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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第五十七話 二十三日

 ホテルの一階ホールでは、教師たちが集まりなにやら慌てたような様子を見せていた。
 話し合いが行われ、たまに聞こえてくる行方不明という文字に反応してしまう。
 何が起きているんだ? 疑問視した俺はアジダに声をかけられる。
 ホールのソファに俺たちは腰かける。


 アーフィが耳をすまし、俺も霊体をまとい彼らの口元を見る。
 声は聞こえなくても、技術の影響で霊体をまとっているときには口の動きでおおよそ何を言っているのかがわかる。
 それらの情報を集め終えたところで、アジダに視線をやる。


「……行方不明者が出たらしい」
「なに?」


 事実を伝えたところで、俺は先を促すように視線を向けてくるアジダに言葉を継ぐ。


「精霊特殊部隊、学園の教師、学園の生徒……これらが無差別で誘拐でもされたのか、姿をくらませているらしい」
「なんだと? 助けに行かないといけないじゃないか!」
「けど、とりあえずは……少し考えてみるしかないね。ベルナリア、リルナとカレッタの様子を確かめてきてもらえるかな? アジダも彼女に一応、ついていってくれ。さすがに、ここで事件が起こることはないだろうけどね」
「わかったわ。アジダ、行くわよ」
「あ、ああ!」


 焦ったようにアジダとベルナリアが移動する。
 誘拐、という事件が起きているが……果たしてそれに精霊特殊部隊の人間は関係しているのだろうか。
 不信感だけは常につきまとっている。


 ファリカから話は聞いているし、どこか彼らの表情に焦りの類が見当たらなかったからだ。
 ……下手をすれば、彼らもグルになっているのではないか。そんな疑いもある。


 まず、学園生を狙って誘拐する人間がどれだけいる?
 それも、無差別で……。その数も、教師達の話ではそれなりの数と聞く。
 仮に、この前の闘技場の件のように、徒党を組んだ反乱者たちがいたとして、この迷宮から誰にも見つからずにたくさんの人間を連れて行けるのか?
 精霊特殊部隊の人達が常に目を見晴らせているんだぞ?


 ……となれば、怪しいのはこの迷宮都市自体だ。精霊特殊部隊が先導しているのではないか、と考えてしまう。
 アジダたちが戻ってくる。……やはりそうか。
 顔色はあまり良くはない。


「……まだ、戻ってきていないそうだ」
「探しに行ってくる。……アーフィは一緒にきてもらってもいいか?」
「任せて」


 アーフィが頷き、身支度を整えるとアジダも立ち上がる。


「俺も手伝おう」
「……いや、敵の目的も、敵の強さもわからないんだ。もしかしたらこのホテルも危険になるかもしれない。気持ちは嬉しいが、アジダは自分の大切なものを守ることにそっちに専念してくれ」
「……そうだな。すまない、力になれなくて」


 ……別にそういうつもりじゃない。
 もしも、敵がある程度の強攻策に出てくるとしたら……?
 そのときはホテルだって危険だ。


 ただ、その可能性はまだ少ないと思える。
 敵は俺たちを殺すのが目的ではないようだしね。


「キミ、何をするつもりだ?」


 立ち上がった俺に気づいたのか、精霊特殊部隊の人間たちが、こちらへと近づいてくる。一緒に教師もいる。
 教師達の顔は真っ青であったが、精霊特殊部隊の人間はそこまでではない。
 ……温度差だ。


 教師たちは、その責任を問われ下手をすれば首がとぶ可能性もある。
 だが、それは精霊特殊部隊の人たちにだって言えることだろう。この国に、一応迷宮都市も所属しているのだ。
 それなのに、焦りの表情はどこか薄い。偽物として、感じられる。


「友達がまだ戻ってきていません。彼らを探しに行きます」
「それは危険だ。敵は何をしてくるのか、目的も分からないんだ。それに……すでにこの迷宮にはいないかもしれない」
「危険も、その可能性も少ないと思いますよ」
「なぜだ……?」
「敵の目的は、恐らく貴族で、敵にとっての盾はこの迷宮だと思いますからね」
「……それは、どうしてだ?」


 精霊特殊部隊の人間が首をひねり、俺は淡々と伝えていく。


「まず、貴族の人間たちが誘拐された……というこの事実が残っています。それにあわせて一緒に学園生や精霊特殊部隊、教師の方々も被害にあわれてはいると思いますが、まだ死体は見つかっていない。捕らえて……まあ、国に対しての脅しの道具として使う考えなのでしょうね」


 ……まあ、俺には利用価値がないのだから殺される可能性もある。
 それでも、この場から抜けるための口実としては悪くはないはずだ。


「……なるほど」
「今わかっているのはこの事実だけですが、これだけでも考えられることは多くあります。まあ、誘拐された現場にいけば、もっと色々と見えてくるのでしょうが、その現場がどこなのかを俺たちははっきりとはわかりません」
「まあ、そうだな」
「とにかく今はこの事実から考えられることをあげます。わかることは国に対して、何かしらの敵対行動をとっているそれなりの規模の集団がいるということです。その犯人たちについて考えようとすると、どうしても行動できる人達が限られてきます」


 小さなものはいくつも思いついている。
 けれど、その中からこの場で重要なことだけを彼らに伝える。


「ここには外の世界の有名貴族の子どもがいます。まあ、普通に考えたらいいターゲットになりますが、貴族を護衛する人間は多くいます。このホテルだけでも、どれだけの騎士が配備され、また市民に紛れるように騎士がいるか、さらにはこの迷宮都市のエキスパートである精霊特殊部隊の方々も護衛をしている。この厳戒態勢で行うというのは難しいものです。そうなると、行える人間は内部のものくらいになります」
「ふむ……」


 精霊特殊部隊の人間は、僅かに苛立ったような顔を作る。
 それを訂正するために、俺はもう一つのことを伝える。


「仮に、内部の人間でなくても、この迷宮都市に拠点がある、ということです。誰にも見つからず、あちこちで誘拐を起こすには、連携のとれる集団でなければなりません。また、誘拐した後に見張りも必要ですからね。それらとして怪しまれない拠点を持っている可能性があるということです」
「ただ……それらは全部、考えでしかないのだろう? それに、あなたの考えの中には我々の疑いもあるように見える」
「まああくまで可能性のいくつかですからね。こういう物事を考える上で、個人的な感情は排除しなければなりません。俺はあなたたちが、闘技場で大切な友人たちを守ってくれた姿は覚えていますが、だからといって、すべてを信じて犯人の候補から外すわけにもいきません。下手をすれば、自分だって疑っているかもしれません。だって、俺だって知らぬ間に二重人格に目覚め、俺の知らない場所で何かをしている可能性だってありますから。だから、そう目に力を込めて語らなくても良いですよ。証拠があれば、それから考えて犯人の集団もわかってくるはずですからね」


 俺の言葉を聞き、精霊特殊部隊は不服そうではあったがひとまずは落ち着いた。
 この考えに至らなかったのか、教師たちははっとした様子でなにかを思考する。
 これはあくまで、可能性の一つで確信はない。
 ……ここは精霊特殊部隊の得意な戦場だ。だから、教師達は彼らに任せきりにしてしまっていた。
 そこから脱却してくれれば、それでいい。 


「とにかく、俺はそういうことで一度近くを見てきたいと思います。良いでしょうか?」
「……そうだな」


 許可は下りた。俺は装備を確認したあとに、ホテルのホールから外へと向かう。
 ホテルだって完全な安全地というわけではない。けれど……桃たちが心配だ。
 それに……何よりファリカだってまだここにはいない。彼女もきっと、何か行動を起こしているはずだ。


 すっかり暗くなった迷宮が外には広がっていた。
 夜の街にはぽつぽつと明かりがともり、道を照らす街灯が幻想的な輝きを放っている。


「それで、ハヤト。何か……情報はあるの?」
「今は何もないよ。けどね、きっとあの遊園地に行けば何かがあると思う」


 遊園地内ははっきりいって誘拐するチャンスがあちこちにあった。
 例えば、幽霊屋敷だ。仮に、この迷宮都市すべてが敵として考えるなら、あの遊園地内には罠を仕掛ける場所ばかりがあったはずだ。
 ……俺はアーフィとともに第二十二階層に向かうことにする。


 けれど、俺のHPでは一つずつの移動しかできない。
 ……第二十一階層の、市民地区に入ったところで、やはりすぐに見つかってしまった。
 入り口を守っていた二人が、俺たちの移動に気づき警戒した様子を見せてくる。


「き、君たち? 確か、勝手な転移は禁止されていたよね?」


 精霊特殊部隊の人たちだろうか。彼らは証を示すように右手の甲についているものと同じ紋章が刻まれたローブを着ていた。
 ローブは深く被っていれば、目元までも隠れていた。


 二人組の精霊特殊部隊の人間がこちらに気づいて近づいてくる。
 ……迷宮移動の問題はこれだ。必ずその階層の入り口へと移動するため、監視するならそこが一番なのだ。


「えと、その……」


 俺たちは私服だ。……まだ学園生とは思われていないようだった。


「とにかくだ。来てしまったものは仕方ない。とりあえずは、送り返そうか」


 彼が近づいて来て、その手をさっと後ろへと伸ばす。
 その瞬間、深いローブから少し覗いた彼の目には邪悪な色があった。アーフィもそれを感じ取ったようだ。俺が動き出すのに合わせ、体を前へと踏み込む。


 精霊特殊部隊の人間は、後ろから取り出したナイフが光るが、それが俺たちの体を傷つけることはない。
 一瞬のうちに押さえ、気を奪う。
 そして彼らのローブを奪い取り、俺たちはそれぞれ装備を整えた。


 ……ここまで分かりやすい行動をしたことに、俺は眉間に皺を刻む。
 俺たちを学園生と気づいていたのか、それとも……目撃者を一人も出さないための行動か。
 わからないが、敵は一般人にも襲いかかるほどだということだ。……こりゃ、ホテルのほうも危険かもしれないな。


「これなら、多少は堂々と歩けるか?」
「……ふむ。しかし……少々きっついわ!」


 ……ダメだなこりゃ。
 アーフィは胸元がきついようで、ぐっとローブを引っ張っている。
 結局俺たちは隠れながらに移動していく。


 と、また精霊特殊部隊の人間たちの姿があった。
 彼らの衣服は姿を隠してこそいるが、肝心の口は丸見えだ。
 彼らの会話を目で追っていく。


『雨の行方!』
『風の行方!』


 ……彼らはそんな言葉をかわしたあとに話しを始める。
 何かの暗号か、何かの合言葉か。恐らくは後者だ。


『学園生たちの見張りに行ってくれ』
『了解だ。まあ……まさか第二十一階層にいるなんて考えもしていないだろうけどな』


 二人の精霊特殊部隊の人間たちが苦笑する。
 アーフィも驚いたように口を隠した。
 お互いに目を合わせ、こくりと頷く。


「アーフィ。捕らえてすぐに気絶は可能か?」
「任せろ」
「あいつの目標の建築物がわかったら合図を出す。そのときに捕らえて気絶させてくれ」


 アーフィが小さく首肯し、俺たちは建物の影を縫うように移動していく。
 ……しかし、精霊特殊部隊の人間たちが多い。
 見回りにしては……どこか動きには焦りがある。


 彼らの行動には、まるで獲物を追い詰めるような計画性が見え隠れしている。誰か、逃げ延びたのかもしれない。
 俺たちは移動し、耳を済ませて敵を回避していく。


 人の気配があるな。そちらに顔を少し出してみると……俺は思わず声をあげそうになったのをぐっとこらえた。
 桃、リルナ、カレッタの姿だ。
 ファリカはいない。しかし、すぐに俺は身を出す。
 声をあげようとしたリルナの顔が絶望に染まる。万策つきたとばかりに桃の両目にも力はない。


「……ああ、悪かった。俺たちだ」


 ローブを取って彼らに両手をあげる。
 真っ先に冷静さを取りもどしたのはカレッタだ。
 俺に気づいた彼はホッとしたように手に持っていた剣を戻した。それから彼は安堵の顔とともに泣きついてくる。


「よ、よかった。さすがキミだ! この異変でまっさきに気づいて助けに来てくれたんだね! もしも僕が無人島にいくことになって、一つだけ持っていけるのなら、迷いなく君を選ぶよ!」


 俺は断らせてもらうよ。


「カレッタさん、今はそんなことを言っている場合ではありません! ファリカさんが!」
「そうだった! ファリカがまだ戦っているんだ! ハヤト、すぐに向かわなければ彼女の命が危険だよ!」
「なに?」
「敵は……ここを治める男らしいんだよ!」


 思わず彼のほうに顔を向けてしまった。



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