オール1から始まる勇者

木嶋隆太

妹視点 第三話

 
「……それにしても、魔物がでないな」


 あたしの部屋へと向かいながら、咲葉がダンジョンを見回した。
 確かに、まったくでない。はっきりいって拍子抜けだよ。


「いくつか、魔法も習得したし、ためして見たいんだけどなぁ」
「まあ、出ないのならそのほうがいいさ。どのくらい強くなったのかはわからないからね」
「それを確かめるために、魔物が出て欲しいんだけどなぁ……」


 これじゃ、せっかく習得した魔法が意味ないよ。
 あたしがここまでに覚えたのは魔法ばかりだ。あたし、剣が使いたいのに!
 部屋に戻ってくると、時間は五時を少し過ぎたところだ。
 まだ兄貴は戻って来ていない。


 なんだ、もう少しいても大丈夫かなと思ったけど、どうせ中にいても桃を食べるだけだしね。
 結局、あたしのダンジョン攻略は桃を食べるだけで終わってしまった。
 ダンジョン攻略まで……地味だなぁ。






 次の日。学校が終わって全力で家へと戻った。
 もちろん、咲葉も一緒だ。
 兄貴が帰って来る前、に急いでダンジョン攻略を進めないとならない。
 とりあえずは、昨日獲得した魔法の確認と、今日をどうするかだ。
 準備を進めながら、あたしたちは、学校でも話していた一つの疑問を口にしていた。


「今日の体育の時間、おかしくなかったかい?」
「ねっ! あたし、最初に少し走って全然疲れなくてびっくりしちゃったよ!」
「私もだよ。……どうやら肉体の強化はかなりできたみたいだね」
「うん! これなら、魔物が出てもしゅっしゅっと倒せるよ!」


 だから、お願いだから魔物さん早く出てきてよ。
 あまりにもお預けをくらっていたあたしがが、いい加減ため息をついていると、


「昨日、ネットで調べていたんだけどね」
「なになに?」
「ダンジョンに潜っている人たちが、掲示板とかで色々話しているんだよ」
「ダメなんじゃないの?」


 そんなのがばれれば、警察に捕まってしまうだろう。
 誰かと共有したい気持ちは十分わかるけどね。


「まあ、ダメだよ。けど、その人たちの情報と、公式の情報をまとめてみねわかったことがいくつかあるんだ」
「さすが咲葉だねっ、それで!?」
「まずはダンジョンの歩き方からだね。ダンジョンでは必ず地図を作るか、階層ごとに移動できる魔法を見つけること、かな」
「うへぇ、あたし地図のメモは面倒だよ! ていうか、東西南北もわかんないし!」
「だからそれは私がやるよ。とりあえず、ダンジョンの歩き方で気をつけることはそんなところかな。迷子になって戻れないじゃ、馬鹿らしいからね」


 確かにそうだけど、そうなると結構面倒だよね?
 ゲームなら地図とかあるし、ダンジョンから一発で脱出する魔法もあるけど……あたしたちの魔法はどうかな?


「あたし、攻撃的な魔法はあるんだけどなぁ」
「性格が反映されているのかもね」
「誰が攻撃的なのー!」
「元気な性格のことだよ。無邪気で、まさに子どものようなその性格。うん、最高だよ。可愛いよ沙耶」
「うー、あんまり抱きつかないでよ」


 そう素直に言われると照れくさい。ていうかそんなに強く抱きしめるのはやめてほしい。
 頬擦りをしてきそうだったので、すっと逃げ出して、そのままダンジョンへの階段へと向かう。
 一階層をひたすら歩いていくと、木々の間に同じような色の宝箱を見つける。


「おっ、咲葉! 宝箱あるよ!」
「そうみたいだね。ただ、うっかり開けないほうがいいと思うよ」
「え、なんで?」
「宝箱の中には罠がある場合もあるんだよ」
「え、そうなの?」
「ああ、だから鑑定できる魔法があればいいんだけどね……」


 鑑定できる魔法……。あっ、そういえば、昨日調べてる時にあったかも。
 あたしは昨日名付けた、アナライズの魔法ならわかるかも。
 これで、あたしは自分の魔法の把握ができたんだ。だから、もしかしたら……


 言う前に試し打ちをしてみる。
 アナライズを宝箱へと放つ。すると、宝箱の情報が脳内へと流れ込む。
 宝箱、再復活まで残り0分00秒。
 ハズレ。


「むっ、これハズレの宝箱みたい」
「え、わかるのかい?」
「う、うん」
「もしかして、鑑定魔法を持っているよ?」
「そうだよ。だから、もうあたしは自分が持ってるスキルも把握しているんだ!」


 そういってピースをすると、彼女はこくこくと頷く。


「まあ、ハズレじゃ仕方ないね」
「あと、リトライっていう魔法があるよ」
「それはどういう効果なんだい?」
「使い方はわかんなかったんだけど、いまわかったよ!」


 鑑定で判明したときは使えない魔法だなぁって思っていた。
 効果は、作り直すとかだったから何かと思ったんだけど……宝箱に使えばいいんだと思う。


「リトライ!」


 魔法を放つと、ゆっくりと魔法の泡が宝箱に当たる。


 もう一度鑑定を使うと、時間に変化はなかったが、中身が変わっていた。
 タートルソード。それをさらに調べると、頑丈な剣であることくらいの情報がでた。


「どうだい? 変わったかい?」
「う、うん! 武器見たいだよ! 開けていい!?」
「いや、まだ慌てないほうがいいよ。もしかしたら、もっといいものがあるかもしれない」
「な、なるほど! それじゃ……」


 と、それからしばらくチェンジしていたけど、タートルソード以外いいのがない。


「さ、咲葉。タートルソードが出ないよぉ……」
「……ごめんね。どうやらあれが一番のレアだったみたいだね」
「うぅ、絶対引いてやる」
「がんばってね。とりあえず、桃でも持ってくるよ」


 なんだか少し頭が痛い時がある。これは魔法の使いすぎなのだろうか。
 桃を食べれば少し回復する。魔力が減って、それを回復できているということかな?
 とにかく、もう一度武器を出すまで絶対やめない。桃を片手にしばらくやっていると、タートルソードという文字が見えた。


 そこで魔法を止める。あ、危ないな! 出るなら出るっていってよね!
 もう一度やり直しそうになってしまい、慌てて魔法を止める。
 文句をつけながら、その宝箱へと手を掛ける。
 開くと同時に強い光が生まれる。
 宝箱から弾き出されるようにして一振りの剣が出現する。
 青い鞘に収まったその剣をあたしは咲葉に差し出す。


「はい、咲葉!」
「ん? どうしたんだい」
「咲葉にあげるよ!」
「ど、どうしたの? まさか、沙耶に熱が……」
「なんでさ! あたし、まだ剣が必要な魔法は持ってないけど、咲葉は剣が必要な魔法ばっかりみたいだからね!」
「……そうなんだ。沙耶、お礼にぎゅってして、頭を撫でてあげるよっ」
「それ咲葉がしたいだけでしょ!」


 両手を広げて追いかけてくる彼女から必死に逃げる。
 咲葉の女好きもたいがいにしてほしいものだ。
 と、途中で彼女が足を止める。


「そういえば、私は家で魔法の把握をしようと思っていたんだが、なにも使えなかったんだよ。いま、アナライズで教えてくれないかい?」


 そういえばそうだった。
 あたしは彼女にアナライズを使用する。
 アナライズによってわかるのは、どんな魔法なのかだけなんだよね。
 魔法名は自分で考える必要があるから、簡単に説明できないのが面倒なんだよね。
 どうせだったら、魔法名もあたしが考えて伝えてしまおうか。


「全部で四つあるんだね」
「ああ。一つだけ、たぶん把握できているのは発動と同時にダンジョンの次の構造がわかる魔法かな。家に帰ってから使ってみたら、自宅の構造がわかったからね」
「うん、そうだね。名付けて、サーチエリアだね」
「名前についてはなんでもいいよ。あとの三つはなんだい?」
「むっ、名前は大事なんだからね。次はダンジョンワープだね」
「ダンジョン内を移動、できるのかな?」
「そうみたい。行ったことのある階層に移動できるって!」
「それは探索する時に便利だね」


 これがあれば面倒な地図作成をしなくてもいいしね。
 咲葉の負担が減るからあたしは大歓迎だ。
 それにしても、良い魔法が多いね。


「残り二つは、スラッシュと、乱斬らんざんだね」
「その二つが剣を必要とする魔法かな?」
「魔法でいいのかな?」


 魔法というより技とかのほうが正しい気がするけど。


「いいみたいだよ。自分がレベルアップなどで獲得した能力は、すべて魔法。誰でも使用できる、武器などについているものは、すべてスキルなんだそうだよ」
「そうなんだ……」


 となると、彼女のも魔法なんだね。


「それで、魔法はどんなものなんだい?」
「スラッシュは、剣を大きく振る技かな。乱斬は、攻撃回数を増やす、みたい」
「そんなコマンドバトルでもないのに、なんというかイメージしにくい魔法だね」


 アナライズでわかっても、これでは不親切すぎる。
 もっとわかりやすくしてほしいけど、あとは使ってみたほうがいいと思う。


「魔物こないかなー?」
「不安はあるけど、さすがにここまでくると戦ってみたいね」


 咲葉が剣を持ち上げる。結構な重量があったけど、咲葉には軽いようだ。
 となると、やっぱりあたしの体は剣士よりも魔法使いよりなのかな。
 まだ時間はあるし、次の階層に行ってみようかな。
 この階層で魔物が出ないのなら、先に進んでみるしかない。


「咲葉、ダンジョンワープ使えるし、次の階段に行ってみない?」
「そうだね……第二階層にいけば、もしかしたら魔物も出るかもしれないしね。けど、無理そうならすぐに逃げようね」


 咲葉も少し気が大きくなっているみたいだけど、それでもきちんと釘を刺してくる。
 あたしはこくりと頷いて、それから第二階層へと向かった。





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