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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

妹視点 第七話 





 戦闘を終えたあたしたちは、それからすぐに部屋へと戻った。時間もぎりぎりだったしね。
 体を動かすのが億劫だ。戦闘が思っていた以上に大変で、あたしたちの体はボロボロだった。
 床に倒れこむように寝そべり、疲れた体を休める。
 あたしの隣に転がった咲葉が、笑みを浮かべていた。何か良いことでもあったのだろうか。


「やっぱり、沙耶が指示を出したほうがよかったね」
「……うーん、けどそんなにうまくできるとは思えないんだよね」


 あたし、賢いけど状況判断が得意かと言われればそうではないし。


「沙耶は、よく周りを見る力があると思うよ」
「どうかな……?」


 自覚はないかなぁ……。けど、確かに観察することは多かったと思う。
 まだ、小学校のころは人見知りがちだったし……ママもパパもいなくなって、苦しい時期だった。
 兄貴の後ろにいて、兄貴が守ってくれるのをじっと見てきたからね。
 咲葉の笑みが濃くなる。


「指示が的確とかは別に私にも無理だしね。今は、魔法による攻撃のほうが強いし、それを確実に当てられるように組み立てられる沙耶のほうが、私はいいと思っただけさ」


 あのときは、夢中だったけどうまく魔法を当てられた。
 咲葉が指示を出すとなると、魔法のタイミングを声に出す必要がある。
 こちらの言語を理解できるような奴を相手にしたとき、大変かもしれない。
 あたしが、自分で考えて咲葉をそこに誘導できれば……なんて考えていたら頭が痛くなってきてしまった。


「まあ、できるようになるまで時間はかかるかもしれないけど、一度経験してみるのもいいんじゃないかな?」
「うーん、まああたしって結構天才だし、やろうと思えばできるかもしれないね!」
「そうだよそうだよ。沙耶はそんな風に前向きにしているのが一番だよ」


 難しいかもしれないけど、何度もやっていればなんとかなるよねっ。
 不安だって、心配だってあるけど、そんなこと考えていても時間の無駄だ。
 とりあえず行動してみないとっ。


「今日の狩りはうまくいったんだし、また明日からだね」
「うんっ! 明日も第四階層で魔物をばっしばっし倒して探索もしよう!」
「なんだか……楽しくなってきたね」


 魔物と初めて戦った時は、怖かった。
 これから本当に戦えるのか……なんて考えてしまったけど、あたしたちならきっとどうにかできるはずだ。
 咲葉はアイテムボックスを取り出して、一つの肉を出した。


「沙耶、これはダンジョンで手に入った肉だけど……私が試しに持ち帰ってもいいかい?」
「別にいいよ」


 そんな聞かなくてもね。忘れてたし。
 ダンジョンの食べ物は、魔物の素材でもレベルアップに繋がる。
 現状、咲葉には前衛として踏ん張ってもらわないといけない。
 だから、彼女の身体能力を強化するほうが優先するべき、だと思う。


「あと、タートルソードも預かっておくよ」
「うん、お願いね」


 あたしは、彼女にタートルソードを渡した。
 同時に彼女自身にアナライズを発動してみる。
 色々と個人情報が出てきて、あたしは両手で顔を覆う。
 うわー、ちょっと失礼なことしている気分だ。
 ……ていうか、好きなもの、沙耶って何?


「どうしたんだい?」
「いや、なんでもないよ」
「嘘だね。沙耶は嘘をつくとき、ほっぺたが少し赤くなるんだ」


 そういいながら、さすさすとなでてくる。
 そ、そんな癖があるのかあたしはっ。慌てて頬に手をやると、彼女は、はははと笑う。


「冗談だよ。それで、何を隠していたんだ?」
「……うぅ、アナライズを人に使ったらどうなのかなって思って」
「それで、私に使ったのか。恥ずかしいことでも色々見られたか?」
「うーん、そんなにはないかな?」


 まあ、色々と書いてあったけど、黙っていよう。
 咲葉もそれ以上は聞いてこなかった。
 玄関へと向かい、靴を履く咲葉を見守る。立ち上がった彼女がカバンを肩にかけなおし、


「それじゃあ、そろそろ私は戻るよ」
「うん、おやすみ。また明日ね!」
「ああ、また明日」


 咲葉が楽しそうに笑みを浮かべて玄関に体を向ける。
 がちゃりと玄関が開き、兄貴と桃お姉ちゃんがやってくる。


「おっと! 悪い」
「咲葉さん、こんばんは」


 兄貴と桃お姉ちゃんと入れ替わるように咲葉が歩いていく。


「ああ、お兄さんに桃さん。こんばんは」


 咲葉は二人に敬語を使うことはほとんどない。
 小さいころにあたしと咲葉、兄貴と桃お姉ちゃんの四人で遊ぶことが多かった。
 その関係が今も続いているからだと思う。
 兄貴は玄関にスーパ―の袋を置き、慣れた様子で桃お姉ちゃんが家にあがる。
 と、兄貴はちらと外を見る。


「家まで送っていこうか? もう暗いし、女の子一人はな。最近物騒というか、おかしいしさ」
「ああ、大丈夫だよ、お兄さん」


 咲葉は遠慮気味に両手を振った。兄貴はちらとこちらを見てくる。
 視線を何度か行き来して、それから兄貴は頭をかいた。


「まあ、それじゃあ怪我しないようにな」
「うん、それじゃあね」


 咲葉が片手を軽くあげてから去る。
 そういえば、兄貴にアナライズを使ったらどうなるだろうか。
 ……い、いやでもさっき咲葉のスリーサイズとかもでたし、変なサイズの情報出てきたらなぁ。
 なんて思いながらも、興味本位で使用してみる。
 ……あれ? 兄貴の情報が名前以外表示されない。こういうこともあるんだなぁ、なんて思いながら夕食の準備の手伝いに向かった。






 木曜日。咲葉が一度家に戻り、今あたしは部屋で咲葉を待っている状態だ。
 最近の兄貴は六時過ぎに帰ってくるのがデフォルトになっている。あたしからしたら最高だ。


 将来的に、国はどうなっていくのだろうか。
 部屋でごろごろしていると、ダンジョンのことばかり考えてしまう。
 国は一か月を目安に、ダンジョンの開放を行うと、宣言している。
 スマホでいくつもの記事をみていると、色々な国の情報が入っている。ダンジョン攻略の失敗、成功……。
 身近な出来事として、あたしの頭に入ってくる。
 現状、ダンジョンの中には様々な物資があるため、とにかく一度ダンジョンを攻略してみたいとどの国も考えているようだ。


 ……そうだよね。食料さえあればだれでも強くなれる。国の兵士さんに食べさせれば、それだけで強くなれる。
 攻略の理由としては、それだけでも十分だよね。


 ドアチャイムが響いて、あたしはすぐに部屋を飛び出す。
 咲葉があたしの家にやってきて、急いで出迎えに向かう。
 学校ですでにやることを決めている。迷宮への移動はすぐだ。
 昨日と同じ、第四階層へと移動する。
 違うのは、今日はあたしが後衛で指示を出すことくらいかな。
 咲葉はあっ、と短く声を出す。それからポリポリとを頬をかいた。


「どうしたの?」
「いや、昨日……持ち帰った肉のことを思い出してね」


 表情があまりよくない。おなかでも壊しちゃったのかな?


「……この前夕食を一緒にしただろう?」


 咲葉の問にあたしも思い出した。


「そうだ、今日は桃お姉ちゃんもいるから四人で食べない?」


 桃お姉ちゃんが話していたんだ。
 よかったらどう? って感じで、それを聞くと咲葉は悩むように髪をいじって頷く。


「……まあいいと言ってくれるのなら参加したいけど」
「もちろんだよ。兄貴も桃お姉ちゃんも喜んでくれるよっ」
「そう、かな。久しぶりに桃さんとも話したいことがあったし、それじゃあ参加しようかな」


 咲葉と桃お姉ちゃんは結構仲が良い。
 なんでも、通じるところがあるのだそうだ。よくわかんないけど。


「って、そうじゃなくてね」


 咲葉は頬をしばらくかいて、それからこちらをちらと見る。


「この前食べさせてもらった夕食のお肉と、昨日持ち帰ったボアピグの肉の味がまったく同じだったんだよ」
「え?」


 それってもしかして。
 あたしの賢い頭脳が瞬時に答えを出してくる。


「まさか、兄貴っ。人にあんなに色々言っておいて、自分はこっそり入っているの!? むかつくー!」


 何が興味がないだよ兄貴! もしかして、実は一人で強くなるためにこっそり入っていたの?
 あたしがぶつぶつと文句をつけていると、咲葉が苦笑する。


「まあまあ」
「まあまあ、じゃないよっ。帰ってきたら抗議しないと!」
「可能性はあるかもしれないけど、けど、そうなると私たちもダンジョンに入っていることを伝えないといけないんだ」
「なんで!?」
「どこで、この肉の正体を知ったのか聞かれるから」
「はっ!?」


 気づかなかった。危ない危ない。
 兄貴が勝手に入っているんだから、約束なんて知ったことではない、としてもいいけど命の危険は変わらないんだから、結局そこで一悶着起きる。
 兄貴は頑固でわがままだからね、大人のあたしが譲らないといけなくなる。


「……まあ、別にお互いに目くじらたてるようなことでもないと思うけど、ね」
「なんで!? あたし、何度も止められたんだよ?」
「けど、ならなんでお兄さんは夕食に肉を提供しているんだろうか? 最近、毎日なんだろう?」
「……それは。……今月ピンチなのかな」


 一応、両親が残したお金とかもあるし、最近だと兄貴はよくアルバイトもしているといっていた。
 でも、突然アルバイト始めたってことは……。いや、でも祖父母もたまにお金くれるし……。


「それもあるかもね。……いや、そうなるとご一緒するのはよくないかな?」
「い、いや大丈夫だと思う」


 咲葉と一緒に夕飯を食べたいから、あたしは即座に否定する。


「私が考えたのは、沙耶がダンジョンに入りたがっているのを知って、肉体のレベルアップを支えようとしてくれているのかな、と思ったんだ」
「……兄貴、が?」


 ……なんで、またそういうことするのかな。
 うれしいけど、うれしいけど……あたしは自分の力だけで強くなったって、兄貴に認められたくてこうやって潜っているのに。


「ただ、それでもお兄さんが戦闘をこなせるくらいには強いってことの説明にはならないんだけどね」
「それはまあ、大丈夫なんじゃないかな? 兄貴喧嘩とか得意だし」
「そういう次元の話ではないと思うが……まあそうだね。深く考えてもわからないよ」


 もやもやとした心のまま歩いていると、木々の中に鈍い色の光を放つ箱を見つけた。


「……と、宝箱があるね」


 第四階層に入ってから、珍しく魔物と遭遇していない。
 森の中に隠されるようにあった宝箱に近づいて、鑑定を行う。
 薬草、だそうだ。使い方もよくわからないし、とりあえず何があるのかとリトライをしていく。
 ……薬草ばっかり出てきていたが、???という文字に慌てて魔法を止める。
 なんだこれ。初めてみたものだ。


「何か、いいアイテムを見つけたのかい?」


 宝箱へとのぞき込むように視線をやる。
 とりあえず、これは開けてみないとわからないかな。
 咲葉に返事をする代わりに、あたしは宝箱を押し開けた。







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