オール1から始まる勇者

木嶋隆太

妹視点 第十三話



 フンガに放ったあたしの魔法はほれぼれするくらい最高だった。
 何度もあの光景を思い出しては、ニヤニヤと笑みを浮かべる!
 そしてまた、さっきの場面だ。


 あたしが、魔法をぶっ放してフンガを倒すところだ。
 鮮やかな閃光の中で自信満々な顔をしているあたし。


 って、なんでまたこれをみているんだ。はじめは首を傾げる程度、深く考えてあー、気づいた!
 はっとして体を起こすと、あたしの近くで横になっているクワリを発見する。
 一度あたしの部屋に戻り、休憩としたのが三時間前。
 つまりあたしは三時間も眠ってしまっていたというわけで、これはいけない!


 クワリのためにも一刻も早いダンジョン攻略を目指していたのに、これじゃ来週までにたどり着けないよ!


「クワリ! なに、寝てるのー!?」
「はっ!? おはようございますわ。いやー、いい朝ですわね」
「もう昼だよ! それより、咲葉はどこで寝てるの!?」
「咲葉……たしか、、ダンジョンに潜るといっていましたのよ?」
「ええ!?」


 一人でダンジョンは危険だよ! あっ、ゴブッチもいるから2人だけど、それでも第六階層に向かうのならどうなるかわからない。


 たしか、、ダンジョンには連絡が届くはすだ。スマホを取り出してコールしたけど、でてくれない。
 アイテムボックスに入れてしまっているから、たぶん、分からないんだ。


「ああ、もう、どうしよう!?」
「落ち着きますのよ……とりあえず、わたくしもう一眠りしてもいいですの?」
「ダメだよ!」


 しばらくダンジョンをみていると、いくらかの話し声が聞こえてきた。


「だから、あの場面でキミがしっかり動いていたらもっとどうにかなっていただろう」
「あ、あっしはがんばったっすよ! それより、咲葉の姉貴が――」
「なんだって? 私は敵を二体倒して……おはよう沙耶」
「沙耶の姉貴、起きちゃってますね」
「これもそれも、ゴブッチがさっさと倒さないからだ」
「あっしじゃないっすよ!」


 どっちでもいいよ。なんだか楽しそうにダンジョンの話しちゃってさ。


「二人とも、何してたの?」


 咲葉とゴブッチがお互いに視線をかわした後、咲葉が前に出る。


「少し魔物を倒していたんだ。起こさなかったのは悪かったよ、けど、疲れている咲葉を起こすのは悪いと思って」
「そーっすよ。姉貴、可愛い顔で寝てたっすから、あっしたちはこっそりいくことにしたっす」
「起こしていいのに! 二人に何かあったら、あたし不安で寝れないよ!」
「ぐっすり寝てたっすよ?」


 二人にあたしは声を荒げる。


「さっきじゃなーい!」
「まあまあ、そんなに怒らないでよ、可愛い顔が……やっぱりかわいいよ?」
「これが怒らずにいられるかー!」
「一応、第九階層まで、行けるようにはしておいたよ?」


 咲葉がそういってきた。


「えっ、ほんと!? 許す!」
「手のひら返しがすごいですわね」


 クワリがぼそっと、いったけど無事に二人が戻ってきておまけに階層も進めてくれたのなら、言うことは何もない。
 こほんと、咲葉が一つ咳払いする。


「私たちはダンジョンの攻略をしていたんだ。沙耶が疲れているようだったから、戦闘よりかはとりあえず階層だけでも進めようと思ってね」
「あっ、確かにそうだね」


 とりあえず、第九階層まで咲葉だけでもたどり着けば、あたしたちは彼女と一緒にワープで飛べばいい。


 階層を進めるだけなら、人数が少ないほうが効率も良いだろう。


「それじゃ、咲葉ら、あたしも完全復活したし、すぐにいこっか!」


 その瞬間、ぐーっとお腹の音が鳴り響く。だ、誰なのかな。こんなにもやる気になっている時に!


「昼食にしようか。沙耶、キッチンを借りてもいいかな?」
「いいよ! おいしいのたくさんお願いね!」


 確かに、ちょうど時刻はお昼頃だ。お腹がすいたままでは満足に戦うことができないんだから、あたしは間違っていない。








 第六階層。スケルトン。
 スケルトンの弱点は火、光であり、あたしの魔法が刺さる。
 ただ、スケルトンの顔はあまりにも不気味だ。人体模型がそのまま動いたような感じで、あたしはともかく、咲葉の顔が引きつっている。


「この階層はいいだろう」
「良くないよ? だって、第九階層にはまとめてでて来るんだよね? まずは、単体を相手にしてくせをつかまないと」


 あたしはからかうように彼女へ笑みを向ける。
 うふふ、咲葉がホラー系苦手なのはよく知っている。
 だからこそ、あたしは彼女をからかう。
 そのたび、咲葉はぶるりと体を震わせる。


「幼い子に、こんな風にいじめられると、なんだかいけない気持ちになるね……」


 咲葉は怯えているのか、感じているのかよく分からない状態になっている。


「咲葉の姉貴、意外っすよね」
「昔、暗い理科室の倉庫で人体模型が倒れてきて、それからダメになったみたい」


 ちなみに、あたしがそれを助けたのをきっかけに、あたしたちは友達となった。
 あたしの後ろで小さくなって震えている彼女は、なんとも可愛らしい。いつも人に可愛い可愛いいっているけど、彼女のほうが可愛いとおもう。
 こんな姿見せられるから、からかいたくなる。


 どこかのタイミングで驚かしてやろう、と画策する。
 どのタイミングにしようかな、と思っていると眼前がゆがむ。
 歪んだのは三箇所だ。ってなると、スケルトンが三体か。


 あたしのサークルフレイムにうまく、巻き込みたいがどうなるか。
 あたしたちはそれぞれ陣形を整えていく。不安なのは咲葉だけどどうなるかな。
 現れたスケルトンたちは、それぞれ骨を持っていた。すっと綺麗にのびたそれが、武器のようだ。


「まずは……!」


 即席で作ったヒートバレットだ。
 大きめに作ったヒートバレットは、速度を重視している。
 スケルトンの体にあたり、らその瞬間に魔力を暴発させる。


 魔法が爆発さ、スケルトンの当たった肩口から火が現れる。スケルトンはそれを払おうとしても、あたしの魔力が尽きない限りか、水魔法でなければどうしようもない。
 うん、うまくいったみたい。


 ヒートバレットボム。魔法は本当に自由自在だ。
 それぞれに与えられる魔法の力は、所詮基本の基本、そこからどうやって作っていくかが、腕の見せ所だ。
 スケルトンたちがあたしを標的にして駆け出す。
 だけど、それを前衛二人だって黙ってみていない。
 死角からそれぞれに斬りかかり、スケルトンの足を殴りつける。転んだスケルトンたちをみて、咲葉たちは離れる。


 あの距離なら、まとめて燃やせるね。


「サークルフレイム、プリズン!」


 サークルフレイムと同様、魔法陣が浮き上がる。


 スケルトンたちが逃げ出すより先に、火が波のようにスケルトンや燃やす。
 逃げようとしたスケルトンだったが、一度その魔法陣に入ってしまえば脱出は不可能だ。


 逃げたがったら、耐えてね?
 サークルフレイムの周囲を、あたしの魔力で壁のようにしている。
 ある程度の力なら破壊できるけど、まあ燃やされながら冷静に対処できる魔物なんていないと思う。


 スケルトンたちももちろん対処はできない。だから、素材だけを残して消滅する。


「なんだか、沙耶が最近怖くなってきたね」
「そ、そーっすね」
「そして、ロリっ子にいじめられたい私がいるのも事実だ」


 誰がロリなの! ロリまではいかないでしょ、背の順で一番前だとしても! ぺったんこだとしても!


「いじめられる、ってなんなんっすか?」
「それはだねゴブッチ――」
「ゴブッチに余計なことを教えてはいけませんわよ!」


 そのあたりの記憶はあるんかい、とあたしがクワリに突っ込む。
 ……それにしても、スケルトンはたいして脅威じゃなかったかな。油断はできないけど、あたしたちも確実に強くなっているんだと、自信も持っていこう。









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