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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第一話

 2032年。五月二十日、日曜日。


 俺は異世界から戻ってきた人間だ、といえばきっと頭のおかしいやつだと思われるだろう。
 だけど俺は嘘つきでもなければ、頭が狂っているわけでもない。やばい薬を決めているわけでもない。
 俺は紛れもなく、異世界からこの世界へと戻ってきた人間だ。


 だらだらと、ソファに腰かけながら俺はテレビを見ていた。
 二週間ほど前に、俺はこの世界に戻ってきて、戦いのほとんどない生活。いや、まあ、こっちの世界に戻ってきてからも色々と面倒事はあるんだけどね。
 とにかく、比較的に平和な生活だ。やっぱり、日本はいいものだ。
 テレビの電源を消そうとリモコンに手を伸ばした俺は、そのニュース速報を見てしまう。


『ただいま、世界各国ではダンジョンと呼ばれる地下迷宮が発生しております。その数はとても把握できる量ではありません! 日本ではおよそ三年前からその存在を発見し、対策のほうが行われていたそうです! これからダンジョンについての発表が国より行われるますいましばらくお待ちください!』


 ソファから崩れ落ちそうになる。迷宮、なんですかそれは。
 俺の平和がその言葉に強烈に破壊されたような気がした。全身を殴りつけられたようなショックだ。
 こっちの世界ではありえないその言葉に思わず眉根を寄せた。


 テレビに映るアナウンサーが、必死に内容を読み上げていく。
 焦りのようなものがあるのはテレビ越しでもわかる。俺もたぶん同じ立場なら舌を噛んでいたし、口内炎に悩まされることになっていたと思う。


 魔物が存在するダンジョン、入り口はそれこそ民家のドアのようなもの……だそうだ。
 ……俺の知っている迷宮とは少し違うが、それでもあれは、俺が見てきた異世界での迷宮に酷似している。
 いやいや、ありえないだろ。なんでこんなことになってんのよ。


 まさか、という感情が先に浮かぶが、テレビの端のほうでは、迷宮の入り口が映し出されていた。
 嘘じゃない、本物だ。これがどっきりならさっさと大成功という看板を出してほしい。即座にクレームの電話を延々とかけ続けるから。


 ニュースだけでは情報が少ない。スマホで検索すると、急速に更新されていく掲示板があった。
 他にやることがないのかよとばかりに、がんがんコメントが書かれていく。
 そして、迷宮を見つけたと思われる一人の投稿者が、おそらくは軽い気持ちでこうコメントをしていた。
 いまからちょっと入ってみる。


 迷宮の恐ろしさ……というか危険さを知っている俺が急いでコメントをしたが、俺の制止なんてまるで聞いてくれない。
 そんなコメントのあと、急激にその掲示板は静かになった。みんなが投稿者の次のコメントを待っているようだった。
 しばらく待っても何も来ない。
 ……何がどうなっているのか。何の反応もないと、今度は再び危険視するような声がいくつもあがる。


 まるで話が前に進まない。同じところをぐるぐると回るように、コメントは迷走中だ。
 と、テレビのほうで動きがあった。


 何やら、別の場所で緊急会見が開かれていた。LIVEという文字が書かれているから、生放送なんじゃないだろうか。
 官房長官や防衛大臣に並ぶように、一人の男がそこに立っていた。
 二人はまだわかるが、彼は一体誰だ? 全員の視線を受けたように官房長官が口を開いた。


『彼は、五年前に完成したメガフロート内にある学園の学園長を務める者だ。今回は、ダンジョン、あるいは迷宮に関して、彼の口からいくつか発表を聞いてもらいたい』


 そういうと、自然とカメラは彼に集まっていく。学園長はこほんと軽い咳ばらいをした。
 見た目はかなりいかつい印象を与える。
 体つきは非常によく、鍛え上げられた体がスーツを破りそうであった。


『まずはみなさま。ダンジョン出現に関して、不安に感じる必要はありません』


 おそらく全員が感じているであろうそれを口にする。
 ぱしゃぱしゃとカメラがいくつもきられる。


『とはいえ、その根拠を話さなければみなさまも落ち着くことはできないでしょう。その前にまずは私の発言を裏付けるための前提を話しておきましょうか』


 彼はにやりと笑った。


『私は学園長ですが、普通の学園の学園長ではありません。迷宮を攻略するために創設された特殊学科の学園長です』


 ……特殊学科?
 みんなが感じていたであろう疑問に対して、彼は再び笑みを濃くする。


『特殊学科の目的は、ダンジョンの攻略、ですよ』


 ダンジョン攻略を目的とした、学園。
 初めからそれが目的だったのではない、と思う。メガフロート着工はずっと前だ。
 ダンジョンが発見され、それから学園に無理やり特殊学科というものを作ったのか。ある意味、動き出しが早い。


『私が務める学園には、世界で最初の迷宮がありました。そこで、私たちは日々体の強化に努めてきたんです。ですから、我々には、迷宮というものがどういう場所なのかをはっきりと把握しているのですよ』


 ……それっと、ずっと前にこの世界にも異常があったってわけか?
 俺が異世界に召喚されるよりもずっと前、か。


『これでわたしの言葉を少しは信じてもらえると思い、話して行きましょうか』


 彼はすっと息を吸い込む。


『学園にはすでに迷宮があり、我々は細心の注意を払い、調査をしています』


 ……さっきも言っていたが、もうその時点で驚きだ。


『迷宮には魔物、モンスターと呼ばれる存在がいますが、それらは決して外には出てきません。ですから、みなさまの生活は特別変わることはありません』


 それを聞いた瞬間、掲示板のコメントがまた一気に増える。
 安全ならばとりあえずはいいや、という感じである。


『迷宮の外は安全ですが、中に入ってしまえば危険な場所です。銃火器を持った自衛隊員が、五人でモンスターに苦戦するような場所、といえばその危険さはわかるでしょうか?』


 ああ、十分にわかる。
 というか、人間相手なら銃火器は有効な武器だが、魔物相手となるとあまり効果がないように思える。
 あいつらの体は銃弾を跳ね返すような頑丈な奴もいるのだ。
 そういう相手に、まともに銃弾がささるとは思えない。


『ですから一般への解放はこちらが認めるまでは行えません。勝手に入った場合はそれなりの対応を行ないます。また、みなさまはダンジョンを発見した場合、速やかに警察への連絡を行ってください』


 質問はいくつも飛び交う。
 だが、学園長は現段階では伝えられないということであった。
 いずれ情報は内閣府のホームページ、または専用のホームページを用意して公開か、こういった場で伝えるそうだ。


 一方的に会見は終わりとなる。彼らもまだ仕事が山ほどあるのだろうけど、それにしたって情報が少なすぎるっての。
 とりあえず、入手できる情報がまとまり、俺は再びソファに横になった。


 ……俺たちの国では以前から迷宮の存在が知られていた、か。
 なんというか、どっと疲れてしまった。
 状況の異常さは理解している。たぶん、この世界で比較的落ち着いている側の人間だ。
 そんな俺でも、心臓が脈打つのはわかる。興奮というよりかは、恐怖のほうが大きいか。
 まあ、その最大の理由は、魔物に対しての怯えではない。そんなものはないに等しいんだけど……妹がなぁ……。


 ……ゲーム大好きな俺の妹が、この事実を知った場合のことを考えて、だ。
 ネットの掲示板を見てもわかる。入ってみたいという声がたくさんあるんだから、そっち側に流れるのはおかしくない。


 なぜこの人たちは戦闘力があるわけでもないのに、入りたいというのだろうか。
 俺は異世界で得た力を今も持っている。だから、迷宮なんて入ってもまあ、多少は戦えると思うけど。


 妹の沙耶さやも絶対入りたい! と叫ぶはずだ。そんなことになったらどうやって止めるべきか。
 なんて考えていると、迷宮のほうを映しているカメラに、制服を着た人々が映っている。
 彼らは学園の特殊学科の生徒だそうだ。迷宮の調査にやってきた彼らへ、カメラが近づく。


 いくつかの質問を重ねていたが、その人たちは軽く視線をかわしてからそれぞれ片手に様々なものを作り出す。
 氷や、風や火……何もない手の平にそれを作り出して見せると、カメラ釘づけとなる。
 ……魔法、あるいはスキルか。
 どちらにせよ、特殊学科の人たちは異能を使えるというわけか。


『み、見てください! 彼女は今、氷を生み出しました! それは一体なんですか!?』


 そこまでは、あらかじめ予定していたようだ。
 氷を作り出した女性は軽く髪をかきあげる。
 年は俺とそう変わらない様子だ。


『これは魔法です。……私たち特殊学科の生徒――冒険者というのですが、みんな使える能力です。そして、この力は私たちだけではなく、世界全員に可能性があります』
『そ、それは……私にもですか!?』


 アナウンサーがマイクを近づける。にこりと彼女は微笑み、小首をかしげる。
 それなりの美人であったために、掲示板の話題は彼女へと映っている。
 ある意味ここの住民たちは幸せだな。


『もちろんです。迷宮内にいる魔物の討伐、あるいは魔物が落とす食材、迷宮内にある食材を食べることで、肉体のレベルアップが行われます。肉体の強化と、スキルの獲得が可能になります』
『ほ、ほんとうですか!?』
『はい、本当です』


 彼女の笑顔が無視されるほどに、掲示板の熱は高まっていく。きたー、とかもうコメントがすごいことになっている。あっという間にいっぱいになって、またいくつも乱立されていく。
 カメラマンたちも興奮しているのがわかる。
 さらに質問しようとしていたが、そこで彼女は申し訳なさそうに手をあわせる。


『あまり、時間もありませんので、調査のほうを開始しますね』


 そうして切り上げて、迷宮へと四人が入っていく。
 カメラはアナウンサーを映し、色々と情報をまとめていく。
 新しい情報で、インターネットもパンクしそうなほどだ。
 今、世界中がこんなことになっているのだろうか。


 額に手をやり、嘆息をした。
 ……国は、一般人に開放をするつもり、なんだろうか。たぶんそうだ。出なければ、わざわざ魔法が使えるなんてあんな風に情報公開はしない。
 法や、迷宮に入る冒険者という立場を確立し次第、一般人にも開放するんだろうな。


 死なないよう、なるべくアシストをして、そして迷宮をどんどん攻略させていくって算段か?
 俺の知っている迷宮は最深部のボスを討伐すれば、討伐者の自由になる。
 迷宮は一、二……と階層のように分かれていて、深く潜れば潜るほど魔物が強くなっていくのだが、その魔物自体をまるで出現しないようにしたり、迷宮を自由にいじれるのだ。
 そうすれば、肥沃の土地を確保することができる。


 ……すべて俺が行っていた異世界での話だが、そう間違いだらけでもないはずだ。
 一般人に開放して、迷宮を攻略させる。
 攻略した迷宮の所有権を国が買い取るなどして、国が確保、あるいはそういう法律を作っておくことで、無数の土地を確保していく。
 島国として土地の少ない日本でも、迷宮の分でいくらでも増やすことができるようになる。


 ……ああ、くそ。
 考えたいのはこんなことじゃなくて、この異常についてだ。
 迷宮発生は、予想できていたことなのだろうか。


 それを完全に把握している奴が、一人だけいる。
 ……いや、そいつは人間じゃないから人ではないか。
 俺が行った異世界や、この世界には、管理する神様のような存在がいる。


 それが大精霊だ。彼らは、俺ら人間を勝手に利用してはよその世界を救わせにいったり、まあ色々と面倒なことをしたりするやつらだ。
 俺は、そいつに連絡する手段を持っている。この世界の大精霊であるクワリに脳内で連絡をする。


 異常についての説明を求めようと思ったんだが……あれま、返事がない。
 いつもは案外すぐに返事をしてくるのだが、今回はまるでない。
 おい、どうなっていやがる。居留守してんじゃねぇぞっ。


 怒鳴ってみたが返事がない。寝ているか、本格的に拒否したか。
 大精霊はまたあとにしようか。
 とりあえず、沙耶の奴がこのニュースを見ていないことを祈っていよう。
 ドタバタ。と階段のほうが騒がしい。
 リビングへと駆けこんできた沙耶は、満面の笑顔に興奮を混ぜ。


「兄貴、なんかあたしの部屋にドアみたいなのができてるよ!」
「……」


 なんて最悪なんだろうか。



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