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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第六十二話 二十四日

 第二十一階層で戦っている騎士学科の人間はそれほどの数はいない。本当に頭のおかしい、主だけを思うような奴が少ないのだ。
 ……だからこそ、そのうちに鎮圧されるだろう。
 彼らが、夜明け前に仕掛けることを計画していたことだけが幸いだった。


 おかげで、俺たちは混乱に乗じて簡単に移動できる。


「……街の中央の建物に、みんなが閉じ込められている。助け出すことさえ出来れば……騎士たちの力も借りることができる」
「そうか。俺が一階層までの見張りを倒しておいた。だから、助け出しさえすればすぐに脱出もできるはずだ」
「……さすがだな。なら、目的ははっきりとしたな。捕らえられている建物まで、一気に向かうぞ!」


 アジダが叫ぶと同時、脇から部隊の人間たちが姿を出した。


「……貴様ら! 貴族の命が惜しくはないのか!? おまえたちの大切なものまでも、失う可能性があるんだぞ?」


 彼らの威圧するような言葉に、俺が剣を肩に乗せながら笑みを返す。


「どうでもいいよ、そんなものは。俺はただ、俺たちを馬鹿にしやがったおまえらの親玉をしとめたいだけだ。貴族? どうぞ、好きにしてくれ」


 アジダが何か言いたそうだったが、彼らの怯んだ様子を見て閉口した。
 部隊の人間たちは俊敏な動きとともに距離をつめてくる。三人による連携の攻撃を俺が防ぎ、アジダがしとめる。


 彼らを一掃することに、さほどの時間は必要ない。
 すぐに走り出し、中央地区へと踏み込んでいく。
 この辺りになると、警備が強化されてしまっている。俺はアジダの体を掴み上げ、近くの壁を蹴って家の屋上へとあがる。


「雑魚に構っているだけ、時間の無駄だ。一気に行くぞ!」


 他にも暴れている奴らはいる。敵なんて貴族を助け出したあとの騎士に任せればそれで良い。


「た、高い場所は苦手なんだ!」
「慣れれば問題ないだろ?」
「出来ないから怖いんだ!」


 彼を抱えあげて屋根を踏みつけるように移動する。
 いくつかへこんだ場所もあったが、敵の拠点がどうなろうと知ったことではない。


「……あそこだ」


 アジダが指差した先の建物を見る。
 確かに、屋根から見える庭には多くの人間が配備されていた。
 誰かの私宅だろうか。カレッタの屋敷にも負けないような建物だ。
 そこの庭には周囲全体を警戒できるように部隊の人間が配置されている。


「後ろの建物は?」
「その奥にあるあそこは……教会らしい。何人かの精霊特殊部隊のやつらがあそこに入って、また出てきて……というのを何度か見かけた奴がいるらしい」
「……怪しいな」


 精霊をかたどったような模様の入ったものが建物の天辺についている。
 アジダとともに着地し、俺の霊体が消滅する。


「……貴様らは、騎士学科の人間か!」


 着地にあわせ、敵が気づいて剣を振りぬいてくる。
 街で戦ってきた奴らとは動きが違う。アジダが反応して剣で受け、俺は生身の体で受け止める。
 ……霊体での戦いを思い出せ。受け流したあとに俺は敵の霊体を斬りつける。


 さすがに一撃で削りきれる力はない。だが、その時間で霊体を再展開することができる。振りぬいた一撃が敵の内部へと差し込まれる。
 背後からの一撃をアジダが振り切って吹き飛ばす。


 背中を任せられる奴がいて、俺も堂々と戦える。
 お互いに背中を預け、隙を隠すように剣を振っていく。
 さすがにアジダは押しきられるとキツイ場面があるが、そのたびに俺が援護をする。


 剣が振り下ろされ、槍が鋭く伸び、斧が力任せに振るわれる。
 様々な武器が入り乱れ、鮮血が宙へと舞い、地面をぬらす。
 音がなくなったとき、庭師によって手入れがされていたであろう庭は、屍と血が飾る、地獄のような場所へとかす。
 アジダが疲れたように剣を地面につきたて、呼吸を乱す。


「水でも飲むか?」
「こんなところで飲みたくはないな。……行こうか。この先に捕らえられている人たちがいる」


 アジダが立ち上がった瞬間、嫌な気配を右側に感じた。
 真っ直ぐに……嫌、曲がった?
 剣がぐんと伸びてきた。殺意のこめられたそのフェイントに、俺は引っかかりそうになり寸前で剣をひく。
 アジダも反応したようで、返しの剣の用意をしている。
 ならば、俺が攻撃を受け止める。


 変幻自在の剣は、それこそ骨がないかのような腕の振りとともに繰り出された。
 気持ちの悪い体の動きだ。俺はそれを技術の高さで無理やりに反応してみせる。
 三手ほどの打ち合いのあと、アジダの横薙ぎの一撃によって男が後退する。


 精霊特殊部隊の中でも上位にくる実力者だろう。
 彼の剣をじっと睨みつける。……まるで人間の腕のように途中で曲がっている。
 ……ククリナイフのような、くの字をしたその剣は……初見じゃ少しつらい相手だな。


「こいつが最後の守りってところか」
「……ここまで感謝するぞ、ハヤト。あいつさえ倒せば、ここは解放できたも同然だ」
「それじゃあ、おまえが負けた相手ってのはこいつか?」
「ああ、だが、こいつにはクセがある。……初見の相手にしか通用しないような欠点があるんだ。おまえも目的があるのだろう? そっちに行くと良い」
「ステータスにしたら、互角か格上じゃないか?」
「……ステータスだけじゃない。クーナ、レキナの二人が手の内のほとんどを出してくれたからな」


 剣を構えたアジダが、男を睨みつける。男は何も言わずに、さらにもう一つクセのある剣を取りだす。
 ……アジダが踏みこみ、男と剣を打ち合う。両者の力は互角だ。
 けれど、アジダはまるで先が読めているかのように彼の剣のすべてを捌いていく。
 ……なるほど。


 敵の剣はクセがある。
 予想外の動きばかりと思われる剣であり、確かに不意打ちには強いが……あれを見て覚えていたのだとしたら、アジダでも問題なく対応できてしまうのだろう。
 魔法を組み合わせた敵の攻撃をさばいていく彼を俺は信じて、さっさと決着をつけに行くことにする。


 ……下手にグラッセに動かれると厄介だからな。
 庭を飛び越え、その先にあった教会の入り口へと着地する。
 誰も警備はいない。この混乱した状況を鎮圧するために、多くが借り出されているのだろう。


 精霊に感謝を捧げる教会よりも、この迷宮都市を守ることを優先している。
 人を拒むように固くとざされたその扉を蹴り開け、中を歩いていく。
 均等に並べられた木の椅子が左右をずらっと埋めている。


 真っ直ぐに伸びた中央の絨毯の先には大きな像がある。
 恐らくはそれが、この迷宮でまつっている精霊を元に作られたものだ。
 その前には一人の男がいた。


「つまりは、そういうわけだ。この状況でなお、おまえたちは俺たちの要求を拒むというのか?」


 男は一人ごとを呟いているように見えた。しかし、彼の手には何かの魔石があった。……なんだあれは?
 迷宮内での通話はできないはずだったが……。
 像の前では祈りを捧げるように、グラッセが膝をついていた。
 像の奥には……鎖に縛られるようにし動きを止められているファリカがいた。


「ファリカ!」


 グラッセが気にくわそうに体をあげる。


「貴様らはあまりにも弱いくせに、こそこそと動き回り、無駄なあがきをしているようだな」
「そうとうに苛立っているみたいだな。その弱い奴らによって、おまえの戦力はどんどん失われている」
「おまえの目的が俺である以上、俺はここでじっとしていれば良い。そう命令も出しておいた。なぜなら、おまえでは俺には勝てないからだ」
「たいした自信だな」


 剣を右手、左手に一本ずつ構える。
 と、グラッセの視線が右手へと向けられる。しばらくして彼は大きく笑った。


「なるほどなるほど! そういうことか! 王よ、おまえはもしかしたらこの派遣した騎士に対して何かを期待しているのかもしれない」


 そうグラッセは叫び、水晶のような魔石をこちらへと向けてきた。
 そこには、王の姿があった。他にも何名かの貴族、騎士の姿もあったが……見覚えはなかった。
 俺と目が合うと彼らは驚いたような顔を作った。


「この最高級魔石はな、他の通信用魔石と違い、迷宮内でも魔力に影響されない。さらには、相手にこの魔石に映る映像も送ることができる優れたものだ。滅多にないものではあるが、素晴らしいだろう?」


 彼は自慢するように抱え上げ、それから俺を馬鹿にするように笑った。


「おまえも大変だな。この国を危機においやったものたちのために、こうしてここで剣を握っている」
「……どういうことだ?」
「この国はあまりにも愚かだ。……くく、友好的な姿を見せていればあっさりと騙されてくれる。知っているか? おまえたちの国の貴族たちを。今の王への不信感は多く募っている。そいつらに自由をちらつかせれば、簡単に協力してくれたさ」
「……ああ、そうか」


 ……だろうな。城にいた時間だけでも、王に対しての不満の声がいくつもあがっていた。
 俺がいるような場所でもそんな会話がしているのだ。
 彼らにとって、王を批判するという行為がどれだけ愚かなことなのか、理解もできない連中が多くいるのだろう。
 ただ、それがどうした?


「おまえはどうしてここにいる? 自分の貴族を守るためか? 国を守るためか? やめておけ。おまえなら、俺の仲間にしてやる。ファリカが欲しいのならば、ファリカをくれてやってもいい。もちろん、俺の子を生んでからの話だがな」


 彼のふざけた話を、俺は笑い飛ばす。


「あんたに奪われた俺の友達を助けにきただけだ。国? 関係ないね。俺はいっておくが、あんたの言う騎士でもなんでもない。ただ、偶然ここに居合わせた人間だ」
「ちょうど良い。おまえのような強者を殺すことで、国に教えてやろう」
「俺を倒す、か」


 ……それで一体何が教えられるんだ?
 王たちの俺のステータス情報はオール1で止まっているんだぜ? 頑張って倒して自慢しても、それこそ赤ん坊に勝ったのを自慢するようなものでしかない。
 噴き出しそうになった口元を隠すしかない。


「くく、王たちの驚く顔を見れるだろう。おまえのような強者を派遣してもなお、俺をおとすことはできないということをな」
「はっ……ははは!」


 こらえきれなくなって笑ってしまう。
 俺が笑い出したのがおかしかったのか、グラッセは目尻をぴくりと動かす。
 ひとしきり笑った後に、俺は目元を拭ってから笑う。


「俺は確かに国の使いかもしれないな。けど……大きく勘違いしているさ」
「勘違いだと?」
「俺は国で雑魚認定されたからこそ、ここにいるだけだ。けど、そんな奴におまえは……ここで殺されるんだ」


 剣を改めて構えなおす。
 グラッセは眉間に皺をつくりながら、像の前にあった机に魔石を置いた。
 俺は剣を軽く振り、首を回す。
 ぴきっとヒビの音のようなものがした瞬間、俺たちは一気に地面を蹴った。

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