オール1から始まる勇者
妹視点 第九話
魔物契約……なんともいい響きだ。
倒れているゴブリンに手をかざす。
魔法陣がゴブリンの足元に出現した瞬間、次にやるべき行動が自然に頭の中に浮かんだ。
「戦に敗れし者よ、あたしのものになって、あたしの盾となって仕事をするの」
言葉に反応して、ゴブリンの足元の魔法陣が光る。
魔法陣がひときわ強い光が生まれ、ゴブリンの体に流れ込む。ゴブリンの体の傷がすべて消滅する。
すっと起き上がったゴブリンは、こちらを見ながら頭をぺこぺこ下げ……そして、ゴブリンの姿が消滅する。
あれ?
「これでゴブリンとの契約は完了ですわ。召喚するには、ゴブリンの名前を呼んであげればいいんですわ」
「……名前、今決めるの?」
「そうですわね」
それじゃあ、ゴブッチで。
「サモン、ゴブッチ!」
あたしが片手を振り下ろすと、魔法陣が展開される。
光の中からゴブリンが出現する。
「へい、姉貴! 呼びましたか!?」
可愛らしい声だった。
みすぼらしかった先ほどまでの格好とはまるで違い、どこかの小学校に通っていてもおかしくない可愛らしい少女がいた。
「わー、しゃべった!?」
「そりゃあまあ、あっし、ある程度の知能も与えられたみたいで」
「ほう、それは面白いね」
「ひぃぃっ!?」
顔を近づけてきた咲葉を見て、ゴブッチは驚いたように後ずさりする。
「なんだい、私の顔に何かついているか?」
「……い、いえなんでもありません、はい、はい」
もしかしてさっきの戦闘の記憶が残っているのだろうか。
咲葉の視線にさらされ、ゴブッチが体を震わせている。あたしの後ろに隠れる姿は、なんだか妹ができたみたいで悪くない。
「一気にパーティーが増えて、楽しそうになってきたねっ」
「……ゴブッチはどう思っているか微妙なところですのよ。とりあえず、わたくしは現段階だと契約できる魔物は一体が限界ですわ。ゴブッチを管理している次元のはざまにおけるのも一体までですの」
「次元のはざま?」
「まあ……なんといいますか、そういう居住空間があるのですわ」
「へい、あんがい住みやすい場所ですよ」
ゴブッチがにこりと微笑む。
「そうなんだ。とにかく、ゴブッチには頑張ってもらわないとだね」
「そうですわよ。わたくしを第二十階層まで連れていくには、ゴブッチの協力も必須ですわ」
課題だった前衛が一人増えたことと、あたしの死角を補うようにクワリがパーティーに加わってくれたから、問題が結構改善された。
パーティーメンバーの視線があたしに集まる。いつの間にか、あたしがリーダー的なポジションになっているようだ。
「それじゃあ、みんな、とりあえずは第五階層のボスを目標にして、ここで戦闘経験を積んでいこう!」
あたしの言葉に、全員が頷く。今すぐに戦うのが危険なのは、初めてのときで経験している。
それぞれが、できることをやっていくしかない。
まずは戦闘での立ち回りの見直しだ。
あたしたちは第三階層と第四階層の間の階段に座って、お互いに意見を出し合っていく。
「まずは、前衛の見直しだね」
「そうだな。……私がやるのは当然として、ゴブッチをどうするかだな」
「あっしっすか? あっしは……まあ、まだ契約したばっかりなんでそんなに強くないっすよ?」
「そうか」
「そ、それでも頑張るっす! だ、だから咲葉の姉貴。睨まないでください」
「別に睨んでいるわけじゃないよ。こういう目つきなんだ」
「そうそう。ゴブッチ。咲葉は目つきが怖いけど、それを気にしているんだからね! ずばっといっちゃだめだよ!」
「咲葉……ずばっと刺さっていますわよ」
クワリの指摘を受けて、咲葉を見ると彼女はいじけた顔になっていた。
「……沙耶に怖いと思われたくないね」
「あたしは思ってないよ! 初めてあったときくらいだよっ」
「……」
咲葉がくしゃっと顔をゆがめて、その場でしゃがんでしまう。
ゴブッチがその姿を見て、苦笑を浮かべている。
「……戦闘でのことっすけど、あっし武器も何もないっすよ」
「ゴブリンが前に攻撃魔法を持っていたけど、使えないの?」
「……使えないっす」
「えー、ハズレ?」
「は、ハズレとか言わないでくださいっす……悲しくなるっす」
「先に説明しておきますわね」
ゴブッチが落ち込んでいる間にクワリが小さな指を立てて宙に浮いた。
「ダンジョンの魔物は必ずしもすべて同じ個体というわけではありませんの。魔法をあるなしも、様々ですの。このゴブッチは確かに現段階ではハズレ、かもしれませんけど今後の成長では他のゴブリンが持たない能力を目覚めさせてくれるかもしれませんわ。首を切るかはそれから考えればいいんですのよ」
「き、切られないよう、頑張るっす!」
「うん、よろしくねっ」
ゴブッチがびしっと敬礼をし、復活した咲葉が腕を組む。
心なしか、笑みを浮かべているけど、さっきの後でちょっと怖い。
ゴブッチはそれを見て怒っていると勘違いしたようだ。
「ゴブッチは近接のほうがやはり得意だろう?」
「は、はい」
「それなら、とりあえずは沙耶の剣を貸すのはどうだろうか。そうすれば、今のゴブッチでも十分戦いに参加できるようになると思うが」
「そうだね。それじゃあゴブッチ、おもたいけど大丈夫?」
「ああ、はい。このくらいなら大丈夫っすよ」
あたしは手に持っていた剣をゴブッチに渡す。
立ち上がって、すっすっと何度か剣を振って見せる。
……ゴブリンとはいえ、剣の扱いは咲葉よりも上のように見えた。
「こんなもんっす」
「成長したらゴブッチに敵を引き付けてもらいながら、私が遊撃のように攻めたほうが良いかもしれないな」
「そうだね……咲葉はどっちかっていうとスピードと魔法で翻弄するし、ゴブッチがどうにか盾職みたいに耐えられるようになってくれれば……」
「い、痛いのは我慢するっす!」
「そうか。それじゃあ私があとで、訓練をつけてやろうか?」
「い、いやっす! 咲葉の姉貴のは怖いっす!」
よっぽど契約したときが怖かったのだろう。
ゴブッチは首をぶんぶんと振り回している。
「とりあえず、あたしはいつも通り魔法で援護と指示を出していくって感じかな?」
「私は少し役割が変わって、ゴブッチと沙耶を見て、その都度戦闘に参加していくって感じだね」
「あっしは……とにかく、前に立って敵を足止めするって感じっすかね?」
「それでは、わたくしたちの僕よ、わたくしを第二十階層に連れていきますのよ!」
じーっと三人でクワリを見る。
クワリはすぐにあっと短く声をあげる。
あたしと咲葉で一発ずつデコピンを加えてから、第四階層に戻る。
「うぅ、痛いですわぁ。この体だと、デコピンが全身を殴られるようなものなんですわよ!」
「クワリもきちんと仕事するんだよっ。あたしが気づかないときにあたしに指摘する役目なんだからねっ」
「……うう面倒ですけど、やりますわよ。もう、肩にのって高見の見物をしていようと思いましたのに」
「何かいったか?」
咲葉がずいっと顔を近づけてくる。
クワリは逃げるようにあたしの頭の後ろにとんでくる。
「ま、魔物が出現するっす!」
ゴブッチの声であたしたちはすぐに意識を前に向ける。
空間が歪み、そこに出現した魔物はファングラビット三体だ。
……うへぇ、一番やりたくない編成かもしれない。
「咲葉とゴブッチ二人で敵をできるだけ抑えて!」
まずは、それだ。ファングラビットの動きの速さは野放しにしては危険だ。
あたしの言葉に即座に二人が動き出す。ファングラビットたちがそれぞれ別方向にとぶ。
近場のファングラビットへ、ゴブッチは剣を振りぬく。
攻撃は当たらない。やはり、速度がうざい。
「沙耶! 左からこっちに一体!」
……そうなんだよね。全体を見ようとしても、やっぱり意識から外れてしまうときがある。
反省しながら、とびかかってきたファングラビット一体の攻撃をかわす。
あたしだって、もう動きは慣れてきた。このくらいかわすのも難しくはない。
ファングラビットが着地した瞬間を狙い、ヒートバレットを放つ。
魔力はかなり込めたものだ。
砲弾へと進化したヒートバレットが、再度跳ぼうとしたファングラビットに吸い込まれる。
ファングラビットが慌ててかわそうとしたが、その足をかすめた。それだけで、十分なダメージになる。
視線を前に戻す。ヒートバレットの準備をしながら、ファングラビットたちを観察する。
……ファングラビット相手になると、指示を出してもそれをこなしきれない部分がある。
あたしがやることは敵の逃げる先に魔法を放つか、確実に魔法をあてられる場面で使用するかしかない。
ファングラビットたちが咲葉とゴブッチにそれぞれ攻撃をしかけている。ゴブッチのほうが苦戦しているようだ。
咲葉が剣を振りぬくと、ファングラビットが飛び上がる。
咲葉が魔法を放ち、無数の斬撃が眼前に出現する。手数で攻めた一撃が、ファングラビットをとらえる。
逃げようとしたファングラビットの頭上に、あたしはヒートバレットを放つ。
跳び上がろうとしたファングラビットが、あたしの魔法に驚いて硬直する。
「咲葉、たたきつけて!」
動けば魔法の餌食、動かなければ――。
咲葉の剣が振り下ろされて、ファングラビットを両断する。
……よし、うまくいった!
ちらとゴブッチを見ると、吹っ飛ばされて大の字で倒れている。牙を向けられそうになったところで、咲葉が剣を突き出す。
「大丈夫かゴブッチ!」
「うぅ……咲葉の姉貴、感謝っす!」
ぴょんと起き上がったゴブッチが剣を構えて、二人が交戦する。
前衛二人の連携は、微妙だ。お互いに攻撃したときに、お互いを傷つけそうになってしまう場面がある。
……あのあたりの指示はあたしが出すべきなのだろうか。それとも、前衛のどちらかに任せたほうがいいのか。
ゴブッチの剣がファングラビットを捉える。地面に縫い付けられたウサギは、そのままダンジョンに飲まれるように消滅する。
うーん、また問題が出てきてしまった。
人数が増えると、今度はそれをどうするかの問題があるんだね。
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