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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第三十八話 十五日 暗い影

 様々な話を聞かされた俺は、のんびりと学園に行く気にはなれなかった。
 学園の入り口で、アーフィに声をかけ、二人で外へと出る。
 この街の近くにある迷宮については調べてある。


 明日からは大会も始まり、学園にいる時間も増えてしまう。
 今日くらいしか、ゆっくり迷宮の攻略はできない。


 隣を歩く、アーフィはなんだかもじもじとした様子である。
 いつもと何か違う……。どうしたのだろう、と彼女を観察する。
 たまに目が合い、アーフィが慌てた様子で視線をそらした。


 ……何か、俺したか?
 段々と彼女の足取りが遅くなり、俺もそれに合わせるがさらに遅くなる。……並んで歩きたくないということか?


「アーフィ、どうしたんだ? 俺何かしたか?」
「……い、いや、あなたは関係ないわ。だから、その、どうか気にしないで」


 ますます気になってしまい、俺は頭をかいた。
 こういったとき、いつもならどうしていただろうか。
 その状態は街を出ても続いた。……やはり、俺に何かあるのだろうか。
 事前に調べておいた、アグドサマル迷宮前までついたところで、彼女を見る。


「アーフィ、おまえ体調悪いのか?」
「そんなことはないわ! いたって元気! ほらみなさい!」


 その場で腰に手をあて、強気に笑って見せた。
 ……不安は残ったが、下手に追及して女性特有の悩みだったりをひきあてた時が怖い。
 だから俺はそれ以上は言わずに、共にアグドサマル迷宮へと入る。
 中にはいると熱気と燃え盛るような日差しに襲われる。


「……さすがに熱いな」


 頬に伝う汗を拭い、周囲を見やる。


「そうね。これが、砂漠……ね」
「砂漠なんて、見たこともないんじゃないか?」
「初めてよ。凄い、足もとられるのね」


 黄土色の砂が全体にしきつめられ、遠くまでみえる。
 たまに砂嵐のようなものが吹き、視界が悪い。


 ……本物の砂漠に比べれば暑くはないだろう。
 まだ、夏の日本くらいの温度だ。汗がしきりに出てきてこそいるが、肌を隠さなければいけないような熱ではない。


「水分補給はしっかりしないとだな。のどがかわいたら教えてくれ」
「わかった、わ」


 アーフィが額の汗を拭いこくりと頷いた。
 アグドサマル迷宮はこの熱と地中から襲ってくる魔物など、冒険者にとって不利となる環境が続くために、あまり好かれている迷宮ではない。


 そのために、攻略自体が第十階層で止まってしまっている。
 最近に発見されたことと、環境が最悪な点。
 狩りにくい魔物など、効率の悪さからわざわざ挑む人が少ないのだ。


 わずかに歩いたところで、冒険者のグループに遭遇する。
 彼らに話を聞くと、ちょうど第十階層へと跳ぼうとしているらしい。彼らに金を支払い、俺たち二人も第十階層へと運んでもらう。


「気をつけてくださいね? 普通に戻るだけでも結構大変ですからね? なんならお金を払ってくれれば、帰りも送りますよ」
「大丈夫ですよ。それでは、ここまでありがとうございます」


 第十階層にいきなり跳んでも、ここまでの迷宮を移動したということになり、俺の探索者でも戻ることができる。
 彼らとわかれ、俺たちは第十一階層へと向かっていく。


 この迷宮はそれほど深くはないのではと言われている。深い迷宮となると、一つのフロア当たりの面積も大きくなるのだ。
 けれど、この迷宮は魔物に遭遇しなければ十分もあれば移動が可能だ。


 さらに、遠くまで見渡せるため、階段の入り口などを見つけることもできる。
 ただし、この見晴らしのせいで魔物もこちらに気づいてあちこちから襲いかかってくる。連続戦闘が当たり前であり、俺とアーフィはお互いに死角をつぶしながら魔物を倒す。


 苦戦はしない。
 俺の力ならば、一度魔物を捉えられればそれで敵を狩れる。
 アーフィも魔物の体当たりを受け止めて投げるような力強さを持っている。


 戦闘を繰り返していると、アーフィもようやくいつもの調子に戻った。一体なんだったのかわからないが、元気になったらそれでいい。


 第十五階層まで進み、階段をおりたところにある踊り場で一呼吸おく。
 ここも、迷宮の外に比べれば暑いが、砂漠エリアよりも随分涼しい。
 汗をタオルで拭い、水筒を取り出して水を飲んでいく。


「アーフィ、まだいけるか?」
「ありがと、問題ないわ。ハヤトは大丈夫?」


 なんだかいつもより明るい笑顔だ。


「俺も問題ないよ。それじゃあ……あと半日やって、二十階層まで行ってみようか」
「ええっ。それにしても、人が少ないわねここは」
「俺たち以外にはたぶん両手で数えられるくらいしかいないんじゃないか。……確実に、エリアの温度もあがっているからね」


 日差しはどこも変わらない。
 しかし、温度計でもあれば階層にあわせて温度が上がっているのがわかる。


 これから先は、サウナの中で戦うようなものだろうか。まだそこまではいかないかもしれないが、最奥までいったときは本当にサウナ内で戦うようなものかもしれない。


「……迷宮は人が少ない、ね」


 ぽつりと呟いた彼女は、それからはっとしたように俺のほうを見てきた。
 な、なんだよ。
 アーフィの顔が赤くなり、両手を振る。


「べ、別になんでもないわよ! 気にしなくていいからっ」
「……ああ?」


 ……明らかに、おかしいな。
 ここまで異常だと、何かしら昨日あったのかもしれない。
 昨日、アーフィとファリカは二人きりだった。何か、ファリカに余計なことを吹き込まれた、とかだろうか。


 それで、俺を変に意識してしまっている、とか……。
 例えば、俺に好意を持っているのではないか……とかか。ファリカなら言いそうだが、アーフィの俺に対しての思いはきっとそういうのではない。


 あるとしても、それは感謝の勘違いだ。だから、彼女が意識する必要はない。
 前を歩くアーフィの背中を眺める。伝えたい気持ちはあったが、俺から言って勘違いだとしたら恥ずかしいし、やめようか。


 彼女とともに迷宮の下へと降りていく。
 戦闘が始まればアーフィも普段の調子に戻っていく。


 アーフィはやはり強い。彼女とともに戦闘をしていると、簡単に魔物を倒していける。
 それでいて、俺にばかり経験値が入っていくのだから、こんなにラクなレベル上げはないだろう。


 もちろん、俺が仕留める必要はあるが、アーフィも手順を理解しているため、スムーズに経験値が獲得できる。


 下の階層に向かう途中の踊り場に着くと、階段から先に入りたい気持ちが薄れるね。
 砂漠が眼前へと広がっている。この階段ならば、不思議と熱風が襲い掛かってくることはない。
 目に見えない結界のようなものが、ここに張られているのかもしれない。


 ためしに腕だけを階段の先へとだしてみると、右腕だけが熱に包まれる。
 思わず顔を顰めると、アーフィも真似するように手を出した。
 そして、不思議な感覚をしばらく楽しんだあと、諦めるように踏み出した。


「……アーフィは、熱くないのか?」
「どうやら私はこういうのも平気な身体らしいわ。汗はかくけど、苦しさはそこまで感じないのよね」


 アーフィの今日の服装は、学園の制服であった。
 汗でびっしょりと肌に服がしみついていて、その身体のラインをくっきりとうつしていて、少しばかり視線のやり場に困る。


 そんな気分をしばらく楽しんでいたが、すんな時間はすぐになくなる。
 集団で行動する魔物たちが、足場から穴を掘って出て隠れてを繰り返し、俺たちへと襲いかかってくる。


 この辺りになると、魔物の連携も増えてくる。リーダー格の魔物を倒さないと、なかなか攻めにくいという状況も少なくない。
 ただ、魔物自体に苦戦することはないため、一度剣の範囲へ敵を入れることが出来れば、そこから瓦解させることができる。


 時計や自分達の体力と相談しながら、四時間ほどかかってようやく、第二十階層へと到着することができた。
 浅い迷宮になると、この辺りにボス級の魔物がいると聞くが、まだ普通に迷宮が広がっている。


 となると、第三十階層あたりが最奥だろうか。
 迷宮都市も第三十階層とか聞いたことがある。一般的な迷宮は第三十階層が最奥となることが多いとか。


「それじゃあ、今日はここまでにしようか。さすがに……疲れたしね」


 水分だってもうあまりない。午後も四時をすぎたところであるため、戻るにはちょうど良い時間だ。
 アーフィがこくりと頷き、俺たちは第二十階層から階段へと移動し、そこでステータスカードを取りだす。


 職業のサブを探索者に変更し、アーフィへと手を伸ばす。
 ぎゅっと彼女と手を握ると、アーフィはびくっと肩を竦めた。
 もじもじと、空いている片手を口元へ向けている。


 俺の手汗ばんでいるか? ……たぶん、そうじゃないんだろうけど。
 指摘するのは、迷宮を出てからにしよう。
 一つずつ下りていくと、時間はかかったが、迷宮の外へと出られた。
 涼しい風が肌をなで、アーフィがぶるりと身震いする。 


 ちょっと温度差がありすぎるよな。同意の気持ちだ。


「……汗もかきすぎたし、ほらとりあえずこれでも羽織ったらどうだ」


 ステータスカードから、アーフィのローブを取りだす。
 アーフィがそれを着て、首を突っこむように服装を整える。


「これだけ差があると、さすがに身体が驚くわね。ハヤトは大丈夫?」
「俺はまあなんとか。寒かったら適当に着るから大丈夫だよ」
「そう。風邪をひかないようにね」


 今のところは問題ない。街へと移動しながら、俺は職業を戻しておく。
 街へと到着し、安全が確認されたところで、隣に並ぶアーフィの横顔へと視線を滑らせた。


 思わず見とれてしまうような横顔に、問うのを忘れてしまいそうにもなる。


「……今日は、なんだか調子がおかしかったな」
「……うっ、べ、別にそんなことはないわよ?」


 その「うっ」、ですべてわかるっての。
 彼女は一人で生きていけるのか心配になるほど、嘘をつくのが下手だ。


「わ、笑わないでっ」


 アーフィが腕をふりながら、顔を赤くしながら声を荒げる。
 ちょっと怖い。もちろん、殴りかかってくるわけではないのだが、アーフィの駄々っ子を食らえばひとたまりもない。
 俺は霊体をまとって警戒しながら、落ち着けるように彼女に両手を向ける。


「昨日、ファリカと二人きりで、何かあったのか?」
「……そ、それは」


 図星のようだ。


「何かあったのかはわからなけど、あんまり抱え込まないほうがいいよ。ファリカの発言なんて、人をからかうことばかりなんだしな。気にしているだけ時間の無駄ってこともある」
「……時間の無駄じゃない。それに、これは、私にとって凄く大事なことかもしれないの」


 アーフィの顔から笑顔がなくなり、暗い影が落ちる。
 夕陽も沈みはじめ、道の街灯がぽつぽつと街を照らしていく。
 子どもが帰宅しながらの声や、冒険者たちの雑談……それらにかき消されそうなアーフィの声が耳に届く。


「……私は、あなたのことが好き、なのかしら」


 苦しげな表情と共に顔をあげたアーフィに、俺は口を閉ざしてしまった。

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