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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第二十一話 十日目 飛び込み

 昨日、一昨日と……迷宮に潜りながら街で情報を集めた。
 騎士と連携しながら、魔斧使いについての捜索をしていたが……ここ二日は姿を見ることはなかった。
 おかげでアイストはだいぶ苛立っているようで、貧乏ゆすりをする機会を多く見ていた。
 気づくたびレッティが注意をして、そこで一悶着がおきる。
 彼らの関係を見ては、アーフィがとめたほうが良いのでは? と視線を向けてくるが、俺は彼らの喧嘩を止めることはなかった。


 街の人々の反応はより顕著だ。
 魔斧使いはすでに街から去ったのではないか? ここ最近静かになったことで、街の人たちはそんな期待から、希望的な発言を街に流している。
 被害にあっていない人々は喜び、被害者が家族にいる人はただただ嘆いているだけだ。


 まあ……事件はたぶん、今日――決着がつくはずだ。
 俺はそれを理解しながらも、アイストたち以外には伝えていない。
 彼らの意向を汲んだ結果だ。


 騎士、自警団の人と話をし、たまに酒を奢り、情報を引き出し、俺は貴族の出入りについての情報を獲得した。
 貴族の出入りはそれなりにあり、騎士たちはその出迎えの仕事が多く、嘆いていた。


 問題は今日の午後に来るという貴族だ。
 アイメルド・フィルナ。件の貴族がこの街へとやってくることがわかったのだ。
 魔斧の噂を聞き、その現場を取り押さえることが目的か、あるいはただの偶然の一致か。
 どちらにせよ、魔斧からすればまたとないチャンスだ。なりを潜め、じっくりとその日を待つのもおかしくはない。


 念のために購入した仮面を取りだす。……一応、顔を隠したほうがいいかもしれないと思い購入したのだが、案外視界が狭まってしまう。
 どうしたものかと考えていると、アイストが顔を覗きこんでくる。


「ハヤトさんは、変装するんですか?」
「いや……ほら、一応貴族の家に侵入するし、危険がないほうがいいだろ?」
「あー、そうですね。そういえば、変装するための職業技とかもあるらしいですよ?」


 そりゃあ、羨ましいな。
 俺としては下手に警戒されると動きにくくなる。
 俺は待機しているこの風呂屋にて、簡単に息を吐く。
 アーフィたちと来た風呂屋で、店主に簡単に事情を話し、部屋で休ませてもらっているところだ。


 本当は俺一人で戦うつもりだったが、さすがにアイストが首を振った。
 気持ちはわからないでもない。彼らからすれば、自分達の問題だ。
 どうせいてもたってもいられないだろう。
 目の届かない場所であれこれ行動されるよりかは全然マシだ。
 のんびりとその機会が訪れることを待っていると、アイストたちは慣れない環境のせいかそわそわしている。


 二人も親しい仲であるだろうし、ここで行われていることの意味を理解する知識もある。
 自然、変な感情が沸いても仕方ない。この場にて、なれた様子でいるのは俺だけだ。
 俺だって相手がいれば多少は意識しているかもしれないが。


 わかってはいても、こんな場所で落ち着いて夜を過ごすのはなかなか難しい。
 一応貴族街という、平民がなかなか訪れる場所ではないのも関係している。
 ここ二日の成果を確認するように、俺はステータスカードを見る。


 Lv13 ハヤト・イマナミ 職業 無職Lv1 メイン 勇者Lv1 サブ 斧使いLv1、騎士Lv1、剣士Lv1
 HP1 
 筋力840 体力11 魔力1 精神1 技術450 
 火1 水1 風1 土1 光1 闇1
 職業技 筋力アップ 体力アップ 技術アップ 


 レベルは2つあがったが、いまだ職業レベルは一切あがらない。本当にあがりにくくて困っている。
 ステータスポイントは念のために120は残してある。急に何かのステータスが必要になるかもしれない。
 レベルの上昇だって、俺が一人で経験値を独占してこれなのだ。
 俺はずっと十二階層で狩りをしていたからこそ、レベルがここまであがったのだと思う。


 アイストは何度も手を組みなおし、緊張や不安を隠そうとしているのがわかった。
 ここ最近の戦闘訓練を行い、俺との実力差がはっきりとしてきたことでか、アイストはどうにも及び腰である。
 ……彼は何でも、街ではかなりの力を持っている子どもらしい。大人たちと同行して、普段から迷宮で狩りをして街に貢献していたとか。
 だからこそ、それなりに自負はあったのだろう。少なくとも同年代の相手には引けをとらない力を持っている、と。
 ……いや、俺は例外だから。経験だけなら、完全にアイストが上で、俺なんてフェイントをされると結構な頻度でひっかかるほどだ。
 技術があがったことで、どうにか相手との駆け引きもできるようになってはきたが。


「緊張しているのか?」
「え、えと……まあ、はい」
「あのときはあれだけ意気込んでいたじゃないか」
「あのとき、魔斧と戦った時に、少し声のようなものが聞こえたんです。……魔斧はただ、貴族を憎んでいるだけだって。平和に過ごしていた街を荒らそうとした……相手を。僕も相手を憎んでる。……だから、わからないでもないんです」


 ……アイストも本当は魔斧を止めずに、貴族を殺して欲しいと思っているだろう。


「そういう世界なんだ。……平民、貴族っていう立場があるからこそ、一応みんなが生活できる環境があるんじゃないか?」
「……そう、ですね。僕は……そんな風には考えられないんです」
「……知らないだけだ。知らないから、そうやって考えられるだけだ」


 この世界で生活しているわけじゃない。実際に生活していないから、平民という立場を理解することができないんだ。


 だから、こんな平民と貴族の意見だって、どっちが正しいのか……判断はできない。
 悪い面というのは表面にあがりやすい。だから、貴族の悪い面ばかりを目にする機会は多いのかもしれない。
 もちろん、あのパーティー会場で酷いことを言っている人たちもいた。ただ、あれだけで貴族のすべてが悪いとは思わない。
 王は俺には優しくしてくれた。立場が違うのだから、どうにも判断材料にはかけるから、参考にしかできない。


 貴族が憎いから、貴族に仕返しをするというのもまた、違うのだろう。
 それで解消するのは、行動を起こした人間の心だけだ。
 今回に限ってだって、アイメルド・フィルナの肩をもつわけではないが、まだ彼らの心情を聞いたわけではない。


 本当に、国を民を思って、あの魔斧が必要なだけかもしれない。
 直接聞いてみるまで、相手を決め付けるつもりはない。
 その後に苛立って殴ったら、それはつまり、俺が自分の心を豊かにしたいからだろうね。


 こういうことはお互いの立場を考えるなんてのはやめるに限る。どうしたって、どっちも正しいかもしれない、という考えで終わる。
 戦争と同じだ。お互い、自分にとっては正しいと思ってしているのだから、厄介でしかない。
 俺は気に食わなければ苦言を呈すし、あまりにもアホなことをしていれば手を出して止める。
 それぞれが、自分の考えで行動を決めるしかない。




 ―ーキャァァ!
 そんなか細い悲鳴が、外から響いてきた。
 俺たちはすぐに立ち上がり、風呂屋を飛び出す。
 外を歩いていた人たちが慌てたように走っている。
 彼らは俺を見て、すぐに服をつかんでくる。


「……ま、魔物が貴族街に現れたんだよ! 黒い……魔物の姿をしたような奴なんだ! 金はいくらでも払う! だから助けてくれ!」


 貴族の男だろうか。右手に宝石をもって俺の体にすがりついてくる。
 その背後から黒い影が襲い掛かってきて、貴族を突き飛ばしながら剣をおろす。
 一太刀で黒い影は消滅する。闇にまざるように消えた影を見て、剣を戻す。


「どこか近くの建物に隠れてください! 悪いけど、俺たちも忙しいんです!」
「お、おい! 俺をつれてってくれないのかよ!? 一人なんだぞ!?」


 貴族の顔には明らかな焦りの色があった。
 確かに、先ほど襲ってきた魔物は、本来の魔物とは少し違う。
 ウルフなどを真っ黒に染めたような姿をしていて、そんな未知の相手との遭遇が彼の恐怖をかりたて、判断を鈍らせているのかもしれない。
 その先では、襲われたと思う人たちが倒れている。
 ……死んではいないようだ。力を失ったように動かないでいた。
 この影も、もしかしたらアーフィから力を奪ったあの斧と似たようなものなのかもしれない。
 だとすれば、大本を倒せばどうにかなるだろう。


「悪いけど、こっちも忙しいんだよっ。あんたは自分が住む街が魔物に襲われているっていうのに、魔物の処理じゃなくて自分を優先しろって言うのか?」
「当たり前だろっ。俺がいれば、この街はまた再生できるだろっ。俺の家は伯爵なんだ、言うことを聞くことしか脳のない平民なんだから、言うことぐらい聞け!」


 アイストたちがあからさまに嫌そうな顔をする。もう話をするだけ無駄だろう。
 これはダメなタイプの貴族で俺は嘆息して、手を掴む。
 それでも、出来る限り穏やかな声音で、彼に伝えた。


「確かに、あなたは必要で優秀な人なのかもしれません。けど、あなたがどれだけ優秀でもあなたに従う人がいなければ、まず街は再生しないでしょうね。例えば、この街の復興に必要な人が千人いたとしましょう。あなたが、たてた復興の計画を実行するための平民を、ここで大量に失うというのは……それはそれで惜しいことではないでしょうか? とにかく、私たちはその平民を守る必要があります。あなたも優秀な方だと思います。ええ、それはこの手を握ればわかります。良く剣を振っているのでしょうね。だから、あなたなら一人でも切り抜けられるはずです。近くの避難場所に転がり込むまで、霊体を纏えば恐らくは危険はないでしょうしね」
「あ、ああ……」


 貴族はきょとんとした様子で、しかし褒められているのだと考えたようだ。多少は顔に冷静の色を見せている。


「あなたは十分に優秀だ。強い……ですが、その矮小な平民は毎日の生活を支えるために働き、あまり迷宮などで活動をしていません。霊体は圧倒的に弱いです。ですから、あなたは一人で逃げてください」
「……あ、ああわかったよ。取り乱してすまなかったな」


 貴族がそのまま霊体を展開し、走っていく。
 多少最近は運動不足なのか、腹のあたりが膨らんではいたけど、まあそれなりに基礎体力はあるほうなのだろう。


「それじゃあ、行こうか。だいぶ無駄な時間を過ごしてしまったようだし……リグドさんが貴族の首を取っていないことを祈るばかりだな」
「……はい。急ぎましょう!」
「……凄いわね。貴族相手によくもまあ、物怖じせずに言えるわね」
「別に自分の思ったことを伝えているだけだ。それに、あの人はそこまで悪い人ではないと思ったんだ。人間、危険が迫れば本能が出るもんだからね。取り乱してしまうのは仕方ないことで、落ち着かせることに終始しただけだ」


 彼らに簡単に説明を加えてから、俺たちはアイメルド・フィルナが泊まっているという貴族の家のほうへとかけていく。
 道中、たくさんの魔物が襲いかかってくるが、必要な魔物だけを処理していく。
 ……たくさんの倒れている人たちを見て確信する。
 この魔物も相手の力を奪い取れるようだ。


「魔物と戦うときは絶対に霊体で戦うように」


 そう言いながら、最速の剣を振りぬく。技術と筋力をあわせた一撃には、無駄な動きはなくなっている。
 それでもまだ筋力を抑えきれない部分もある。同じだけの数字がないと、この筋力を抑えることはできないのかもしれない。
 やがて到着した貴族の屋敷の入り口。騎士たちが苦痛に顔を歪めて、それでも足が無事なものがどうにか歩こうとしている。


「大丈夫か?」
「だ、誰かわからないが……頼む。化け物を抑えてくれ……ッ! 奴は、屋敷の中へ……! アイメルド・フィルナ様が中にいるんだ!」
「……わかりました」


 やはり、魔斧の目的はあいつだったか。
 あまり気乗りはしないといった様子のアイストの顔だったが、それでも自分の父を助けに行かなければと考えたようだ。
 俺たちは、無駄に大きな屋敷へと踏み込んでいった。





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