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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

妹視点 第十二話

 土曜日は、引きこもりな兄貴が一日中家にいると思っていたのだが、そんなことはなかった。
 なんでも、どこかに出かけるとかで一日家を空けるらしい。
 これは予想外のラッキーだ。


 桃お姉ちゃんも用事があって今日は家には誰もいない。
 ならばやることは決まっている。


 ピンポーンと、ドアチャイムがあたしを呼ぶ。昨日、兄貴に明日の予定を聞いたあたしは、すぐさま咲葉にメールを送ったのだ。
 玄関に到着すると、私服に身を包んだ咲葉がいる。
 おしゃれな、私服ではなくジャージだ。
 あたしも彼女と同じように黒にピンクの線が入ったジャージに袖を通していた。


 あたしたちは、これからどこかに遊びにいくわけではない。
 ……そう、フンガ討伐だ。
 何もしてこなかったわけではない。
 昨日一日、あたしたちは第四階層でひたすらレベルをあげていた。この前より数段は強くなっている。もう、あのときのような苦い思いはしない。
 今日で、第五階層を突破し、第十階層までいく――。
 目標は高くもつ。低い目標なんて人生の中でつまらないものだからね。


 うまくいくかは分からないけど、クワリはなるべく早く第二十階層に到着したいと言っていた。
 だから、今日と明日で第十階層を突破し、残りの平日の期間で第二十階層を目標に進むんだ。
 そうすれば、次の土日のどちらかまでには、第二十階層を突破、できると思う。


「今日は誰もいないんだったか」


 わかりきっていることを、咲葉は聞いてくる。鍵をかけながら、あたしがこくりと頷いた。


「そうだよ」
「二人きり、というわけだね」


 心なしか咲葉の目元がいやらしく緩んでいる。
 まったく、咲葉のこの性格は相変わらずだ。
 あたしが呆れていると、クワリが片手を振る。空間のゆがみから、ぴょんと可愛らしい少女が出現する。
 ゴブッチだ。明らかに魔物のときとは見た目が違う。日本服を着させれば……その緑の肌さえ見なければそこらの小学生で通用する。


「二人っきりじゃないっすよ!」
「なるほど、私は二人を愛でればいいんだねっ」
「咲葉、あまり余計なことを言って進行を乱さないほしいですわね」
「ふむ、三人目か。……いや、眼福だよぉ」


 でへへ、と涎をぬぐう咲葉に、あたしたち三人はさっさと部屋まで逃げた。
 追いかけてくる咲葉がゾンビみたいだ。


 咲葉はこれからフンガとの再戦というのにまるで気負った様子はない。
 ……まあ、前の失敗をいつまで引きずっていても仕方ないようね。
 この前、明らかに油断があった。
 それを踏まえて、今回はきちんと対策をとり、鍛えてきた。
 自信過剰なんかではない。
 あたしたちはフンガを倒せると確信して、今日はダンジョンに入るんだ。
 あたしたちがドアの前で顔をみあわせてこくりと頷く。


「急いではいますけれど、怪我をしないように気をつけてくださいまし」


 この前のことがあるからか、クワリは心配げな声をあげた。
 そんなクワリに、咲葉が微笑む。


「安心してくれ。私は可愛い子達を残して死ぬつもりはないよ。どうせなら、守って死ぬよ」
「死んではいけませんわよ」
「そうだよ咲葉。みんなで頑張って突破するんだよっ」
「そうだね……」


 咲葉がこくりと頷き、ゴブッチも隣に並ぶ。
 前衛のゴブッチが成長したことで、咲葉の負担も減っている。
 何より、ゴブッチは多少無茶をしても死なない。一応、死ぬような大けがを負った場合、しばらくは療養しないといけない
 けど、ゴブッチが思い切った攻撃を仕掛けてくれる。それが突破口になったこともあるから、あたしたちのパーティーでは貴重な役目だ。


「それじゃ、咲葉お願いね」
「ああ、任せて」


 咲葉にあたしたちが触れると、一瞬で第四階層へと移動する。
 まずは準備運動だ。いきなりフンガ戦にいって、体のどこかを痛めたら大問題だからね。
 疲れない程度に戦闘を行ってから、あたしたちは第五階層に続く階段をおりていく。
 最後の一段をのこし、第五階層まであと一歩のところで咲葉が振り返る。


「ボスだけを召喚して、沙耶がここから攻撃し続けることはできないかな?」
「無理だと思いますわよ。ここの階段と階層の間には結界がありますの」


 クワリの発言を確かめるために、あたしが魔法を放ってみる。……うん、だめだ。
 魔法を使用しようとしてもだいぶ効果が薄くなってしまう。
 発動さえも危うい状況で、仕留めるにはたくさんの時間がかかるだろう。


「なんだ、ハメ技を思いついたと思ったんだけど、残念だ」
「ふふん、そううまくはいかないのですわ。ここはわたくしが作った完璧な迷宮ですのよ」
「今ここでそんな風に調子に乗られるのは、あたしちょっとむっとするよ」
「そうっすね……誰のせいで、こんな急いで進行しているっすかね……」
「そうだな。私もなんだかやる気がなくなってしまった。帰るとしようか」
「ま、待ってくださいまし! ごめんですわっ、悪かったですのよ!」


 クワリが慌てたように土下座をする。
 あたしたちが顔を見合わせて苦笑する。クワリの体をつかんで肩にのせる。


「冗談はこのくらいにして。クワリもきちんと、敵の様子を観察してよね」
「……わかっていますわよ」


 クワリが首肯し、あたしは改めて正面を向いた。
 草原のような広い第五階層は、やはり完全な戦場としての造りをしている。
 この前とは違う。思い出して震えそうな体を奮い立たせる。


 まずは、ここでできることをしておく。あたしは訓練した魔法の準備を行う。魔法の準備は体内で行うため、階段でも問題ない。
 一昨日と昨日で、あたしは一つ上の段階にいった。
 それが、魔法の同時詠唱だ。
 詠唱というのは、構築のことであたしなりにわかりやすくするために命名した。
 まずは普通のヒートバレットだ。こちらを用意しながら、自分で魔法を構築する。


 今まで使っていた魔法は、器に魔力を流し込むだけなので、それほど集中は必要ない。
 自分で構築する魔法だって、昨日今日の訓練でそれなりに使えるようになった。


 魔法を外に出さず、体内で完成まで作り、それからキャンセルすることでも訓練になる。
 だから、授業中とかだって訓練できた。
 つまり、あたしは昨日の授業と引き換えに、新たな力を手に入れたというわけだ。
 ……兄貴に聞かれたら頭ぐりぐりされそうだから、絶対に黙っていないと。


 魔法の準備が終わり、決意も固まった。あたしたちはそれぞれ視線をかわしてから第五階層へと踏み込んだ。


 第五階層を進んでいく。あたしは入り口近くで待機……これは事前に打ち合わせをした通りだ。
 咲葉とゴブッチが立ち止まる。眼前の空間が歪み、以前と変わらないフンガが姿を見せた。
 膨れ上がった体のわりに、スピードはある。
 あたしの場所までだって一気に来るんだから気を抜いている暇はない。


 あたしはじっと視線を向けながら、咲葉とゴブッチを観察する。
 二人は、あたしの指示なく動いている。あたしが指示を出すのは、予想外の攻撃が来るときなどだ。
 事前に敵の攻撃をある程度予想し、戦闘を組み立てているんだから、無駄にいう必要はない。
 ゴブッチと咲葉が、左右に分かれてそれぞれ攻撃を行っていく。
 ゴブッチの力奪剣がヒットし、明らかにフンガの体から力強さがなくなる。


 あれは案外強い。それほど脱力はさせられないが、それでも普段と感覚が狂うのだからやりにくいだろう。
 自分の異常性に戸惑いがあったようで、フンガが次の攻撃までにためらいを持っていた。
 その瞬間へ、咲葉が乱斬を発動する。以前よりも斬り筋が多く残り、それが爆発するようにしてフンガを切りつける。


 それぞれの魔法は、改良が可能なようなのだ。
 咲葉も、より威力や攻撃のやりやすさに重点を置き、魔法を改良している。


「スラッシュ・二連!」


 その改良を示すように、あたしがネーミングしてあげた。
 スラッシュを発動し、魔法が切れかけたところでさらに魔力を注いでもう一度発動する。
 連続の高威力の剣を受け、フンガがよろめく。力が戻ったようで、拳を固めてたたきつけようとする。
 咲葉のほうがくらっと体を傾けている。
 武器魔法を使うと、体の疲労が大きいらしく、今のはどちらかといえばとどめの場面で使うことが多かった。
 フンガの体にダメージを残すには、そのくらいの剣でなければ届かない。それをわかっているからこそ、彼女は無茶をしたのだ。
 咲葉のふらついた体を見て、フンガの鼻息が荒くなる。攻める場面、と考えたようだ。それは間違いではない。
 あたしが魔法をいつでも放てるように用意する。


「沙耶、ゴブッチが行きますわ」
「了解。咲葉は余裕を見て、下がって!」


 クワリがゴブッチの動きを教えてくれる。ゴブッチが剣を構え、その小柄で華奢そうな体を動かして大きく跳ぶ。
 狙うはフンガの右腕。大げさに持ち上げられたその右腕には斧が握られ、咲葉をミンチにしようと振り下ろされる。
 ゴブッチが跳躍し、魔法を唱えながら剣を振りぬく。


「力奪剣っ!」


 紫をまとった剣がフンガの右腕を浅く切る。それによって、フンガの右腕から力が抜ける。
 ダメージ自体はさしたことはないが、踏ん張りができず、左側に倒れこむ。
 ……ゴブッチの魔法は派手でこそないが有効だ。
 あたしは、自力魔法と素魔法の両方をさらに練りこむ。
 一撃で仕留められるだけの魔力を用意し、それを外に展開する。
 体内だけでは抑えきれないほどの巨大な二つの魔法に、まだまだ魔力を注ぐ。
 加減なんてしない。オーバーキルならそれでいい。いや、それが一番安全で素晴らしいんだ。


 最後に二人がありったけの剣をたたきつけ、フンガの体の赤が濃くなる。
 アナライズを発動して、フンガを観察すると怒り、という状態になっていた。


 この前は急に強くなったけど、あれもこの状態になっていたのだと思う。
 ……ある程度のダメージまで削られると発動するのはわかっていた。
 予想済みだ。だから、長引かないように、あたしは魔法を溜めたんだ。


 一番ヘイトを稼いでいたのは咲葉だ。フンガが連続で攻撃を放ち、咲葉はうまくかわしていく。
 前は受けるのが精々だったかもしれない。けれど、この二日で鍛え上げられたことで、余裕をもってかわせている。


 ゴブッチの方は……一発もらって吹き飛ばされていたが、時間稼ぎは十分だ。
 彼女はあとでゆっくり休んでくれればそれでいい。
 隙だらけのフンガに、あたしは片手を振り下ろす。


「ヒートバレット!」


 手から離れたら巨大な火球がフンガへと疾走する。
 そこでようやくフンガはあたしの魔法を脅威と認識した。慌てたように大きく跳んでかわす。
 あたしに狙いをつけたフンガが、歯をむき出しに走りだす。
 ……わかっている。ただ魔法を放つだけでは、どれほど強力な魔法でもダメだって。
 だから改良したんだ。あたしは先ほど放った魔法を戻すように手を振る。そして、もう一発。あたしは用意してある魔法をフンガへと向ける。
 迫ってくる。中途半端なタイミングでは、フンガの機敏な動きにかわされる。だから、限界まで我慢だ。
 風が、刃のように迫ってあたしをせかす。早く放てと、心が叫ぶ。恐怖が痛みが想起され、弱い心が魔法の発射を早めようとする。
 それを抑えつけた先――。フンガが大きく両腕を振り上げた瞬間に、あたしは叫ぶ。


「もう一丁! ブレイクヒートバレット」


 放ったのは砲弾を超えた一撃。眼前に大きな魔法陣が展開され、そこから光が生まれる。
 ありったけの魔力を込めたヒートバレットは、弾丸ではなくレーザーと化す。
 ……あの時感じた恐怖は、寝付けなくなるほどだった。
 すべてを失ってしまうのではないか。あの日の夜は考えたくなくて体を動かしていた。
 そのときに感じたものを全部お返しするように。
 ヒートバレットをまともにくらったフンガは、さらにあたしの背後から襲った火球を巻き込んだ。
 威力はヒートレーザーのほうが強力で、あたしの火球を飲み込んで壁へと直撃する。
 この一撃で倒しきれなかったらいやだから、今持っている魔力を注ぎ込み続ける。
 あたしが久しぶりに呼吸をしたとき、魔法が消滅する。


 はぁはぁ……疲れたよ……。
 練りに練った魔法だ。フンガにぶち当ててやるために用意したあたしのとっておきの魔法……さてどうなったか。


 煙があがり、そこからフンガは跡形も残っていない。
 ……地面さえも焼けこげ、ダンジョンの壁にもひびが入っている。
 まあ、ダンジョン内のものは時間経過で修復されるんだし、大丈夫だよね?
 驚きの声をあげたのは、肩に乗っていたクワリだ。


「……すごいですわね。ダンジョン破壊って、本来そうとうな力がないとできませんのよ?」
「へへっ、それを目標にあたしは魔法の訓練をしたんだからねっ」


 強がって笑ってみたけど、体力が厳しい。ふとんがあったら寝れるよ。
 あたしは膝をついて、呼吸を整える。


「沙耶、よく頑張ったね」


 咲葉がこちらにきて体を支えてくれる。彼女の胸が心地よい。


「ちょっと休憩してから、第六階層の攻略は進めよっか?」


 あたしの前でしゃがみ、彼女は背中を向けてくる。
 ……おんぶしてくれるようだ。彼女の背中にぴょんと乗る。


「今はゆっくりと休むといいよ」
「うん……」


 魔力はまだ残っているけど、一度に大量に放出したせいでなんていうか、体が驚いているみたいだ。

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