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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第六十話 二十四日

「俺はこう考えたんだ。あの犯罪者は……もしかしたらすべてを知っていて、この事実をどうにか伝えようとしたのかもしれない。かなり、好意的に見ての話だけどね。とにかく、今の俺たちが出来ることは――」
「……最下層へと向かうこと、ですね」


 リルナがそこで俺の言葉の先を言う。


「そうだ。だけど、それだけじゃきっとダメだ。だから、二手に別れる」
「……二手、ですか」
「そんなに焦る必要はないよ。俺が一人で敵と戦うだけだ」
「……どういうことですか?」


 桃が目尻をつり上げ、身を乗り出す。
 彼女の威圧的な目を受け、少したじろぐ。
 まるで叱るようだ。ここまでの反応をされるなんて思いもしなかったな。


「俺が第二十一階層に残って、敵をひきつける。もっといえば、グラッセを……倒す」
「……出来るのですか?」
「難しいね。けど、出来ないわけじゃない。あのときは少し冷静さをなくしすぎていた。……だから、もっと冷静に戦えばどうにかなると思う」


 心が怒りに飲み込まれていた。
 あんな状態じゃ、まともに戦うなんてのもできない。


「……そうですか」


 グラッセを倒すための作戦はもうたててある。
 けど、それをアーフィが受け入れてくれるかは不明だ。


「それじゃあ、暗い話もここまでにしようか。次に俺たちが会ったとき、それは俺がグラッセを倒して、みんなが精霊を連れ戻してくれるときだ」
「……待ちなさい、ハヤト。あなた一人では……とてもじゃないが、グラッセには勝てないわよ。対面して分かったわ」


 俺を馬鹿にするために言っているわけがない。
 彼女は涙をためるようにして、俺の隣に立つ。


「……私と同じ程度のおまえでは、あいつを倒すことはできないと思う。……グラッセのほうは、私も――」
「それはダメなんだ。このパーティーだと、アーフィがいなかったらたぶん最下層に到達するのは難しい。それに……グラッセと戦うのは今の俺じゃない」
「……どういうことだ?」
「それについてはまた後で話すよ。今は食事をして、軽い仮眠をとってすぐに移動しよう」


 みんなは一体なにを考えていただろうか。
 無謀な作戦と内心罵っているのだろうか、それとも俺を心配しているのか。
 ……わからないが、俺だって無謀に突っこむつもりはない。


 桃たちが眠りについたところで俺も近くの木に背中を預ける。
 夜の番は悪いがアーフィに任せる。彼女は今までに散々睡眠をとってきたために、三日程度は寝なくても問題ないらしい。


 便利な体だ、本当に。
 俺は薄目をあけ、全員が寝静まったところでアーフィを手招きする。
 彼女は頬を赤らめたあと、俺のほうに静かに移動してきた。


「ど、どうしたの?」
「さっきの話の続きだ」
「さっき……? ああ、グラッセを倒す方法ね。まだ、ハヤトは何か隠している力があるの?」
「……いや、ないよ」


 アーフィの顔が途端に暗くなる。そして、俺の手をぎゅっと握る。


「それは、ダメよ! あなたを無謀な戦いにいかせたくはないわっ」
「……俺は力を隠していないよ。けど、アーフィはまだ隠しているだろ?」
「……何?」
「星族は眷属を作る。眷属は自分の支配下となり、そして力を獲得することができる。違うか?」
「……まさか」


 アーフィはそこで言葉を区切り、顔を背けた。


「……やめて。私はあなたを眷属にはしたくはないの。あなたとは、対等な立場でいたいわ」
「眷属が対等な立場じゃないとは言っていないだろ?」
「対等ではないのよ! あんな……人を道具のように扱う力など……! 二度と誰にも使いたく……ないの!」


 アーフィは耳を塞ぐようにして叫んだ。
 ……アーフィが苦しんでいることは知っている。
 恐らくは実験で使ったことがあるのだろう。
 ……アーフィは嫌々と首を振るばかりで、俺の話を聞いてくれない。
 俺だって、男だ。腹をくくるしかない。


「何より……あなたにも星の証がついてしまう。星族と契約した証が残るのよ?」
「……アーフィ。俺はこんなことを、他の星族が仲間にいたとしても言わない」


 ……これより先の言葉はあまり普段は言わない。
 そのためか、上手く喉を潜り抜けてはくれない。
 別の言葉だけが浮かび、熱を宿していく頬を自覚しながら彼女の目を見る。


「俺はアーフィ……おまえだから言うんだ」
「……どういう、こと?」
「……あのとき、グラッセと戦ったとき……俺は頭に血が上ったんだ。どす黒い感情が渦巻いて、アーフィを傷つけるあの男を殺してやりたいってな。……もちろん、ファリカのことも頭には浮かんだ。けど、何よりも優先したのは……アーフィだった」


 ……そう。
 あのとき俺は自分の感情を理解した。
 今まで良くわかっていなかったこの感情。
 ……アーフィと一緒にいて楽しいのは、友達としてではなかった。


 ずっと気づいていた。けれど、自分を誤魔化し、どうにか自覚しないようにしてきた。
 けど、逃げてばかりではいられない。


「……アーフィ、好きだ。そんなアーフィの眷属になって、アーフィの苦しみを一緒に共有したいって思った。今……この世界にいる間だけでも、一緒にいたいって思ったんだ」
「……ハヤ、ト」


 アーフィはしばらく呆けたような顔をしたあと、顔をぼんっと真っ赤にする。
 そんな反応をされてしまい、俺も顔が熱くなるのがわかった。
 今さらになって恥ずかしくなってきた。だけど、口をさらに動かす。


「だから俺を眷属にしてくれ。おまえの近い存在になりたい」
「……眷属を作るのはあまり良くない行為なのよ」
「どうしてだ? 何か、アーフィの負担になるのか?」
「……星族は強い独占欲を持っているの。特にそれは、眷属に対して強くなるわ。眷属のことになると……感情がうまく制御できなくなるかもしれない。昔の星族は、気にいった相手を無理やりに眷属にして自分の手元におきたくなるものもいたらしいの。私もその血を持っているわ。だから私も、そうなってしまうかもしれない。他の女と話をしているときに、割って入るようになるかもしれないわよ?」


 ……それは、俺としては嬉しい限りだ。


「別に俺はそれでも構わないよ。どうやら俺は、若干M体質のようだしね」
「……いい、のか? あなたも、もしかしたらこれからずっと、誰かに嫌われて生活をするはめになるかもしれないわよ」
「大丈夫だ」


 何度も、彼女は俺にそう聞いてきた。
 よほど、心配だったのだろう。
 その質問はしばらく続いて、それから彼女は顔を真っ赤にして、あわあわと視線をさまよわせる。


「……も、もう一度、言ってくれないかしら?」
「……な、何を?」
「そんなの、決まっているじゃない。私、気が動転していてさっき言ってくれた言葉、良く聞き取れなかったわ」
「……意地悪だね。……アーフィ、好きだ」


 一度呼吸をしたが、胸の高鳴りが増しただけだった。
 だが、アーフィはそれが凄い嬉しかったのだろう。
 真っ赤にしてしばらくその場でじたばたと震えたあと、笑顔を向けてきた。


「……眷属として……契約は二つあるわ。仮契約と、本契約。ほ、本契約はその……あれよ……。私も最近知ったのだけど、まさに恋人としての契約が必要になるの。だから……仮契約で――」
「じゃあ、本契約にしようか。そっちのほうが力もありそうだしね」


 ここまできたら、今さら怯むこともない。


「……力? ……ふん、そういえば契約したいのは力がほしかったからだったわよね。力が目的だものね」


 アーフィがむくれたように腕を組んでそっぽを向いてしまう。
 ……まいったな。今のは冗談まじりというか、恥ずかしくて誤魔化した部分とわずかな興味が混同した結果の発言だった。
 アーフィには素直に伝えないといらぬ誤解が生まれてしまうな。


「悪い。……その恥ずかしくて言葉を濁しちゃったな。……その、本契約をしたいんだ」
「ほ、本契約がしたい。わ、私と……?」
「……ああ」


 いちいち確認をとってくるのだから、恥ずかしくて仕方ない。
 アーフィも恥ずかしいのか顔を赤らめながら、そしてこくりと頷いた。


「……本契約をするには、そのき、キスが必要よ?」
「……そうなんだ。なら……本契約は、どうだ?」
「仕方ない、わね」


 アーフィは顔を赤らめながらもそれから俺のほうへと体を倒してくる。
 力によって押し倒されるような形で、彼女が顔を寄せてくる。
 いきなりの行動にまるで反応できない。生身ではあきらかに俺が力で負けている。
 彼女はゆっくりと俺の口元へ顔を近づけ、その可愛らしい唇を少しばかり震わせる。


「――眷属、本契約を実行するわ。ハヤト、あなたを私の眷属になりなさい」
「……ああ、アーフィ」


 短い言葉のあとに、彼女の唇が僅かに光った。
 そして、俺の口にあたる。それは一瞬だったが、柔らかな感触は一生忘れることはないと思う。
 その後に訪れた異常なほどの、熱さも――。


 お互いに唇を離した後は、頭が爆発しそうで距離をおく。
 しばらく視線を合わせることも躊躇っていると、俺の胸元に熱が集まる。
 もしかして俺はこのまま全身が燃え死ぬのではないか。本当に、そんな錯覚をするほどの熱だった。


 その熱はしばらくして消える。服を引っ張り、胸元を見る。
 心臓がある付近を狙ったとばかりに、赤い星のマークが入っていた。
 前に見たアーフィのものとは少しだけ形が違うが、それでもこれが今の俺とアーフィの間にある確かな眷属としての証だろう。
 見るたびに、先ほどのキスを思い出してしまいそうだ。


「ごめんなさい、少し嘘をついたわ」


 アーフィが頭をさげたあと、照れたように視線を外に向ける。


「どういうことだ?」
「本契約は……別に唇ではなくてもいいのよ。……私が体のどこかにキスをして、あなたがキスを返す。それで、本契約は完了するわ。昔の星族の多くは、足や手にキスをさせていた、らしいけどね」
「……」


 悪戯が成功したようにアーフィは舌をだす。


「体は大丈夫かしら?」
「……凄いなこりゃあ。今までの自分の体が嘘みたいだ」


 近くの木へと拳を叩きつけると、霊体なしで破壊できた。
 ……まあ、これでもアーフィよりかは力がないだろう。ためしに彼女と握力を競ってみたが、あっさりと負けてしまった。
 骨が歪んだかと思っていたが、どうやら無事だ。前までなら完全に折れていたね。


「星族の眷属は……私もそこまで多くは教えられないわ。強固な身体、私の持つ人を操る力、それに風の力を手に入れられるということくらいしかしらないの」
「……風?」
「私たち星族は、様々な色の風を操ることができるのよ。まあ、私は緑の風――嵐属性の風しか操ることはできないから、ハヤトもそれしか出来ないと思うわ。手を前に出し、緑の風を意識するのよ」


 言われるがままに右手を前に出す。そして、緑色の風を脳内にイメージすると、周囲にあった色の風に気づけた。
 俺はその風で近くに転がっていた木の枝を浮かび上がらせ、手元に寄せる。


「……これは便利だな」
「慣れない今は、無理に使う必要もないと思うわ。それに、色風は星族の証だから……まあ、人間の前で使う場合は気をつける必要があるの」


 確かに初めて使ったときに、竜車の御者に怯えられていたしな。


「なんだか、新鮮だね。普段は俺がアーフィに教えていたのに、今ばかりは立場が変わったね」
「さすがに、星族の力の経験は私のほうが上よ」


 アーフィが嬉しそうに言って、俺もつられるように笑う。
 ……この肉体ならば、グラッセととも同等に戦えるはずだ。


「……あと、あなたの居場所がなんとなくわかるわ」
「……俺も、アーフィがどこにいるのかわかるな」


 お互いに目を閉じ、意識する。
 ……眷属としての力か、どこにいるのかがはっきりとわかり、目を同時にあけて微笑む。


「この力を……あなたならきっと役立ててくれるはずよ。だから、救いたいものを救ってほしいわ。そういうあなたを……私は好きになったもの」


 はっきりといわれ、俺は頬をかいた。
 それからお互いに並び、迷宮の空を見上げる。
 外と同じような夜空を眺めながら、俺は一つ謝罪するべきことを思いだした。


「……俺はたぶん、おまえに気持ちを伝えられたときから……もうおまえのことが好きだったんだ」
「意地悪だったのね」


 むっと頬を膨らませたアーフィに、俺は頭をかいた。


「違うよ。アーフィと、一緒にいたくなってしまう。だから、あのときは断ったんだ」
「異世界から、きたのだものね」
「おまえの気持ちに答えたら、地球に戻らなくなるかもしれない」


 この世界に来たときは、地球に戻りたい気持ちも確かにあった。
 ……けれど、今は……今ももちろんないわけではない。
 それでも、アーフィともっと旅をしたいという感情もあった。


「地球に戻らない……それはダメよ。きっと家族も心配している。……家族は、大切にしないと」


 アーフィは……家族がいないんだったか。
 彼女の言葉だからこそ、より重みを感じられる。
 今回を逃せば、二度と会えなくなる可能性もあるんだ。


「ああ、わかってるよ。異世界にきてから、家族のありがたみは良くわかった。だから、俺は……この世界に残らないよ」


 それに、このまま俺がいなくなった……きっと妹はまた悲しみに耽ってしまう。
 両親にだって、俺たちを引き取ってくれた恩を返しきれてはいない。
 アーフィは嬉しさと寂しさを同居させた表情を浮かべた。
 ……俺も似たような気持ちだった。





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