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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第十話 四日目 仲間

 俺は当初予定していた通り、アスタリア迷宮へと向かうための準備を進めていく。
 すでに、弁当の注文もしておいた。
 合計十個の弁当ができるまで、それなりに時間がかかるのだか……もう、準備も終わっちゃったよ。
 やることがなくなったため、ギルドへと向かう。
 アスタリア迷宮はここから一つはなれた街にある。街の名前はアヴェンシャで、明日からはそこを拠点とする予定だ。
 そこへ向かう手段としては、竜車か徒歩だ。
 驚いたのが、この世界では馬車よりも竜車のほうが生活に密着しているのだ。
 馬より竜のほうが、育てやすいらしい。


 俺はギルド内に張られている依頼を探していく。竜車に乗る場合は、金がかかってしまうが、例えば商人が騎士の代わりに冒険者を雇うことがある。今はそれを探しているけど、見つからないな。
 この辺りはそこまで危険もないし、依頼している人いないのかな。


 それなりに生活に金がかかるというのがわかったため、出来る限り節約したいんだけど。
 壁の隙間を埋めるように紙が張られ、めくらなければ内容をしっかりと読めないものもあった。
 朝一という時間であったが、ギルドにはそれなりに人がいる。


 別の壁を見ていくと、一人の薄汚い布をかぶった女が隣で依頼を見ていた。
 まさにそのいでたちは、姿を見られたくはないというような格好である。目尻まで隠れていたが、胸があることがわかったので、女と判定できた。
 何か、ぶつぶつと呟きながら少女は依頼を睨みつけていた。
 僅かに見えた横顔は……予想以上に可愛かった。


「……なんて、書いてあるのかしら? ……これを読めるのね。まったく、嫌になるわ」
「……」


 噴出しそうになった。
 何か、世の中への不満や、あるいはよからぬたくらみでも持っているのかと思っていたのだから、その答えは予想外すぎた。


「何か、困っているんですか?」
「……なに?」


 これも何かの縁だ。情けは人のためならずともいう。
 俺が声をかけると女は片目を閉じながらこちらを見てきた。
 左目をなぜか開かない女性……特に目に外傷はないけど、指摘するのも失礼だ。


「文字が読めなくて困っているようでしたので、何か探している依頼があるんですか?」
「……ああ、少し離れた場所に行きたいのよ」
「離れた場所、ですか。となると、いくつか竜車を乗り継いでいくのが良いでしょうね」
「竜車……。あなた、ぺドリック国を知ってる?」
「……確か、このハンランド国の隣に位置する国でしたか」


 今俺たちがいる大陸には、二つの大国がある。
 この国同士はあまり仲が良くなく、ことあるごとに小さないざこざを重ねているのだ。
 まあ、百年ほど前に精霊様のお告げである災厄を伝えられてからは、さっさと国境を決めて停戦したらしい。
 国同士で争っていては、災厄に戦力を避けなくなり、どちらの国もただではすまないからだ。


 三日月型をしているこの大陸では、そのため船などはあまり使われない。三日月の上の先と下では、国が違う。あとは陸路で十分移動可能だし。
 三日月形の上部分が今俺がいるハンランド国で、下側が彼女がいうべドリック国だ。


「ぺドリックから出来る限り離れた場所が良いのだけど、どこか、良い場所はないかしら?」
「……そうですね。でしたら、これから俺が向かう予定の村までの竜車にとりあえずは乗りますか?」
「何? それはなに。依頼に書いてあるのかしら?」
「まあ、そうですね」
「なら、一緒に行かせてもらっても構わないかしら。私字はあんまり得意ではないの。あんまりね」


 強調しているが、あんまりどころか読めないんだと思う。


「構いませんよ。ただ、その前に一つ注意しておきますね。あまり、ぺドリック国から来たと思われるような発言はしないほうがいいですよ。ここは今は停戦こそしていますが、敵国なんですよ」
「……そ、それは。別にわかっていたわ。あなたが聞いてきたから、答えないと礼儀しらずと思われると考えたからよ。知らないなんてことはないのよ。どうしてダメなのかしら」
 彼女は後半ぼそりといったが、俺の耳に届いた。流して欲しいのかもしれないけど、俺は念のために伝えておく。


「そうですか。とにかく……先ほどの、ぺドリック国から離れたいというのは、ぺドリック国から逃げてきた……何か、厄介事を抱えている人間なのではないか? と訝しまれますから、俺以外にはしないほうがいいですよ」
「……あ。そういう理由ね。わ、わかっていたけれど」


 この人、大丈夫だろうか。


「俺はハヤトです。あなたは?」


 ステータスカードにあった名前を伝えると、彼女は頷き、それから頬をかいた。


「名前は……アーフィよ。確か、そんな名前だったはず、うん」
「そんな名前……ですか」
「今のは聞かなかったことにしてちょうだい。私、そんなこといってないから。言ってないの」


 顔を覗きこんできて、むっと頬を膨らませる。女性は、驚くほどに綺麗だったけど、鼻をつく臭いもあった。


「旅に出る前に風呂に行きましょうか」
「ふ、風呂。わ、私の体に何をする気?」
「何もしませんよ。その体じゃ、竜車にも乗せてもらえません」
「そ、そういうことね。……ところで、ね。私はあまりそんな丁寧な口調は好きではないのだけど。普段からそれなら、変えて、とも言えないのだけどどうなのかしら?」


 まあ、そういうなら変えるけどさ。俺は頬をかいて自然に声を発する。


「……なら、これでいいか?」
「ああ、そっちのほうが聞きやすいわね」


 ちょっとばかり彼女のことが気になったが、深い詮索はやめておこう。
 冒険者ってそういうもんだろ? と自分なりに考えてしまった。




 ○




 風呂に行く途中で問題が発生した。
 女性はお金を一切持っていないというのだ。これはいけない。
 頭を掻いていた俺は、さすがにそこまでの面倒を見るつもりはなかったが……女性をこのまま放っておくのも問題な気がしていた。


 常識しらずでこれだけ可愛い子だ。事件に巻き込まれるだろうと、簡単に想像できる。
 金には余裕があるし、国のお金は平民のために使うものだろう。
 それでも、女性にたかられないよう、俺は一つの約束をする。


「風呂代は一回200ペルナだ。わかるか?」
「そのようね。お金がないとどうなってしまうの?」
「風呂に入れないんだよ。……今だけは金を貸してやる。けど、俺はおまえにただでやるわけじゃない」
「お金がないと生活できないのね、なんだか大変ね」
「……どんな田舎で生活していたんだか。とにかくだ。200ペルナと、さっきからうるさい腹の虫を治めるために飯代も払ってやる。合計した金額を、後でもらうからな」
「私は金の稼ぎ方を知らないのだけど……どうすればいいの?」
「本気で言っているのか?」
「ひ、一つだけ知っているわ。体で払う、とか」
「んなのは期待してねぇよ。まあ、ある意味肉体労働だけどさ」
「な、何させらるのかしら」


 変なことを想像しているな。確かにこれだけ肉付きもよくて、美人なら稼ぎ方はいくらでもあるだろう。
 本当にこいつは、俺と同じような年齢の人なのだろうか。
 物を知らなすぎだ。……田舎で過ごしていて、何かがあってぺドリック国から逃げてきた。


 ……もっといえば、お嬢様とかか? けど、凄いタフな生活をしていたように感じるんだよな。
 世間知らずさでいえば、どこかのお嬢様だが、お嬢様がこんなに体汚れるまで過ごすだろうか? それに、お嬢様なら最低限の常識とか学ぶだろう。
 頭のネジがいくつか弾けていそうだったリルナでさえ本を読むことは出来ていた。


 ……それとも、例えば政略結婚の道具としてか価値のないような子とかは、教養さえも学ばない世界なのだろうか。


「魔物を狩れば素材が手に入るだろ? しばらく一緒に行動するから、その間で手に入れた素材をくれればそれで良い」
「なるほど、その手があったわね。別に構わないわよ……空腹の我慢もいい加減限界だったのよ。ありがたく、頂くわ」
「何日食っていないんだ?」
「途中……魔物を狩って得たものを食ったから、まるで食っていないわけではないけれど、しっかりとした食事は……一週間くらい」


 てへっと、下を出す彼女に目を見開いてしまった。


「……そうか。事情はまた後で聞くよ。とりあえず、風呂に入ってくるんだ」
「何から何までありがとうだ」


 俺が公衆浴場で受付をしているおばあさんに事情を伝え、金を支払う。
 アーフィが女子風呂へと入っていき、不安はあったが……もう祈るしかない。
 彼女が脱いだ靴を持っていき、一度公衆浴場から離れ近くの古着屋に向かった。
 靴なども扱っていたため、一番安い外套と靴を購入する。


 値段はそれほどではないが、あんなみすぼらしい格好で隣を歩かれると変に目立つ。
 白の外套は、魔法使いが着ているローブに似ている。これならばそこまで悪目立ちはしないだろう。


 これから戦闘を行うため、足元もしっかりしてもらいたかった。
 おばあさんに頼み、アーフィに着替えを渡しに行ってもらい、しばらく待つ。


 女性の風呂は長い、というのはアーフィにもあてはまるようだ。
 やがてアーフィが出てきた。綺麗な外套を着た彼女は、今度はフードを被っていなかった。


「ハヤト、どうしましょ。靴を盗まれてしまったみたいなのよ」
「新しいの買ってきたよ。これから戦いもあるんだ、こっちのほうがいいだろ」
「おお、よかったわ。最近土の冷たさに困っていたところだったのよ。これで温かいわ」


 ……一応、大事なものなのかもしれないので彼女が履いていた靴もとっておいたが、必要なさそうだ。
 喜んでくれて何よりだ。というか、この子本当に美人だな。
 食事をあまりしていなかったせいか、肌の状態はあまり良くないが、むしろ薄幸の美少女といった感じになっていた。
 長い金髪が顔へとかかり、少しばかり痩せてこそいるが、バランスの良い顔。
 そんな顔からは予想もつかないような力強い両目が、矛盾した美しさを持っている。
 細く、しなやかだろう四肢は残念ながら外套によって阻まれてしまっているが、体の細さと程よく膨らんだ胸は十二分に窺える。
 ……まずいな。これはこれで目立つぞ。
 一番の驚きはその髪だ。さっきまで薄茶色だったのに、金髪と明るい。
 どれだけ汚れていたんだと思っていると、アーフィが外套を触りながら頷いた。


「……ありがとう。これはまた、お金がかかったのではないかしら」
「いや、そっちは俺が勝手にやったことだから気にするな。とりあえずは、風呂代の200ペルナだ。忘れないでくれよ」


 本気で請求しているわけではない。後ろを歩く彼女は、体が綺麗になったことでかなりの美人だと発覚した。
 相変わらず右目を閉じたままであったが、それも重なって美しさがあがったように感じた。


「目、悪いのか? 眼帯とかも売っていたけど」
「眼帯?」
「目を隠す布みたいな奴だ」


 古着屋……というかあそこはもう何でも屋といった感じだった。中古の品なら何でも買い取り、店に並べられていた。
 ……まあ、あれはパーティーグッズ的な扱いであった。色々な眼帯が置かれており、魔物の刺繍が施されているものなどがあった、と思う。


「眼帯……か。それはいくらかかるのかしら」
「たいした額じゃなかったよ。ほしいのか?」
「後で払うというのはダメかしら。きちんと、払うつもりよ」
「わかった。それじゃあ、買いに行こうか」


 今の俺は、仲間が欲しいというか……実験したいことがあった。
 レベルが6になり、すべて筋力に振り分けたところ、ウルフに剣を振るえば、ウルフが爆発四散するような威力を発揮できる。
 ……これならば、仲間と協力すればもっと強い魔物を狩ることもできるのではないか? という疑問だ。


 裏切り者がいる可能性が消えていないため、城に戻るわけにはいかず、さらに俺の力を下手な相手には見せたくなかった。
 そこに、うってつけの女性が現れた。常識をまるで知らず、たぶん、俺が力を振るってもさほど疑問には持たず流してくれるだろう女性だ。
 迷宮の深い階層に入り、二人で狩りをしても効率が良いなら、そっちで狩りを行う。ダメなら、アーフィとのチームを解除すれば良いだけだ。


 これから職業レベルがあがってくれば、さらに攻撃力だけは強くなっていける。
 だから、仲間に囮をしてもらえれば、俺は一撃必殺で敵をしとめられる可能性がある。
 その役割をアーフィにしてもらいたいのだが、果たして出来るのだろうか。
 まあ、彼女が完璧に務めてくれなくとも、とりあえずの実験に付き合って欲しいところだ。準備は十分したしね。

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