オール1から始まる勇者

木嶋隆太

妹視点 第十六話



 あたしたちはそれぞれの魔法を確認しあってから、第九階層へと来ていた。
 前のような敵の組み合わせでも負けるつもりはない。そんな気持ちを抱きながら、魔法をいつでも放てるように準備する。


 用意する魔法はリトライとヒートバレット。
 範囲魔法も考えたが、ウルフは比較的動きが早く、複数で出てこられると罠にかける暇もなくかわされる恐れがある。


 数歩、歩いたところでこちらを認識して空間が歪む。
 あたしはすぐにみんなよりも後ろに下がりながら魔法を構える。
 空間が歪み、魔物が出現する。出てきたのはフレイムウルフ二体に、スケルトンが二体。
 ……個人的にはフレイムウルフが嫌い。
 あいつら、あたしの魔法を受けて仲間を守ろうとする。
 スケルトンはゴブリンを平均的に成長させたような能力をしている。


 ゴブッチなら、二対一でも十分対応してくれる。
 視線をかわすと、ゴブッチが剣を持って突っ込んでいく。
 フレイムウルフの背中に、スケルトンが乗る。あれが、可愛い生き物だったらほほえましいけど、骨と狼の組み合わせはあんまりきれいじゃない。
 咲葉の体がぶるりと震えている。頑張って、としかあたしは言えないよ。


 見た目はともかく、スケルトンの弱点を補う形がとれている。フレイムウルフが走りながら魔法をチャージしている。


「リトライアロー!」


 先手を打たれる前に、こちらが放つ。
 矢の形に作り替えたリトライを打ち出す。速度はそこそこで、フレイムウルフはそのちゃちな光を見て恐れることなく突っ込んでくる。
 ばちっとリトライアローがあたりフレイムウルフの戸惑いがみられた。
 ……よし、体内の魔法も最初から組みなおすことになっている。


 リトライの特徴は、ものの再構成、だと思う。
 だから、それを食らった敵は、作りかけていた魔法を破壊されたと勘違いすることになる。
 フレイムウルフがあたしを警戒する。ゴブッチが、その背後からとびかかり、剣を振りぬく。


防滅ぼうめつの刃!」


 相手の防御を破壊する魔法だ。具体的には魔力を持つ人は無意識にそれで防御の膜を作るのだが、それを解除するという感じ、らしい。
 アナライズの説明によるゴブッチの新しい攻撃によって、フレイムウルフの体をまとう魔力が消える。
 火耐性が減り、あたしのヒートバレットでもそこそこ与えられるだろうと考える。


 魔力を込めたヒートバレットを放つと、砲弾がまっすぐにスケルトンたちへと当たる。
 逃げ出そうとしたフレイムウルフの足を、ゴブッチが切る。
 紫色の魔力がまとわれた剣から放たれた一撃は相手の力を奪うものだ。


 実際、それほどたくさんの力を奪うわけではない。けれど、突然考えていただけの力が入らないとなると焦るものだと思う。
 感覚がずれるだけでもそれは結構な問題で、フレイムウルフが転んだ。
 火魔法がまともに当たり、逃げ遅れたスケルトンを一撃で倒す。


 こちらにフレイムウルフが近づいてくる。気づけばスケルトンが背中にいない。
 って、咲葉と戦っている。咲葉は、それこそ体を震えるようにしながら剣を振っていた。
 ……フレイムウルフのとびかかりを避ける。よけられたフレイムウルフが即座に、口を開いて魔法陣が展開する。
 ヒートバレット、に似た魔法だ。アナライズから魔法を理解し、あたしも即座にリトライアローを放つ。


「リトライアロー、連弾!」


 ヒートバレットに合わせて、複数に展開する。一つの大きな矢を作り、それを複数に分裂させるイメージだ。
 魔法すべてを再構成させる。再構成、とはいうが魔法の素の形になるのだ。再度魔力供給をしなければ、魔法はすべて不発となる。供給したとしても、構成をやり直さなければならない部分もある。
 つまりは、魔法自体の破壊になる。
 フレイムウルフがとびかかってきたので、あたしは後退しながら足元に罠を設置する。


「囲め!」


 サークルフレイムの、結界部分だけを利用する。以前使用したプリズンタイプで、魔力の壁で一時的にフレイムウルフを捕獲する。
 その隙に、アクアスライサーを構成する。破壊して脱出したフレイムウルフに近距離で魔法を叩き込む。


 水の刃が一つ、はじき出される。フレイムウルフの体にめり込み、魔法が消滅する。水が弱点なだけあり、フレイムウルフはその一撃で死亡する。
 スケルトンをみると、咲葉がちょうど魔法を発動した。


 ブレイブボディ。肉体を一時的に強化する魔法だ。
 それを用いた咲葉の体がほのかに赤いオーラがまとわれる。


 そのひと振りはとてつもなく速い。さっきまでの速度と予想していたスケルトンにとっては、予想外の一撃だったに違いない。
 慌てた様子で防御をするが、咲葉の攻撃はフェイントだ。その場で力の流れたスケルトンの側頭部へと、剣の腹をたたきつける。


 咲葉の剣の腕も確実に成長している。フェイントであったり、攻撃を受け流したりであったり……あたしの魔法で決めることが多いが、咲葉一人でも仕留めきれるだけの手数はある。
 咲葉は何度か荒く息を吐いてから、髪をかきあげる。


「沙耶、魔法妨害のほうはうまくいったみたいだね」
「うん……ただ、このままだと攻撃の手数が減るから、みんなにかかる負担が多くなると思うけど」
「それ自体は気にしないよ。私だって、まだまだ攻撃に本気は出していないからね」


 それは見ていてわかる。咲葉は回避に専念している部分がある。あたしの一撃を信用してくれているからだと思うと嬉しくなっちゃうものだ。
 第九階層での戦闘は、魔法を打たれなければどうにかなる。


 ただ、フレイムウルフが四体とか出てくるとさすがに骨が折れる。場合によっては、一度ダンジョンワープで逃げてしまい、別の編成に変えてしまうこともある。
 魔物を狩っていけば肉体が強化されていくのがわかる。
 あたしたちは夢中になって狩りをしていき、そして第十階層に繋がる階段を見つけた。


 第十階層に向かう階段はつまりはボス部屋までの道となる。
 ごくりと唾を飲み込む。以前のボスを思い出して、あたしの体を少しばかり緊張が包む。
 とんとんと、咲葉が体をたたく。


「どうしたの?」
「いや、結構体が固まっていたからね。そんな怯える必要はないんじゃないかな、と思ってね」
「……けど、逃げるときは」
「とりあえず、あっしが先頭に立ちますよ。あっしなら、最悪死んでも次元のはざまで少し休めば復活できるっすからね」
「……そうだけど、痛いんだよね?」
「痛いっすけど、姉貴たちが傷つくよりかは全然マシっすよ」
「ゴブッチ、君が美少女になった暁には、私がたくさん愛でてやろう」
「それは咲葉の姉貴がやりたいだけじゃないっすか……。というわけで、戦闘の際ははあっしがとりあえず前に出るってことでいいっすよね?」


 ……ゴブッチが申し出てくれたのはうれしいけど。
 いや、うん。攻略を優先するならそれが一番だ。リーダーとして、そのくらいの決断はできないと。


「ゴブッチ、それじゃあ任せたよ。クワリ、一応聞いておくけど、ボスの情報ってある?」
「うーん……第十階層は、なんかドロドロした感じのボスだった気がしますわ」


 肩にのるクワリに聞くと、かなり断片的な情報をくれた。ドロドロっていうとスライムみたいなものなんだろうか?
 あたしは、魔力を大量に込めて過去最強のヒートバレットを用意しておく。
 それと、敵のタイプがどんなものかわからないから、あたしはリトライも用意する。


「まあ、目的は敵の攻撃パターンとかを調べるって感じでいいかな?」
「そうだね。無理に戦う必要もないよ、今日第五階層をクリアしたばかりだしね」


 もう時間も六時を過ぎている。そろそろ、ダンジョン攻略もやめて明日のために体を休めておきたい。
 第十階層へと踏み込む。
 ゴブッチだけが歩いていき、あたしと咲葉はいつでも逃げられるようにする。
 空間が歪むとばちばちと雷のようなものが生まれる。


 ……ボスのときだけの大きな歪みからはいでてきたのは、腐った人間だった。
 大きさは人間の大人を一回り大きくしたようなものだ。体にはいくつかの人間の顔があり、腕も二本ではなく四本ある。足は……三本。
 まるで、複数の人間が合体したかのような魔物だ。


 エリートゾンビ、と表示されたそいつは火属性が弱点で少しラッキーだ。
 けど、相性以上の問題があった。ゾンビが出現した瞬間、咲葉があたしに抱き着いてきたのだ。
 がたがたと震えて顔にあたる胸が揺れる。な、なんていう柔らかさ。
 あたしが苛立ち半分、戦闘できない半分で押し返す。


「咲葉! ゾンビだからって怖がらないでよ!」
「さ、沙耶ぁ! 私ゾンビも嫌いなんだっ!」


 そんな強気でいわれてもどうしようもないよっ。


「もう、咲葉うるさいよ! あたしはゾンビで最高だったよっ。火属性が弱点だなんて、あたしに狩られるためだけに来たようなものじゃない」


 ゴブッチがゾンビと交戦する。ゾンビが腕を振るうと、びちゃびちゃと液体がばらまかれる。
 液体は銃弾のようにゴブッチを弾いた。ゴブッチが剣で切り裂くが、すぐに再生する。
 動きはそれほど早くないが、打たれ強さで時間をかけていく作戦なんだろう。


 フンガを仕留めた最強のあたしの魔法――。
 威力はあのときを超えている。魔法への理解、魔力の伝達の腕も存分にあがった。
 ……これが、どれだけ食らわせられるか。
 次に挑むときの参考のために、あたしは完成した魔法を放つタイミングをうかがう。
 ゴブッチが前衛で仕事をしてくれている。今うつと巻き込んじゃうな……。


「あ、あっしが押さえるから、頼みます!」
「うん……ありがとね、ゴブッチ! 忘れないよ!」
「ほんと、再召喚してくださいっすね……」
「……わたくしが戻しますわよ」


 あたしの魔法がゴブッチを飲み込む瞬間、クワリが片手を向ける。ゴブッチの姿が消えたのを確認して、あたしはためらいなく全力を叩き込む。
 激しい音と閃光が生まれた。爆発したのではという音と光がやむと、壁に叩きつけられたゾンビがいた。
 ゾンビは体を壁にめり込ませていた。
 おまけに、壁はだいぶ破損して、紫色のおかしな空間が見え隠れしている。


「……さ、沙耶。あのですわね、あなたの魔法強力すぎますわよ」
「そうなの?」


 他と比べられないからよくわからない。けど、魔法ってこんなものじゃない?



















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