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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第六話 二日目 王女様

 午後は近くの迷宮に向かう予定だ。実際の魔物との戦闘……果たしてクラスメートたちはどこまで戦えるのだろうか。
 HPは霊体を纏っているときは回復しない。
 だから、そのHP管理をどうやって行うかなど、チームに別れて戦闘での立ち回りなどを簡単に練習するらしい。


 俺は、それを辞退した。
 ゲーム脳がある俺は、そう簡単にレベル上げをするつもりはなかった。


 それなりにゲームに近いこの世界だ。
 レベルアップ時のステータスの規則性などが何かあるかもしれないと思った。例えば、俺は職業を選べる。
 レベルアップ時のステータスの上昇に、もしかしたら差があるかもしれない、と思ったのだ。


 ゲームによっては装備品がステータスの上昇に関わる場合もある。
 少しでも自分にとって有利な情報を集めたいのだ。


「書庫ね! 私がいれば大丈夫よ」
「そうか。ありがとな」
「ふふん、もっと感謝していいよ」
「ああ、本当に感謝してるよ」


 リルナが胸を張って、道案内をしてくれる。
 ……たまたまリルナを見つけて、書庫について聞いてみたら、あっさりと案内を買って出てくれたのだからラッキーだ。
 クルクル回るように歩いていく彼女の背後をついていき、書庫へと到着する。
 リルナとともに中へと入ると、騎士が敬礼をする。
 ……大変だよな、こういう仕事は。
 俺は本を手当たり次第掴んでいく。……文字の心配はあったが、さすが翻訳の力だ。問題なく読むことができた。


 欲しい情報がいくつも頭へ入っていく。
 一番、興味のあったレベルアップについては、様々な記述がある。
 職業によって、あがりやすいものなどはやっぱりあるそうだ。
 ……後は、珍しいことだがステータスを自分で割り振ることができる場合もあるらしい。
 ……うん?
 そこで俺は自分のステータスを思い出す。確か、俺のステータスカードには、まだよく見ていない場所がいくつかあった。
 メニューを操作していくと、ステータスの中に、ステータス分配という部分があった。
 今はゼロポイントだったが……もしかしてこれは、俺もステータスを自由に割り振ることができるってことか?
 これなら……色々と出来るかもしれない。


 僅かな希望が見えてきた俺がさらに本を読みすすめていくと、悲しい文章を見つけてしまった。
 職業には、例えば種族などもあるようだ。忌み嫌われている種族の職業を持つ人もいて、そういった人たちは親に捨てられてしまうのもしばしばあるとか。
 ……それだけで捨てなくても良いのにな。


 職業をさらに調べていく。
 どうやら、この世界の職業は親の職業を引き継ぐ可能性と、突然生まれる職業など……まあ様々なようだ。
 これはそこまで今の俺には関係ないな。ページをめくっていく。


 過去の精霊の使いの職業一覧なるページがあった。
 勇者というのは過去の精霊の使いにもいたようで、全ステータスが大幅にあがるようだ。
 とりあえず、一番知りたかった情報は手に入った。ここからは、それこそ広く浅くで良いから情報を集めていく作業だ。


 迷宮についても色々書いてあった。
 その中に迷宮都市という面白そうな文字を見つめる。せっかく異世界にきたのだから、俺も楽し見たい部分もある。


 迷宮都市とは、迷宮内に街を作り、人々が生活を送っている場所だそうだ。
 迷宮内をきちんと整備すれば、魔物が出現しなくなるようにも出来るとか。
 ……味のある絵も一緒ににのっていて、なんとも行って見たい気分にさせられる。
 そこは、この国の内部にあるが、迷宮都市は一つの独立した国、という見方をしている人もいる。


「あ、迷宮都市について見ているの?」


 リルナが顔を寄せてくる。近いな……。


「まあな。楽しそうな場所なんだな」
「うん。楽しそうだよね。けど、迷宮の中で良くこんな大都市を作ろうとしたよね」
「……そういうものなのか?」
「だって、迷宮とかって魔石の連絡とかもできないんだよ。何かあっても、連携がとれないっていう大問題があるんだけど……それを補う何かがあるのかな?」


 ……ていうか、魔石を使って通話とかもできるのか。
 俺たちの世界でできていたことは、だいたい魔法で似たようなものが再現されているのかもしれない。
 ぺらぺらとめくっていると、リルナも適当に本を読み始めた。


「何読んでいるんだ?」
「うーん、小説。あんまり文字読むの好きじゃないんだけどね」


 机に足を乗せるようにして、彼女は体を左右に揺らしながら本をめくっていく。


「行儀悪いぞ」
「え? これ、ダメなの?」


 まるで疑問がないような顔をあげる。


「当たり前だろ。机に足を乗せるとか、おまえ今までやっている人みたことあるか?」
「うーん、ないかも」
「それにな、おまえはスカート気味のドレスを着ている。角度によっちゃあ、パンツ見えるぞ」
「な、なに言ってんの!? 変態!?」
「変態じゃない。単純に、おまえの。誰がおまえみたいがガキのパンツを……」
「誰がガキ! 私はもう立派な大人ですぅ! 十七歳ですぅ!」
「……」


 異世界に来てからの一番の驚きかもしれない。
 とりあえず、彼女から視線を外し、異世界に来てしまった最大の原因である精霊について思い出す。
 何かないか、と本を探していると、精霊について、と分かりやすく書かれた本があった。


「あっ、それグルナードの本だ! こっちの精霊物語を書いている作者さんだよ!」
「へぇ……精霊の研究をしている人みたいだな」
「もう二百年くらい前に死んじゃったけどね。この作品が未完だから本当に困る人だよっ。幽霊になってもいいから書いて欲しいものだよ!」


 無茶苦茶言っているな……。


 手に取った本には世界にいる様々な精霊について書かれていた。
 精霊が使う力は魔法であり、昔の人間もそれらを使用することができていたらしい。
 職業として魔法を持っている人たちもいるが、それらはすべて偽物、とも書かれている。


 本当の精霊魔法は、神秘的でいて、とても強く、便利ならしい。
 ぺらぺらとめくっていくと、一番ページ数のある大精霊を見つける。
 大精霊アーフィナ。時々、精霊の使いを召喚し、世界を平和に導いてくれる大精霊様、とも書かれている。
 この世界の人間は、大精霊様を信仰しながら、さらにいくつかの精霊を信仰していく人が多いことも書かれている。
 あんたらはいいかもしれないが、召喚される俺たちには迷惑な大精霊だっての。




 ○




 皆が迷宮から帰ってきたため、俺たちも書庫を出た。
 貴族たちの野次馬に混ざるようおにそちらへと近づくと、賛美の声がいくつも聞こえた。


「さすがでしたな! いまわしき星族でさえも、精霊の使いであれば余裕で倒せるでしょうな!」
「星族ってなんですか?」


 騎士団長に明人が問う。楽しそうに騎士団長が答えているのを、クラスメートたちがほうと頷くように聞いていた。
 俺は先ほど書庫で読んだのでわかっている。
 星族とは、この世界にある一つの種族だ。
 人間族、エルフ族、獣人族、竜人族、そして星族。
 前四つの種族はそれぞれ仲はそれなりに良いのだが、星族だけは違う。


 体のどこかに、赤い星のマークを持っており……何より彼らはステータスを持たない異端族なのだ。
 それでいて、常に霊体に近い力強い体をもっており、化け物並みの強さを持っているとか。
 出会ったら刺激しないようにして、とにかく逃げろ……とされている。


 まるで肉食動物にでもであったときのような対処の仕方だ。
 この世界の人々はそれを恐れ、捕らえ、実験、あるいは殺しているらしく、もうそれほど目立つ種族でもないらしい。
 繁殖率も悪いために、これ以上増えることはないだろう……と本には締めくくられていたはずだ。


 まあ、それも昔の話で、今は御伽噺のような扱いしかされていない。
 隣にいるリルナにも聞いたが、「別に恐れるとか……そもそも良く分からない」という曖昧な返事だった。


 この世界では、「悪い子は星族に襲われちゃうぞ」といって子どもをしつける習慣があるが、所詮はその程度の扱いだ。
 星族は人間を眷属にし、自分の奴隷のようにこきつかうらしい。眷属には一定の強化も与えられるとかで、前に星族とあった戦争ではかなりの強敵だったとか。
 ……まあ、絶滅危惧種のような種族だから、そんなの警戒するだけ無駄無駄、とリルナは言っていた。


 本を読むのはわりと好きだったし、読めない本が一切ないという状況がまた次の本に手を伸ばすきっかけとなる。
 リルナの読めない本がいくつかあったらしいが、俺は一切問題なく読めたので、ずるいといわれたほどだ。
 明人、純也、光一郎の三人が楽しそうに笑っていて、その近くにクラスメートたちがいる。
 騎士団長もどこかへ消え、久しぶりの教室のようなムードがそこにはあった。
 俺を見ると、クラスメートが少しばかり不満そうな顔であった。
 彼らは明人たちから離れていったが、ちょっとだけ複雑だった。


「明人たち、迷宮はどうだった?」
「予想以上に戦闘がラクだったね、なあ、光一郎」
「おうよ! 聞いてくれよ勇人! オレの拳がばしっと! 魔物をしとめるんだよ!」
「そうそう! 勇人、面白かったんだよ! 光一郎が魔物を倒して、血が出てね……っ」


 言いながら純也が口元を隠して笑う。彼の職業は確か魔物使いだったな。
 魔物を一時的に操ることができるらしい。
 明人も状況を思い出したのか、口元に笑みが飾られる。光一郎は困ったように頭を掻いていた。
 そんな彼の顔には、血の乾いたあとが残っていた。


「……ああ、もしかして、血のシャワー?」
「そう」


 いよいよ明人が我慢できなかったようで噴出した。
 光一郎が吠えるように声を荒げて追いかけると、明人が持ち前のステータスで逃げていく。
 それを純也と眺めて笑っていると、宰相がやってきた。


「あなたがハヤト、でしたか?」
「……はい」
「迷宮にもいかず、本などを読んでサボっていたとか。まったく……オール一のステータスを持っているのですから、少しは自覚していただけませんか?」
「……下手にいっても、足手まといになるかもしれませんでしたから」
「だったら、さっさと城から去ってくれませんか? いつまでも、みっともなく城に残っているなんて……とてもとても、精霊の使いとしてプライドがあるのかどうか」
「プライドだけで生きていけるなら、俺もそうするんですけどね」


 宰相の眉尻があがり、それから舌打ちを残して去っていった。
 ……さすがにいいすぎただろうか? 今日には王へ報告をして、明日には去る予定だったし、宰相の溜飲も下がってくれるだろう。


「……勇人、あんまり気にする必要はないよ。なんだか、宰相はあんまり良い噂がない人らしいからね」


 さっきまで笑顔だった明人が、すっかりそのなりを潜めてしまっていた。
 食堂へと向かいながら、俺たちの話す内容は宰相についてだった。


「悪い噂があるのか?」
「騎士団長が話していたけど、宰相は今の王様が嫌いらしいんだ。平民も騎士にしたり、手柄をあげた平民を貴族にしたりと……やりたい放題なのが気に入らないらしい」
「確かに、貴族としての価値はさがるかもしれないしな」
「そうだね。そういうのもあってか、平民が最近は増長している傾向があるらしいんだ。そういうのが気にいらないんだと思う」


 どっちもどっちだろうな。
 その中間あたりで上手くやれるのならばそれが一番なんだろうけど。
 まあ、俺たちが国の未来を憂いても仕方ない。所詮は、呼ばれただけのよそ者だ。


 食堂で夕食を終えて部屋に戻る。帰りに明人たちが風呂に誘ってきたが、それは断った。
 部屋へと戻っていくと、扉の前で腕を組んでいる桃と首をひねりながらの笑顔なリルナがいた。


「リルナとそれに桃、どうしたんだ?」
「……この人は誰でしょうか?」


 指差して厳しい目を作ってきた。
 ……なんだか複雑な気分だ。別に、やましいことは何もしてないぞ?


「そういえば、紹介していなかったな。第三王女のリルナだ。城のことで色々と教えてもらっている」
「……それはわかっていますが、いつ知り合ったのでしょうか?」
「昨日こいつが失礼な挨拶をしてきて、それからだよ」
「うん。それでこれから、パパのところに案内するんだよ」
「お、親への挨拶でしょうか!?」
「あれ? ……うーん、まあだいたいそんなところ!」


 リルナはよく理解していないようだ。二人の会話がかみ合っていないことがわかっているため、俺がすかさず訂正をする。


「俺はただ単に、王様に色々と相談したいだけだ」


 桃はまだ疑った目を向けてきたが、それ以上は言わなかった。


「まあ……子どもに嫉妬しても仕方ありませんか」


 ぶつぶつと自分を言い聞かせるように桃が呟いている。
 リルナはすでに前を歩いていて聞こえていないようだ。
 ……子どもじゃないんだよな、こいつ。


「王様に何の用ですか?」
「明日から、自分の力を色々と試してみたいんだ」
「外に、出るってことですか?」
「え、ハヤト。外に一人で行くの? いいなー、羨ましいなー」
「……おまえが一人で出たらたぶん、身包み失ってどっかに売り飛ばされるぞ」
「……私も……すみません。なんとなく想像できました」
「なんで二人とも酷いよ! 私これでも世渡り上手のリルナちゃんって言われているんだからね!」
「誰に?」
「騎士に!」


 それ、言わせているだけか、お世辞だから。
 リルナの子どもっぽさにすっかり慣れたのか、それこそ桃は妹にでも接するような態度だ。
 リルナもそれが良いのか、楽しそうだ。
 ……これで、俺たちと同年代なんだよな。いや、この世界の成人は十五歳らしい。
 普通に考えたら、リルナは俺たちよりももっと大人びているはずなんだが……。
 甘やかしすぎたせいなんだろうな、これ。


「桃ー、お風呂一緒に……あっ、勇人くんとデート中?」
「まあ、そんなところですね」
「ちげぇよ」


 桃の友人がからかってくる。
 と思ったら、リルナを見てその友人が目を見開いた。


「桃、別に俺は一人でも大丈夫だ。行ってきたらどうだ?」
「ちょっと、ちょっと勇人くん!?」


 早歩きで俺の前まで来ると、彼女は俺の肩を掴んでぐっと運んでいく。
 それこそ、慣れたように霊体をまとって逃げられないようにだ。
 残された桃が首をひねり、リルナとデートについての話をしているようだ。
 リルナがデートという言葉を知らず、一生懸命説明していた。


「な、ななななんで異世界の女に騙されているの!? 他のクラスメートとは違うと思っていたのに!」
「……いや、別に騙されているわけじゃない。あいつは王女様で、これから王様と話しをしたいから、こうして案内してもらっているわけだ」
「怪しいね。……昨日だけで、クラスの男子の何人が貴族の部屋に連れて行かれたか知っているの?」
「そのとき俺は部屋で寝てたからな」
「モテないの!?」
「やかましい。それで、それがどうしたって?」
「……あいつら、あれよ。野獣よ。貴族で私たち恋愛のれの字も知りませーん。精霊の使いの方々、色々と教えてくださーい、みたいな感じのノリだけど、あれ嘘よ!? 儚い女の子演じていますーって感じでしかなかったからね!」
「あー、はいはい。わかった、わかったから、落ち着いてくれ」


 ご忠告は感謝するけど、頭が痛いほどの高音で言われるのだから、耳を押さえるこっちの身にもなってほしい。


「いーい? どうせ、私たちは一ヵ月後には帰るの。この世界に女残すとか、そういうのはやめなさいよ?」
「もともと、そういうつもりだ」
「なら、いいけど。あんた無駄にお人よしだし、どうなるかわっかんないのよね」


 お人よしか?
 別に普通だろ。
 俺にとっても意味があるなら、人助けをする。例えば、好きな人が近くにいるとか、助けることでお金がもらえるとか……そんなやましい感情がない限り、俺は人助けなどをすることはないと思う。


「それでは、私はお風呂に行ってきますね」
「ああ、楽しんで来いよ」
「はい。行きましょうか」


 桃が友達とともに、風呂の方へと向かい、必然的に二人きりになったところでリルナがほっぺたを押さえている。


「どうしたんだ?」
「こ、これって……デートなの!?」
「デートっていうのは、相手を多少意識している人同士が行うもんだ。普通の男女なら、ただ遊びに行くだけだ」
「あ、そうなの?」


 ……この王女様はやはり少しアホだと思う。



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