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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第六十一話 二十四日

 ……次の日に備えて軽く睡眠をとってから目を覚ました。
 俺も眷属として彼女に近しい存在になったからか、あまり眠れなかったが体の調子は悪くない。
 装備を整え、全員が霊体をまとう。
 幸いにも、俺たちの階層への追手はいない。しかし、これからもそれが続くわけではない。


 ここから先は賭けの部分もある。俺はとにかく、敵をかく乱していかなければならない。
 例え、どれだけの敵を切り裂くことになったとしても。


 この上の階層はすでに守りを固められているかもしれない。
 それに、第一階層を守っている人々がいるのならば、俺たちが脱出できていないことも敵は知っているだろう。


「……怪我だけは、死ぬようなことだけは、絶対にやめてください」


 桃が拳を震わせながらそういった。
 わかってるよ。俺は彼女へ軽く頷いた。


「カレッタたちは、とにかくまっすぐに……階層を抜けていってくれ。途中襲ってきた魔物はほとんど無視で構わない。それで、階層をあげていってくれ。カレッタ、時間としてはどのくらいあれば最下層までいけそうだ?」
「そうだね。確か……三十階層だったかい? そこまでなら、魔物を無視していけば、一つの階層あたり二十分もあればいけると思うよ。まあ……魔物に邪魔されたら、その限りでもないけどね」


 まあ、俺は一時間近くは戦う必要があるというのか。
 まだ空は明るくはなっていない。時間としては午前の四時くらいだ。


「俺たちの勝利は日の出に祈られることになりそうだね」
「そうだろうね。そうなればいいんだけど、ね」


 カレッタは晴れやかな笑みを浮かべる。
 ま、これだけ余裕があるなら大丈夫だろう。


「……それじゃあ、こっちはカレッタに従って行動してくれ。カレッタ、もしものときの判断はおまえに任せる。みんなも、危険になったらカレッタに罪をなすりつけて逃げてくれ」
「ちょっと待てハヤト」


 ひとまず、こちらは問題ないだろう。
 ……俺はこれからやることを考えると、大変なことばかりだ。
 しかし、それでもやるしかない。


「……それじゃあ、行ってくる」
「ハヤト、気をつけてね」


 アーフィの言葉に頷くと、桃の視線がじっと注がれる。


「……どうしたんだ?」


 桃にも、後で落ち着いたらすべてを話そうと思っていた。
 桃はしかし、俺へと視線を注いだ後テクテクとこちらへと近づいてくる。


「なんだか、二人の距離がやたらと近く感じたのですが」
「……いや、手も届かないような距離だが」
「そういうものではありません。……何かありました?」
「後で、話すよ」
「……そうですか。わかりました」


 桃はそれである程度は察したようであった。少しだけ悲しそうに目を伏せてはいたが、それでも次には笑顔である。


「私は勇人くんが幸せならそれで良いです。……私が幸せにさせてあげられるなら、それが一番でしたが」
「……悪い、その」
「謝罪の言葉はやめてください。何だか惨めな気分で……怒りたくなりますから」


 桃が目をつりあげ、それから俺の耳元に顔を近づける。


「それに……まだ完全に負けたとも思っていませんから」


 ぼそりと呟いた彼女は悪戯っぽく微笑んでから離れる。
 ……ちらと横にいたアーフィの視線が尖っていたが、俺は気にしないようにした。


 リルナの表情は固いままであり、いつもの能天気な様子はない。
 それは恐らく、これからの戦いに対して硬直してしまっているのだろう。


「俺たちがこれからやることは……危険の多いことだ。だけど……たぶん、ここで貴族を助け出さないと……この国は大きく傾くことになるはずだ。だからって気負う必要はないよ……俺は友達を助け出したいから、こうしてこれからの行動をする。みんなもそれぞれ、目的があるはずだ。それは……それこそ自分の欲望でもなんでも良い。その気持ちだけで、動いてくれれば十分だ」


 俺の言葉にカレッタは頷いた。
 リルナも俺の言葉に気づいたように、顔をあげた。
 彼女に軽く頷くと、苦笑気味に首肯を返した。


「……だから、みんな途中で苦しくてもしっかりと自分の考えを持って行動してくれ。ま、それにおまえたちが失敗したとしても、俺が一人でグラッセを片付けてそれで終わりだ。それじゃあ……頑張ろうか!」


 俺の言葉にあわせ、弾かれたようにカレッタたちが走り出す。
 俺もステータスカードを取り出し、改めて自分の状態を確認する。


 Lv15 ハヤト・イマナミ 職業 ものまねLv1 メイン 勇者Lv1 サブ 斧使いLv1、剣士Lv1、探索者Lv1
 HP1 
 筋力940 体力11 魔力1 精神1 技術680 
 火1 水1 風1 土1 光1 闇1
 職業技 筋力アップ 技術アップ 迷宮移動


 残っていたステータスポイントを、筋力と技術に振り分けたことで俺は前以上の能力を身につけた。
 ……バランスよく振り分けることも考えた。
 けれど、HPを振り分けるのならば、その分打たれ強さもあげていく必要が出てくる。


 そうなると、俺の利点である再生の早さが失われてしまう。
 ……やっぱり、オール1スタートってのはかなりのハンデなんだな。


 今の俺はレベル15にして合計ステータスポイントは1600ほどでしかない。
 これを、仮に属性を除いたステータスへ割り振ったとしても、一つあたり300程度の数字でしかない。


 以前みた桃のレベル9のステータスとあまり変わらない感じなんだよな、これは。
 俺は、精霊特殊部隊が着用していた服のフードを被り、迷宮移動を発動する。
 第二十二階層へと降りた瞬間、精霊特殊部隊の人間たちが姿を見せた。
 数は四人か。さすがに見張りの人数を増やしたようだ。


「……何者だ?」
「報告をしにきた者です」
「……雨と風の間でっ!」
「……」


 どうやら合言葉を変えたようだ。
 だったら、返事は刃だ。
 俺は霊体をまとうと同時に、彼へと距離をつめる。


 四人のうち、三人が前へと移動する。俺は剣を軽く撫でるように振るい、敵のそれぞれの武器を弾き飛ばす。
 つかみかかってきた一人を蹴り、左手に緑の風をまとわせ、思い切り放つ。


 左側にいた二人が巻き込まれ、後ろに下がった男の振り下ろした剣を受け流す。
 あまりに自然な動きだったからか、男は力の行方がわからないとばかりに地面へと叩きつける。


 彼に錯覚させたのだ、俺を斬ったということを。
 地面を叩きつけた彼の胸へと剣を突き刺す。何の抵抗もない。もっとも体の薄い骨の隙間へ、剣が吸い込まれた。


 起き上がった敵三人が剣を抜いてこようとしたが、それを風で奪い取る。奪い取った剣を浮かばせながら、駆け出し、逃げようとした彼らへと剣を突き刺す。
 ……この程度の相手ならば、霊体なしでも十分に戦えるな。


 血を払い、俺は出来る限り自分の考えをもたないよう無感情に第二十一階層へあがる。
 そこで見張りを殺し、さらに階層をあがっていく。
 第一階層まで同じように繰り返し、敵のすべてを殺していく。


 ……さすがに第一階層の敵は多く配置されていたが、それでも苦戦することなかった。
 斬った数は百人近く……敵はそうとうに逃げられることを警戒していたようだ。


 自分の殺めた敵の数に、自分自身が一番驚いていた。何よりも、心がまるでこのことに対して震えない。
 ……自分は予想以上に冷めた人間、考えの歪んだ人間なのかもしれない。
 剣を払いながら、俺は一つずつ階層を戻っていく。


 これで少しでもかく乱できれば良いのだが。
 思考しながら戻ってきた第二十階層にて、再び配備された精霊特殊部隊の人間たちを切り裂いた。
 ……どれだけの数がいるかわからないが、はっきりいって物足りない。
 ホテルへと戻ってきたが、外観からは特に分からない。


 中の状態が見えてこないが、人の気配はあまりない。やはり、すでに行動へとうつったのだろう。
 ……ならば、やることは一つだ。
 俺は第二十一階層へ向かい、フードを改めて被りなおして街の中を移動する。今さらこのフードに意味もない気もするけど。


 それにしても、街の中が騒がしい。
 俺が起こした事件だけじゃないな、これは。
 あちこちで戦闘音がきこえる。脱走か、あるいは騎士たちによる反撃か。
 とにかく、同じ志を持って戦っている人間がいるのだろう。


 街を移動していくと、不意に背後に人の気配を感じる。
 振り返り様に剣を振ると、相手の剣とぶつかる。剣の着る風の音から、彼の太刀筋はあっさりと読めた。
 その人物は、俺からすれば予想外であった。


「アジダ……?」
「なんだ、貴様は!?」


 ……気づいていないか。
 彼の振りぬかれた剣を流し、上体が崩れた彼の背後にまわって押さえつける。
 暴れようとした彼がこちらを見るのにあわせ、俺はフードを取り外した。


「……貴様、ハヤトか。まさか、貴様も敵だったのか!?」
「ちげぇよ。変装しているんだ。これから、始祖様の子孫に殴りこみをしかけようと思ってな。街の中を移動するならこっちのほうがいいだろ? それよりも、まさか捕まっていなかったなんて思わなかったよ」


 とはいえ、彼がここにいる以上、ホテルに向かわなかったのは正解か。
 アジダの体を解放し、俺は服を取っ払う。いい加減、暑苦しくて脱ぎたかったところだった。


「あれからどうなったんだ?」
「ホテルに残っていた俺たちは、敵意を向けられたタイミングで攻撃へと転じた。……とはいえ、騎士たちは人質がいる以上、うかつに行動できない」
「……だろうね。独断の行動で、貴族が殺されれば、自分の立場が悪くなるからね。それじゃあ、この騒ぎは?」
「今暴れているのは……自分の主を守りたいと思っている者たちだけだ。簡単にいえば、無謀な奴らだ。自分たち以外の主は、どうでも良い……そんな連中ばかりだ。俺もそれらに参加しただけだ」
「おまえの主はいないだろ」


 言うとアジダは表情を悪化させたあと、拳を震わせる。
 怒り、後悔……そういった類の者が見えた彼は、真っ赤に染まった顔をあげる。


「……また、守れなかった。ボロボロに……敗北したんだ。……あの男に、な。……だけど、俺はもう迷わない。ベルナリア様を助けにいく。俺もつれていってくれ! 言っておくが俺は、ベルナリア様さえ助けられればそれで良いからな」
「……決意はわかったよ。けど、勝てるのか? 言っておくが、俺には俺のやることがある。代わりに戦ってやれるわけじゃないぞ?」
「……ふん。あのときは負けたが……敵の弱点はわかった。だから、俺も連れて行ってくれ」
「いいよ。俺としても、盾が増えるのは嬉しい限りだ」
「ふん……俺が盾に使ってやるさ」


 手を差し出すと、ぱんと叩かれる。
 そして俺たちは真っ直ぐに歩き出した。





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