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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第四十六話 十七日目 発生

 クーナが踏みこみ、槌を振り回す。
 轟音とともに振りぬかれた一撃を俺はひとまず回避する。
 すぐに彼女は槌を戻す。予想以上に早い。隙がうまれるならここだと思っていたが、攻撃の機会などなかった。


 クーナの笑みを見ながら俺は剣を構えなおし、距離を詰める。
 筋力はそこそこあるようだが……!


 剣を振り下ろす。クーナが槌を器用に操って受けきり、その顔を歪める。
 ……やはり、筋力は俺のほうが上だ。
 クーナの身体を弾き飛ばし、剣を戻しながら様子を見る。


 まさか、クーナが弾かれるとは思っていなかったのか、会場の息を飲む声が耳に届く。


『こ、これは! クーナ様の筋力に勝るような剣士がここにいるとは! これはまさか! クーナ様に勝利することになるのか!?』


 クーナは唯一の利点であった力が負けたにも関わらず、その表情に笑みを浮かべている。
 むしろさっきよりも楽しそうでさえあった。


「あなた、さいっこうですわ!」


 満面の笑みとともに、クーナは大槌をしまい、片手で持てる槌を二つ持つ。ステータスカードから取り出したのだろう。


 クーナは、地面を一気に蹴りつける。
 直進的ながらも地面を蹴ることによる、筋力をいかした移動法。
 以前俺が桃に試してみた奴だ。
 一気に弾かれたクーナの体が結界が張られている闘技場の壁へと激突する。


 確実に霊体を消費する。けれどクーナはそれをやめない。
 楽しそうに、無謀に突っこむスピードの一撃。
 俺はそれを見切り、すべてをかわしていく。
 ……かわし続ければ終わる試合だ。だが、俺としてもそんな結末は望まない。
 もっと派手に、力強く終わらせる。


 突っこんできたクーナの一撃を寸前でかわしながら、剣で持って腹をつらぬいた。
 思い切りぬくと、軽い衝撃とともに霊体が解除される。


「……完敗ですわ」
『く、クーナ様の霊体が破損! これによって、クーナ様は姉のレキナ様に勝たなければトーナメント戦への参加が絶望的になりました! そしてハヤト様はいったい何者なのか!? あの能力でどうして今まで無名だったのか! 伝説の英雄に並ぶような力を誇る彼を、いったい誰が止められるのでしょうか!』


 なんて実況の声を聞きながら、クーナの手を掴んで立ち上がらせる。
 途端に彼女が嬉しそうに微笑み、俺は視線を外す。
 手を離して、全員が控えている場所へと戻りながら、次の試合が始まるのを見る。
 だが、俺の思考はずっとぐるぐると回るように事件のことばかり浮かんでいた。


 あのときの事件――あれの犯人がどうも引っかかる。
 どうしてこのタイミングで行ったのか……例えば、だ。色々な思考が浮かんでくる。たぶんもっと情報があれば敵の意図を読み取ることができるだろう。


 犯人と被害者の関係だ。
 被害者と犯人は……何かしらの因縁がある。
 それは被害者のあの顔から十分に理解できる。ならば、犯人は?
 犯人はどうして被害者に対して恨みがあるのだろうか?


 ……迷宮都市の人間同士で、何かトラブルが合ったのか。
 分からないのだが……どうしても引っかかる部分がある。


 もっとも分からないのは、どうしてリルナまでも襲われたのかだ。
 ……犯人側はリルナと迷宮都市を狙っているのか?
 この大会の最中にリルナを狙ったということは、恐らく最初からずっと目をつけていたはずだ。
 大会の最中にわざわざ仕掛けたのは、俺たちがいたからか?


 大会の最中ならば、やりやすいのかもしれない。
 ……いや、だとしても。
 思考が固まってしまっているな。大会の最中に狙っていることに他の意図があるとしたら?
 例えば、大会を潰すために……とか。


 思考をしていると、クーナとレキナの戦いに決着がついたようだ。
 レキナの戦いは一応見ていたが、スピードを活かした両手剣による力強い攻撃だった。


 俺とタイプは似ている。筋力、技術のステータスが恵まれているのだろう。
 だが、あのくらいならば十分対処出来る相手だ。


 ……どうしても引っかかる。何か……あと少し、何かがわかれば……犯人のねらいが見えてきそうなものだが。


『これで……二人はトーナメントへの参加が決まりましたが、まさかここで戦いを放棄するなんて人はいないでしょう! さあ! 頂上決戦のような戦いが始まります! 昨年度一位レキナ様対挑戦者、ハヤト様! 両者、前へ出てください!』


 言われた通りに俺は一歩前に出る。


「やっぱり、キミは強いなぁ……見ていればわかるよ。今も……余裕が感じられるもん。挑戦者は……キミじゃなくてボクのほうだよ」
「……」


 もしも……犯人側のねらいが大会だとしたら……。
 そうするとまた色々な考えが浮かんでくる。


『それではお互いに大精霊様に恥じぬよう……精一杯戦っちゃってください! 始め!』


 実況の声とともに、レキナの体が弾かれるように突っこんできた。
 一撃目はクーナと同じ、筋力による特攻――。


 俺はそれを正面から受け止める。真っ直ぐの突きを剣の腹で受けきり、上段へと弾きあげる。
 がら空きになった彼女の腹に剣を振りぬくが、レキナは返しの刃で受け止めてみせる。
 レキナの体が大きく後退し、壁へと叩きつけられる。
 やはり、俺の筋力は異常なまでにあがっている。それこそ、あの魔器を使った相手以外に力で負けることはないだろう。


 ただ、この大会では職業技が禁止されている。職業技を使われれば、また違った結果になる。
 一呼吸して、立ち上がるリルナを観察する。


 これはすべて仮定でしかない。
 だが……仮に犯人の目的が大会を潰すことならば? ……明日はトーナメント戦だ。そうなれば、このメインの会場が使われることになり、警備も厚くなる。
 だが今日ならば、あちこちの会場を使うために、警備はその分だけ別の場所に割くことになる。


 俺がもしも犯人で、大会を潰すことが目的ならば……今日実行する。
 顔を上げる。
 そこにはちょうど、昨日見かけたような男たちが観客席の間を抜けていく。


 ……そして、彼らは貴族たちが座っているほうへと向かっている。白すぎる肌が、観客席の中で浮いていた。
 同時に、派手な爆音が響き、騒がしくなる。


『な、なんですか!? うわっきゃ! なんか、武器を持って襲い掛かってくる人たちがたくさんいます! みなさん、すぐに避難してください!』


 実況はできる限り穏やかに伝えたが、その内容はかなり危険なものだ。


「レキナっ、模擬戦は終了だっ、ここからは避難訓練だと思ってみんなの誘導に手をかすんだ!」
「な、なに!? どういうこと!? 何が起きているの?」
「大会を潰すために、何者かがここにやってきている。詳しい話はまた後でする!」
「また後で一緒の時間を過ごすってことだね! オッケー!」


 訂正している時間が惜しい。敵のねらいがもしも、リルナだとすれば、桃たちが危険だ!
 確か、闘技場内は防壁みたいなのがあったな?


 俺は闘技場の障壁へと思い切りぶつかる覚悟をした瞬間、全身の霊体が解除される。
 なんだ、これは……。そして、それはどうやら俺だけではないようだった。


「れ、霊体が!」


 あちこちからそんな声が聞こえた。
 俺の霊体は次の瞬間には回復した。……どうなっている?
 また十秒くらいして、俺の霊体が消滅する。
 障壁も消失した中で、観客席はいまだ騒がしかった。
 ……あれは、魔器か。
 それも複数の魔器をあちこちで振り回している人間たちがいる。お世辞にも顔たちは良くない。


「対精霊結界だよこれ……っ! こんなの、今の時代に使っている人なんているの!?」
「どういうことだ!?」
「昔、人間と精霊が戦争していたときに開発された技術だよ! 結界が発動している間は霊体に大きなダメージを一定時間ごとに与えるとかで……簡単にいえば霊体を封じることができるんだっ。けど、お互いに肉体しか残らないから普通は使わないけど……」
「それを相手は魔器で補っているみたいだな」


 ……確か、悪い精霊が人間を殺そうとしたんだっけか?
 俺たちを召喚した精霊は良い奴とかで、人間を導いたらしい。
 そのときに開発されたのが、この結界だそうだ。


 ……この結界内で使えないわけではないようだ。
 結界は毒のようなダメージで十秒程度で一定のダメージを展開の有無に関係なしに与えるようだ。
 ……だが、それを理解していれば俺には無意味だ。
 HP1を舐めるなよ。
 俺はHPが回復してすぐに霊体を展開する。それをみたレキナが何かを理解したかのように目を見開く。


 地面を強く蹴って観客席へと上がる。着地と同時にすぐに霊体が解除される。霊体を再度展開し、すれ違った魔器を纏っている人間を切り裂く。


「な、なんで霊体が!」
「あんたらは何が目的なんだ?」


 倒した相手の首元に剣を突きつける。
 ……それほど魔器の脅威は感じない。
 魔器にも質があるはずだったし相当に価値の低いモノなのかもしれない。
 魔器を破壊された人間二人は怯えながらも、薄ら笑いを浮かべている。
 その喉元に剣を突きつける。


「はっ、俺たちは今の貴族共が許せねぇから殺すために来たんだよ!」


 もう一人に視線を向ける。
 そちらも強気に笑って頷くだけだった。
 ……どうやら嘘はなさそうだ。
 俺は彼の足に剣を突き刺して、逃げられないようにしてからリルナたちがいるほうへとかけていく。


 そちらでは、複数の人間たちがいた。この前見かけた白い肌の奴らだ。
 彼らはリルナたちのほうへと向かっている。奥にいたリルナたちは、アーフィと桃が守るようにたっていた。
 ……まあ、アーフィがいるなら最悪の展開にはならないだろうが――。


「おまえら!」
「ひっ!? な、なんだ!?」


 俺が霊体をまとってのタックルをあてると、男たちが怯えたように右手を向けてくる。
 今にも魔法を放ちそうなその様子に俺が剣を向けて威嚇する。


「あんたらが、昨日の殺人事件に関係しているのはわかっている。それで……今はなんだ? リルナがねらいか?」
「……昨日の殺人事件? ……ああ、あれですか。あれは私たちに関係はありますが、あなたは大きな誤解をしています」
「誤解?」
「殺されたのは私たち、精霊特殊部隊の仲間の一人です。私たちは……リルナ王女様を守るために今ここに参上したのです」


 彼の言葉に顎へ手をやる。

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