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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第三十七話 十四日目 異常

 外に出ると陽もおちていて、魔石の明かりだけが庭を照らしていた。
 静かで風以外の音がない。風に揺れる木々のこすれあった音が、心に届き落ち着きをくれる。
 霊体をまとった桃に、俺は両腕だけに霊体を発動させる。


「それはどのような意味があるのですか? ていうか、私できないんですけど」


 俺のを見て真似しようとしているようだ。
 ……これってそんなに難しいのだろうか。俺はこちらで始めたせいで、逆に全身にまとうほうがイメージする範囲が多く苦しい。


「まあ、なんでも良いだろ? それじゃあ、やってみるか」
「魔法はどうしますか?」
「……え、魔道具持っているのか?」
「はい。みんな騎士団から頂いたものを使用していますよ。私は火が得意なので、火属性のファイアボールが入った魔石の指輪を持っています」


 ほら、と彼女が見せてきた赤い魔石がきらりと輝く。


「どっちでもいいよ。どっちにしろ、俺の戦い方はそこまで変わらないからね」
「なら……全力でいきます。危険だと思ったら、すぐに言ってくださいね」
「ああ、そっちもな」


 剣を肩に担ぎ、腰を落とす。


「それじゃあ、始め!」


 リルナが楽しそうに手を振り下ろす。 
 弾かれるように地面を蹴る。
 敏捷の値はないが、例えば地面を蹴りつけて加速するなどは出来る。


 衝撃に身体が吹っ飛ばされる形になるため、制御ができないとただの危険な特攻になるのだが、俺からすればそれは関係ない。
 真っ直ぐに弾丸のように弾かれた俺をみて、桃がかわした。
 器用に身体を風に乗せるような動きだ。


 俺の体が壁に直撃するが、全身に霊体をまとい、ダメージを霊体で受ける。
 衝撃で霊体の体力がなくなったが、俺の体は無傷だ。


「……さすがに、これは実戦じゃなかなか使う機会はないか」


 直線的すぎて、簡単にかわされてしまう。
 おまけに、筋力任せであり、壁を破壊してしまった。
 リルナがそちらをちらと見たが、特に気にした様子はない。


 色々と、普段は試すことのできない戦いの練習のつもりもあったのだが、桃はすぐに霊体をまとった俺を見て、納得したように頷く。


「……なるほど。HPの低さを利用して、霊体を盾のように使うということですか」
「まあそうだな。相手がそれで油断してくれれば良いし、警戒していたとしても、何度も再生する霊体がある。俺の体さえもてば、まず負けることはない」


 三秒というのは戦闘中は長く感じるが、敵からすれば短いだろう。
 桃が双剣を構える。剣というが短剣のような短さだ。
 職業は料理人であるため、彼女の武器はナイフ辺りが適正なのだろう。
 彼女は短剣を両手に持ち、地面を蹴る。動きはそこまで早くはないが、日本にいたときよりも体は動いているようだ。


 赤と青の双剣が、振るわれるたびにその色の軌跡を残しながら迫る。
 上下左右からの連続剣を俺は剣とときには霊体を身代わりに受けきる。


 霊体をまとって、双剣を受け流していく。力任せに振るっていてはどうにもならないと思ったのか、桃は短剣をくるりと回し、逆手にもつ。
 変幻自在の剣技を披露する。
 見世物としての料理のような派手さでも追及したような動き。


 何かしらの剣の型があるのだろう。
 この世界の剣の型は知らないが、今日の授業の模擬戦でも似たようなものを見た。
 それを、俺の霊体が覚えている。
 彼女の攻撃をしばらく受ければ、先が読める。


 連続剣の後の一瞬に生まれる隙――。そこへと俺は剣を突き出す。
 桃が目を見開き短剣をクロスして受け切ったが、大きくのけぞる。近くの壁へと叩きつけられ、彼女の霊体の光りが揺らいだ。
 俺と桃には三倍近い筋力の差があるのだ。
 まともに受けきれば、ひとたまりもない。


「凄いですね。まさか、ここまで力の差があるとは思いませんでした」


 桃がふらふらと立ち上がる。霊体にはあっても、身体へのダメージはほとんどないと思うが、心配もある。


「俺も、思っていた以上に戦えてこの十日ほどの生活が無駄じゃなかったようで安堵しているよ」


 これでも、試行錯誤を繰り返し、どうやってステータスの差を埋めるかに終始した。
 その結果がこうしてステータスをどうにかひっくり返すことができた。
 まあ、俺の職業がまた彼女らに比べて便利なのもよかったというものだ。


「ですが、魔法を使わせてもらいます」
「わざわざ言わなくていいよ。魔法なんてのは、不意打ちのためのものだろう?」
「そうですが、怪我をされては困りますし」


 ……まあただのお遊びのような戦闘だ。
 成績に影響があるわけでも、命をかけたやり取りでもない。
 怪我をしたらバカバカしいだろう。第一、俺は普通と違い、霊体を犠牲にしながら戦うスタイルだ。
 普通なら、霊体がなくなれば勝利というのに、俺の場合は違う。勝手が変わるためにやりにくい部分もあるだろう。


「気にするなよ。それよりも、魔法の相手をするのはあまり得意じゃないんだ。全力でやってくれたほうが良い訓練になる」
「……わかりました。行きますよ!」


 桃が叫び短剣を両手に構えたまま駆けてくる。同時に彼女の少し前に魔法陣が展開される。
 放たれた火の弾を剣で切れるのかどうかを試してみる。


 魔法には核のようなものがあるようだ。それを断ち切ると、魔法が消滅した。
 ……ふむ。魔法へと剣が触れた瞬間に、どのように斬れば対処できるのかがわかった。
 もっといえば、魔法の核を上手く残し、利用する手段も浮かんできたが……これはまだ練習をしないといけないだろう。


 とにかく、今は突っこんでくる桃だ。
 桃が短剣を大振りに構える。わざとらしい動きだ。対処は容易だが、それには別の意図があるように思えた。


 そこで、魔斧との戦闘を思い出す。足場からの奇襲……あるいはそれに近いもの。
 はっとして俺はすぐに異様な熱を感じた背中に霊体を展開する。
 しかし、そこで終わりだ。霊体が切れ、俺の体が前に弾かれる。
 桃が慌てて剣を下ろして、俺の体を受け止める。
 二人で重なるように倒れ、その柔らかな身体に手が埋まり、俺は顔が熱くなるのを感じる。


「すみません。少しやりすぎました」
「俺も……悪いな」
「いえ、気にしないでください。立てますか?」
「ああ、大丈夫だ。うお!?」


 突然彼女の足がからみついてきて、抱きつかれる。


「……すみません。久しぶりになんだか、勇人くんの匂いを感じられましたので、衝動を抑えきれませんでした」


 抱きつかれる形で彼女に拘束され、俺はもう何が何だかわからなくなる。
 頭がおかしくなりそうな状況で、背後にいたリルナが近づいてくる。


「凄い強くなっているんだねっ」
「い、いいから助けろよ!」
「えー? 楽しんでるみたいじゃんっ。モモ体柔らかくて気持ちいいもんね。仕方ないよね」


 桃はやがて、俺の体を解放してくれたが……もう何がなんだかわからない。
 運動しているときの何倍も身体が熱くなったが、桃はどこか満足げな顔をしている。


「ふぅ……これでしばらくは落ち着けそうです」
「おまえ……俺を充電器か何かと勘違いしていないか?」
「良いじゃありませんか。これでも私は毎日勇人くんの部屋に入っていたんですよ? その匂いを堪能していたんですからね」
「……えぇ、聞きたくなかったよ」


 今度からは部屋にあげないようにしよう。


「それじゃあ、夕食でも食べながら次は、城に残っている人たちの話でもしよっか!」


 リルナの声に従って、庭から食堂へ移動する。
 メイドがすれ違うたびにいつものリルナではなく、真面目リルナとなる。


「おまえ……メイドにもやっているのか?」
「そうですね。ただ、メイドの多くは私の性格を知ってしますよ。それでも練習になりますからね」
「……なんでそんな猫かぶりをするんだ?」
「だって、みんなに慕われるからすっごい、楽しいんですよ」


 ……理由はとても子どもっぽかった。
 食堂へと移動し、メイドが用意した食事を口へと運んでいく。
 運動の後の食事が体に染み渡っていく。


「それで……クラスメートのほうはどうなんだ?」
「そっちが、なんだか大変なんだよね。みんな変らしいんだ。私よくわからないんだけどね」
「変?」
「……そこからは、私が話します」
「具体的に、丁寧に教えてくれ」


 こくりと頷き、彼女が語っていく。あまり表情はよくない。


「……城に残った私たちは、毎日迷宮などでレベルをあげていました。みんな、どんどん成長していくのは良いのですが、それにあわせて態度も大きくなっているんです」
「それが普通なんじゃないかな。今までこんな力を獲得したことなんてないんだ」


 俺は生きることを優先していたし、それ以上に苦戦する戦いもあった。
 魔斧との戦いで、まだまだ自分には力が足りないとも思わされ、増長はしなかった。
 しかし、ずっと楽勝に倒せる魔物ばかりと戦っていたとなると、それも変わってくるだろう。


「……それこそ、自分の欲のままに行動することもあるくらいなんです。前に、女を連れ込んでいる人もいました。そのくらいならいいのですが、使用人たちに対しても雑な扱いをするといいますか」
「確かに、それは少し暴走しているな」


 いくら力を手に入れたからといって、俺たちは所詮日本で教育を受けてきている。
 ある程度の常識はそこで構築されているのだから、大丈夫だとは思うが。
 顔を伏せた桃のかわりにリルナが口を開いた。


「彼らといては危険だと思い、私はこの学園に彼女を誘いました。父が、うまくみんなに伝えてくれまして、簡単にことは運びましたが……いくらか不満そうな声もあがっていましたね」
「不満の声……まさか、俺の友人たちか?」
「……はい」


 深刻そうに桃が頷いた。


「……みんな、私が出て行くことを反対していました。その代表は三人です」


 ……そうなると、やっぱりあの三人の誰かが、俺に投票したのだろうか。
 考えると、頭が痛くなるね。こんなくだらないことで、思考を割くことは無駄というのに。


「おかしいのは、私もなんです」
「……どういうことだ?」
「たまに、感情が暴走しそうになるときがあるんです。……例えば、あなたのことを思うと、どうしても会いたい、今すぐに私の物にしたい……と感情が浮かんで、それが暴れだそうになるんです。……今は落ち着いていますが、いつまた感情が噴出すかわからないんです」


 感情の暴走か。俺もたまにその感覚があった。
 例えば、魔斧と戦ったときに強い怒りのようなものを感じた。
 桃の表情が暗いものへと変わっていく。


「私も……あなたと一緒にいたいんです。……けれど、今のあなたは私以外にもたくさんの女の子がいて、私を見てはくれません」
「桃……。あいつらは俺の友人だ。恋人とか……そういうものじゃない」
「いえ……それは……別にいいんです。……なんでしょうか、すみません。私はあなたの恋人ではありません。けれど、なんでしょうか。どうしても、こう……独占欲といいますか。あなたと一緒にいたい、あなたを私のものにしたいって……感情が沸きあがってきてしまうんです」


 苦しげに胸を押さえる彼女に、俺はなんと声をかければ良いのか分からなかった。
 桃はいい友人でそれ以上の感情はなかった。


 桃はもやもやとした感情があるようで、胸に手を当てる。
 俺はそこまでの異常は出ていない。……これはステータスカードの差なのだろうか。
 俺たち全員に共通しているのは、異世界転移くらいだ。


 ……だけど、そっちについて調べても推測の域を出ないだろう。
 何もおきないことを祈るしかないな。


「あと、約二週間です。この世界の私がこういうのもあれですが、残りの二週間をしっかりと生きて……それで地球にきちんと戻ってください。私はあなたたちを見ていると、どうしても苦しくなってきてしまいますから」


 リルナがにこりと微笑み、俺も彼女に頷いた。
 桃は心配だし、クラスメートだっておかしい。
 ……だったら、俺が一人ででも戦わなければならないだろう。

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