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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第六十三話

 
 霊体を両手にまとい、剣を振りぬく。右の剣が弾きあげ、左の剣が体を捕らえる。
 剣が彼の体を掠ったが、カウンターの魔法によって霊体をはがされ、体が弾かれる。
 強化された肉体によって背後の壁を蹴りつけ、霊体とともに迫る。
 右と左による剣技。俺の剣に教えられるような型などない。その場にあわせた、技術と筋力に任せた全力の一撃――。


 風を破りるが、代償に霊体をはがされる。
 彼の顔が笑顔で飾られる。俺だって、これほどの強敵との戦いに体が高揚している。
 ……どうやら、俺はそれなりにこの世界の戦いという環境を好いているのかもしれない。


 彼の左腕に剣をつきさし、横薙ぎに右の剣を振りはらう。
 彼はそれを剣で受け、上方へと流す。回るように彼の背後をとり、剣を振りおろす。
 風の壁に阻まれ、さらに衝撃がカウンターのように俺の体を吹き飛ばす。
 俺は両手に風を集め、後方へと放つ。無理やりに体を止め、周囲に手をかざす。


 教会に並べられた椅子を持ち上げて彼へと放り投げる。彼の風に阻まれ、彼の視界から消えるように肉薄する。
 振りぬかれた剣が彼の風を破り、再展開された風に体を刻まれる。霊体がはがれても、今の俺の肉体ならば彼にも負けない。
 ……しかし、彼は霊体を部分で展開こそするが、ダメージはすべて身体で受けている。俺とは真逆の戦いに困惑しないわけがない。


 これが精霊と契約したものの力なのか?
 後方へとび、俺と彼の立場が入れ替わる。
 背後にはファリカがいる。ちらと視線を向け、強くうなずいた。
 ……ここから助け出してやる。


 ぎりっと歯ぎしりをし、しかし俺は怒りをそこで留める。
 心の制御もうまくしなければならない。感情に任せて戦うなど、前の戦闘の二の舞だ。
 怒りに飲まれてはいけない。
 と、グラッセは顔を顰めながら、剣に風をまとわせていく。


 鋭い風がやがてさらに尖っていく。
 ……これは、まずい――。
 気づいたときには、手遅れだ。


「サイクロンスラッシュ!」


 放たれた暴風は、周囲を切り刻みながら襲い掛かる。かわせばファリカにも少なからずのダメージとなる。
 俺は両手に剣を持ち、観察する。
 魔法を魔法として存在させているのは、恐らくは目には見えない内部の構築だ。


 ゲームなどでいう、プログラム。普通の人ならば、意識もしないようなそれらの情報さえわかれば、魔法を破壊することは造作もない。
 剣がグラッセの魔法に当たる。体がじりじりと押され、霊体がはがれる。両腕を切り刻みながら、俺の体を押していくその魔法――。


 触れていれば、その魔法の細部までが理解できる。
 時間にして数秒。それで俺は霊体を再度展開し、その魔法の核となる部分へと腕を突き出す。
 剣が吸い込まれ、魔法の情報を破壊する。途端に魔法は霧散し、吹き荒れていた暴風はなくなる。
 床を蹴る。


 驚きに見開かれたグラッセの腹へと左の剣をつきさす。
 右の剣で彼の胸元を斜めに斬りつけ、剣を手放した左の拳で顔面を殴る。ふらついた彼の体へ、蹴りを放ち、もう一本の剣をステータスカードから取り出して投げつける。
 グラッセの体が壁に縫い付けられるように刺さり、俺は一つ呼吸をおく。


 全身から血をながすグラッセに、俺は汗を拭いながら視線を向ける。
 あっけない幕引きに劇団にいたファリカでは不満も上がりそうだ。
 けれど、すぐにそれは間違いと判断する。
 周囲を満たす異様な気配は、今もまだ残っている。


 グラッセを見る。
 彼は壁から体を剥がし、ボロボロの身体を引きずるようにして着地する。
 抜いた剣を捨て、口から血を吐く姿にいったい誰がまだ戦えると判断をするのか。
 しかし、俺の霊体は彼を敵と認識してやめなかった。その答えはすぐにわかった。


「……確かにおまえはなかなかの強者のようだ。だがな……俺はこの迷宮と契約をしている。精霊レドンの再生は、俺のものだ!」


 彼が両手を広げるも周囲の恐らくは魔力が彼へと集まっていった。時間にして数秒。
 グラッセにあった擦り傷やいくつものダメージのすべてが、次には跡形もなく治っていた。彼は首を回すようにして、にやりと笑う。


 再生の力があったからこそ、彼は霊体ではなく体を盾に使っていたのか
 かなりまずい状況だ。顔に出すわけにもいかず、苦し紛れに笑みを浮かべるしかない。
 剣を握り直し、奥歯を噛みしめる。ここからは根性でしかない。


「つまりは、あんたが迷宮のボスってか?」
「そうなるな」
「なら……迷宮がぶっ潰れるまで潰すだけだな」


 完璧に再生した体へ剣を振り抜く。
 まだ体力では負けていない。
 魔法に弾かれながらも俺は両足でしっかりと着地する。
 追撃の魔法を切り裂くが、完全には捌けない。体にいくらかのダメージが残りながらも俺は冷静に彼を見据える。


「あんたはどうして世界なんて欲しがるんだ?」


 呼吸を整えながら彼へと問いかける。
 俺にとっては持久戦になればなるほど、苦戦が残る。気づかれないよう呼吸を整えていく。


「それを聞いてどうなる?」
「何になるかはわからない。あんたの考えに同意できるとこともあるかもしれないって思ってな」
「すべてを支配し、俺が新たな精霊になるためだ」
「なんだ。倒す理由が増えただけか」


 よりにもよって、そんなくだらない理由のためか。
 右と左の剣によって彼の体を切っていく。しかし、傷つけた体は次の瞬間には再生を繰り返す。相手の魔法が俺の体を傷つけ、ダメージは俺にばかり蓄積する。


 ……厄介だな。彼の風に弾かれるようにして距離をとり、口元を拭う。
 そこで、立場が変化した。俺の攻める剣が守りの剣へと、変えざるを得なくなる。


「どうした!? 動きが遅くなっているな!」


 もっとも面倒なのは、彼の再生がスタミナまでも元に戻していることだ。それはまさに再生というよりも巻き戻しだ。
 彼の剣によって俺は大きく弾かれる。放たれた風の矢を剣で防ぐが、一つが霊体にあたり、体へとつきささる。


 ……力は押している。すべてにおいて、俺は負けていないはずだ。
 だが、あの再生をどうにかしないと、俺に勝機はない。
 俺はボロボロの体のふりをして、その場で倒れる。


 グラッセが近づいてきて、思いきり足で踏みつけてくる。


「くっ……あぁ!」
「ふ、はははっ! どれだけの力があっても、俺を破れる奴はいない! これが、人間を超えた精霊の力だ!」


 骨がミシミシと音をあげ、それがグラッセに笑みを作らせる。俺はそれに反逆するように、霊体をまとい足を殴りつける。


 怯んだ彼の足を巻き取るように掴み、その体を引く。魔法に弾かれそうになり、横に転がる。剣を掴み直し、彼の右腕へと振り下ろす。
 霊体をまとった渾身の一撃。
 彼の腕がおち、悲鳴があがる。そして、その胸へと剣を突き刺した。
 この一瞬の出来事にグラッセは困惑の顔を浮かべていた。


 彼の体から剣を抜いた時、彼の目から色が抜ける。
 上体から倒れた彼を一瞥し、俺は乱れた呼吸を落ち着けるために何度も息をした。
 それから彼に近づき、心臓がとまったことを確認する。


 さすがの再生能力も、今の一撃の前には間に合わなかったようだ。ファリカのほうへと駆け寄り、その鎖を破壊する。ふらふら、と彼女は体をあげたところで、ぐだっと倒れる。
 触れた彼女の肌は冷たかった。かなり、衰弱しているようだ。満足に食事も与えられなかったのだろう。


「ありがとう、ハヤト」
「悪いな、おまえの復讐相手を奪っちまって」


 彼女の体を支え、振り返る。
 完全に気を抜いていた。真っ直ぐに伸びた風の刃を俺はファリカを突き飛ばしてどうにか彼女を守る。霊体が遅れて展開する。


「ぐ、あぁぁ!」


 額が焼けるように痛かった。どうにか回避し、俺の首は繋がっている。けれど、額に掠ったその斬撃からの痛みは俺の体に強く残っている。激痛にその場を転げ回る。どうしようもないその状況ではあったが、俺はどうにかそれを抑えつけ、立ち上がる。


 真っ直ぐにこちらを睨みつけているグラッセは、不敵に微笑んでいる。


「勝ったと思ったか?」
「心臓は止まっていたはずだ。なのに、どうしてだ」


 痛みに思考の多くが割かれながらも、どうにか俺は彼を見据える。
 そして、絶望に近い感情が浮かぶ。嘘だろ、無傷とかさすがに頭にくるぞ。


 精霊の力の理不尽さに頬を引きつらせながら、両手に剣を持つ。
 ファリカも武器を構えているが、俺は彼女に首を振る。


「やめておけ。あれについていけるのか?」
「……わかってる。けど、あいつは私の仇」
「ああ、最後はくれてやるよ。だから、それまでは下がっててくれ。死なれたら、俺がここに来た意味もなくなる」


 グラッセが踏みこみ、彼の剣を受ける。
 ……体が軋む。
 体力がなくなったことで、俺の体が傾く。


 その隙を彼は見逃さない。風が横から殴ってくる。
 俺は背後に風を放ってこらえる。
 額の傷がうずき、本来の力を入れようとするたびに力が抜けるような感覚だ。


 それでも、俺は彼の剣を受け続ける。回避に徹すれば、まだいくらかは耐えられる。
 グラッセは好機とばかりに、いたぶるように風と剣で切り裂いていく。


「どうした! どうした! 何もできないか!? ボロボロの体だなっ」
「……ああ、そうかもしれないな」


 魔法と剣の嵐をかわすが、傷は増えていく。霊体を最速で展開し続けても、壊れるほうが早い。
 傷が、痛みが全身を蝕んでいく。気を抜けば倒れそうだ。
 けれど、戦っているのは俺だけじゃない。俺には仲間がいる。
 諦めたら、そいつらに向ける顔もない。


「……俺が考えなしに逃げていると思ったか?」
「何?」
「おまえは一つ大きな勘違いをしている。ここで戦っているのは俺だけだ。けど、ここ以外で戦っている奴もいる」
「何が言いたい? 仲間への遺言か?」
「あんたの最後の言葉はそれで良いのか?」


 窓から光が差し込み始める。そちらをちらと見た俺に合わせるようにグラッセも見る。
 そして、彼の顔に明らかな歪みが生まれた。


「……なんだ、これは!?」


 グラッセの体から何かが抜けていき、グラッセはそれを必死に繋ぎとめようと手を伸ばす。
 ……やっとか。
 俺はボロボロの体に鞭をうち、肉薄する。
 一撃を受けたグラッセの体が沈む。
 精霊の力がぬけているのだろう。……読み通りだったわけだ。


「くっ、ふざけるな! 二百年、二百年かけての計画だったんだぞ!? 俺は、俺ほどまでに精霊様を信仰しているものはいない! 認められるか、これは俺の精霊の力だ! 俺は精霊だ!」
「あんたは所詮、器にもなれなかったってことだろっ」


 両手に持った剣を休みなく振るう。
 体が呼吸を欲しても、血がどくどくと焦るように流れても体を動かすのを止めない。
 殴るたび彼の体から精霊の力が抜け落ちていくのがわかる。彼に、精霊の力を繋ぎとめる時間を与えないっ。
 ここで押し切らなければ、せっかくのアーフィたちの努力が無駄になる。


「おら……よッ!」
「ば、馬鹿な……どうなっている? 精霊に使用した結界は、精霊の力そのものだぞ!? ただの人間が……壊せるなんて……まさか、あの女か!」


 今さら気づいたところで遅い。
 両手の剣で彼の両腕を跳ね上げる。
 彼は即座に治療をしようとしたが、右腕が再生しただけで終わってしまう。


「ふざ……けるな! 精霊! 俺に力を貸せ!」


 膝をつきながら彼は天井へと手を伸ばす。そこに返ってくるものは何もない。
 俺は剣をしまいながら、最後に思い切り蹴り飛ばした。
 グラッセの体は床にあとをつけながら転がり、壁に当たって止まる。
 ……これで、本当に最後だろ?





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