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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第九十話

 午後には戻り、リルナにすべてを話した。
 ……彼女はうへぇと嫌がったが、もう任せるしかない。
 とりあえず、アーフィ、レーベリアの二人を中心に問題を片付けていくという形に治まった。


 もちろん、巻き込んだレベッカにも協力を頼んでみたが、騎士たちの反応は悪くなく、何より村の人たちに大きく感謝されたそうだ。
 あの場にもしも、ホムンクルス部隊がなければどうなっていたか……かなり酷い結果だっただろう。


 とにかく、ひとまず不安だったことのすべてを片付けた俺は、夜までアーフィとのんびり過ごしていた。
 夜になり、服を着替えたあと、俺は庭へと向かう。
 そこで、俺たちを祝う小さなパーティーの場が設けられた。


 もっと派手なものを望む声もあったが、街の状況も酷いものであり、さすがに俺が否定をした。
 魔物を倒した、ということで俺の意見が優先された。


「精霊の使い、ハヤト・イマナミよ。そなたの功績はこんな言葉だけではすまないものじゃろう。……本当に、国を救ってくれて感謝しているんじゃよ」


 俺は王の前で膝をつき、簡単に言葉を賜っていた。
 王の言葉にあわせ、室内では集まった少数の貴族たちから拍手が送られる。
 ……これで、挨拶は終了だ。パーティーが始まる。
 さすがに、基準がおかしい、と始まってすぐに思った。
 城の庭の一部を使って行われたのだが、それでも十分に派手だ。


 アーフィとともにパーティー会場で食事を楽しみ、お互いに笑いあった。
 ……これが、最後なのだ。
 そう思うときゅっと胸が苦しくなり、時々アーフィもそんな痛みを滲ませた顔を作った。


「アーフィ……やっぱり俺は」
「……確かに一緒にいたいわ。けど……それじゃあ、あなたの家族はどうなるの? 大事にしてほしいわ。私は……大丈夫だから」


 ……わかってるよ。今頃、妹がどれだけ不安を感じているか。考えればわかる。
 それに、俺たちを引き取ってくれた祖父、祖母……彼らに恩もある。
 こっちで手に入れた力を使い、家族が幸せになれるようにしたい。


 そう思っても、苦しい部分もあるのだ。
 パーティー会場にいても、俺たちはどうしても重たい表情になってしまうため、部屋へと戻った。
 お互いに手を握ったまま、外の景色を見てたまに言葉をかわす。
 そして……笑う。ただただ、何も考えずに俺たちは笑い続けた。




 ○




 次の日。
 この体は本当に便利だ、と俺は徹夜でアーフィと過ごした時間を思い出しながら立ち上がった。
 適当な言葉をかわし、暇つぶしに迷宮へと出歩いたり、街を散歩したり……そんな今までは毎日当たり前にしていた時間が楽しかった。


 ただ、これでもう終わりだ。
 朝食を終えたところで、俺たちは庭へと集まることになる。
 もういつ大精霊に戻されるか分からないのだ。
 ただ……この世界に留まると言い張っている者たちはもちろん部屋に残ったままだ。


 俺は竹林たちと軽く挨拶をしたあと、見送りにきたアーフィとともに話をする。


「……昨日の迷宮探索は面白かったわね」
「まあね。魔物と戦うのもこれが最後だと思うと、なんだか感慨深いものがあるよ」
「そういえば、あなたの世界には魔物なんていないのよね?」
「まあね。おかげで、こんだけの力も使いどころがほとんどなくて困っちゃうね」
「確かに、ハヤトがちょっと本気出したら私も敵わないものね」
「それはどうかな」


 さすがにアーフィを殴ったり蹴ったりはできないからな。
 ……そう思うと、あのときアーフィが俺を本気で追い返そうとしていたら、たぶん俺は一方的にやられていたよな。


『そろそろ、戻すよ! 危ないから、みんな固まっててね』


 大精霊の声に反応して、全員が集まっていく。
 俺は……最後に一度、アーフィを強く抱きしめてから、ゆっくりと離れた。
 集まっているみんなのほうへと向かっていく。


「……本当に、いいのですか?」


 桃が俺の顔を見ながら、訊ねてきた。
 ……もちろんだっての。こくりと頷いた。
 見送りにきた、王やリルナ、騎士たちが俺たちへと敬礼をしてくる。


 ……どうにも慣れない俺たちは、それを受けながら奇妙な浮遊感を味わう。
 大きな光が全身を包む。その光が段々と治まっていき、俺が目を開けると……目の前には小さな妖精がいた。


「はぁーい! あたしだよ、おっひさ! 覚えてる!? 元気してたー!?」


 そんな旧友にでもあったような挨拶をぶちかましてきやがった大精霊の体をむんずと掴む。
 感触がまるでないのが不気味であったが、それによって大精霊は「ぶべっ」と悲鳴をあげる。
 ぎゅっと握りつぶすと、大精霊はあわあわと焦ったように声をあげる。


「ちょ、たんま! そっか! 眷属になっているから、精霊に触れられるんだ! やめて! あたし、悪い精霊じゃないよ!」
「悪い精霊だ」
「決め付けないでっ。あたし、世界のこと大切にする良い精霊なの!」
「まさか、握りつぶされないと思っていたのか?」
「お、思っていた!」


 能天気な奴だ。
 ここで大精霊を潰してやりたい気持ちもあったが、事情を理解していないし……つーかここでこいつを殺したら俺もここに閉じ込められそうだったのでやめた。
 それに……もう、そこまでの怒りもない。


 大精霊はシステムを用意しただけだ。
 ……例えば、武器を使って殺して、武器を作った人を恨む人はほとんどいないだろう。
 多くは、実際に行動に移した奴を憎むものだ。


 それに、一応はアーフィと出会えた恩もある。
 さすがに、感触のない奴を潰すというのも不気味なことだしな。
 手を離すと、大精霊はひゅるーと俺の周りを飛んだあと、肩にのる。


「なれなれしくするな」
「いった! ……もう、とにかく、まずはお礼だね。ありがとう、あなたがいないとあたしの世界は守られなかった。それと、ごめんなさい」
「今さらだ。そんな謝罪を聞いても、どうにもならねぇよ。……もういいだろ? どうして俺をここに呼んだんだ?」


 それに……ここには俺しかいない。
 そう思っていると、大精霊は目を細めた。


「一番話が出来るのがキミだと思ったんだよね。ほら、あたしに会いたがっていたじゃん?」
「殴るためにな。それで……あの災厄ってのはもういいのか?」


 仕留めた感触はなかった。恐らく、またあれは襲い掛かってくることになるだろう。
 だが、大精霊はあっけらかんとした様子だった。


「まねー。とりあえずあたしの世界にはもう来ないよ。けど、いくつもある世界では、それぞれ管理している精霊がいるんだ。そういう場所ではまた出現するかもね」
「例えば、俺たちの世界にもか?」
「可能性はあるけど、魔物っていう形にはならないと思うよ。その世界ごとに、形が違うんだ」


 ……そうか。


「解決はできないんだな」
「まねー。難しい問題だよ。何度も何度も討伐すれば、徐々に力を弱めていくけど、そう簡単なことじゃないからね。……それを達成できるだけの力を持つ人も滅多にいないし」
「あんたなら、いくらでもできるだろ。俺以外の奴はステータスを強化してただろ?」


 俺以外という部分を強調していうと、大精霊は頬をかいた。


「私たちは力にちょっとした補佐をするのが限界なの。下のほうにならいくらでも弱くはできるけど、上のほうになると……また違ってくるんだ。三倍が限界だし、それもかなりギリギリの力なんだ。私たちが干渉すると、感情が暴走しやすくなる。まあ、もうそれも力に慣れてくれば、ほとんどないんだけどね。キミみたいに、意識して発動とかしない限りはね」
「待ちやがれよ」
「……うん?」


 首をかしげた瞬間の大精霊の体を捕まえる。


「俺はなんだ? マイナスばっかりつけられていたのか?」
「い、痛い痛い! け、けど……感情の暴走は危険はあっても、しっかり強さもあったでしょ!?」
「そもそも、俺に無駄に干渉しなければいいんだろ?」


 俺、何か間違っていること言っているか?
 感情の暴走は発動していないが、それでもイライラと言葉が浮かんでくる。


「それはー、そのー、やっぱり、集団っていうのは嫌われている人って必ずいるんだ。それを見つけ出すために、あんな投票にしたの。一人いなくなっても、他がまとまればそれでいいってね」
「見る目がなかったみたいだけどな」


 馬鹿にしかえして俺は手を離す。
 苦しそうにしていた大精霊はそれから腕を組んだ。


「あれにはびっくりだったね。あそこまで暴走するなんて、途中で送り返そうかと思ったよ」
「途中で送り返す? ……まさかとは思うが、あいつらも一緒に送り返したとかいわないよな?」
「言うんだなこれが。あたしは自分の世界にあんなのいらないから、キミの世界に送り返すよ。あんな、百害あって一利なしな奴らなんてポイ捨てだね。……例えば、キミなら、残してあげるんだけどね」


 ウインクしてきたので、頭を叩いてやる。


「……ゴミ箱じゃねぇんだぞ」
「友達をゴミ呼ばわりだなんて、まあ酷い。ていうか、そんなこというと、キミの世界の精霊様に怒られる
よ?」


 ……地球にもこんな奴がいるのか? 頭が痛くなってきた。


「勝手に干渉したのは怒られないのかよ?」
「それはちゃんと交渉してるから。私の国からも何人かそっちの世界に派遣するっていう条件でね」
「……そんなことできるのか?」
「まあね」


 ふふんと大精霊が胸を張る。
 ……なるほどな。


「なら、大精霊。俺がおまえの世界を救ったんだ。一つくらい頼まれても文句はいわないよな?」
「いいよ。いくつか頼まれてあげるよ。ていうか、あたしもご褒美あげようと思ってね」


 それから俺は、彼女にいくつかを話し、今度こそ送り返してもらう。




 ○




「……ここは、学校か」


 誰かの呟きが聞こえ、俺も目をあける。
 ……見慣れた教室がそこにはあった。
 どうやら、あのとき……教室にいた瞬間に俺たちは戻ってきたようだ。
 顔をあげると、視線の先には……たぶんあのときと同じ時を示していた。
 黒板に書かれていた月日をみて、まるで時間が経過していないことも理解した。


「この場合、俺たちって言うのは三十日歳老いたのかね?」


 なんて俺が呟くと、近くに座っていた桃が苦笑した。


「どうでしょうか。肉体は……確かに成長しているようですけど」


 ……本当だ。俺は何より、真っ先に自分の胸を見る。
 光は薄れていたが、そこには、アーフィと結んだ眷属の証がしっかりと残っていた。
 よかった。これがあるおかげで、俺は今までのすべてが夢ではなかったのだと確信することができた。
 薄いあざのようになっているため、良く見られない限りは問題ないかもしれないが、これから家で風呂に入るときは気をつける必要があるだろう。


「……な、なんで……俺たちまでここに」


 ……と、そんな声が聞こえた。
 やっぱり、教室には全員がいた。
 もう一人、オール1にされた人もこの場にはいる。
 何より、残ると言い張っていたクラスメートたちも、全員がいるのは驚きだ。
 そして、次の瞬間彼らは声をあげた。


「霊体! 霊体! 霊体……! なんでだよ!」


 一人がそう叫び、残るといっていたクラスメートたちはつられたように声をそろえていく。
 ……とある昼休みの教室。
 霊体! という声は廊下にも響くような大きさだ。……恥ずかしいな。


 俺は口に出さずに霊体を展開する。ぼんやりとした明かりが体にまとわれるし、ステータスカードもある。
 これがあるだけでもかなり便利だよな。
 ……やりたい放題できてしまうが、あまりやりすぎればこの世界の精霊に干渉されるだろう。


 後で、全員にその辺りについても話しておいた方が良いだろう。
 霊体を持っていないのは、向こうで好き放題やっていた奴らだ。
 明人を中心に、ほとんどが霊体を持っていない。それどころか、異世界と証明できるもののすべてを失っている。


「くそっ、どうなっているんだ! 俺たちを騙しやがったのか!」


 叫ぶ明人が、きっと俺を睨みつける。
 ……俺は彼らを無視し、竹林たちに呼ばれそちらへと行く。
 明人たちとは今さら仲良くしたくもない。


 向こうで知り合った彼らと、それからしばらく話しをした。
 ……本当に戻ってきたんだ。喜びが爆発し、俺たちは歓喜の声をあげる。
 霊体、と喜びの声でうるさい俺たちの教室は、他クラスからはさぞかし不気味だっただろう。




 ○




 それから一週間が経ち、俺は久しぶりに霊体をまとい、近くに潜んでいた魔物を討伐した。
 ……人の目に見ることができないが、地球にも魔物がいる。
 魔物たちは霊体をまとえば見ることができるため、俺は今それを討伐していたのだ。


 この魔物たちは、アーフィたちの世界よりも直接的に傷つける力を持たない。
 だが、例えば事故を起こしたり、人の心に干渉し、過った判断をさせようとする。
 それこそ、被害状況が酷い場合もあるため、なるべく討伐する必要があるらしい。


 夜の街で魔物を討伐した俺は、家に帰りながら、この世界の精霊を呼び出す。


「聞こえるか、精霊。おい、おーい!」


 何度も怒鳴るように声を出す。
 しばらくして、苛立ったような声が返ってくる。


『何かしら、人間。私今、寝ていたのですわよ』


 そう返してきたのは地球を管理している精霊だ。


「言われたとおり、仕事をしたんだ。そっちも約束を守ってくれよ」
『本当にやりますの? 言っておくけれど、変な事件を起こすようなら――』
「何もしないっての。あくまで、街を案内するだけだ」
『わかりましたわ。たぶん、すぐですわよ』
「それは嬉しいね」


 ……俺は家につき、風呂へと入る。
 それにしても、すっかり鍛えられたな。
 帰宅したときは、家族に驚かれたものだ。別人に見えたらしい。
 異世界であったことを話すと、頭のおかしい奴だと思われるため、俺たちは誰にも公言しないことにした。


 そうして、俺たちは少しずつ日常へと戻っていく。
 ……多少、常識なり、価値観なりおかしくなってしまった部分もあるが、それぞれが生活の中で僅かに力を行使するなど、自分の生活を豊かにしていた。


 ……決して、悪い異世界旅行じゃなかっただろう。
 そう思えるのは、誰も死ぬことはなかったからだな。


 俺もその一人だ。
 こうして、たまに力を使い、精霊のおつかいをたのまれている状態だ。
 ふう……と息を吐きながら体を洗っていると、風呂に映る俺の胸に刻まれた眷属の証が、一際強く光をあげる。

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