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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第二十五話 十二日目 公爵のお話

 事件から一日が経過した。
 すべてがとりあえずは治まり、街はもう前のような活気が溢れている、らしい。
 宿の人たちの会話から聞いただけなんだよね。


 さすがに俺もそれなりに体へ負担がかかっていたようで、一日休養にあてたため、生の声は聞いていない。
 アイストたちは、魔斧を持ったがもう魔斧が暴走することもなく、街へと持って帰っていけたらしい。
 凄い感謝をされたけど、俺はアーフィを助ける目的がたまたまそれだっただけだ。
 それでも、家族三人――いや、まだ家族ではないか。
 いずれは家族となるであろう三人の後姿を見て、助けた甲斐があったように思えた。


 そして、異世界にきてから十二日目となる今日。
 俺は竜車に揺られながら、肘をついて外の景色を楽しんでいた。
 この長い旅もそろそろ終わるだろう。尻が痛いっての……。


 隣に座るアーフィはすっかり体の調子も戻ってきたようで、元気な姿を見せている。


「ハヤト、凄いわっ。見て! あっちで魔物同士の戦いが見えるわよ!」


 すっかり動くようになった両腕で、たまに人の頭を叩いて、外の景色を示してくる。
 やめてくれ、こっちは昨日の夜に突然公爵様に呼び出されて、ロクに寝ていないんだよ……。
 アーフィも同じような睡眠時間のはずだけど、星族は数日は寝なくても問題ない種族らしい。


 睡眠時間が少ないのもそうだが、さらに睡眠時間を貯金できるような体の仕組みをもっているとか。
 特に、両腕が使えない間にアーフィは睡眠時間を貯金していたこともあってか、しばらくは眠らなくても良いらしい。
 それでも、眠るのは好きだからと、夜はきちんと寝ている。
 たぶん彼女はもう一ヶ月くらいは寝なくても問題ないんじゃないか?
 そう錯覚するほどに元気だ。


「ハヤト! 大きな街よっ!」


 わーったって。わーったから、頼む。
 休ませてくれよ。
 それでも俺は体を起こす。アーフィが無理やりに背中を押してきたんだ、仕方ない。


「門が開いて……見てみなさい! たくさんの竜がいるわ!」
「……そりゃあすげぇや」


 門へと向かっていく、あちこちから集まってきた竜車に感動しているようだ。
 確かに凄い場所だ。首都に負けない規模の街、人の多さに俺も驚きはある。
 それ以上の睡魔があるのだけど。


「……あそこに美少女が際どい格好でいるわ!」


 何? ちらと視線を向けたが、上半身裸気味の男がいただけだった。
 あいつ服着ろよな、気持ち悪い。
 俺の視線の動きを確認したアーフィは、腕を組んだ。


「それにはちゃんと反応するのね」


 むすっとアーフィが腕を組み、俺は騙されたお返しにでこぴんをする。
 と、アーフィはそれが結構気にいったようで、舌を出しながら俺の額目がけてカウンターを放ってきた。
 対面の席へと吹っ飛ばされ、慌ててアーフィがやってくる。


「ご、ごめんなさい! 思ったよりも飛んだわね……」
「……気抜きすぎたな。気にすんな」


 アーフィ……力強すぎです。
 おかげで、俺の肉体もどんどん鍛えられているような気がする。
 むくりと起き上がり、反対の窓から外を見る。
 行き交う人々の中には商品などを運んでいる者もいる。門で止められ、荷物検査のある竜車などが多かったが、俺たちが乗っている竜車は本当に簡単な検査だけで終了した。


 ……公爵家の模様が入っているし、それもそうか。
 すぐに平民街をすぎ、貴族街へと移っていく。
 平民街も見れる町並みであったが、貴族街はさらに質があがる。
 その中でもひときわ大きい屋敷へと竜車は迷うことなく進んでいく。
 俺たちの竜車が止まったのは、庭に入ったところでだった。


 長い旅だったな。あくびをしながら竜車をおりて伸びをする。
 俺の隣にいたアーフィは、興奮した様子でキョロキョロと周囲を見る。
 相変わらず彼女の金髪は美しく揺れ、片目は新たなものを発見しようと動いている。


 確かに、新しい街というのは上手く表現できない高揚感があるな。
 後で街でも見に行こうかな。
 俺たちが立ち止まっていると、こちらへやってきた執事が頭をさげてきた。


「中でカレッターズ様がお待ちです」
「……ああ、ありがとう」


 庭師だろうか。庭にいた若い男性がアーフィを見て呆けたような顔をしている。
 剪定鋏のようなものが空をひたすらに切り刻んでいる。怪我だけはしないでほしいものだ。
 執事についていき、彼の後を追って屋敷へと入った。 
 階段をあがり、通路を真っ直ぐに進む。アーフィは貴族の屋敷が初めてのようで、キョロキョロと視線をさまよわせている。


 ……やっぱりこの子は平民、だよな。
 扉を押し開けたまま、執事が視線を向けてくる。
 中にはいると同時、カレッタが駆けつけてきて手を差し出してきた。


「久しぶりだね。もう体も、大丈夫なようだね」
「まあな。とはいえ、長旅にケツが痛いな」
「はは、まあ、そこは我慢してもらうしかないね」


 カレッタがソファを示し、俺はゆっくりと座る。
 アーフィもちょこんと俺の隣に腰掛ける。


「今日は良く来てくれた、友ハヤトと……アーフィちゃん」
「……なんでアーフィちゃんなんだ?」
「それじゃあ、ハヤトちゃんと言ったほうがいいかい?」
「そうじゃねぇよ。あんまりこいつを口説くなって話だ」
「なんだい、キミの女かい。そりゃあすまなかったよ」


 別にそういうわけじゃない。
 アーフィはそういったことに不慣れだ。
 人をからかうときは楽しそうにするが、いざ自分がからかわれると途端に慣れない顔を見せる。
 この状況で暴走されたら俺たちは国から追い掛け回されるかもしれないからな。
 とはいえ、そんな心情をさらすこともできず、仕方なく睨んでいると、カレッタは深く腰かけた。


「とにかく……二人とも。ようこそ、わが屋敷へ! 屋敷とはいっても、まあ、ここは僕の実家ではないんだが……細かいことは気にしないでほしいね」
「……それで? 今日はどのような用事ですか? まだ、事件から一日しか経っていませんし、昨日、だいたい知っていることは話したと思っているんですけど、カレッターズ様」


 まあ、カレッタにではない。正確にはカレッタの家に仕えている執事にだ。
 そして、そのときに、執事から共に来ないか、と誘われたのだ。
 ……しばらくの宿と食事を出してくれること。後は、アスタリア迷宮にも飽きてきたし、別の迷宮を見てみたい気持ちもあったために、その申し出を受けた。
 移動代もかからないしね。


「だから、敬語はよしてくれ友よ。僕のことはカレッタでいいさ」
「分かりました、カレッターズ様」
「聞いていたかい? 僕の話を」


 苦笑しながら、カレッタも対面のソファへ腰かける。
 そして彼は、机に置かれていた複数の紙のうち一枚をこちらへ向ける。


「アイメルド・フィルナの調査を引き続き行っているが、まあ恐らく彼の家は貴族としての位を失うだろうな。今までだって悪事をいくつもやってきたんだ。どうにか誤魔化していたようだけど、こうして捕まったことでようやく調査がすすんだよ。本当に、感謝しかないね」
「こりゃあ、凄いな。よく今まで平気な顔をして表を歩けていたもんだ」


 小さなものでは、平民へのいいかがリをつけ、そいつの命を弄んだり。
 大きなものでいえば、この前のような魔器の回収を強引にしようとしたり、また敵国であるぺドリック国に情報を売っていたこともあるようだ。
 確定的な情報ではなく、今もアイメルドはすべてを否定しているらしい。


「この国は大丈夫なのか? 貴族の腐敗が目立っているようだったけど」
「すべてじゃないさ。それに、王はその腐敗を取り除くために僕の父に相談したんだ。それで、僕が変装してこうして活動をしている」
「公爵様が直々とは、大変だな」
「公爵といっても、四男だからそこまで強い力はないしな。父からは、良い駒のようにしか思われていないよ。だからこそ、もっと功績をあげて、自分ひとりでも貴族としてやっていけるようにしないとなんだ」
「へぇ……よく考えているんだな」


 抜けた奴だと思っていたが、語る彼の両目は何か目指しているものがあるのか鋭い。
 それは一瞬で、すぐに呆けたような顔になる。


「とにかく、キミは街を救った英雄だっ。もっといえば、あの場で彼の口で情報を認めさせるように発言したことで、彼に関係していた、交友の深い貴族たちにも本格的な調査に乗り出すことができた。本当ならば、国に報告でもして、騎士くらいの爵位をもらっても良いくらいだが……嫌なのだね?」
「カレッタの言葉を借りるなら、友のためって奴だね。俺は友達であるアーフィを助けるために行動して、もっと付け足すならカレッタの貴族としての立場を良いものにするために、行動したって捉えてもらってもいいよ」


 そんな目立つことしたら、俺に力がついてきていることがクラスメートたちに届いてしまう。
 桃を安心させるためには良い手段かもしれないが、三人の誰かが犯人だった場合のことを考えると、俺はこのまま姿を眩ませ続けていたいのだ。


「お、おお……つまり、僕とハヤトは友達になったというわけだよね。素晴らしいね!」
「よし、友達になったしちょっと買い物行ってきてくれよ」
「僕は使い走りじゃない!」


 からかうと全力で反応してくれるため、第三王女リルナのような面白い部分がある。
 カレッタははじめこそむっとしたような顔をしていたが、それから微笑む。


「僕が今日呼んだのは、のんびりと話を楽しむということ以外に、もう一つあるんだよ」
「だとは思っていたよ。そのためだけに呼ばれたのなら、俺は今すぐに帰っていたところだ」
「もう少し会話を楽しもうとしてくれ。……もう一つは、キミ達学園に興味がないかってことだ」
「学園、か」


 そりゃあ、俺は現役の高校生だ。興味があるかないかで言われれば微妙なところだ。
 それほど学生生活に強い憧れも、興味もない。アーフィは俺とは真逆の顔だ。
 それはもう、学園という言葉にいくつもの幻想をもっているような、期待に溢れたものである。


「僕が言いたいのは、キミたちに僕が籍を置いている学園に入学しないか、ということだ。……そこでは迷宮都市があってね。ちょっと、そこの調査を任されているんだよ」
「……迷宮都市? 確か、迷宮内に街を作り、実験的に人々が生活をしているっていう場所だろ? 貴族や、認められた平民しか入れないっていう高級都市とも表現されている場所だったか?」


 そっちは興味がある。
 迷宮内にある街は、首都にも匹敵するような最新の造りをしていると、本で読んだ。
 今から何百年か前にそこで人が住み始め、精霊の力をもとに人々は生活の幅を広げていった。
 精霊の力によって、ある階層の魔物の出現を押さえこむことで、人々は安全な生活を享受している、とか。
 全四十階層の迷宮ではあるが、その最下層へと攻略を進めるような人はいない。第二十階層を基本に、人々は生活をしているという、本来の迷宮とは少し変わった場所だ。


「さすが良く知っているね。そうだ。僕たちの学園はそこへの旅行があって……僕はちょっとばかり調べたいことがあってね。力のある人に協力してほしいんだ。その間だけでも良いから、編入してくれないかな?」
「……そんなことできるのか?」
「公爵の力を舐めるなよ? ふふん」
「おまえの親すげぇな」
「その親の元に生まれた僕もさ」


 どうしても褒めてほしいようだ。


「わかったわかった。それについてはすぐに答えを出さなくても良いか?」


 ……まあ、アーフィは受ける気満々のようだ。
 そして、アーフィさえ引き込めれば、俺もついてくる。そうカレッタは考えているようで、資料をアーフィのほうに滑らせている。
 馬鹿め。アーフィは字が読めないんだよ。読めないのに、紙を掴んで何か楽しそうにしているアーフィにカレッタはすっかり勘違いしたようだ。


「もちろんだ。ただ、報酬はもちろん用意している。それなりの額ではあると思うね」
「ってことは、それだけ危険も伴われる可能性があるってことなんだろ?」
「まあね。最近、迷宮都市で不自然な人の出入りがあったらしい。一応……調べておきたいっていう感じだね。さて、どうする?」
「とりあえずは、街をみてきてもいいか? 戻ってきたら、答えを出すってのじゃダメか?」
「なら、僕も行こうかな。得意の変装もあるしな」
「変装するなら、平民が利用する店で服を買ってきたほうがいいぞ。ばればれだ」
「そ、そうかい?」


 アイメルド家の屋敷での一件を思い出したようで、カレッタの口がひょっとこのように窄められる。


「平民の流行りは、パンツ姿だ。裸身を見せて街を駆け抜ける。この疾走感が人生を捨てられるような快感があふれ、流行っているんだよ」
「それは人生を本当に捨てているんじゃないかな? ていうか、僕がそれに騙されると思っているのかい?」


 残された俺たちの元に、メイドが紅茶を持ってきてくれる。
 と、メイドはちらとカレッタを睨みつける。


「カレッターズ様はこれから用事があるでしょう。屋敷で、ある方たちを招く準備があったはずです」
「あっ……そうだったね。彼らも今日で去るといっていたか……。別に、僕のところに挨拶に来なくても良いというのに」
「カレッターズ様のお父様に恩があるんです。とりあえずでも、挨拶をしなければならないのですよ」


 からかうようにメイドがいうと、カレッタもくすくすと笑った。


「わかった、わかったよ」


 メイドが少しばかり厳しい目を作り、カレッタが申し訳なさそうに目を伏せる。
 立場逆転してるが……まあ、このくらい強気じゃないとカレッタが好き放題しそうだしな。


「悪いなハヤト、アーフィ。一緒に街へはいけそうにないよ」
「よっしゃ……。それは残念だな」
「と、とにかくだ。この屋敷に部屋を用意させた。飽きたら戻ってこい。一応、貴族街に入るためにこれも渡しておく」


 カレッタから渡されたのは紙だ。中を開くと丁寧に文字が書き綴られている。
 内容としては、カレッタの友人であり貴族街に入るための許可を出した、というものだ。
 ステータスカードへとしまい、カレッタたちに合わせて部屋を出る。屋敷を出たところで、アーフィが顔を覗きこんできた。


「が、学園に興味はないのかしら? ほら、学園といえば同じような年齢の子たちが学んでいる場所よね? 可愛いこもいるわよぉ、きっと」


 興味をもってほしいのな。
 ……ていうか、とりあえず可愛い子とかいっておけば俺が惹かれると思っているの? ちょっとくらいしか揺らがないっての。


「俺が精霊の使いってことは話したろ? 元の世界だと俺は学校に通っててね。学校ってのは面倒極まりない場所なんだ。毎日決まった時間で、決まった内容を学び、決まった時間に帰る。機械にでもなったような気分だよ」
「そ、それでも……人がたくさんいるのは楽しいのではないかしら? 私は……見てみたいわ。わがままを、いわせてもらうのならね」
「……そうか」


 アーフィが通いたいというのならば、俺も迷宮都市について検討してみる気持ちもある。
 ……アーフィを拾ったのは俺だ。せめて、元の世界に戻る前に、彼女が一人で生活できるように環境を整えるのも俺の責任だと思っている。
 俺が帰ったあと、アーフィがどうやって生活するのか。
 カレッタに恩を売っておけば、彼にアーフィを任せることもできるかもしれない。
 迷宮都市……か。

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