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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第八十四話 二十九日







 少し眠るつもりだったが、予想以上に身体は疲れていたようだ。
 無理もないか……一応俺は病み上がりなんだよな。
 体の調子を確かめ、軽く運動をしてから宿を出た。
 時刻は深夜十二時近く――。


 外を出歩く人の数も減り、街が完全な眠りにつこうとしているような時間だ。
 この時間に外を出歩いている人間にロクな奴はいない。
 そんな偏見に似た判断で、俺はフードを深く被り出来る限り姿を闇に混ぜる。


 表通りを歩くことはしない。メイドや執事が、今の時間もいる。
 彼らは街を守っているのだろうが……それを悪用しようとする人間もいる。
 ちょうど俺の道の先にそんな一団があった。軽く近づき、力を使ってそのメイドを逃がす。


 メイドは不思議そうだった。
 ……やっぱり、この街のやり方に俺はどうも慣れなかった。
 メイドや執事を食い物にして、この街は発展しているのだろう。
 彼らだって、意思があり生きている人間だ。道具のように扱うのは違う気がした。


 街を進んでいき、貴族街へと侵入する。表から通るのはさすがに止められる可能性もあったので、壁を蹴って中へと入った。
 着地し、服の乱れを直しながら、腰に刺した剣をいつでも抜けるように確認する。


 すぐに、フィルナルガの屋敷についた。
 立派な建物を一瞥し、その建物の入り口にて周囲を警戒している執事の二人へ近づく。
 ……アーフィがこの先にいる。俺は彼らに近づき、片手ずつ向ける。


『眠れ』


 その言葉を聞いた彼らはその場で崩れ落ちる。彼らの体をしっかりと受け止め、庭に寝かせる。
 ……もう、敵も気づいているようだ。
 メイドや執事がわらわらと建物から出てくる。俺は剣を両手に持ち、霊体をまとう。
 ……力を感じるのは建物の上のほうだ。三階建てのこの屋敷の中で、上を目指せば良い。簡単なことだ。


 地面を蹴る。メイドや執事が突っこんでくる。
 この動きの早さは……やはり星族としての力を持っているようだ。ただ、それは完全なものとは程遠い。
 眷属である俺よりも遅い。


「……あなたは、これが目的だったのですか?」


 そう言ってきたのは、俺をこの屋敷まで案内してくれたメイドだった。
 無表情ではあったが、少しだけ悲しそうに見えた。


「俺は……別にあんたたちを殺すつもりはないよ。俺の目的は、ヴァイドを倒すことだけだ。……あんたたちは、いいのか? この生活をおかしいと思ったことはないのか?」
「……おかしい? 確かに、普通の人たちとは違うかもしれません」


 その反応に、俺はたまらず声をあげた。


「違うんだよっ。てめぇらは、何もしていないのに生まれたときその瞬間から、道具として生きているんだ。おかしいんだよ、そんなこと」
「私たちは……ここ以外では生きていけません」
「だとしても、おまえたちはもっと縛られなくてもいいんだよっ。街の人たちのために、色々やる。そりゃ、立派なことだ。けど、おまえたちの心に傷を残るようなことまでしなくていいんだよっ」
「……それは、わかりません。わからないです、教えてもらっていません!」


 俺の言葉が、彼女の理解を超えたのか、彼女は部下達に命じる。
 ……結局、戦わないといけないか。
 彼らでは、俺を止めることはできない。武器を弾き、言葉のみで無力化していく。


 ここで襲い掛かってくる相手に罪はない。俺は敵意もない。殺したくはない、相手だ。
 これで……五十くらいか。
 最後の一人の頭を掴み、言葉を浴びせて意識を奪う。


 さすがに、最初から敵意を持っている相手に対しては俺の言葉も効果が薄くなるようだ。
 だから、相手の心に隙を作ってから挑まなければならない。
 攻撃して、相手がそちらに意識を向ければ、後は簡単だった。


 庭には多くのメイドや執事が倒れ、この光景を貴族が偶然に見たら気を失うだろう。
 明かりが保たれている建物に入る。大扉を押し開けると開けた空間が飛び込んでくる。
 ……すでに誰もいない。襲い掛かってきたあのメイドと執事たちですべてだったのだろうか。
 かつかつとわざと足音を立て、こちらの姿をさらすが、奇襲がくることもない。


 ……これ以上、無駄に戦力をあてる必要もないってことか?
 それとも、俺だけなら……ヴァイド一人で十分に押さえられるって言いたいのか?
 怒りがふつふつと湧き上がってくる。……この怒りは貴重だ。
 暴走しては元も子もないが、このギリギリの状態ならば体に力を与えてくれるドーピングのようなものだ。
 ステータスカードを持ってから、感情が抑えきれなくなった人たちが多くいる。


 大精霊の奴は、戦闘経験のない俺たちに対して、ステータスカードに様々な補正を入れていたのだろう。
 俺は限界まで怒りをためて、道を歩いていく。
 ……この状況は心が穏やかではない。通路に飾られている花瓶を見るだけで、いらだってくるほどだ。
 外にいる鳥の鳴き声を聞くと、そちらへ剣を放り投げたくなる。


 だが……それでも力が沸きあがるのだ。ヴァイドを倒すためなら、何でもする。
 ずんずんと進んでいき、段々とアーフィが近づいているのがわかる。
 階段を上がり、三階の廊下へと出た。
 ……そして、俺はそこにアーフィの姿を見つけた。


「……アーフィ、よかった。無事か?」


 うつむいたままの彼女へと近づく。


「……」


 彼女の返事はない。アーフィの顔があがり、その両目が鋭く尖った。


「……ハヤト。あなたにはやることがあるでしょう?」
「ああ」
「……なら、どうしてここにいるの!? 私のことなんて放っておけといったはずよっ」
「おまえを助けることがやることなんだよ。おまえ、言ったよな? 俺は俺の救いたいものを救う。その対象がアーフィ、おまえになっただけだ。……一緒に帰るぞ」


 アーフィは唇をぐっと噛んで、そして剣先をこちらへと向けてくる。


「……帰って、ハヤト」
「帰るかよ」
『……お願い、帰って!』


 彼女の叫びには……強い力が込められていた。
 俺の体がそれに従い、後ろを向こうとする。
 ダメだ。ダメに決まっている!
 彼女の命令を跳ね除けるように俺は自分の足を殴りつける。
 痛みによって、その命令による力が多少薄れる。そのまま彼女の命令を跳ね除ける。


「……アーフィ。俺は戻らない」
「ダメよ……。ヴァイドには……勝てないわ」
「勝って、おまえを取りもどす。そうじゃないと俺は地球に戻れないんだ」
「……ダメよっ! 私のことは忘れて、さっさと帰って!」


 アーフィが床を蹴り、距離がなくなる。剣と剣がぶつかり、俺はその力に弾かれる。
 追撃の一撃を横に転がってかわし、扉を蹴り飛ばして中へと転がり込む。
 さすがに……強いな。
 俺は霊体をまとい、油断なく入り口を見る。


 しかし、アーフィはその隣の壁を破壊し、砕けた石を蹴り飛ばしてくる。
 剣で捌くが霊体にいくつか当たる。その瞬間、アーフィの体から風が生まれる。
 俺も風を生み出してぶつけるが……さすがにご主人様には勝てないってか。


 霊体をまとい、隣の壁を破壊して別室へと転がり込む。
 追いかけてきたアーフィへ、近くのタンスを掴んで放り投げる。
 アーフィはそれを両断し、なおをも迫ってくる。
 剣の音が響き、彼女と眼前で火花を散らしながら、にらみ合う。


「アーフィ! おまえは本気で、ヴァイドについていくつもりなのか!? 違うだろ!?」
「違わないわ!」


 アーフィの気合とともに剣が振り上げられる。
 霊体と眷属の力……両方だけでは足りないかもしれない。
 怒りに任せ、俺は剣を振り下ろす。アーフィの追撃を防ぎ、彼女を後退させる。


「おまえを一人に何かさせられるかよ! おまえは、俺のものだ! あいつになんか渡さない!」


 ……馬鹿、何を言っているんだ俺は。
 感情が抑えきれない。溜めていたどす黒い感情がいくつも頭を占領してくる。
 ……これでも押さえているほうだ。それこそ、おまえの胸は最高だ、足は綺麗だ、触りたい、もみしだきたい……なんていう性欲などもばんばんわきあがり、それを口にしようとさえもしている。


 抑えるほうにばかり意識が向き、アーフィの接近への対応が遅れる。
 アーフィは状態を低くし、左に剣を構える。左からの横薙ぎ――。
 剣の軌道をあわせたが、アーフィはその瞬間風で自分の体をずらした。
 それによって、彼女への剣に間に合わない。


 なら、剣を使わなければいいだけだ。
 彼女の振りにあわせ、俺は剣を捨てて両手で剣を挟むように動かす。
 アーフィの剣の腹を上下で押さえこむ。それは一瞬しかできない。
 だが、上に逸らすことは可能だ。


 アーフィが驚いて剣を捨てて後退する。同時に、後ろ足で俺の捨てた剣を蹴り上げて掴みあげる。
 ……凄い身体能力だな。
 俺は、彼女の弾き上げられた剣を掴んだ。


「アーフィ! 本気で言っているのかよ!? おまえは……俺のことを好きだって言っただろ!? 一緒にいたくないのかよ!」
「……それは」


 ……感情に任せて叫んでいたが、この直接的な言葉のほうがアーフィには効果的だったようだ。
 アーフィの顔に迷いが生まれる。
 しかし、アーフィはそれをすぐに振り払おうと首を振る。


「……もう、喋らないで!」
「なら一緒に来い!」


 アーフィが剣を振りぬく。剣と剣がぶつかり、周囲が傷ついていく。
 相手の剣を弾き、その体を狙う。
 だが、それが弾かれ、今度は俺ががら空きになる。それでも、すぐにカウンターだ。


 その繰り返しだ。俺とアーフィの実力差はほとんどない。初めてあったときは、異常に強い奴だと思っていたが、もう手が届く。
 アーフィが風をまとった途端に、剣が加速する。
 それでも俺は彼女の攻撃のすべてを見切り、そして押していく。


 予想外だったのだろう――。アーフィは顔に焦りを浮かべ、そして俺は彼女の剣を吹き飛ばす。
 空中にまった剣をアーフィは見て、俺は即座に距離をつめる。
 彼女が拳を構えるが、俺はぐっと彼女を抱きしめるだけだ。


「な、なにしているの!?」


 迷いを見せたアーフィに、俺は一気に感情を爆発させる。


「俺はアーフィのことが大好きだっ。そりゃあ……俺はこの戦いが終わったら地球に戻るよ! けどな、それでも俺は一生アーフィのことを忘れないっ。アーフィと一緒に過ごした時間を……置かれている立場をずっと思い続けるッ! このままアーフィをこの場に残してなんて帰れねぇんだよッ! てめぇが苦しんでいるっていうのに、俺だけ一人安全な世界で生きているなんてできねぇんだよッ!」


 ぐっとアーフィの体を破壊しかねんばかりに抱きしめる。
 アーフィの顔を覗きこむと、迷うように彼女は目を伏せる。


「おまえの気持ちはどうなんだよ? ……このままでいいのかっ?」


 例えアーフィがそういったとしても、俺は自分を抑えらない。無理やりにでも連れて帰るつもりだ。


「私だって……帰りたいわっ! あなたと、最後の時間を過ごしたいっ」
「なら、戻ろうぜ」
「……そう簡単じゃなのよだっ! 勝てるわけがないっ。あなたがいくら強いといっても……あいつは純血の星族よ!? その力も経験も……風の力も、何もかもがすべて……上なの!」
「それがどうした? 俺はおまえを連れて戻るってだけだ。邪魔するなら、ヴァイドをぶっ殺していけばいいだけだ」
「……勝てる、わけがないわ」
「俺とおまえで一緒に倒す。俺一人じゃ無理かもしれないが、俺とおまえなら……勝てるだろ?」


 彼女の頭を撫でると、アーフィが迷いながらも俺の背中に手を回す。


「二人でも……勝てるか、わからない」
「わからないだけでも十分だ。そんじゃ、さっさとぶちのめしに行こうぜ」
「……あなた、さっきから何だか口が悪くないかしら? そ、それに……積極的ね」
「そうか? ……ま、そうかもしれねぇな」


 怒りの状態を維持したままなのだ。この状態を切らしたくない。
 少しでも勝利の可能性をあげるために……。
 アーフィとともに俺は部屋を出て、真っ直ぐに進んでいく。
 このまま逃げたとしても、俺が地球に戻ったらアーフィは危険なままだ。
 だから、ここであの男を潰す。



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