オール1から始まる勇者
プロローグ
2029年。四月十八日。
「この日本で、一つの迷宮が確認されました」
総理大臣は官房長官の発した言葉に自分で命じておきながらも、未だに実感はわかない。
この部屋にいる皆が、その言葉に首をひねり、あるいは理解不能といった顔をしている。
全員を集めた張本人でありながらも、いまだその現実味のない出来事にめまいのようなものを感じていた。
総理大臣が官房長官に視線を向けると、彼は重々しい顔で小さく頷く。
長いテーブルには閣僚が席に着席し、それぞれが自由に座っていた。
外はもうすぐ夕方へと差し掛かる。
「迷宮、あるいはダンジョン……その存在が国内で一つ確認されています。……どうやら各国にもいくつかぽつりぽつりと見つかっているようですが、現在はまだ国民への公表は避けている状況です」
閣僚を集めた会議。
内容は、官房長官が言ったようにダンジョンについてだ。
馬鹿げている、ありえない、そんな顔をしている顔がいくつもある。
この状況を受け入れているのは、防衛大臣、官房長官、総理大臣の三名のみだ。
総理大臣は未だ現実味がないこととわかりながらも、映像を見てしまっていた。
「メガフロートに現れた迷宮についての映像です」
人工浮島は東京湾にあり、実験的に作られた場所だ。すでに完成し、一つの小中高の一貫校を作り人々が実験的に暮らしている場所である。
昨年完成したその島であるが、いまだ人があまり住み着いていない問題があった。
件の迷宮の入り口は、その学校内にできてしまっている。
詳しい説明はそのあとだ。
まずは現実を見せたほうが早い。
それこそ、数時間前に撮った映像を部屋に設置したモニターに映る。
部屋の明かりを抑え、大画面に堂々と映し出された映像には、駐屯地と家のドアのようなものが映し出される。
自衛隊員たちが武器を持ったまま、そのドアに注意を向けていた。
自衛隊員たちが、日付、時刻をカメラに伝え、中へと入っていく。
扉に入ってすぐに階段がある。外にいたときの映像は暗かったにも関わらず、中に入った途端に明るい。
この異常な構成にまずは一つ驚きの声があがる。階段を下りていく。
自衛隊員たちが銃器を構えながら進んでいき、そしてその一階部分についた途端、化け物のような声が響く。
襲い掛かってきたのはオオカミだ。ウルフ、と命名されたそれらとの交戦が始まる。
銃弾がウルフを打ち抜くが、数発程度は意にも介さず迫ってくる。
集団で後退しながら戦闘を行い、それから五分ほどかかりウルフを仕留めることに成功する。
一体相手に銃器を持った人間が五人がかり。どれだけ厳しい戦いであったのかはよくわかった。
魔物は一体ではない。すぐに第二陣が迫ってくる。
それからもしばらく戦闘は続き、いくらか負傷をしながら、調査をしていく。
「……これは、ゲームや何か映画の撮影、ではないのか?」
ぽつりと誰かがつぶやき、それを否定するように首を振る。
「これは現実で起きた出来事です。現在は、厳重に情報規制を行い、他国どころか我が国でも知っている人は数えるほどです。扉自体はうまくカモフラージュを行い、学園に通う生徒たちからも違和感のないようにしています」
「……」
総理大臣はそれらを聞きながらも、そう遠くない未来にばれることはわかっていた。
子どもが、黙っていられるはずもなく、自衛隊員にもうっかり口を滑らせるものもいるだろう。
どれだけ情報を規制したところで、いつかは外にばれる。
「……あの化け物のような生物は、なんだ? 死んだときに死体も何も残していないようだったが」
「そうですね。ウルフが落としたものはこちらです」
いくつかの写真が映し出される。
宝石と、肉の塊がいくつかあった。
「宝石は、価値はあるのか?」
「これはどうやら、宝石ではなく、不思議な力にあふれているようです。まだ解明はできていませんが、我々は魔石、と呼称しています」
「……マセキ?」
「はい。魔石については、まだ未知のことが多く、我々も判断がついていませんので、これ以上は伝えることができません。問題は、魔石ではなくこちらの肉のほうです」
「肉……。それは食べられるのか?」
ぽつりとつぶやいたのは、農林水産大臣であった。
彼が懐疑的な目を向ける理由はわかる。
未知の食材には何が含まれているかわかったものではない。
「そうなんですよ。食べられる、どころではなくむしろ食べる、べきなのです」
「どういうことだ?」
「こちらの肉を調べたところ、特に異常もなくなおかつ、狼の肉と非常に酷似していました」
「狼の肉……うまいのか?」
「味については保障できないようですが、問題はこの肉を食べたときの効果です」
「……腹を壊す、とかではないのか?」
「それが……肉体が進化するんです」
「……肉体の進化ぁ?」
話している内容を聞いていた総理大臣は、これが日本で起きていることとはまるで思えなかった。
初めこそ緊張した空気であったにも関わらず、話している内容が内容だけにどんどんそれが薄れていっている。
ごほんと、一つ咳ばらいをして、これが緊急の会議であることを意識させる。
「はい。実験的に肉をマウスに食べさせたのですが、そのマウスは以前よりもすべての能力が向上したとされています」
「……それは、人間にも……まさか効果があるというのか?」
「はい。……実際に科学者の一人が食しました。……そうしたところ、薄かった髪は伸び始め、今までは五キロのダンベルを持つのに苦労していた彼は、今ではあっさりと持ち上げることができていました」
「……なんだと」
自分の髪を触るように一人が声をあげる。
総理大臣はもう一度咳ばらいをして、皆の気を引き締めさせる。
「肉を得たいのならば、あの魔物を生け捕りにすればよいのか?」
「生け捕りは現状厳しいですね。麻酔の類は効かないようでした。……魔物たちの肉を得るには、ドロップアイテムで獲得するのが前提条件となります」
「……なるほど」
「そして、魔物を倒した人間の体にも異変が生じていました」
「……なんだそれは?」
「先ほどの魔物肉を食べたときと同じ現象です。どうやら、体自体が強化されているようで、我々はこれをレベルアップと命名しました」
「また、ゲームのような話だな」
「ですが、それがもっともしっくりくるものですからね。ダンジョン、モンスター、レベルアップ……これらの要素が危険なダンジョンを潜る際には必須となってきます」
話をそちら側にシフトする。
ダンジョン出現による危険な点についての分析、そして遠くない未来にダンジョンを潜るのが当たり前となっていくことを示す。
「……危険なダンジョンを、潜る必要があるのか? さっきの映像を見た限り、銃火器を持った自衛隊員が何名もいてようやく魔物を一体を狩れるような状況だろう? 潜る価値があるようには見えないが」
「価値は、この迷宮内部にあります」
とんとんと官房長官が紙をたたいた。
特に話すこともなく、総理大臣は重苦しい顔を作るだけであった。
「迷宮内部? ……何かあるのかね?」
「現在一階層と命名した迷宮の一階部分について土や壁、モンスター、草木……とにかく調べられるものを調査したところですが、どれもこの世界にあるものと遜色がないのです。今後、魔物をどうにか生息できない環境を作り上げられれば、日本は多くの土地を確保することができるようになります」
それに驚きの声があがる。
環境によっては、食物を育てることもできるかもしれない。
「さらに、魔石のような現段階では判断のつかないものがいくつもある可能性もあります。例えば、我が国では取れない貴重な鉱石が発見される可能性もあるし、今後のエネルギーの代替となるものがあるかもしれません。ひとまず一度、迷宮奥地まで調査を進める価値は十分にあると思います」
これから先のことを考え、ひとまず調査を進めるべきだと総理大臣は考えていた。
今回は、各省にこの事実を伝え、彼らに対しても認知しておいてもらうことを目的としている。
またこちらの判断では足りない部分の指摘も得られるかもしれない。
総理大臣は腕を組むようにして、じっと言葉を待つ。
沈黙を破るように、小さく声がもれた。
「……何か、感染症などの危険性などはないのか? モンスターなど、未知の生物が病原菌を持っているということは」
「モンスター自体は血や唾液といったものも、呼吸も何もありませんでした。一体だけ、子どものウルフを捕獲し体を調べましたが、特に異常な作りというのはありませんでした。……魔石が体の中にある、くらいですが、それで何か異常があるというのもありませんでした」
戦闘面以外での危険は去った。
いくらかの渋い顔は減り、どちらかといえば興奮した様子が目立つようになってくる。
「これを秘匿しているといったが、これからさらに増えてしまった場合は隠せないだろう?」
「そのときのために、秘匿しているのです」
「なんだと?」
「今後の可能性として、ダンジョンが増えることは十分に考えられています。だから、先に我が国はこのダンジョンを独占し、精鋭を育て上げるのです」
「精鋭、か」
「はい」
官房長官が微笑むようにして、片手をあげる。
モニターに映っているのは、ダンジョンが発生した学園だ。
「こちらの学園のほうで特別学科の生徒を募集します。危険な仕事をさせる前提で、年齢に幅はつけず、給料の支払いを行う。ただし、死んでも文句は言えないよう誓約書に記入もしてもらう予定です。私たちは、冒険者の育成、ということにしています」
文部科学大臣のほうから厳しい視線を向けられる。
「……それは、さすがに批判もあるのではないか!? 死ぬ可能性があるなんて、民衆やマスコミが黙っていないだろう? ましてや、子どももそこには入るのではないか?」
「死なないよう、最善の準備はする予定です。まずはこちらの食べ物を確保し、それを募集した生徒たちを入れた寮の食事で提供する。ある程度の訓練とレベルアップを確認後、第一階層から順に挑んでもらいます。目安としては、一ヵ月の訓練期間を与える予定です」
もちろん、ダンジョンに入る場合もすでに育っている精鋭と一緒に、と彼は付け足す。
そう、すでに自衛隊にはダンジョンでの狩りを行ってもらい、その素材を回収しレベルアップを行ってもらっている。
「生徒の募集は難しくはないか?」
「そのあたりは、おいおい考えていくとして、現在こちらで考えた理想だけを並べたダンジョンの有効活用です。ここから、さらにみなさんと会議を進めていき、現実的なダンジョンの利用を考えていくというのが今回の目的です」
「……そうか」
官房長官に、だいたいの説明を任せていたが、そこで話に区切りがつく視線が向けられる。
「……それでは、日本ダンジョンについて、これからみんなで話し合っていこう。具体的には、今後ダンジョンが増えたときの警察や自衛隊の対応、一般市民の扱い、情報の開示、ダンジョンに関する法律など様々だ。これからしばらくは、今以上に忙しくなることを覚悟しておいてくれ」
世界で初めてのダンジョンだ。
前例もなく、慎重になるのも仕方のないことだ。
「この日本で、一つの迷宮が確認されました」
総理大臣は官房長官の発した言葉に自分で命じておきながらも、未だに実感はわかない。
この部屋にいる皆が、その言葉に首をひねり、あるいは理解不能といった顔をしている。
全員を集めた張本人でありながらも、いまだその現実味のない出来事にめまいのようなものを感じていた。
総理大臣が官房長官に視線を向けると、彼は重々しい顔で小さく頷く。
長いテーブルには閣僚が席に着席し、それぞれが自由に座っていた。
外はもうすぐ夕方へと差し掛かる。
「迷宮、あるいはダンジョン……その存在が国内で一つ確認されています。……どうやら各国にもいくつかぽつりぽつりと見つかっているようですが、現在はまだ国民への公表は避けている状況です」
閣僚を集めた会議。
内容は、官房長官が言ったようにダンジョンについてだ。
馬鹿げている、ありえない、そんな顔をしている顔がいくつもある。
この状況を受け入れているのは、防衛大臣、官房長官、総理大臣の三名のみだ。
総理大臣は未だ現実味がないこととわかりながらも、映像を見てしまっていた。
「メガフロートに現れた迷宮についての映像です」
人工浮島は東京湾にあり、実験的に作られた場所だ。すでに完成し、一つの小中高の一貫校を作り人々が実験的に暮らしている場所である。
昨年完成したその島であるが、いまだ人があまり住み着いていない問題があった。
件の迷宮の入り口は、その学校内にできてしまっている。
詳しい説明はそのあとだ。
まずは現実を見せたほうが早い。
それこそ、数時間前に撮った映像を部屋に設置したモニターに映る。
部屋の明かりを抑え、大画面に堂々と映し出された映像には、駐屯地と家のドアのようなものが映し出される。
自衛隊員たちが武器を持ったまま、そのドアに注意を向けていた。
自衛隊員たちが、日付、時刻をカメラに伝え、中へと入っていく。
扉に入ってすぐに階段がある。外にいたときの映像は暗かったにも関わらず、中に入った途端に明るい。
この異常な構成にまずは一つ驚きの声があがる。階段を下りていく。
自衛隊員たちが銃器を構えながら進んでいき、そしてその一階部分についた途端、化け物のような声が響く。
襲い掛かってきたのはオオカミだ。ウルフ、と命名されたそれらとの交戦が始まる。
銃弾がウルフを打ち抜くが、数発程度は意にも介さず迫ってくる。
集団で後退しながら戦闘を行い、それから五分ほどかかりウルフを仕留めることに成功する。
一体相手に銃器を持った人間が五人がかり。どれだけ厳しい戦いであったのかはよくわかった。
魔物は一体ではない。すぐに第二陣が迫ってくる。
それからもしばらく戦闘は続き、いくらか負傷をしながら、調査をしていく。
「……これは、ゲームや何か映画の撮影、ではないのか?」
ぽつりと誰かがつぶやき、それを否定するように首を振る。
「これは現実で起きた出来事です。現在は、厳重に情報規制を行い、他国どころか我が国でも知っている人は数えるほどです。扉自体はうまくカモフラージュを行い、学園に通う生徒たちからも違和感のないようにしています」
「……」
総理大臣はそれらを聞きながらも、そう遠くない未来にばれることはわかっていた。
子どもが、黙っていられるはずもなく、自衛隊員にもうっかり口を滑らせるものもいるだろう。
どれだけ情報を規制したところで、いつかは外にばれる。
「……あの化け物のような生物は、なんだ? 死んだときに死体も何も残していないようだったが」
「そうですね。ウルフが落としたものはこちらです」
いくつかの写真が映し出される。
宝石と、肉の塊がいくつかあった。
「宝石は、価値はあるのか?」
「これはどうやら、宝石ではなく、不思議な力にあふれているようです。まだ解明はできていませんが、我々は魔石、と呼称しています」
「……マセキ?」
「はい。魔石については、まだ未知のことが多く、我々も判断がついていませんので、これ以上は伝えることができません。問題は、魔石ではなくこちらの肉のほうです」
「肉……。それは食べられるのか?」
ぽつりとつぶやいたのは、農林水産大臣であった。
彼が懐疑的な目を向ける理由はわかる。
未知の食材には何が含まれているかわかったものではない。
「そうなんですよ。食べられる、どころではなくむしろ食べる、べきなのです」
「どういうことだ?」
「こちらの肉を調べたところ、特に異常もなくなおかつ、狼の肉と非常に酷似していました」
「狼の肉……うまいのか?」
「味については保障できないようですが、問題はこの肉を食べたときの効果です」
「……腹を壊す、とかではないのか?」
「それが……肉体が進化するんです」
「……肉体の進化ぁ?」
話している内容を聞いていた総理大臣は、これが日本で起きていることとはまるで思えなかった。
初めこそ緊張した空気であったにも関わらず、話している内容が内容だけにどんどんそれが薄れていっている。
ごほんと、一つ咳ばらいをして、これが緊急の会議であることを意識させる。
「はい。実験的に肉をマウスに食べさせたのですが、そのマウスは以前よりもすべての能力が向上したとされています」
「……それは、人間にも……まさか効果があるというのか?」
「はい。……実際に科学者の一人が食しました。……そうしたところ、薄かった髪は伸び始め、今までは五キロのダンベルを持つのに苦労していた彼は、今ではあっさりと持ち上げることができていました」
「……なんだと」
自分の髪を触るように一人が声をあげる。
総理大臣はもう一度咳ばらいをして、皆の気を引き締めさせる。
「肉を得たいのならば、あの魔物を生け捕りにすればよいのか?」
「生け捕りは現状厳しいですね。麻酔の類は効かないようでした。……魔物たちの肉を得るには、ドロップアイテムで獲得するのが前提条件となります」
「……なるほど」
「そして、魔物を倒した人間の体にも異変が生じていました」
「……なんだそれは?」
「先ほどの魔物肉を食べたときと同じ現象です。どうやら、体自体が強化されているようで、我々はこれをレベルアップと命名しました」
「また、ゲームのような話だな」
「ですが、それがもっともしっくりくるものですからね。ダンジョン、モンスター、レベルアップ……これらの要素が危険なダンジョンを潜る際には必須となってきます」
話をそちら側にシフトする。
ダンジョン出現による危険な点についての分析、そして遠くない未来にダンジョンを潜るのが当たり前となっていくことを示す。
「……危険なダンジョンを、潜る必要があるのか? さっきの映像を見た限り、銃火器を持った自衛隊員が何名もいてようやく魔物を一体を狩れるような状況だろう? 潜る価値があるようには見えないが」
「価値は、この迷宮内部にあります」
とんとんと官房長官が紙をたたいた。
特に話すこともなく、総理大臣は重苦しい顔を作るだけであった。
「迷宮内部? ……何かあるのかね?」
「現在一階層と命名した迷宮の一階部分について土や壁、モンスター、草木……とにかく調べられるものを調査したところですが、どれもこの世界にあるものと遜色がないのです。今後、魔物をどうにか生息できない環境を作り上げられれば、日本は多くの土地を確保することができるようになります」
それに驚きの声があがる。
環境によっては、食物を育てることもできるかもしれない。
「さらに、魔石のような現段階では判断のつかないものがいくつもある可能性もあります。例えば、我が国では取れない貴重な鉱石が発見される可能性もあるし、今後のエネルギーの代替となるものがあるかもしれません。ひとまず一度、迷宮奥地まで調査を進める価値は十分にあると思います」
これから先のことを考え、ひとまず調査を進めるべきだと総理大臣は考えていた。
今回は、各省にこの事実を伝え、彼らに対しても認知しておいてもらうことを目的としている。
またこちらの判断では足りない部分の指摘も得られるかもしれない。
総理大臣は腕を組むようにして、じっと言葉を待つ。
沈黙を破るように、小さく声がもれた。
「……何か、感染症などの危険性などはないのか? モンスターなど、未知の生物が病原菌を持っているということは」
「モンスター自体は血や唾液といったものも、呼吸も何もありませんでした。一体だけ、子どものウルフを捕獲し体を調べましたが、特に異常な作りというのはありませんでした。……魔石が体の中にある、くらいですが、それで何か異常があるというのもありませんでした」
戦闘面以外での危険は去った。
いくらかの渋い顔は減り、どちらかといえば興奮した様子が目立つようになってくる。
「これを秘匿しているといったが、これからさらに増えてしまった場合は隠せないだろう?」
「そのときのために、秘匿しているのです」
「なんだと?」
「今後の可能性として、ダンジョンが増えることは十分に考えられています。だから、先に我が国はこのダンジョンを独占し、精鋭を育て上げるのです」
「精鋭、か」
「はい」
官房長官が微笑むようにして、片手をあげる。
モニターに映っているのは、ダンジョンが発生した学園だ。
「こちらの学園のほうで特別学科の生徒を募集します。危険な仕事をさせる前提で、年齢に幅はつけず、給料の支払いを行う。ただし、死んでも文句は言えないよう誓約書に記入もしてもらう予定です。私たちは、冒険者の育成、ということにしています」
文部科学大臣のほうから厳しい視線を向けられる。
「……それは、さすがに批判もあるのではないか!? 死ぬ可能性があるなんて、民衆やマスコミが黙っていないだろう? ましてや、子どももそこには入るのではないか?」
「死なないよう、最善の準備はする予定です。まずはこちらの食べ物を確保し、それを募集した生徒たちを入れた寮の食事で提供する。ある程度の訓練とレベルアップを確認後、第一階層から順に挑んでもらいます。目安としては、一ヵ月の訓練期間を与える予定です」
もちろん、ダンジョンに入る場合もすでに育っている精鋭と一緒に、と彼は付け足す。
そう、すでに自衛隊にはダンジョンでの狩りを行ってもらい、その素材を回収しレベルアップを行ってもらっている。
「生徒の募集は難しくはないか?」
「そのあたりは、おいおい考えていくとして、現在こちらで考えた理想だけを並べたダンジョンの有効活用です。ここから、さらにみなさんと会議を進めていき、現実的なダンジョンの利用を考えていくというのが今回の目的です」
「……そうか」
官房長官に、だいたいの説明を任せていたが、そこで話に区切りがつく視線が向けられる。
「……それでは、日本ダンジョンについて、これからみんなで話し合っていこう。具体的には、今後ダンジョンが増えたときの警察や自衛隊の対応、一般市民の扱い、情報の開示、ダンジョンに関する法律など様々だ。これからしばらくは、今以上に忙しくなることを覚悟しておいてくれ」
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