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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第二話 一日目 オール1としての体



「ようこそ! 精霊の使いの方々!」


 ぽかんとしたままの俺に、そんな声が聞こえた。
 ぶくっと太った男が玉座の前で両手を広げている。
 周囲を見ると、豪華な服に身を包んだ人たちがいた。
 ……異世界にきたようだ。
 そんなのは、関係ない。


「誰だ、俺に投票したのは?」
「……さっきの結果のことかい?」
「それ以外に何があるんだよ!」


 王の前だから静かにする、なんて思考はない。
 真っ直ぐに彼ら三人を睨むと、明人がちらとそちらを見る。


「俺は、自分に投票したよ。みんなは?」
「僕も、したよ。……そんな、勇人くんを陥れるなんて考えないよ」
「お、オレだって自分にだっての! オレがそんなことする価値があるかよ!?」


 それぞれが慌てたように首を振る。
 ……信じたい、信じたいさ、そりゃあな。
 これでも、ずっと一緒に遊んでいる仲なんだ。
 そりゃあ、たまにはお互い喧嘩をするようなこともあったが、こんな陰湿なことをするような奴らじゃない。
 なら……精霊がわざとしたのか? その可能性だってある。
 あんなさっき出会ったばかりの精霊のほうが、疑わしいのは当然だ。
 けれど、誰かがしたのではないか……そんな思考が頭をかすめる。
 どす黒い感情が心を支配しようとする。……なんだか、感覚がおかしい。
 何度か呼吸をしながら、俺はステータスカードを取りだす。


「……俺だって、そうだよ。けど、事実はこれなんだぞ? この結果が、すべてを語っているだろ?」


 それらは彼らだけではなく、クラスメートや、目のよい貴族たちにも見られたようだ。
 ぷっと貴族の一人から笑いがもれ、俺はもうすぐにしまった。


「どういうことですか……? みなさんの誰かが、勇人くんを陥れたということですか?」


 桃の目が鋭く尖り、慌てたように明人たちが両手と首を振る。


「俺たちは何もしていないよ。なのに、精霊はこれを結果として示した……第一、俺たちがどうして勇人を陥れる必要があるんだい? そりゃあ、たまには小さないざこざでぶつかることはあるよ? この前だって、オンラインゲームの対戦でもめたこともあったさ、けど、そんなもんだよ。俺は自分に投票したんだ」


 ……まったく、同意見だ。


「僕にも、動機はないよ……。むしろ、昔助けられて……恩しかないよ」
「オレだって……中学からの付き合いだぜ? 馬鹿なオレに、勉強教えてくれて、こうして一緒の高校に来れたんだし」


 誰も、嘘を言っているとは思えないような表情と声だ。
 本当に……皆真実を話しているのか? わけがわからない。
 精霊は、これをすべて考えていたっていうのか? この疑心暗鬼に陥らせて、何がしたいんだ?


「ど、どうしたんじゃ? な、なんかわしもしかして、邪魔かの?」


 王が悲しそうにしょんぼりとした。
 ……貴族やいくつもの視線を受け、俺はその場で首を振る。


「す、すみません、王様。その……ちょっと色々ありまして。とりあえず、話は終わったので……すみません、話しても大丈夫です」


 納得はしていないが、このままでしゃばり続けるのも印象を悪くする。
 俺の言葉をうけ、王がぱっと顔をあげる。


「ふむ。ならばよいのじゃがの。精霊様に話を聞いておると思うのじゃが、今この世界には危機が訪れておるんじゃ。じゃから、皆に協力してその危機を止めてほしいんじゃ。残りは一ヶ月とあまり長くはない。けれど、皆は精霊様の使いとして普通以上の力を持っていると聞いておるんじゃ。ここにおる友と、仲間と、友人と、ダチ。皆で協力するのじゃぞ」


 それにしても、翻訳の力は本当にあるようだ。
 便利だな。


「王様。どれも似たような意味です」
「おお、そうだったかの宰相よ」


 宰相が厳しい目でそう指摘し、王様はすっとぼけたような顔を作る。


「まだ、環境の変化に慣れぬ者もおるじゃろう。今日は部屋を用意しておいたから、そこで休憩すると良いんじゃ。あっ! ちょっと待って! パーティー開くから、夜までには元気に参加してくれると嬉しいんじゃよ! それじゃあ、困ったことがあったらメイド、騎士、貴族……近くにいる人に声をかけると良いんじゃよ! バァーイ!」


 王様が楽しそうに手を振って部屋から去っていった。
 宰相がごほんと咳払いをし、こちらは王様とは打って変わって厳しい目を作る。


「王はあのように言ったが、一ヶ月と言う時間は非常に短い。精霊様から聞いているが、ステータスについてはこちらで話すはずだったな。明日から実戦に移ってもらおうと考えているから、今頭に叩き込むように」
「宰相、そこからは私がやりましょう」
「……ふん。精々、間違えたことを言うなよ」


 宰相と騎士団長はあまり仲が良くないのか、厳しい目を作っている。
 それから、騎士団長がこほんと咳払いをした。


「私は騎士団長のアゼルだ! これからよろしく!」


 彼の快活な挨拶に、俺たちは顔を見合わせる。


「ステータスカードを見ながら聞くとわかりやすいだろう。まずは、ステータスカードの使い方だ。このようにやるのだ! 霊体を宿れ!」


 ステータスカードを取り出し、嘆息しかでなかった。


 Lv1 ハヤト・イマナミ 職業 ものまねLv1 メイン なし サブ なし
 HP1
 筋力1 体力1 魔力1 精神1 技術1 
 火1 水1 風1 土1 光1 闇1
 職業技 なし


 と、さっきまでは見れなかったが、今はなにやらメニュー画面のようなものも浮かんだ。
 なんだこりゃ?
 周囲のクラスメートは誰も疑問を感じていないようだ。
 ……俺だけ、というかもしかしたらこれも職業の能力なのかもしれない。
 騎士団長はステータスカードを左腕に叩きつける。
 同時に、彼の体が僅かな光りを放つ。
 どこか神秘的な光りだ


「触ってみるか?」


 騎士団長が手を差し出してきて、おそるおそるみんなが触れていく。
 俺も触れてみると、少し普通の人間とは違うような感じだ。なんていうか、ぴりぴりしていた。


「ステータスカードとはいわば、別の体だ。霊体という……精霊様が下さった体をこのいまある体に宿して戦うことができるんだ。霊体にはHPがあり、それがなくなれば、普通の体に戻ってしまう。一度ゼロになってしまうと、HPがもう一度満タンになるまでは霊体にはなれないから、気をつけるように。HPは職業技を使うためにも必要だ。例えば俺は職業技でこんなものが使える」


 騎士団長が剣を抜いて、小さく呟く。


「チャージ」


 叫んだところで、彼の剣に何かが集まっていくのがわかった。


「これは俺が騎士として、習得した技だ。職業は、生まれ持っての職業と、その後訓練したり、レベルアップによって追加されることがある」


 耳を澄ませば、職業についてあれこれクラスメートが話しているのが聞こえてくる。
 騎士という者もいれば、魔法使いなど……みんなたいそう強そうなもので。
 俺が嘆息しながら、職業ものまねを見ていると、不意に心中に声が聞こえた。


『騎士の職業を獲得しました。騎士の職業の解説を聞きますか?』


 ……どういうことだ?
 ステータスカードにはうっすらと騎士の文字が見えた。


『職業ものまねの解説を聞きますか?』


 ……いや、今はあとでいいか。ステータスカードからの問いに、俺は否定を返した。
 俺のほうに近寄ってきた桃が、じっとステータスカードを見てくる。


「……ものまね、ですか? なんでしょうか?」
「他に文字見えないか? メインなしとかさ、意味わかんね」


 彼女があまりそちらを見ていないようなので、聞いてみた。


「……それは見せませんね。何もないと思いますが」


 ステータスカードというのは……ちょっとばかり、見えるものが違うのだろうか。


「これが現実か、悲しいもんだな」


 誤魔化して肩を落としてみせる。
 仮に、騎士の職業を獲得したこと。メイン、サブという職業の意味……これらを考えるともしかして。
 少しだけ、光が見えた。
 そういえば、桃はどんなステータスなのだろうか。


「おまえは?」
「料理人みたいですよ。ほら、勇人くん見てください」


 桃が笑顔と共にステータスカードを見せてくる。


 Lv1 モモ・シモムラ 職業 料理人Lv1
 HP258  
 筋力90 体力75 魔力69 精神105 技術99
 火30 水26 風38 土24 光28 闇20
 職業技 HP変換


 わー、すごいやー。
 頬をひきつらせたくなるほどに強い。


「解説とか聞けるのか?」
「はい。心に声が聞こえますね」


 この機能はみんなにあるのか。
 たぶん、自分の職業を確認するためのものなんだろう。


「料理人って戦えるのか?」


 実際、戦闘に向いているのか?
 ゲームをやることの多い俺からすると、料理人は戦闘職というよりも生産職でしか思えないからね。


「職業技の解説をみますと……敵をしとめたとき、HPを回復することができるそうですが……そこまで強いのかはわかりません」
「そうか」


 じっと見ていても、職業を獲得することはできなかった。
 何が条件なのだろうか。霊体を見る、とかだろうか?
 また後でそれについては考えれば良いか。
 そこからの騎士団長の話は、意識半分と言った感じだった。


 筋力はそのままで、体力は打たれ強さ、魔力は魔法攻撃、精神は魔法などへの打たれづよさらしい。技術は職業技の威力を表しているらしい。
 下の属性の数値は、魔法などの対応する属性の威力にかかわってくるらしい。
 話が終わり、メイドによって部屋へと案内してもらう。
 本物のメイドに興奮するような気力も沸かなかった。


 精霊が嘘をついているのか、それともあいつらが嘘をついているのか……考えれば考えるほどわからなくなっていく。
 部屋の椅子に座りながら、しばらくボーとしていたが、何も思いつかなかった。
 廊下に出ると、ちょうどこちらへ歩いてくる貴族の女性がいた。


 謁見の間でみた、王様の後ろにいた奴だ。


「あっ、ステータスオール1!」


 今一番悩んでいることを指摘され、おまけにからかうような笑い方に、あっさりと爆発してしまった。


「誰だか何だか知らないが、常識知らずも大概にしてくれ。何の理由もなしに、オール一なんてステータスになったと思うか? あんまりふざけるなよ?」


 と間近で怒鳴るように伝えると、彼女は目を伏せた。
 ……やばい、苛立ってつい強く言ってしまった。


「いや、すまん、あんたへは完全に八つ当たりだ。忘れてくれ」
「……ど、どういうことなの? 第三王女の私に話してみるといいよ……ひくっ」


 怖かったのか、強がりながらも彼女は泣き出している。
 第三王女だって? ……ますます話す気がわかない。


「悪かった。なんでもないんだ」


 立ち去ろうとしたが、王女様にぎゅっと腕を掴まれる。
 積極的な奴だな。引き剥がそうとするが、意外に力が強い。生身の体にステータスは関係ないはずなんだけどな。


「ふふーん。何だか楽しそうだし、話すまで離さないからね」
「……そうか。ならずっと手を繋いでいくか?」
「へっ?」


 それを考えたのか、第三王女の顔がみるみる赤くなっていく。
 どうやら、男性経験は少ないだろうという勘が当たったようだ。
 彼女がばっと手を離したところで、俺は通路を歩いていく。


「どこか行くの?」
「どこも……。散歩したいんだが、ダメだったか?」
「別にいいんじゃないかな。迷子にならないようにね。結構大きいから。私も三日に一回くらい迷うしね」


 こいつの記憶力のなさが心配でしかない。
 しばらく歩いて、俺は自分の部屋にきちんと戻ってこれたため、恐らく第三王女の頭が地形に弱いのだ。
 部屋に戻ってくると、席に座っている桃がいた。
 どうして部屋にいるのかとも思ったが、そういえば鍵を開けっ放しだった。どうせこの部屋は借りているだけだしな。


「桃、どうしたんだ?」
「いなかったから、心配しました。勇人くん、どこに行っていたんですか?」
「ちょっと、思考を落ち着けていたんだ。……今のままだと誰かを恨みそうだからな」
「……そう、ですか。けど……あの精霊は少なくとも、あなたと畠山くん以外の全員はきちんとステータスをあげています。その畠山くんも、この状況に納得しているようでした」
「……畠山か」


 やはりそうだったか。
 オタクグループによくちょっかいをかけては笑い者にしていた奴だ。あまり俺は話すことがなかったが、よく明人が注意して、そのたびにぶつかっていたような奴だ。
 クラスでも一人でいることが多かった奴だし、皆彼が自業自得と思っているのだろう。
 俺だって、そうだ。……そう、なんだよな。
 仮に俺があいつらの誰かにこれを仕掛けられたのだとしたら、俺に何か、悪い部分があったんだろう。


 すぎたことを嘆いている場合ではない。
 俺は、絶対に日本に戻らないといけない。だから、戻るために、強くなる必要があるんだ。


「畠山は何をしているんだ?」
「城から出て行くといって、もうここにはいないらしいです」
「……そうか。なんだ、考えていることが同じってか」
「……勇人くん?」


 小首をかしげた桃に、俺は伝えた。


「俺も城を出ようと思っている」


 桃が両目を見開いたが、俺はこの決意を曲げるつもりはなかった。

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