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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

妹視点 第十話



 まだ時間的に余裕があったため、第四階層でしばらく狩りを続ける。
 ゴブッチも成長したようで、一人でも魔物を押さえられるようになった。


 前衛で動く場合は咲葉が指示を出す。
 ゴブッチと咲葉の間での連携と、あたしの指示。優先するのはあたしらしいので、そこのところは気を付けないと。
 咲葉の魔法でダンジョンの構造を把握し、第五階層への階段にも到着した。


「……ここから先に行くかい?」


 咲葉の問いにあたしは一度立ち止まる。
 不安だ。けど、先に進みたいという気持ちもある。


「もちろん、行きますわよ」


 返事をしたのは一番戦うことのないクワリで、咲葉とあたしは顔を見合わせる。


「ダンジョンをよく理解していないのだけど、ボス部屋というのは戻れるのかい?」
「戻れますわよ。だから、とりあえず魔物だけを見て、逃げるというのもよいと思いますわ」


 その通りだね。
 ボスモンスターが異常に強いのなら、その段階で逃げてしまえばいい。
 あたしと咲葉はお互いに視線を合わせる。


「まあ、もしものときは引き返すって感じっすかね?」


 ゴブッチがあたしたちの意見をまとめてくれる。
 ……まあ、それでいいかな。
 第二十階層を目指すかはともかく、第四階層ももう慣れてしまった。
 だから、まあ第五階層のボスを倒してさっさと先に進みたい。


「それじゃあ、先に行くよ!」


 第五階層のボスがどんなものかわからないけど、さくっと倒して先に行ってやる。
 わずかにある魔石のあかりを頼りに、階段を下りていく。


「ここまで結構順調にこれたね」


 咲葉の声が反響するように耳に届く。


「そうだね」


 ダンジョンができてから一週間も経っていない。
 国とかはすごい警戒しているけど、あたしたちみたいな素人でもここまで戦えるのだから、心配しすぎだ。
 兄貴だって……そういえば、兄貴は本当に中に入っているのかな?
 どっちでもいいか。兄貴よりも強くなって、あたしはもっと先に行くんだ。


 第五階層に到着すると、全体が見渡せるような平地であった。
 ……ここはボス部屋ということもあって、戦闘のしやすい地形となっているようだ。
 ボスは、まだ出てこない。少しずつ進んでいく。
 目の前の空間が歪んでいく。
 今までとは比べものにならない歪みだ。


 あの歪みからボスが出てくるのだとしたら、かなりのサイズだ。心してかからないと。
 さて、どれほどの魔物が出現するのか、あたしが考えていると、その穴から片手がはい出てくる。
 腕は、大木のように太い。遅れて出てきた体は、大人の倍はあるかのような背丈だ。
 ぱんぱんに膨れた上半身は何も身に着けていない。下半身に申し訳程度の腰巻があり、右手には大人ほどのサイズの斧が握られている。


 想像していたよりもずっと、ボス、という感じだ。
 ていうか、これ第五階層に出てきていいボスなの? アナライズを使用すると、「フンガ、火属性に弱い」と表示される。


 ギロっと鋭い視線がこちらに向けられる。
 切り裂くような目に、思わずあたしたちは一度硬直してしまう。


「咲葉、ゴブッチ! 前衛お願い!」


 それを払うように、あたしが声をあげる。
 相手があれほど大きいなら、魔法は当て放題だ。単体魔法のヒートバレットの準備をして、魔力を込めていく。
 あたしだって、成長している。今まで以上に早く、多くの魔力が込められるようになっている。


 フンガが斧を構える。
 そこからどう攻撃してくるのか。咲葉たちがじりじりと距離をつめていくと、まずは様子見とばかりに斧が振るわれた。
 風を切り裂く轟音が、ここにまど届いた。対面していなくても、その力強さはわかる。


「二人とも、大丈夫!?」
「……あ、ああ!」
「な、なんとかっす!」


 咲葉の顔におびえのようなものが混ざっているように見えた。
 ……後衛よりも、前衛のほうが怖いに決まっている。ゴブッチは問題なさそうだけど、咲葉の動きに迷いがあるように思えた。
 どうする、このまま戦いを続けるのは無理か? 咲葉とゴブッチが同時にフンガへと仕掛ける。
 フンガの肉体を剣が浅く切りつける。刃がまるで通っていない。


 フンガが足を振りぬくと、その風圧に二人の体が弾かれる。
 咲葉が大きくジャンプして、姿勢が崩れる。
 咲葉に追撃しようとフンガが走り出す。まずい……慌てて魔法を放つ。


「ヒートバレット!」


 放たれた一撃はまっすぐにフンガの顔に吸い込まれる。
 巨大な砲弾によって、フンガの体がよろめく。もしかしたら、いけるかもしれない?


 あたしが淡い期待を持った瞬間だった。
 その絶叫が響いた。あたしたちの鼓膜を破るような絶叫が、第五階層を支配する。いや、下手をすれば迷宮の外にまで聞こえていたのではないかという音だった。
 地面も体もびりびりと震える。


 同時に、フンガの体が跳んだ。その狙いはあたしだ。
 体が、あまりの音に驚いて動いてくれない。
 あたしにまっすぐに迫ってくる――。死ぬ、と思いながらあたしはどうにか横に飛ぶ。


「姉貴!」


 その間にゴブッチが入り、剣を構える。
 振りぬかれた斧によって、ゴブッチの体はたやすく弾かれ、壁に激突する。
 その隙にあたしは大きく跳んだ。おかげで、あたしは無傷だ。
 顔についた土と、恐ろしさのあまり震える体を抑えるようにしてあたしはすぐに咲葉のもとに向かう。


「咲葉! 逃げよう!」
「……わかって、いるよ!」


 咲葉がこちらに片手を向ける。あたしはよろよろとその手をつかんで立ち上がる。


「沙耶、ゴブリンを次元のはざまに戻しますのよ!」
「あ、うん!」


 フンガが再度跳ぶ。あたしがゴブッチを戻し、咲葉がダンジョンワープを発動する。
 フンガの斧が頭上に見えたところで、あたしたちの体は第一階層へ到着する。
 そこで、一息つく。
 咲葉のダメージは大きいようだったが、骨にまで異常はないようだ。


 第一階層ならば魔物も出現しない。
 咲葉は疲れた体を引きずるようにして、あたしが一応その体を支える。
 ……けど、あたしと咲葉では体格に差があるから、咲葉が楽に歩けているのかはわからない。
 階段を上る。階段を見るだけで、フンガを思い出してしまいそうだった。


 部屋にたどりつくまで、またどこからかフンガが襲ってくるのではないかとびくびくしていた。
 どうにかこうにか、部屋に戻ってきてようやく一息つくことができた。いつもは気にしないが、段ボールのすべてをダンジョン入口に置いた。
 出てこない、というのはわかっているけど、それでも。


 あたしたちは、それぞれ床に座る。お互いに沈黙しかない。
 ……さっきの戦い、もっと早く逃げるべきだった。
 リーダーとして、敵をもっと警戒するべきだった。
 自分の魔法が当たれば、きっと大ダメージを与えられる。


 そう思って、あたしは魔法を放ったが、あれは逃げるために使用するべきだった。
 ……決断が遅い、敵とこちらの実力の分析が甘い。
 ……何もできなかった。
 時計を見るとまだ午後五時半を過ぎたところだ。
 けど、今日はもう一度ダンジョンに入る気は起きない。
 あたしが落ち込んでいると、咲葉が立ち上がる。それから軽く髪をずらしてから腰に手をあてる。


「あっはっはっ!」


 咲葉はそれから大声で笑いだす。
 突然どうしたんだろう。どこか、打ちどころが悪くてバカになったのかもしれない。
 心配して体を起こして視線を向ける。


「あはは……それにしても、強かったね。けど、次は負けないようにしないとね」


 咲葉は笑顔を浮かべて、こちらを見ていた。
 咲葉はいつも、そうだ。こんな場面でも強い。
 あたしは結構あれこれ悩んじゃうから、咲葉のような性格にはあこがれてしまう。


「……うん」
「どうしたんだ、沙耶。そんなに落ち込む必要はないよ、幸い、こっちにけが人は……ああ、ゴブッチはどうなんだろうか?」
「ゴブッチは、大丈夫ですわ。……一度契約をした魔物は、契約者が死なない限り、死ぬことはありませんの」
「怪我とかはどうなるんだ?」
「時間が経てば勝手に治っていますわよ」


 それを聞いてほっとする。
 それでも、さっきの戦闘でほとんど壊滅状態になったのは、あたしの判断が遅いのが問題だ。


「沙耶、あんまり深く考えなくていいから」
「……」


 咲葉がぽんと頭を軽くなでてくれる。


「結果だけを見れば、沙耶の判断は間違いではなかったんだ。私たちが生きているのは、沙耶がすぐに逃げることを決断してくれたからだ。私は、あのときどうやって戦うのかしか考えられなかったからね」


 そう、だったらいいんだけどな。
 確かに結果を見ればこっちは無傷みたいなものだ。
 ……そうだよね。そもそも、兄貴の言いつけを守らずに入って、怯えるなんてあたしは勝手すぎる。
 最初からこうなる可能性は十分にあったんだ。
 うだうだ考えていても仕方ない、かな。
 問題は、今回の失敗から次どうするかだ。


「よし、体もだいぶ治ってきたね」


 咲葉が調子を確かめるように体を動かす。
 強がりではなく本当に、彼女の体は動いている。あたしたちのレベルアップにはそのあたりも作用しているのかもしれない。
 立ちあがった彼女はもうすっかり元気なようだ。


「……よかったよぉ、もしも大きな怪我とかしてたらどうしようかと思ったよぉ」


 涙が出てきそうになったけど、それを必死に止める。
 それが一番心配だったんだ。
 と、クワリがふわっとあたしの肩から、あたしたちの眼前に移動する。
 クワリがあたしたちの前でぺこりと頭をさげた。


「申し訳ありませんでしたわ。……わたくしがせかすようなことを言ってしまったからですわ」
「そんなことはないだろう。最後に決めたのは私たちだ」


 クワリだけが悪い、ではない。


「それに、クワリだって早く第二十階層に行かないと、世界が大変なんだろう?」
「……そう、ですけれど……そのために、危険なことをさせるわけには」
「……沙耶、どうするんだい?」


 咲葉がちらとこちらを見る。
 あきらめるか、先に進むか。
 危険なのはわかっている。けど、もうクワリだって――、


「仲間だもん。クワリが困っているなら、あたしも助けるよ」
「……沙耶、咲葉」
「そうか、二人とも頑張ってね」
「ちょっと待って咲葉は!?」
「もちろん手伝うさ」


 なら驚くようなこと言わないでよね!
 あたしがむっとすると、咲葉が頬をぷにぷに触ってくる。


「もう、とにかく、ゴブッチの仇をとって先に進むんだ!」


 心の中で、「あっし死んでないっす!」という声が聞こえた気がしたけど、あたしは気にしないでおいた。





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