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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第七十九話



「失礼します」


 夜になり、部屋にカルラがやってくる。
 昨日のこともあってか、アーフィが風呂に向かったタイミングでの登場だ。
 相当に怖かったのだろう。俺だって、アーフィを知らずにあれほどの敵意を向けられれば、あまりかかわりたいとも思わない。
 席に座りながら彼女の報告を聞く。


「……リルナ様とハヤト様の婚約について、随分と噂が広まっています。……メイドの中では、この前のアキト様たちと戦ったことからハヤト様に頑張ってもらいたいという人も多いようです。あ、もちろん私もですよ」
「それについてはどうでもいいけど……とりあえず、これで大丈夫かな」


 リルナと王様には宰相への牽制の言葉を何度かかけてもらってもいる。
 もちろん、彼が犯人ではない可能性もあるため、ほかの貴族たちの中で、怪しい行動をしているものがいないか騎士団長とカルラにも見張ってもらっていた。


「それじゃあ、他の貴族の動きを教えてくれないかな」
「……何名かの貴族が集まって話をしている姿が見られましたね。普段から仲のよい方たちですが、今日は少しだけ声を荒げている場面もありました」


 カルラが頼まれていたものを持っていったとき、ちょうどその貴族同士が険悪なムードで話していたらしい。
 話の内容まではわからなかったようだが、その貴族の名前を聞いておく。
 それと、騎士団長から受け取っていた名前もいくつか見る。


 ……現王にあまり快く思っていない人間の名前が書かれていたものに、彼らの名前もあった。
 だいたい欲しい情報は集まったな。


「そういえば、明人たちはどうなっている?」
「あれから彼らは……部屋から出てきませんね。食事だけはとっているようですが」
「誰か、貴族が訪れたことはあるかな?」


 カルラは顎に手をやり、思い出すように言った。


「メイドと、貴族の令嬢が何名か会いましたね」
「そのメイドと令嬢さんについても調べておいてくれ」
「……わかりました」


 後でリルナと騎士団長に相談だな。
 ……たとえば、メイドを使って明人たちに何かを報告している可能性もある。
 彼らは、俺に敗北したとはいえ、優秀なコマだ。


 ならば、そのコマをまた使えないか、考えるはずだ。
 または、彼らをおとりにしてもよい。どちらにせよ、一度の敗北で切り捨てられるほどの弱いコマではない。
 ならば、確実にどこかで干渉する。
 そこから、敵の姿を暴き上げるのも良い。


「さて……」


 カルラの情報をメモし、リルナからもらっていた魔石を取り出す。
 ボタンのようなものが三つついたその魔石は、会話を録音するものだ。
 録音、再生、削除……この三つを可能としているこの魔石を実験に使ってみたのだが……。きちんとカルラとの会話のすべてが記録されていた。
 ……よし、使い方の確認はこれで十分だ。
 アーフィが戻ってくる間に、俺は風呂へと向かった。




 ○




 次の日。迷宮出発の前に、騎士団長に会いにいく。
 噂の信憑性をあげるため、リルナと朝食をとったあと、俺は騎士団長に会う。


「騎士団長、これから数日の間の夜の見張りと、貴族たちについての情報をまとめておいてくれないか?」
「そのくらいお安い御用だが、一体何に使うんだ?」
「ま、それはおいおいな」


 騎士団長と別れ、げんなり顔のレベッカを連れて行く。


「今日も第三十五階層ですか?」
「ああ、今日もがんばってくれよ」
「うへぇ……」


 嫌そうな彼女に運んでもらい、俺は全員の成長を確認していく。
 迷宮の第三十五階層へと降りてから、俺は彼らの戦いを見守る。
 六人全員が前で武器を構える。ロッドを振り抜くが、やはり攻撃力はない。だが、攻撃は当たるようになってきた。
 目がなれ、敵の先を予測することができるようになっている。


 ゴブリンの攻撃を、土山は器用に受け流す。力で無理ならば、持てる力を使ってかわし、いなすこと。
 それを意識するように指導して、真っ先に土山ができるようになったようだ。
 さすが、運動部なだけある。
 近接戦闘で、もっとも彼が大事になってくる。
 土山が敵の注意をひき、そこへ川端が突っ込む。


 彼は俊敏な動きをしている。そのおかけで、ヒットアンドアウェイによる攻撃が可能だ。彼のロッドに力強さはなかったが、その一撃にゴブリンがひるんだ。
 ゴブリンはうざったそうに川端を見る。一歩離れ、そこで小躍りをしてみせると、ゴブリンの怒りは頂点に達する。
 ゴブリンが川端へと踏み込もうとしたところで、ゴブリンの動きが止まり、顔が歪む。


 即座に展開した川端のアクアバリアにゴブリンが突っ込んだのだ。彼が多くのHPをつぎ込んで放ったバリアにゴブリン自ら突っ込んだことで、ダメージを与えたのだ。
 怯んだゴブリンを全員で囲んだぶん殴る。


 ……さすがにそれで、ゴブリンは死んだ。始めて、彼らだけで勝利したな。
 喜んで全員がはしゃいでいる。ま、こんだけ戦えれば俺はとりあえず必要ねぇか。


「それじゃ、アーフィ。こいつらを見守っててくれ」
「え、勇人くんどこか行くのかい?」


 川端が不思議そうにみてくる。


「俺ももっと強くならないとだからな。階層を一人で攻略していく」
「……大丈夫なんですか?」


 レベッカが疑問の顔を向けてくる。


「なら、一緒に来るか?」
「遠慮します……」


 レベッカは両手でバツを作る。ま、妥当な判断だ。
 一人で深い階層を進んでいく。
 午前中だけで、四十階層まで到着し、三十五階層へと戻る。


「とりあえず、昼食の時間にしようか」


 階段へと移動し、全員で食事を行う。


「アーフィと勇人って付き合っているのか?」


 竹林が口に食事を入れながらこちらを見てくる。


「ああ、そうだな」
「けど、勇人、おまえ王女様とも関係があるんだろ?」


 ……どうやら竹林にまでしっかりと噂が出回ったようだ。
 竹林はにやりと、からかうような顔だ。
 他のメンバーたちも、俺に対して訝しむような目を向けてくる。
 彼らの疑いを払いのけたいとも思うのだが、俺は仕方なくこくりと頷いた。


「……王女様とも関係があるんだってな?」


 ここまでいっておけば、より噂も広まることだろう。
 アーフィがぐっとこらえてくれていたが、彼女の両目は赤くなり、鋭く尖っている。


「……勇人さん、さすがに一人にしたほうがいいと思います」


 控えめな明沢がそういうと、海峰、安光も鋭く睨んできた。
 こればっかりはどうしようもないね。甘んじて受け入れるしかない。俺は無言でぱくぱくと食事をする。
 ……アーフィの悲しげな目を見てか、女性陣が完全に敵となる。
 竹林が肩を組んできて、こくこくと頷く。


「オレも、気持ちはわからないでもないぜ? ハーレムだなんて、男の夢だもんな」


 ……こいつにだけは同意されてしまった。それはそれで悲しいものだ。
 アーフィはすっかり元気がなくなってしまっている。
 演技だとわかっていても、彼女はつらいのだろう。
 だが、おかげでより信憑性は高まるね。


「私は貴族側ですので、そういったことが珍しくないのは知っていますが……あなたたちの世界では違うのですか?」


 竹林たちの反応が予想外だったようで、レベッカが目を見開いている。
 しばらく、考えの違いについて彼らは話をしていた。


「なるほど……文化が本当に違うのですね。私があなたたちの世界に突然召喚されたら、生きていけないかもしれません」
「まあ、何かしらで迷い込んでも、親切な人もいるから大丈夫かもよ?」


 竹林がのんびりといっている中で、俺はちらとアーフィを見る。
 後で、きちんと謝らないといけないね、これは。




 ○




 午後も午前と同様に狩りを行うことにし、俺は階層をさらにあげていく。
 ……だいぶレベルもあがったな。
 第四十五階層と四十六階層の間の階段で一息ついた俺は、自分のステータスを確認する。


 Lv18 ハヤト・イマナミ 職業 ものまねLv1 メイン 勇者Lv1 サブ 斧使いLv1、剣士Lv1、探索者Lv1


 HP1 
 筋力1080 体力1 魔力1 精神1 技術756 
 火1 水1 風1 土1 光1 闇1
 職業技 筋力アップ 技術アップ 迷宮移動


 ……ステータスポイントも全部割り振ってみたのだが、随分な数字になったな。
 さらにそれからしばらく狩りを行い、ある程度の時間になってみんなの元へと戻った。
 彼らもちゃんと戦闘訓練を積んだおかげで、職業レベルがあがった人もいるようだ。


 やっぱり、職業が多いと経験値がだいぶ分配されてしまうのかもしれない。
 まあ、技を覚えたところで、俺のHPはこれしかないんだからどうしようもない、か。
 今日の狩りはそこまでで、その後城へと戻る。
 食事を終え、部屋へと戻ろうとしたところで、


「ハヤト殿。今朝言われたものについて、まとめた紙だ」


 騎士団長が紙を持ってきて、俺はそれを受けとる。


「ありがとな……」


 その紙には、貴族、騎士について様々なことが書かれていた。
 見張りについてを見てみると……一目瞭然だった。
 明日の見張りの騎士が過ごしている土地は宰相が管理している領地だ。
 となれば、彼らも何かしらの関係があるだろう。
 部屋へと戻り、テーブルに紙を並べさらに色々と見ていく。
 明日の夜……何かが起こるな。


 一緒に戻ってきていたアーフィが俺の顔をみて首を捻った。


「何かわかったの?」
「ああ、これを見てくれ」


 紙を見せたがアーフィは首を傾げてばかりだ。
 だから俺が彼女に説明をする。


「この城には二箇所の入り口があるんだ。……その二つの出入り口には夜でもきちんと騎士が見張りをしている。……だけど、明日の夜は少し特殊なんだ」
「……なにが、かしら?」
「宰相が所有している土地の出身貴族だ。……つまり、彼らからすれば上司であり、下手をすれば宰相に味方をしている騎士の可能性が高い」
「ならば、今のうちに変えてしまってはいけないの?」


 未然に防ぐという意味ではいいかもしれないけどね。


「それだと、敵が行動できなくなるだけだよ。下手をすれば、こっちが気づいていると相手に教えるような愚策だ。だから、野放しにして……宰相たちが外に出たタイミングで仕掛ける」
「……なるほどね」
「明日の夜は寝れそうにない。決戦の日だ」
「なら、今日は早く寝たほうがいいわね?」
「そうだな」
「なら、一緒にくっついて眠りましょう」
「えと……その」


 一緒のベッドを使っているが、いつもは一人分程度の隙間を作っていた。
 ……だって恥ずかしいし。
 しかし、アーフィは無理やりに俺を引っ張っていき、ベッドへと倒してくる。
 そのまま抱きついてきて、並んで横になる。


「……良いでしょう? もう、あと数日しかないのよ……。少しでも長く、あなたといたいわ」


 震える彼女の腕にそっと触れる。
 ……そう、だな。
 俺にとっては久しぶりの家族との再開という嬉しい部分もあるが、アーフィには別れしかないんだ。
 ならば、今は少しでも彼女との時間を大切にするべきだ。



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