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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第二十七話 十二日 ぶつかりあい

 簡単に自己紹介をし、ファリカ、という名前を聞いた。
 その際に年齢についても伝えられ、今は十六歳だから、子ども扱いはするな、とも。
 俺の心中を察したとばかりの発言に頬をひきつらせてしまった。


 会場からどんどん離れていき、三十分で戻れるのかを心配しながらも、ファリカの後を追う。


「……二手に別れる」
「おまえはどうするんだ? 敵はそれなりの実力者なんじゃないか?」
「……二人。けど、それならこちらにもやる手段はある」
「なら、一対一だね」


 今さら一人逃げるというつもりもない。
 俺が霊体を軽くみせると、彼女は驚いたあとにこくりと頷く。


「……報酬は少ないけど、払う。だから、しばらく雇われてほしい」
「それじゃあ、足手まといにならないように気をつけないとだね」
「一応、こっちは人通りが少ない。そろそろ、敵も仕掛けてくるはず」


 確かに、建物がどこか古びたようなこのあたりは、いかがわしい看板の店が多く並んでいる。
 たぶん、今のような時間は店の準備をするような人たちしかいない。
 そんな彼らはあまり感情のない顔をこちらへ向けてきて、それ以上の反応は見せない。
 ……敵は一体どこにいるのだろうか。


「上!」


 ファリカが鋭く叫び、俺は同時に霊体を全身にまとう。
 身体を剣がすぎ、一瞬で霊体が消滅する。ファリカが目を見開くが、彼女の背後にも敵がいる。
 俺は即座に剣を抜いて彼女へと投げつける。


 ファリカの背が低いおかげで、俺の投げた剣はファリカの頭上をすぎる。
 剣を受けた敵であったが、ファリカが短剣で追撃して、その身体へと突き刺す。
 魔法のようなもので、さらに攻撃をすると、敵ががくりと倒れた。
 さすがに……敵の気配を感じる、とかそういうのはまだ慣れないな。


 俺を仕留めるつもりなのだろうか。残りの一人が俺へと切りつけてくる。
 それを霊体で受け、消滅する前に回避する。
 側面に回り、霊体を両腕に展開して男を殴りつける。


 殴ると同時に相手の身体へ拳を捻ってより深く、叩き込む。これも、技術が高いおかげでできるようになった技だ。


 弾かれた敵は、空中で回るようにして壁へと着地する。そのまま壁を蹴る。
 敵の行動に感嘆しながら、俺はファリカが転がしてきた剣を拾って打ち合う。
 一撃で敵の剣を弾き飛ばし、二撃で敵の身体を切り裂く。
 霊体を破壊し、相手の足を浅く切りつけ、喉元へと剣を向ける。
 それでもまだ抵抗しようと腕を動かしたために、俺は彼の足を再び切る。


「さすがに、死ぬのは嫌だろ?」


 返事は……攻撃だった。俺が殺さないと考えての行動か。
 敵の男は死ぬのも恐れないとばかりに立ち上がる。すでに霊体はない。ならば、やるしかない。
 これまでが運が良いだけで、覚悟はいつだってしていた。だからこそ、俺は殺すための刃を振り抜いた。


 彼の腕を深く切りつける。それでも敵は怯まずに突っ込んでくる。
 どうしてここまでの覚悟を持っているのだろうか。
 死んでも良いというその考えは理解できるものではない。
 俺は彼の腕へと剣を叩きつけ、そのままかっさばくように剣を引いた。


 ……嫌な感触が手には残ったが、俺は気にせずに出来る限り冷静に手を払う。


「ありがとう、助かった」


 ファリカのほうも片付き、二つの骸が通路に転がっていた。
 飾りとしては最悪だな。


「力になれたのならよかった。この二人はどうするんだ?」
「私の知り合いに任せておく。それよりも、このあと暇? お礼をしたいのだけど、今この場にお金をあまり持っていなくて」


 報酬か。
 とりあえず、ステータスカードを見ると彼女の職業であろう精霊使いが獲得されていた。
 彼女がきちんとした依頼主で、今後もこういった契約をするのであれば、舐められないようしっかりと受け取るべきだ。けれど、今から会場へ戻ったとしても時間は微妙だ。


 アーフィが失敗して落ち込んでいたとしたら、俺が遅れるというのはさらに彼女の心を締め付けてしまうだろう。


「あー、悪いけどそろそろ待ち合わせの時間というか、待っている人がいて、悪いな」
「そう? ならまたあとで……劇団知らない? 次の公演の終わる時間くらいに来てくくればお礼をできると思う」
「なんだ偶然ってのはあるらしいね。俺もちょうど次の劇を見るために待ち合わせをしているんだ。あまり詳しくないけど、有名な劇団なのだろう?」
「うん、国内のあちこちを回っている」
「そりゃあ楽しみだ」


 並んですぐに走り出す。
 そこで会話が終わりかと思いきや、ファリカが呟いた。


「ただ、少し勘違いをしている。私は劇を見るというよりもそこでやることがある」


 手伝いとかだろうか? だとしたらなおさら早く行かないとだな。


「へぇ、それは大変だ。早く戻ろうか」


 この地区から逃げるように街を走っていく。風でゴミが転がり、それを踏み潰すように俺たちはその地区を抜ける。
 だんだんと人々のいきかいが増え、声が重なり静けさを消していく。それらは街が明るいという照明であった。
 会場付近まで戻ると、ファリカが改めて頭を下げてくる。


「見終わったら、私の名前を受付に伝えて。話は通しておくから」
「わかったよ。それじゃあ、お仕事がんばってくれ」
「うん」


 ファリカは短く手をあげ、会場へと去って行く。
 その後ろ姿を見送りながら、アーフィと別れた場所まで戻る。
 会場を目指している人々の声が、耳を破るように届いてくる。


「知っているか? 午後と午前で違う演目なんだぜ」
「当たり前だろ? 午前の役者も可愛い子多かったけど、午後はなんたって王女役の子がすごい可愛いんだろ?」
「知ってる。俺はあの子を見るためだけに、三日間毎日来ているんだからな!」
「お前も、来ていたのか」
「お前もか!」


 がしっと、男同士で手を握り合い、それから彼らは肩を組むようにして会場の方へと向かって行った。
 ようやくアーフィの姿が見えると、男三人に囲まれ困った様子のアーフィを見ることができた。


「なあなあ? 俺たちと一緒に劇見ようぜ?」
「私は待っている人がいるのよ」
「へぇ、その相手って男?」


 いつ出るか迷ったが、長引いてもアーフィが疲れてしまうだけだ。これからせっかく劇を見るのだし、楽しい気分で見れるようにした方が良いだろう。
 アーフィは穏やかな笑みを浮かべてこそいるが、その頬はひきつっている。


 その笑顔に男たちは深い意味があるなんて考えない。
 アーフィの肩に手を回そうとしたところで、俺がその間に入る。


「悪いな、待たせて」
「ハヤト。よかったわ、心配していたのよ」


 一応急ぎはしたが、やはり……予定の三十分よりも遅れてしまった。
 振り返り彼らを一瞥すると、途端に怯んだ様子を見せる。


「す、すんません……」


 彼らは、結局それ以上何も言わない。俺はそこまで厳しい目をしたつもりはなかったが、こちらに来てから威圧力的なものがあがったのかもしれない。


 劇が行われる大きな会場の入り口の列に並ぶ。
 直接お金をやりとりし、そのまま会場へと入っていけるようになっている。
 今日で三日目の公演らしく、さすがに人の入りも落ち着いてきているようだ。
 受付の人たちは、会場の入り口で席の確認をしながら、人々を入れていくようで、忙しなく動き続けている。


「アーフィ、どうだった?」
「楽しかったわ! みんな優しくしてくれて、色々なものを食べることができたのよ……っ! ありがとう、ハヤト!」
「感謝されるようなことは何もないよ。金はアーフィのものだし、アーフィが自分の力でやりとりしたんだからな」


 それはもう楽しそうな笑顔を浮かべる。なんていうか、小動物的な可愛さがあるんだよな。
 たまにみえるSっぽい部分が、また素晴らしい。
 とにかく……楽しめたようでよかった。
 人相手にもしっかりと話ができるだけ、大きな進歩だ。
 彼女の楽しそうな話に相づちをしながら、受付に金を支払う。


 一人千五百ペルナだ。……平民からすれば結構な額だ。けれど、決して届かないわけではない。
 会場の中は、薄暗かった。目が慣れるまで少し歩きにくかったが、前を歩くアーフィはそんなの気にもならないようだ。
 星族はそのあたりの体の構造も違うのかもしれない。


 席は自由に座れるようで、映画館のような段上になっている席の中で、真ん中のあたりを確保する。といっても、本当の真ん中になるとすでに人気があって人が多くいたため、入り口に近い後ろ側だ。


「す、凄い人ね」


 キョロキョロと人の数に感嘆の声をあげる。
 俺は祭りなどでもっと多くの人を見ているため、それほど驚きはないが、アーフィからすればこの数が一箇所に集まっているというのは初めてのようだ。


「それだけ人気があるんだろうね」


 段々と人が席についていく。
 入場から十分ほどして、人の出入りも終わり、席のすべてが埋まった。
 そして……劇が始まった。


 内容は精霊に召喚された精霊の使いが、様々な苦難を乗り越えて災厄を吹き飛ばすという、いたってシンプルなものだ。
 それでも、役者たちの演技がしっかりとしており、また職業技などを使った派手なアクション、演出が施され、そのたびにアーフィがびくりとはねたり、時に物語に吸い寄せられるように固唾を呑んで見守っていく。


 演じている中で、この世界の王女様といった立場の女性がまた美しい容姿で、目が覚めるような美声を繰り広げる。
 異世界の人たちは比較的顔が整っていて、神様優しいなおいとか思っていたが、良い中でも差はあるようだ。
 超可愛いと可愛い、みたいな。異世界から来た俺からすると、可愛いの子でも付き合えたら最高! ……と思うレベルなんだけどな。
 ……というか、あの王女役の子は。


「凄いわね……」


 アーフィも王女役の子に見とれているようだ。
 俺も王女役の女の子を食い入るようにみて……そして確信する。
 ……あれは……たぶんだけど、ファリカ、か?
 あのときは帽子をかぶっていたし、口元も隠れていてはっきりとは分からなかった。
 けれど、今ここですべてを取り去った彼女の背などはまさに先ほどみた彼女と合致する。
 ファリカはしっかりと劇をしながら、全体を見回しているようだ。


「ふぁ、ファリカちゃんがこっちを見た!」
「いやっ、あれは俺だっての!」


 そんな会話がたまに聞こえてくるほどに、ファリカは人気があるようだった。
 そして、とうとう俺のほうと視線があったとき、ファリカはちょっとばかり自慢げな顔をしていた。
 良い性格をしている。すっかり驚かされてしまい、俺は腕を組んで苦笑する。


 劇を見た限り、精霊の使いというのは、平民にとっての希望そのもののようだ。
 演じているかっこいい男性に、美しい女性……というか、見た目は少女。
 その二人が最後には結ばれるという場面になると、会場はもう耳の鼓膜が破れるほどの歓声に包まれた。
 どの世界にもアイドルのような扱いを受ける人はいるんだな。
 その歓声の中で、一際うるさかったアーフィに、俺は両耳を押さえるので大変だった。


 劇が終わると、入り口に近い人から出て行く。
 人々の中には、我先にいこうとするものもいて、そのたびに警備員のような冒険者然とした人たちが止める。


 国を旅して回っているため、こういった戦力も必要なのだろう。
 となると、ファリカは戦える役者、ということか……それとも全員が戦闘もある程度こなせる劇団なのか。
 どちらにせよ、人気の劇団であるのは間違いなかったな。
 次に見る機会があるのなら、精霊の使いがどうたらという話ではないほうを見たいものだ。

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