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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第二十六話 十二日目 新たな街で

 街を見て回ると決めたはいいが、どこから行こうか。
 特にこれといってみたいものがあるわけでもない。
 ひとまずは、人々の波にのるように歩きだした。


「アーフィ、何か見たいものはあるか?」
「そうね……あれは、どうかしら?」


 アーフィが指差した先には、見慣れる店があった。
 ペットショップ、だろうか。
 多くの魔物が展示されたそこへ、アーフィは視線を注いでいる。
 目的地があるわけでもないし、それでいいか。


「ペットとか興味あるのか?」
「ええ、もちろんあるわよ! 魔物を敵以外として認識するなんて、滅多にないことないしね!」


 かなり興奮してるな、こいつ。
 中は思っていた以上に奥行きがあって広い。さらに、外へと繋がる扉もあり、そちらはどうやらふれあい広場なるものらしい。
 ペットなど買うのは貴族くらいだろうか……と思っていたが、冒険者と思われる人も多くいる。


 壁にたてかけられている看板には、戦闘補助魔物、とかかれている。
 見たことはないが、魔物を戦闘の仲間として使う人もいるのか。
 ……ていうか、良くみたらカップルのような人たちが多い。もしかしてここはデートコースとして人気があるのだろうか。


「み、見て! このウルフ、小さくて可愛いわ……っ」


 ケージに入れられたウルフたちが、アーフィを見ると軽く吠える。
 それがまたアーフィにはたまらなかったようだ。
 ケージの上からアーフィがあやすように声をかけると、ウルフがそれに反応して鳴いた。


「か、可愛い……」


 アーフィの顔がすっかりと緩んでいる。……眺めているだけでこれならば、あちらのふれあい広場になんて行ったら吐血するんじゃないだろうか。


 奥に進むと、そちらには成長した魔物たちがいた。
 また、子どもではあるが比較的大きな竜系の魔物なども奥にいる。
 その一つ一つに対して、アーフィは顔をこすりつけんばかりに近づけている。


 たまに店員に気をつけてくださいと注意を受けていたが、そんな注意は少し歩くと忘れてしまうようだ。


「そんなに楽しいのか?」
「ええ! 想像していた以上の場所よ! ここに住みたい!」
「そうかそうか。ところでだ。ここにいるようなペットに触ってみたくはないか?」
「……な、なに? まさか……触れるのかしら?」
「向こうがふれあい広場らしい。あそこに書いてある文字な」


 扉の上にあるのを示すと、アーフィがその場で小さく跳ねた。
 もう俺の制止も聞かずに彼女はそそくさと移動を開始した。
 一応、ペット達を刺激しないように、走り出すようなことはしていない。
 扉を潜ると、店の中庭へと出た。


 そこには、人々とウルフ、地竜、ホーンラビットなど、見た目の可愛い魔物たちがたくさんいた。
 ……へえ、魔物ってちゃんと躾すると本当に普通の動物みたいだな。


 混ざるように犬や猫もいる。アーフィが足早に近づいていく。
 一歩踏み込んだところで、アーフィへと近寄っていった地竜が身体をこすりつける。
 それだけでアーフィは嬉しそうにしゃがみ、満面の笑顔で地竜を撫でる。


 しばらくアーフィを見守っていた俺のもとには、一切の動物も魔物も来ない。
 俺も少しくらいは触ってみたかったが、どうやらここの生物たちには好かれないようだ。
 隅のほうでアーフィがすべての生物に触れるという目標を達成するまで待つ。


「ハヤト? 寝ているの?」


 アーフィの声が、ぼんやりとしていた俺の意識を起こしてきた。
 はっとするように目を見開き、それから周囲を観察する。
 アーフィの顔が間近にあって息を飲む。それから、彼女から距離をあけて立ち上がる。


「すまん、寝てた。どのくらい経ったんだ?」
「一時間ほどよ。もう十分に堪能したし、私は良いわ。というか……待たせてしまってごめんなさいね」
「いや、仮眠が取れたおかげでだいぶ身体がラクになったよ。むしろ感謝したいくらいだね、それじゃあ、行こうか」


 結局何も買うわけではなかったが、俺たちのような客も少なくはないようだ。
 店を出たところで、アーフィの腹がぐーとなる。ローブの上からアーフィは軽く腹をさすった。


「何か食べたいものはあるか?」
「たまには、ハヤトの好きなものでいいわよ」
「そうか? なら、そこの店に入るか」


 別に俺は何でも良かったため、近くにあった店を指差す。それなりに人も入っている。まったく人気のない場所というわけではないようだ。
 アーフィと店に入り、席へと案内される。
 明るい色の木の床や綺麗なソファ。店員たちの明るい笑顔から、この店が流行る要素は十分にあった。
 メニューのようなものが書かれたものが壁に書かれている。


 文字が読めても、それがどのような食べ物かはわからないため、店員を呼んで二つ、適当に料理を注文した。
 アーフィはきょろきょろと周囲を見ている。店の雰囲気が気に入ったようで鼻歌でもしそうなほどにご機嫌だ。
 と、近くの席に座っていた二人組みの会話が耳に飛び込んでくる。


「ねぇ、街にあるあの大きな塔みたいなのってなに?」
「ああ、あれは展望台だよ。一応、昔は他国を警戒しての見張り台だったらしいけど、今じゃここまで敵国が攻めてくることは滅多にないからね。一般に開放されて、それからは街の観光の一つとなっているんだよ」


 俺の位置からだと男の得意げな顔だけが見える。
 見張り台として使われているのなら街の端までも見ることができるかもしれない。
 運ばれてきた料理は米のようなものが入ったスープと、パスタだった。
 アーフィがパスタのほうを勢いよく食べ、俺はスープをいただく。
 シチューに似ている、かな。


 ……これはおいしい。調味料など、平民の間では手に入らないのではと思っていたが、そんなことはないようだ。
 調味料による味付けも僅かにされていて、スープに入っているお肉を噛むたび味が広がっていく。
 飲み込むのが惜しいと思えるようなものだ。


「……おいしいの、それ?」


 表情に出ていたのかもしれない、アーフィが涎でもたらしそうな勢いでこちらを見る。
 そんな姿に苦笑しか浮かばない。


「まあな。食べたいならいいよ。ほら」


 スプーンの入ったスープを彼女に渡すと、彼女もパスタの皿を寄せてきた。
 俺も食べては見たかったが、アーフィは果たしておなか一杯になるのだろうか。
 一口もらうと、こちらも和風に近い味付けがされていて、非常においしかった。
 店を出てしばらく歩くと、平民たちが急いで歩いていく姿が見られた。


 ……それにしても、人が多いな。
 中にはお金を握って走っている子どももいる。子どもたちは人が多い道に我慢ならなかったのか、暗い路地へと入り込む。
 それを見ていたのだろうか。男二人がにやりと笑ってそっちへとかけていく。
 おいおい、物騒だな。


 路地へと顔を向けると、まさに子どもたちが捕まって金を巻き上げられそうになっていた。
 そんな子どもたちを放っておけるはずもなく、アーフィとともに撃退し、子どもたちに金を渡す。


「急いでいるからって、お金を持って走らないほうがいいよ。それに、こんな道も通ったらダメだ」
「……はい、ありがとうございます」


 男のお兄ちゃんは、しっかりとしている。今にも泣き出しそうであったが、懸命にこらえ、弟のほうは今もわんわん泣いている。
 頭をかきながら、路地の入り口まで案内していく。


「何を急いでいたんだ?」
「これから、劇を見に行くの! 今街に来ている劇団があってね!」


 ……それなりに有名な劇団のようで、この国内を移動している人たちらしい。
 午後の三時からそれが開演するらしく、子ども二人は溜めていたお小遣いで見に行くというらしい。
 路地を抜けたところで彼らとは別れ、俺は肩を竦める。


「通りで人ごみが多いわけだ。これだけいると、街というよりも人間観察になってしまうね」
「劇……? 聞いたことあるわね。そんなに楽しいものなのかしら?」
「さあ、そういうものって結局その人ごとに抱く感想が違うものだからね。気になるなら、見てみるか?」
「……うーん、時間があるのならば見てみたいけれど」
「なら行ってみるとするか」


 アーフィはいまいちわかってはいないようだが、興味はあるようだ。
 まずは会場へと向かわなければいけない。会場近くまで行くと、ちょうど人が出てきたところだ。
 劇はもう終わってしまったのだろうか?


「次の開演は一時間後の二時からになります! 入場は三十分前からとなりますので、それまでみなさんしばらくお待ちください!」


 受付の子だろうか。会場の入り口には数人がいて、その一人が大きな声を張る。
 数人たちは四方へとばらけ、次の劇の宣伝もしている。
 劇の内容についても簡単に触れているようだ。


「だそうだ。三十分くらい、どこかを見て回るか?」
「それもいいけれど……ここも随分と賑やかじゃない。見て回ってもいいかしら?」


 会場にあわせて、商人たちもそれぞれ店を展開して商売をしているようだ。
 食事を行うこともできるようで、アーフィはそれらに目をキョロキョロとさまよわせている。
 これも良い機会か。
 五百ペルナを取り出して、彼女の手に乗せる。


「これから一人で買い物でもしてきたらどうだ? 俺はちょっと武器屋にでも見に行ってくるから」
「わ、わかったわ」


 お金を手の上にのせたが、アーフィの両手は震えていた。


「落ち着くんだアーフィ。普段俺がやっているようにすればいいんだ。大丈夫だ、アーフィならきっと出来る」
「大丈夫よ……たぶん」
「そう、情けないことを言わなくてもいいって。俺は三十分したらここに戻ってくる。そこで合流だ」


 アーフィが拳を固め、店の並ぶ通りを歩いていく。
 ……多少は心配もあるけど、たぶん大丈夫だ。
 子どもの成長を見守りたい気持ちもあったが、俺が見ているとわかればアーフィも落ち着いてしまう。
 本当に一人で、生活できるようになるためにも、俺は適当に街へと向かう。


 帽子をかぶり、口元には黒い布のようなものがついている。
 忍者? とも一瞬思ったがそれも少し違う。
 そんな彼女は俺に気づくと、とてとてと近づいてきた。
 見た目は小さく、十二、三歳くらいの子だ。
 彼女はしばらく俺のほうをみて、驚いたような顔をした。
 ……何か、顔についているか? 気になって思わず足を止める。


 ……今度は迷子か? 今日は子どもに縁のある日なのだろうか。
 と、ずっと見ていたからか、少女が俺に気づいて近づいてくる。


「あなた、ちょっといい?」
「なんだ?」


 落ち着いた雰囲気の口調は、彼女の外見とはまるで合わない。
 そんな彼女は少しだけ赤面して、こほんと咳払いをして、身体を抱くように腕を組む。


「何か、おいしい食べ物売っている場所ない? 簡単に買えるもので、食べたい……」
「……そりゃあ、わかんねぇな。俺も旅人なんだよ」
「そう……なら、仕方――」


 彼女は言葉を言い切る前にちらと周囲へ視線を飛ばした。
 俺もつられて見るが、別に何かあるわけではない。
 突然、俺の手を少女に掴まれる。彼女は俺の手を掴んで走り出した。


「どうしたんだ?」
「……ごめんなさい。あなたも仲間だと思われてしまったかもしれない」


 何かが背後から迫ってきている。具体的に表現はできないが、彼女は敵に追われている?


「あなた、戦いは得意?」
「好きじゃないけど、得意なほうかもね」
「なら、自分の身は自分で守って。……ごめんなさい。あなたに迷惑をかけるつもりはなかった」


 とりあえず彼女は、何か問題を抱えている、ということか。
 アーフィに買い物の経験をさせなければよかったと思いもしたが、そもそもアーフィは人前ではあまり戦わせられない。
 霊体を使わずにあそこまで戦える人間、そうそういるもんじゃないからな。

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