくしは、あなたのお兄さんに頼もうと思っていましたの」
「なんで、兄貴が?」
「あなたのお兄さんは、過去に別の世界の崩壊を止めましたわ。世界が生み出した怪物を、その力で仕留めて見せましたの」
そんなこと、いつの間にしていたんだろう。
……だから、兄貴はダンジョンとかが危険だって止めていたんだろうか。
けど、きっとあたしがこっそり入ると思って、肉体強化のためにダンジョンの食材をくれたのかもしれない。
「ですが、わたくし、まさか記憶がなくなるとは思っていませんでしたの。あの男の襲撃の最中に力を隠すために分けましたら、こんなことに……」
ちょっとだけ、恥ずかしそうに彼女は舌をだす。
なんだ、つまりあたしたちはただの勘違いだったわけか。
大精霊はあの男に力を気づかれないようにこのダンジョンに封印してたんだ。
「だけど、勘違いでもあなたたちは天才でしたわ。またたくまに力をつけて、こうして導いてくれましたわ」
「うん……」
「だから、あなたと咲葉にも、わたくしは力を貸しましたの」
「あたしたちの魔力が精霊のようなものに変化してるってこと?」
「そうですわ。嬉しいことでもありますが、それを敵も利用できてしまうのが問題ですわね」
「それじゃあ、咲葉は……」
「生け捕りにされているはずですわ。精霊の力は殺して奪ったところで大したものにはなりませんの。だから、生け捕りにして、世界の管理に使うはずですわ」
「じゃあ、咲葉を取り戻せばいいんだね!」
生きているなら、いくらだってやれる。
あの男をどうにかして、あたしが咲葉を取り戻す。そうして、世界だって救ってやる。
「世界の未来っていうのは、大精霊が決めているんじゃないんだよね?」
「そうですわ。わたくしたちが未来を決めているのではなく、世界が未来を決めていますの。……新しい世界ができれば、その世界の終わりまでの未来は、すべて世界が構築してしまいますわ。わたくしたちは、あくまでそれを導くための存在ですの。……世界の終わりは何度かありますの。それを、大精霊はどうにかして抑えていますのよ」
「あいつが大精霊を恨んで、大精霊を消して世界の管理者になろうとしているって間違っているんだよね?」
だったら、必ずしも倒すだけじゃない。
戦うだけが解決ではない。
「そういう、ことですわ。世界を作ったら、勝手に崩壊までの未来ができてしまいますの。ですから、彼の本当の敵はわたくしたち大精霊ではありませんの」
「……そう、だよね」
やっぱり、間違っているんだ。
けれど、彼は世界の未来を定められたくなくて、妹が何も不自由のない世界を作りたがっている。
きっと、それはできない。……この世界だって、まだ崩壊するのが決まったわけじゃない。
だから、止めないと。あたしは、この地球が大好きなんだ。
「この世界の終わりは、どういう結末なの?」
「ある人間によって破壊される未来になっていますわ。あの者はそうして破壊した世界の先で、新たな世界を構築して未来のない世界を作ろうとしていますわ。……けれど、それは不可能、ですわ」
「うん」
「……わたくしは世界を維持しますわ。世界を破壊しないように努めていますの……そして、それを達成するには人間の協力者が必要ですわ」
「……協力者?」
「決められた未来を変えるには、どちらか片方の力では足りませんわ。……だから、二つの力を持つものの協力が必要で、あなたの家にダンジョンを作ったのもそれが理由ですわ」
「兄貴に、でしょ?」
「そう、ですわね」
その失敗がなければ、もっとうまくいっていたかもしれない。
けど、仕方ないよね。襲撃されている間に、そんなことうまくできるわけがない。
「まとめると……えーと、あいつを倒して、世界をクワリが、命をかけて維持、するんだよね?」
「そうですわね」
「……命を、かけないとダメなの? あたしも、協力するよ?」
「……それはうれしいですわ。けれど、そうなるとあなたの命までも危険にさらされてしまいますわ。ですから、わたくしが一人でやりますの」
「……うん」
その解決方法は、まだ一日ある。だから……考え抜いてどうにかする方法があるかもしれない。
「とにかく……あたしがやることは、決められたあいつが崩壊させるこの地球の未来を、止めるために、あいつを倒すってことだよね!」
「……非常に、難しいですけれどね」
わかってる。ぶるりって体が震える。それをすぐに首を振って拳を固める。
「弱気なこといわない! そんなこといっても、意味ないんだよっ。できるってだけ考えればいいんだよっ。あたしはあいつを倒して、咲葉を取り戻して、クワリが世界を救う! わかりやすい、シンプルなこと!」
「戦力差はかなりありますわよ?」
「そこは、気合でどうにかするしかないよ。いままで、勝てる相手としか戦ってこなかったのが、そもそも運が良かっただけなんだよ」
格上だろうがなんだろうが、やるしかない。
「それに、ゴブッチもやってくれるからね」
「うっす。咲葉の姉貴がいないんじゃ、あっしたちチームとして成り立たないっすしね」
そうだよ。ここまできて、いまさら咲葉だけいないなんて嫌だ。
「ていうか、さ。兄貴は何やってんの?」
「……さぁ? 何をしていますの?」
どっかでさぼっていたら怒るよ……っ。
あたしがぷんすかしていると、部屋のドアチャイムが鳴る。
まさか、兄貴か!?
この緊急事態に間に合ったのなら、まだ許そう。どっかで遊んでいたとしてもね!
急いで玄関へと向かう。扉をあけ放つと、そこには何とも言えない表情の女性がいた。
……この人、先週まであたしの学校にきて、それで朝も兄貴を迎えにきた――冷歌、だったかな?
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