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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

妹視点 第二話

 兄貴が帰宅するのはいつもだいたい午後六時ごろだ。 兄貴は学校帰りに本屋やゲームショップに寄ることが多いから、まだまだ時間に余裕はあるけど。
 自転車をこいでいたあたしは、信号で停まったところでスマホを確認する。
 と、隣に並ぶ咲葉がこちらを見る。


「色々調べたけど、とりあえず沙耶のダンジョンに食材があるかどうかを調べてみるといいかもしれないね」
「食材?」
「果物とかがダンジョンになっている場合もあるようだ。まずは、私たちは魔物と張り合える体作りから始めないといけないからね」
「それで、レベルアップってわけだね!」


 そういえば、そんなことテレビで言っていた気がするかも。
 咲葉はそのあたりしっかりと調べてくれている。相談してよかったよ。


「まずはレベルをあげて、筋力などの増加を目指して、運が良ければ宝箱から武器も回収する。まあ、そこまで理想通りにいくかはわからないけどね」
「了解だよ! それじゃあ、とりあえず帰ろうか!」
「その前に、私の家によって靴を持っていこうか」
「え、どうして?」


 咲葉の足は別に二本だしたりると思うけど。


「万が一、お兄さんが早めに帰ってきたら問題じゃないか。玄関に靴を一足置いておけば、騙せるだろう?」
「なるほどっ、咲葉あったまいー!」
「それほどでもないよ」


 というわけで、あたしたちは咲葉の家に向かう。
 咲葉が靴をとってから一緒にあたしの家に向かう。
 玄関の鍵をあけると、まだ兄貴は帰っていないようだった。
 こそこそと、忍者になった気分でつま先歩きをしていたら、


「足の指がつりそうだよ。兄貴のせいだよまったく!」
「誰もいないんだから、そんなこそこそしなくてもいいんじゃないのかい?」
「気分の問題だよ、気分の」
「気分で人のせいにされたらお兄さんも大変だね」
「兄貴なら許してくれるもん」
「甘いね、お兄さんは。気持ちはわかるけど」


 部屋に到着してぱたんと扉を閉める。
 兄貴が昨日置いていたダンボールの山は一応、入れないようになのだろう。


「これは……まさか本当に」


 驚いて目を見開いている咲葉。……もしかして、あたしのこと信じてなかったの?
 じーとみていると、こちらに気づいて頭を撫でてくる。


「いやいや、疑っていたわけじゃないよ。ただ、もしかしたら、幻覚を見てしまった、という可能性もあるじゃないか」
「うーん、ならまあいっかな!」


 疑っていたわけじゃないなら許す!
 あたしが彼女にぐっと親指をたてると、彼女はますますあたしの頭を撫でる手が早くなる。


「あー、かわいいよ。沙耶、もうこのままお持ち帰りしたいよ」
「咲葉の家のほうが学校いくの近くていいんだよね」
「それなら今日は私の家に泊まろうか。両親もあまり家には戻ってこないことだしね」
「でも、それは休日じゃないとダメだよ!」


 本当は中学校の決まりでお泊まりとかは禁止されているけど、ばれなければいいのだ。
 あたしの提案に咲葉が悩むように顎へ手をやる。


「それじゃ、今週末は――」
「うちに来てよ! 兄貴をうまく追い出せれば一日ダンジョンに入れるし!」
「うん、そうだね。私はそれでも一向に構わないよ」
「やった、兄貴に話しておこっと!」
「楽しみだね。カメラの用意をしておかないと……」
「え、なんで?」
「ああ、気にしないでもいいよ。それより、これがダンジョン、か」


 彼女がじっとダンジョンへと視線をやる。
 ……改めて見ると少し威圧感というかオーラのようなものを感じるね。


「中に入っても、無理には戦わない。魔物がいたら逃げることを優先にする、いいね?」
「わかってるよ。痛いの嫌だからね!」


 ダンボールを一緒にどかしていく。ていうか、妹の部屋の圧迫感を増すようなことしないでほしいものだ。
 ぶつぶつ文句をつけながら、とりあえずドアが開くような形になり、あたしたちは顔を見合わせる。
 咲葉は冷静で、現実的な人だと思う。
 それでもわずかに興奮した様子なんだから、あんなに冷めた態度の兄貴が異常だ。


「それじゃ、入るかい?」
「うん!」


 お互いに何度か顔を見合わせた後、それから緊張とともに一歩を踏み出す。
 一瞬だけ、暗かった。
 それからすぐに階段があって、わわっと踏み外しそうになったあたしを咲葉が止めてくれる。


「気を付けてね」
「うん、ありがとね咲葉」


 階段をおりていく。別に学校の階段とかと変わらない。
 あがるのが面倒だなー、なんて考えているとやがて視界が開けた。
 ぶわっと目が大きくなったように思えた。
 それほどまでに広大な緑色の大地が、あたしたちを出迎えてくれる。
 涼しい風が肌をなでる。草木が揺れ、あたしはしばらく放心していた。


「……どういう、構造なんだろうね」
「そんなの、なんでもいいよ! わー、これがダンジョンなんだ! あたし、早く剣とかでばっばっと! 敵を切り裂きたいよ!」
「そううまくはいかないだろうさ。……それよりも、まずは体を鍛えるほうが先、だろう?」


 そうだねっ。確か食べ物だっけ。
 周囲をきょろきょろとみる。……食べ物もそうだけど、魔物もいないかな。


「ダンジョンの魔物って普通に歩いているのかな」
「ちょっと待ってね。……ふむ、ダンジョンの魔物は自分たちの周囲に出現するようだ。ダンジョンによって一度に出る魔物であったり、出る頻度などは違うようだね」
「そうなんだ?」


 咲葉がスマホで情報を見ている。
 たぶん、冒険者学園、とかいう場所のダンジョン情報って奴だろう。
 並んでダンジョンを歩いていると、果物を発見することができた。


「あっ、あれ桃みたいだよ!」
「そうだね。食べてみるかい?」
「おいしそう!」


 一目散に駆け出して木になっている桃へと近づく。
 うーんと手を伸ばしてみるが……届かない。
 ジャンプすれば、ぎりぎり届くかも……と思っていたら、咲葉がぴょんと跳んでとってくれる。
 ……別に、あたしちっちゃくないし。
 あたしが不満げに彼女を見ると、それはもう嬉しそうな顔をしている。なんなのさ!


 皮を剥こうと思ったけど、うまくとれない。
 咲葉はしばらく桃を眺めていると、


「桃はね、皮も食べられるんだ。だから、もう一緒に食べてしまおうか」
「えー、皮ごと食べておいしいの?」
「問題ないよ。皮にもいろいろと体に良い栄養があるからね。ほら、産毛も少し磨けばとれるだろう?」
「あ、ほんとだ。……それじゃ、おいしー!」


 甘かった。今までに食べたことのある桃とはくらべものにならないほどの甘味だ。
 これならいくらでも食べられるし、桃はたくさんなっている。体の強化は難しくなさそうだ。


「沙耶、なんだか体が変な感じがしないかな?」
「……変な感じ?」


 あ、確かになんだか少しいつもと調子が違うような。
 力が少し湧き上がる感覚。……これが、レベルアップ、なのかな!?
 あたしの期待した目をみたのだろう、隣にいた咲葉が頬を赤らめる。


「もしかしたら、考えている通り、かもしれないね」
「や、やった! それじゃあ、なんかこうかっこいい剣技とか使えるかな! はっ、スラッシュバースト!」


 思いついたゲームの技名を叫んでみたが、何も発動はしない。
 ま、まあまだまだだよね。
 あたしがしばらく力について考えていると、隣にいた咲葉が顎に手をやる。


「なんだか、心の中に力を感じる、ね」
「……え?」
「けど、なぜか私のは発動してくれないよ。もしかしたら、条件があるのかもしれないね」
「心の中?」
「うん。あまり、はっきりとはしないけれどね」


 咲葉もまだ把握しきれていないようで、首をひねりながらだ。
 あたしの中には何か、あるのかな?
 ……すると、なんだか感じ取れるものがあった。


「はっ!」


 その力をイメージしながら片手を向ける。
 眼前に出現した火がまっすぐに放たれる。
 ……これは、火の魔法!?
 飛び出した衝撃に思わず転びそうになる。あたしが慌てて姿勢を戻すと、咲葉が目を見開いていた。
 腰に手を当てて、あたしはそれからピースを作る。


「……すごい、ね。まさか、本当に魔法なんてものがあるなんて!」
「う、ふふふっ!」
「ああ、沙耶の笑い方が気持ち悪いのがまたかわいいよ……」
「魔法! あたし、魔法に目覚めちゃったよ!」


 あたし、あんまり魔法は好きじゃないけど、一つくらい魔法が使えても文句は言わないよ。
 魔法剣士とか、そういうのも好きだしね。
 そして、魔法を放つのならば、名前が必要だ。
 あとは、掛け声とかも考えないといけない。はっ! とか、とりゃー! とかだとかっこ悪い。


「ヒートバレット……うん、今の魔法名はこれに決めた」
「……沙耶がすんなり英語を使っているなんて。よく出てきたね」
「バカにしないでよねっ。あたし、単語くらいなら知ってるから!」


 それをつなげて文法とかができないだけだよっ。
 リスニングだって苦手じゃない。前に駅前で外国人の人に声をかけられたとき、なんとなくわかって道案内してあげられたし。
 ていうか、あのときは単語とジェスチャーだけでどうにかなった。英語って、実はあんまり難しい文法必要ないんじゃないのかと思った瞬間だ。


「とりあえず、これで魔物が出たときにどうにかなりそうだね」
「うん、それじゃあ……あとは」
「桃を食べまくることだね」
「……おなかたぷたぷになりそうだよ」
「大丈夫だよ。そのくらいがぷにぷにとして私は好きだよ」
「あんまり太りたくないの!」


 けど強くなるためには頑張らないと。
 もう一生桃は食べたくないっていうくらい、一時間の間休みながらもずっと食べ続けた。
 冒険者の人たちは、まずはこうやって体を鍛えているのだろうか。地味だ。



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