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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

ファリカイソウ2

 父とともに部屋へと入ると、すでに母が昼食の準備をしていた。
 散々に身体を動かした後では、どの食事も早く食べたいという気持ちがあり、席に座ろうとして母が顔を向けてきた。


「ちゃんと手を洗いなさいね」
「はーい」


 きちんと手を洗い、改めて座って家族四人で食事をする。
 リリカも空腹だったからだろう。食事の際に明確な怒りは見せない。
 私がおいしくたべているリリカをからかうと、「食べものに罪はないの」と彼女はそんなことを言うのだ。


 食事を終えたところで、父が何かを思案するように腕を組んで唸る。
 それからさりげなく……を装っているのがばればれな様子で、父は人差し指を立てた。


「そろそろリリカは十四歳で狩りにも慣れてきたはずだ。来月には成人するんだし、ファリカを連れて、十階層の魔物を狩りにいくのはどうだ?」


 私たちは小さい頃から親とともに迷宮で狩りを行い、経験値を取得している。
 十歳の私でも、すでにレベルは八となっている。実戦経験は乏しいけれど、それでも魔物相手に張り合うだけの力はある。
 けれど、突然その話が出るとは思わなかったので、私は思わず聞いてしまう。


「お父さんは来ないの?」


 初めての狩りには、近しい人間が同行する。
 それも、それなりに実力があるのが前提だ。


「ああ。少し用事があって、他の仲間と一緒に今日の戦果について、教会に感謝を捧げにいこうと思っているんだ」


 最近あまり教会に時間をかけて祈る余裕もなかった。
 父がそう言って、私の時間が精霊様にとられたような気がして、少しばかりむっとしてしまった。
 しかし、顔には出ていなかったようで、誰にも指摘はされない。


「……父さん。ファリカはずっと楽しみにしていたのよ。今日だってきちんと訓練をして……立派に成長していることがわかったもの。きっと、私よりも父さんにその力を見せたいはずよ」
「……悪かった。けど、その……仕方ないんだ」


 父はあまり隠し事は得意ではない。
 ……祈りだけではない。それを私とリリカ、そして母も察した。
 こういったときは、それ以上に厄介なことがある。けれど、誰も言わない。


 だってそれは、精霊様に関わることの場合が多い。となれば、おおよそ原因は私だ。父も、私の職業のせいであれこれ言われているのだろう。
 私はもちろん指摘できないし、リリカも母も、私が傷つくと思ってそれを口には出さない。
 しんみりとした空気が辺りを支配し、私は跳ね除けるように笑顔を浮かべてリリカに声をかける。


「リリカ。私はまだ実戦経験はないから、援護をお願い」
「……うん、わかったよ。一緒に戦いに行ってみましょう」


 リリカがパンと手を叩いたことで、空気が割れたように感じた。
 それぞれの顔に笑顔が戻り、私はできるだけ早く二階へとあがる。
 今日ばかりは、食器を片付けなくても母は何も言わない。


 リリカとともに部屋に入り、私は父がプレゼントしてくれた剣を装備する。
 ……初めての狩り。私は父に今までの力を見せたかった。けれど、仕方ない。
 原因は私にある。だから、私はそれ以上思考しない。悲しくなるだけだ。


「ファリカ。それじゃあ、迷宮までの全部をあなたに任せるわ。さて、きちんと狩りができるかな?」


 なんてリリカがからかってくる。共に家を出て、私が道を先導していく。
 と、歩いていくと私たちの前を二人の男の子が歩いてきた。
 彼らは私を見ると、途端に勝気に笑う。
 わざとらしく近づいてきた。


 無視したくても道を塞がれるのだからどうにもならない。


「おい、精霊様にあだなす悪魔。聞いたぞ父さんに。おまえの職業は、精霊様を愚弄するようなものなんだってな」
「……」


 何も言い返すことはしない。してはいけない。
 精霊様は絶対であり、彼の言うことに間違いはない。
 何を言っても無駄だ。だから、私は黙っている。


「ファリカの職業は関係ないわ。私たちは毎日お祈りをしているもの。精霊様への感謝を怠っていないのだから、それはつまり私たちもちゃんとした精霊様の加護のもとにある人々なのよ」
「リリカ。おまえは黙っていろよ。俺はファリカに用事があるんだ」


 身体を押され、私はきっと睨みつける。
 途端に彼らはゲラゲラと笑う。


「ははっ、俺たち精霊様の加護にある人間を睨んで、いいと思っているのか?」
「……」


 私は苛立ったが、ここで言い返したり、やり返したりすれば彼らの思うツボだ。


「……キミたち、何をしているんだ?」


 そこで、突然に声が割って入ってきた。
 顔を向けた途端、男たちの視線が戸惑いに揺れる。
 私もだ。教祖様の子孫であり、今の当主の息子であるグラッセ・シェバリア様がそこにいたのだ。
 私たちと同じくらいの年齢だったはずの彼は、厳しい目で男たちを見ていた。


「ぐ、グラッセ様……こ、こいつらが精霊様を愚弄していたから注意を」
「そうかい。僕はだいぶ前からここで昼寝をしていたんだ。今日は暖かくて気持ちよいからね。……どう聞いてもいちゃもんをつけているのキミたちだと思ったね。何より、自分達の言葉を正当化するために、精霊様を使うのはまさにそれこそ愚弄していることだと思うけれど?」
「……す、すみませんでした!」


 叫んで彼らが逃げ出し、グラッセ様はふうと短く息をついた。
 それから彼は微笑み、こちらに近づいてくる。


「大丈夫かい? 二人とも」
「ええ、助かったわ。それにしても、こんなところにグラッセ様がいるなんて思わなかったわ」


 リリカが穏やかに微笑むと、グラッセ様も苦笑する。


「偶然だよ。それに、家だってそれほど遠くはないんだ。弱きを助ける……精霊様の教えの一つだ。それに従ったまでだよ」
「……ありがとう」
「大丈夫かい、ファリカ」


 私のほうへきて、私の頭を軽く撫でてきた。
 この人は、あまり好きではなかった。助けてくれたり、親切にしてくれたりと優しいのはわかるけれど、彼の両目はどこかみていると怖い。


 私を見ているようで、まるで見ていないようにも感じてしまうから。
 それは、たぶん教祖様の子孫として、これからの未来を担っていく必要があるからだろう。
 彼は常に全体を見ているようでいた。どこか、子どもらしからぬその目に、私は不安を感じずにはいられないのだ。


「気をつけてね、二人とも。二人は、大切なこの迷宮の市民なんだ」


 こんなことを言う子が自分と同じ年齢だとは思えなかった。
 私も大人っぽいといわれるけれど、彼はそれ以上だ。


「よかったわね。グラッセ様が撫でてくれたのだから、きっとファリカは精霊様に好かれているのよ」
「……そう、だったらいいけど」


 リリカとともに迷宮への階段を守っている警備隊の元へと向かう。
 その人たちに用件を伝え、第十階層へと運んでもらう。
 第十階層へと移動した私たちは、そこでしばらくお試しに一度だけ魔物を狩ることを伝える。


 一時間後にまた戻ってくる、と言われてしまい私たちは顔を見合わせる。
 少しだけ……怖かった。迷宮の空気は街よりも冷たく、いつ敵が襲ってくるか分からない。
 リリカの服を掴むと、彼女はなれた様子で私の頭を撫でてくれる。


「大丈夫よファリカ。お姉ちゃんがきちんと守ってあげるからね。けど、これはファリカの戦いでもあるの。ためしに、霊体をまとってみて。きっと、世界が違って見えるわ」


 言われるがままに霊体をまとうと、途端に自分の体の熱が戻った気がした。
 ……霊体は精霊様が与えてくれた身体だ。
 だからこそ、その温かみは良くわかる。


 これなら……戦える。私は剣を掴み、リリカにもう大丈夫と目で訴えた。
 リリカが魔物を探していき――発見する。
 ゴブリンが三体で行動しており、リリカとともに隅の木々へと身を隠す。


「まだ、三体は大変だろうから、お姉ちゃんが二体の相手をするね。一体は、ファリカが頑張って倒すの。わかった?」
「……うん」


 ……父さんたちの後ろでレベルあげの手伝いをしてもらったことはある。
 けれど、一人で魔物と戦うのはこれが初めてだ。
 レベル的には問題ない。それに、リリカは私よりもずっと強い。
 だから、大丈夫。


 私は自分に言い聞かせながら、リリカの後に続く。
 予定通りリリカがゴブリン二体をひきつけてくれる。
 私もすぐに剣を掴んで、残りの一体へと切りかかる。


 ゴブリンもおんぼろの剣を持っている。その程度、気にもならない。
 打ち合い、ゴブリンの剣を弾きあげる。大きな隙に、訓練を思い出して体を滑り込ませる。
 突き出した剣がゴブリンの喉へと吸い込まれる。
 ゴブリンが血を吐き出し、やがてその身体が迷宮へと戻る。素材だけが残り、私はそれを掴みあげる。


「凄いじゃないファリカ!」


 リリカは既に二体を倒していた。ラクに倒せている姉に、ちょっとばかりの負けず嫌いが生まれる。


「次は、リリカよりも早く倒すから」
「ふふん。お姉ちゃんも負けないわ。けど、競争だからって慌てて魔物と戦っちゃダメよ。約束を守れるなら、もうしばらく付き合ってあげる」
「……うん」


 リリカとともにしばらく戦闘をしていた私は、油断していたのだと思う。
 脇から近づいてきたゴブリンのような魔物に突っこんだ。
 剣を振りぬいて終わり――脳内でイメージして、その通りの行動をしようとしたところで、悲鳴が聞こえた。


「ファリカ! それは、ゴブリンじゃないわ!」
「え!?」


 良く見れば、その魔物はゴブリンの姿に化けた魔物だった。
 ゴブリンから変身したそいつは、ゴブリンよりも一回り大きい、マーネドラゴンだ。
 この第十階層で、たまに出現するといわれているレアモンスター。
 その力は第十五階層程度はあるとされている。


 絶対に手を出してはいけない魔物だったのに……っ。好戦的な態度を見せなければ、比較的温厚なこいつは襲ってこない。
 リリカが私の体を突き飛ばし、彼女の霊体が一気に削れる。
 ……別に、霊体が犠牲になるだけだ。けれど、リリカは私を助けてくれた。


「リリカ!」
「大丈夫よ……早く逃げましょう!」


 霊体が解除されてしまったリリカに背中を押される。途端、マーネドラゴンが牙を吐き出す。
 矢のように先の鋭い牙がとんでくる。
 その攻撃からリリカを守るために剣を振るったが、私の霊体が傷つけられ、さらにリリカにもいくつか当たってしまう。
 私は剣をなげつけ、マーネドラゴンが怯みを見せる。
 私はすぐにリリカの肩を支えるようにして逃げていく。
 どういか、近くの茂みに入り身を隠すことができた。荒く息を乱しながら、リリカが頭を撫でてくれる。


「……ファリカ、ありがとうね。大丈夫よ。あと十分もすれば、警備隊の人も戻ってくるわ。だから、とにかく逃げましょう」


 マーネドラゴンは私たちを見失ったのか、きょろきょろと周囲を見ている。
 ……よかった。鼻はそれほど良くないらしい。
 私たちは身を低くし、少しずつ移動していく。
 ……まだ、まだなの。
 探索者が戻ってきてくれる、までの時間が凄く長く感じる。


「ギャァァ!」


 マーネドラゴンが大きく吠えて、今度はコウモリに変身する。
 あれは、第九階層に出現する魔物だ。
 確か……あれは!


「急いで逃げないと!」


 リリカも気づいたようで、慌てて立ち上がる。
 マーネドラゴンが口を大きくあけ、それからこちらを見る。
 ……こちらを探知したのだろう。マーネドラゴンの顔が私たちのほうへと向けられる。
 リリカを引きずるようにして逃げていく。


「ファリカ! あなただけでも逃げて! そうすれば、きっと――」
「嫌っ」


 それだけは受けいられない。
 足音が迫ってくる。
 どんどん、それは近づき、どんと背中を突き飛ばされる。
 リリカが、また私を押した。


 そして、リリカはマーネドラゴンの体当たりをまともにくらう。
 私は即座に霊体をまとって飛びつくが、尻尾で簡単にあしらわれてしまう。
 それでも……助けないと!
 目に涙がたまっていく。恐怖で体が震えるが、それでも……助けないと。
 誰も失いたくはない。だから、私が立ち上がろうとしたところで、視界の端に人が見えた。


「だ、大丈夫か!? おまえら!」


 そこへやってきたのは、一人の男性だった。
 歳は十八くらいだろうか。能天気な笑顔は、今見るにはつらいものがある。


「子どもがこんなところで何をしているんだ? って、うご!? 変なドラゴンがいるじゃねぇかよ!」
「助けて! お姉ちゃんが!」


 それでも、頼れる人は他にいない。
 だから、決死の覚悟で声をあげる。


「そりゃあまずい!」


 男が叫び、霊体をまとって拳をぶつける。


「オラよっ。さっさと、くたばりやがれ」


 拳を構えた彼がマーネドラゴン相手に苦戦しながらも、どうにか戦闘を繰り広げる。
 ……逃げるといっても逃げる場所はない。
 彼とマーネドラゴンは互角のようだ。これならば、私が隙をつくることができれば――。


「……ファリカ。考えていることはわかるわ。だから、私が合図を出す。マーネドラゴンの弱点は、牙を吐き出すときの隙よ。そこを横から突けば簡単に倒せるわ」


 こくりとリリカに頷き、マーネドラゴンが口を開ける。
 リリカが渡してきた剣を手でしっかりと持つ。


「今よ!」


 分かっている――。
 駆け出し、渾身の突きをお見舞いすると、マーネドラゴンの身体がよろめいた。


「ナイス、嬢ちゃん!」


 彼が地面を蹴ると同時に、拳を思い切りマーネドラゴンの頭へと振り下ろした。
 それによって、マーネドラゴンの身体が地面へとめりこみ、素材だけが残った。


「何者だ!?」
「うえ!?」


 そこへ、ちょうど警備隊の人たちがやってきた。
 ……遅い、無能め。
 私たちを助けた男は、警備隊の人たちに剣を向けられ、両手をあげて顔をひきつらせていた。

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