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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第八十六話





 倒れた彼を見おろしながら、俺はその首元に剣を向ける。
 見逃すつもりはない。アーフィにこれまで、どれだけのことをしてきたのか。
 考えただけで頭が爆発しそうな怒りに襲われる。


「残念だったな。これで、終わりだ」


 俺の言葉ん、ヴァイドは諦めたように目を閉じた。


「私の目的はあくまで、研究だった。星族はいずれ滅びる……その滅びはどうしておきたのか? 星族という存在そのものが、いずれは滅びる定めだったのか。それとも……誰かによって、滅びてしまったのか……それを研究していた」


 突然の彼の言葉に、俺は首を捻る。
 ……まだ何かを企んでいる? しかし、こちらを見据えてきた彼の両目に戦意はなかった。
 そもそも、初めから彼は俺たちに対して敵意を向けてはいなかった。
 ずっと、変わらない無感情――それは、彼が俺たちに興味を持っていなかったからだろう。


「星族は、共存を拒んだ。だからこそ滅びた。……ああ、そうだ。自分たちで自分たちの首を絞めた。星族はあくまで自己的な種族だ。自分こそが一番、自分が満たされるために行動する。だからこそ、私も……こうして死ぬことになったのだろうな」


 そして、彼はアーフィを見た。
 まるで……アーフィにもそれが当てはまるとばかりの顔であり、俺は即座に否定する。


「そうだな。……だけど、人間だってそんなもんだ。自分が満たされるために行動する、自分の利益のために、自分のやりたいことのために。人を傷つけるか、傷つけないか……そこで踏みとどまれば、他人の怒りを買わなくてすむ。あんたは俺の大切なアーフィを傷つけた。だから、俺に剣を向けられた。何もしなければ、俺はてめぇをここで殺すこともしなかっただろうぜ」
「……なるほどな。星族の子らよ。おまえたちに最後の命令を出そう。彼に導いてもらえ」


 最後は全部俺に任せるってか。
 俺は彼の首へ剣を近づける。メイドや執事たちの多くは、俺に視線を向けながらも何も話すことはなかった。
 そこに、喜びも、怒りもない。無感情の視線がいくつも俺を見てきた。


 ヴァイド……というか星族は恐らく、心が子どもなのだろう。
 だからこそ、純粋に興味を持ったことに行動をする。アーフィだって、子どもらしい一面が多い。
 アーフィは人間の血も混ざっているからか、いくらか行動がマシな部分もある。
 ……星族が恐れられているのは、そういった無邪気さなのかもしれない。
 善人にも悪人にも、簡単に従ってしまう。そんな彼らは、敵側から見れば嫌な存在だ。


 俺はヴァイドの首へ剣を振りぬく。
 鈍い感触とともに、彼の首と体が分断される。さすがに、力をこめすぎて俺は自分の腕が痺れそうになったが、そっと剣を戻した。


 ……これ以上彼が生きていたとしても、彼は生き方を変えることはないだろう。
 彼はもう何十年と生きて、そして今の彼なのだ。
 また、敵となり、実験の材料を探す。……だから、殺すしかない。
 人間は、そう簡単に変われない。俺は剣を戻し、痛む全身を和らげるために、その場で膝をついた。


 ……苦しい戦いだった。
 一気に疲れが全身を襲ってきたが……まだ、これから戦いがあるんだよな。
 呼吸を荒げていると、ざっという音が耳に届いた。
 ……メイドと執事たちが、膝をついていた。
 そして、戦闘に立つメイドが俺を見てくる。


「レーべリアと申します。新しいマスターであるあなたに従います」
「……従うっていってもな」


 俺は心を落ち着かせながら、レーべりアたちを見る。
 ……彼らは皆無感情ながら、俺へと礼儀正しく頭を下げてくる。


「まず……これからすぐに災厄が襲って来るんだが、知っているか?」
「はい。災厄にあわせて、私たちは王都に行き、そこで貴族の方々と協力し、王を殺す命を受けていました。実行しますか」
「しません。それらは全部却下だ。……つまり、全員が王都へいく移動手段があるんだな?」
「はい。この屋敷とは別の場所に、フィルナルガ様の竜が十体ほどいます。一つの竜に三人が乗り、合計三十人で王を殺す作戦でした」


 ……確かに、こいつらの実力ならそこらの騎士では相手にならないだろうな。


「わかった。なら、その行動を起こす予定の三十人は準備してくれ。俺が傷を癒したら、すぐに出発する」
「はっ!」


 参加予定だった三十名が声をあげる。
 ……その後に、レーベリアが立ち上がった。


「傷を癒すのでしたらこちらに来てください。治療をします」
「ま、待ちなさいっ。ハヤトの治療は私がするわ!」
「わかりました。それではどうぞ」


 そうレーべリアがいうと、アーフィは俺のほうを見てくる。
 アーフィは困ったような顔をしている。レーベリア……おまえ、それ無自覚か?
 レーベリアをジッと見ていると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「あまり見ないでください。照れてしまいます」
「は、ハヤト! あまりあの女を見ないで!」


 ダメだ、何かを勘違いしている。
 それからアーフィはぼそりと呟いた。


「ど、どうすれば良いのかしら? 手でもあてればよい?」


 ……このまま彼女の困っている可愛い姿を見ているのも良いが、時間がない。


「レーベリア、何か体にきく薬があるのか?」
「塗り薬があります。案内しましょうか?」
「……ああ、そうしてくれ」


 俺もいくつか手持ちにあるが、宰相のほうが良い品質の薬を持っていそうだ。
 体力を回復するためにポーションをいくつか飲みながら、レーベリアに連れて行ってもらう。
 アーフィもずっと俺の背後にいる。
 ……なんていうか、二人とも近いんだけど。
 レーベリアもアーフィも少しでも動けば当たるような距離だ。


 レーベリアは恐らく、そうやって付き従うように教えられたのだ。
 だから、他意はないだろう。
 けれど、アーフィが若干嫉妬している。頬が膨らみ、ぐるると唸るようにレーベリアを睨んでいる。
 ……絨毯がしかれた道を進んで行き、やがてついた部屋の扉をレーベリアがおしあける。


 誰かの部屋だろうか。
 ベッドとタンスなどがおかれた簡素な作りの部屋だ。
 タンスの上には救急箱なのだろうか。木材で作られた箱が一つあり、その中から治療に必要なものを取り出していく。


「こちらに座ってください。この塗り薬を傷口に塗れば、問題ありませんが……」


 ちらとレーベリアが見て、俺も気づいた。
 ……そうだ。俺の傷は全身のあちこちにある。
 一度横になって、全身に塗ってもらう必要があるかもしれないな。


「私がやるわっ。レーベリア、もういいから」
「そんな。一人では大変でしょう。あまり、時間もかけられないでしょうし、私も手伝います」
「い、いや……ハヤトも私にやってもらいたいと言っているわっ」
「確かに塗り薬は塗るだけです。けれど、一人では見落としてしまう可能性もありますよ。そうなると、そこからまた傷が広がってしまうかもしれません」
「……うぅ」


 レーベリアの言葉にアーフィは諦めたような顔を作った。


「なら、仕方ないわね。……ハヤト、横になってくれない?」
「ああ、お願いするよ。……というかアーフィの怪我は大丈夫なのか?」


 俺は上着を脱ぎながら、視線だけを彼女に向ける。
 肌の見える場所に大怪我はないようだけど……。


「ええ。私の傷はそれなりに治っているわ。あと、数時間も寝れば完全に治るから心配しないで。……ありがと」


 それは残念だ。
 アーフィの体に塗る機会が持てるかもしれなかったのに――って、まだ俺はどうにも感情が制御できていないようだ。
 咳払いをしてから靴を脱いで、ベッドに乗る。
 さすが貴族の家だ。ふかふかのベッドに疲れのたまっていた体に眠気が襲い掛かる。


「……悪い、二人とも。少しだけ寝る。出発は――」


 時間を見る。
 ここから戻るなら、少しでも早いほうがいい。


「出発は、四時間後だ。その時間になったら、俺を叩き起こしてくれ」
「わかったわっ。おやすみ、ハヤト」


 アーフィとレーベリアの手がぴたっと肌に触れる。
 撫でるような感覚がくすぐったく、奇妙な快感を俺に与える。
 だが、それに酔いしれる余裕もなかった。
 意識がゆっくりと薄れていく。
 現実と虚構の感覚が曖昧ななか、何か柔らかなものが頭を包んだ。
 少しばかりの恥ずかしげな、いとおしい声が耳を撫でた。




 ○




「ハヤト、起きて」


 体が揺さぶられる。
 眠りのたりていない体が、さらに睡眠を欲してきたけど、俺はぶるぶると首を振って体を起こした。
 首都に戻る間にも寝る時間はあるんだ。
 そこで眠れば良いだろう。


 どうにか目を開けると、暗かった。
 ……なんだこりゃ?
 随分と柔らかい。手を動かすと、さらに柔らかいものに触れた。


「……は、ハヤト。その、いきなり触らないで。照れるわ」
「……アーフィ? おまえ、なにしてんのっ?」
「たまには良いでしょう、こういうのも。……私はあなたにまた会えて、凄い嬉しいの。その感動を行動に表した結果がこれよ」


 ……今の俺はアーフィに膝枕をしてもらっている状態だ。
 右耳が彼女の太股に当たるように眠っていた俺は、手を軽く動かして彼女の……胸に触れていたのだ。
 慌てて手をひき、体を起こす。


 だいぶ、体も落ち着いてきて、あの暴走しそうなほどの強い感情はすでにない。
 アーフィは顔を真っ赤にしている。
 両目には涙のようなものが見えた。


「ハヤト!」


 感動が爆発したかのような大声とともに、アーフィが抱きついてくる。
 回避も出来ず、俺は彼女に押し倒される。
 すとんとベッドに背中を預けながら、嬉しそうなアーフィの頭を撫でる。


「……助けに来てくれて、本当に嬉しかったわ」
「俺もまた会えてよかったよ」


 彼女の頭を数度優しく叩き、体を起こす。
 アーフィが今さらに恥ずかしそうにぷい、とそっぽを向く。
 耳まで赤い彼女に苦笑しながら、俺は体の傷を確かめて服を着る。


 靴を履いて立ち上がり、体が動くのを確認する。
 ……さすがにまだ痛むが、帰りも休めばどうにかなるか。



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