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オール1から始まる勇者

木嶋隆太

第三話 一日目 決意

 桃は視線をさまよわせたあと、厳しい目とともに手を掴んできた。


「……ダメです。この世界には魔物もいると聞きました。それらとであったとき、勇人くんはどうするつもりですか? あまり言いたくはありませんが、あなたには力が……」
「……ものまね。この職業が弱いと思ったか?」
「失礼ながら、はい」
「ただ、な。さっき騎士団長の職業を、コピーしたんだ」
「コピー、ですか?」
「ああ。さっき一人で歩いているときに考えていたんだけど……まずは、ものまねの説明をするな」


 ものまね。
 この職業はどんな職業も、相手の霊体に触れ、相手の職業技を見ることでコピーすることができます。
 ただし、Lvは1で、あげるにはメインとして職業をセットする必要があります。またものまねのLv以上になることはありません。コピーした職業を強くしたい場合は、ものまね自体のLvも上げる必要があります。


「……凄いですね。時間はかかるけど、どんな職業も習得できるってことですか?」
「ああ、そういうことだ。それで、騎士Lv1が追加されていたんだ。……他の勇者の職業だってやろうとすればできるかもしれない。だから、俺は明日の訓練に参加して、情報を集めたらすぐに城を出るつもりだ。理由としては……そうだな。実力差に申し訳ないと感じた。みんなと一緒にいては、危ないからとかが妥当かな」


 城をでる理由としては、一人のほうが経験値が多くもらえるだろうというゲーム的な考えからだ。
 こういったレベル上げでは、パーティーの数などで経験値が分配される可能性が高い。
 俺が、少しでも強くなるには危険を冒すしかない。
 桃もそういった知識があるからか、俺の行動の意味も理解できるようだ。


「けど、どうするのですか? 一人で城の外に出たら、一人で戦う必要があるんですよ?」
「やり方はいくらでもあるさ。霊体以外のステータス……って言い方はちょっと変だね。地球にいたときの体はそのまんまなんだ。だから、戦闘はこの体でやってトドメだけを霊体でさす。こうすれば、経験値を稼ぐこともできるんじゃないか?」
「……それは、そうかもしれませんが。その弱らせるという部分で危険があるのではありませんか?」
「かもしれないけど、そこはもうやるしかないだろ。ハンデを補うには多少のリスクも必要さ」
「そうですが……」
「ああ、そうだ。あと聞きたかったけど、桃は何かこうメニュー画面のようなものは出ないのか?」
「……でませんね」
「へぇ、ならこれも俺のものまねによる効果なのかもしれないね。案外、使える職業みたいで助かったな」


 笑いながらいうと、桃がきっと顔をあげる。


「……犯人を、探さないんですか? 怒りとか、ないのですか?」


 彼女の問いに、俺の作り笑顔が消えたと思う。
 ……俺がそんな聖人だと思うか?
 異世界転移後にどれだけ取り乱していたっていうんだよ。


「怒っているに決まっている。けど、精霊の言葉のすべてが本当とも限らない。犯人がわかれば、俺はそいつを許さないさ。けど、犯人探しに時間をかけるのは、はっきりいって無駄だ」


 見つかったからって俺のステータスがあがるわけでも、そいつと交換できるわけでもない。
 それに、本当に犯人がいない可能性だって……ある。
 精霊が俺たちを惑わせるためにしている可能性だって、俺は捨てていない。


 さっきあったばかりの精霊なんかより、俺は友人たちの言葉のほうが信じられる……と思う。
 何の意味があるのかはわからない。だが、意味の有無について考えるほど、俺たちはこの世界を知らない。
 それよりも、精霊がわざわざ召喚した理由である一ヵ月後の戦い。今明確にわかっている危険はそこだ。


「曖昧をはっきりさせるための作業に力を入れるよりは、見える脅威である一ヶ月後の戦いに備えるほうが先決だ。みんなより弱いから、俺はみんなの何倍もうまく生きないといけないんだ」
「……はい」
「戦いに参加して、生き残ればそれで終わりだ。地球に戻ってハッピーエンド……だから、それまでに生きる力を身につけたいんだ」
「それは城にいても……可能ではないのですか?」


 ……それは、避けたい。
 仮に、犯人があの三人の誰か、または複数いた場合。
 俺に投票した理由は、俺の無力化が狙いだろう。
 ……例えば、俺が城に残って、この能力を明かして協力してもらう。力がついてきたら、その犯人は何を仕掛けてくる?
 考えたくはないが、俺の命を狙ってくる可能性もある。
 現状、敵が誰かわからず、相手は俺を明確に標的として捉えている。


 俺は相手を疑ってかかることもできない。……だって、疑った相手が白だったら、今後の関係に支障がでる。
 だから、俺は自然に振舞わないといけなくて、犯人にも俺の能力が絶対にばれてしまう。
 そして、力を獲得できるかもしれない俺を知ったら相手はどうなる?
 何かを仕掛けてくる可能性は十分に考えられる。
 理想としては、一ヵ月後まで誰にも俺の力は悟られたくないのだ。


「ダメだ。俺の力は出来る限り隠しておく必要がある」


 信用できる桃だけに、この力の真実は話して終了だ。
 桃は納得するように数度頷いたあと、胸にあてるようにして身を乗り出す。


「なら、私も一緒に行きます。あなたを一人にはしたくありません」
「それも、ダメだ! おまえはここに残れ!」


 俺と一緒にいたら、おまえだって敵と見なされるかもしれないんだぞ?
 ……犯人がいた場合、桃までも傷つける可能性がでる。巻き込みたくはない。


「嫌です! あなたを一人にして、それで死なれたら私はどうすれば良いのですか!」
「どうするも何も、その時は……気にしないでくれ。これは俺の問題で、俺がどうにか――」
「私……あなたのことが好きなんです!」


 割りこむように桃が声を荒げてくる。
 その声に、俺は先を噤んでしまった。
 好き……? なんだ、それは。
 好きって異性としての、あれか? わけがわからなかった。


「小さい頃、よく守ってくれましたよね。犬に襲われそうになったときも、上級生にからかわれたときも……いつもあなたが守ってくれました。とても嬉しかったです」
「それが、好きになった理由か?」


 頭は異常なまでに冷静だった。
 ……桃とそういう関係をよくからかわれていた。
 ただ、俺はいつも必ず否定していた。それは、俺が桃を妹のような存在にしか見ていなかったからだ。
 今さら……桃をそういう風に見れるわけもなかった。


「ずっと一緒にいて、気づかなかったんですか? 好きでもない相手に、毎日お弁当を作るほど、私は優しくはありませんよ、勇人くん」


 頭をかいた。
 そりゃあ、そうだ。恵まれた環境にいる……程度の自分にとっての都合の良いことしか考えていなかった。
 桃にとっては、弁当を作るという行為に何かしらの価値を見出していた。
 お人よしだけで、俺のために毎日弁当を作るわけがない。


「私はそんなに優しくありません。なんでわざわざ学校で弁当を渡すと思いますか? 一緒に通っているんですから、会ってすぐに渡すほうが、少なくとも荷物が減って私はラクになりますよ? それでもどうして、学校で渡すか、分かりますよね?」
「あ、ああ」


 それは周りに牽制するため、とかだろうか。 
 普通に考えれば、学校で弁当を渡すなんて、普通の仲が良いくらいの相手じゃない。
 ……ああ、そうか。
 中学からずっと、それをされてきて……俺は何も考えていなかった。


 ……気づかなかった。
 妹というかなんというか、そういう目でしか彼女を見ていなかった。
 俺が彼女に感じている感情は、好き……とは少し違う。
 もちろん、好きだ、大好きだ。けれど、それは桃が求めている答えとは違うだろう。


 潤んでいる彼女の瞳から外しながら、一つのことを思い出した。


 そういえば、明人たちはみんな、一度桃に告白したことがあったはずだ。
 桃は学校でも人気があり、それこそ入学した当初は山のように告白を受けていた。
 どうして受けないのかと思っていたが、俺が理由で……?


 そして……それで明人たちが恨んでいたとしたら?
 ……可能性はゼロじゃない。もちろん、恨んでいたわけではないかもしれない。
 だが、今回の一件で、つい魔が差して……という可能性だってあるだろう。


 好きな相手が、目の前で毎日男に弁当を渡している……挑発行為ととられる可能性がある。
 考えたくはない。考えたくはないが……ないわけじゃない。
 男女の仲のもつれなんてのは、こういうところから発生する場合もある。
 冷静に分析をしていると、俺は今この状況でさえも最悪なのだと気づいた。


「すみません。いきなりこんなこと言われても困りますよね。けど、私はあなたのことがずっと好きです。だから、私も一緒に――」


 桃は少し落ち着いたのか、話を進めようとする。


「……いや、ダメだ」
「どうしてですか?」
「あいつらに、仮に犯人がいたら、たぶんねらいは俺とおまえだ」
「……私も、ですか? なんででしょうか?」


 ……例えばだが、魔物に桃が襲われたとする。その場合、俺は彼女を助けられないが、明人たちならば可能かもしれない。
 かっこよく助けることによってアピールできる……ってわけだ。
 そこまで考えていないで、単に俺への恨みならそれだけでも良い。


 敵がいなければ良いが、いたとき……俺を狙うのか? 桃を狙うのか?
 分からない。
 そして何より、今の俺にはあいつらから彼女を守る力がない。
 悲しいことに、友人はあいつらしかいない。少なくとも、ずっと友達だと思っていたあいつらの誰かに犯人がいる。


 俺と一緒にきたら……桃はレベル上げとかもロクにできないはずだ。
 俺が、足手まといになるからな。
 そして……桃が俺ばかりを見ている状況になったら、何か行動を起こされるかもしれない。
 桃が一人で、俺がこの城を去った場合、彼らの誰かは桃へと積極的に声をかけられるようになる。
 それに桃が冷たい態度をとらない限りは、対等な関係を築けるだろう。
 だったら、俺は――。


「桃、悪い。一緒に来てくれるのは嬉しいし、凄く助かると思う」
「納得してくれましたか。今度は私があなたを守り――」
「待て、待ってくれ。おまえの気持ちは理解した……まず、告白の件は悪いが俺はおまえをそういう風に見たことがないんだ。だから……ごめん。告白は受けられない」


 そこをはっきりしなければならない。
 言うと、桃はくっと唇をかんだ。


「そうですか。その返答はなんとなくわかってもいました。どうみても、私を女と意識したことありませんしね」


 ……確かにな。彼女の両親は家を空けることが多かった。
 そのために、俺の家に来て家族で食事をとることがよくあった。
 両親同士も仲よかったしな。
 小学校低学年のときに両親を失ってからは、塞ぎこんでしまった妹を元気付けるために、毎日通ってくれた。
 ……まあ、桃自身が俺を頼りにくるときもあったしな。 
 とにかく、頼られることばかりだったために、妹のようにしか見れなかった。実際の妹も似たような弱い奴だったし。


 たまに桃が下着姿で部屋をうろつくときもあったが、「もうおまえ高校生なんだからちゃんとしたらどうだ?」と声をかけるくらいで終わっていた。
 裸みたときはさすがに叫んだけど。


「ごめん」
「いいんです。また今度告白しますから」


 そ、そうか。
 さして気にした様子を見せない彼女に、頬がひきつってしまった。


「あと、俺が一人で鍛えるのは……一ヵ月後に備えてだ」
「それは、私もですよ」
「言葉が少なかったな。俺が言いたいのは、一ヵ月の間どうにか生き延びても、一ヶ月後の災厄を倒せるようになっていないと、ダメなんだ。俺と一緒に行動すると、桃のレベル上げも時間がかかってしまうはずだ」


 敵がどれだけ強いかわからない。
 ……まあ、クラスのうち二人が欠けても問題がない、程度の強さなんだろうな。


「桃。俺は自分なりに強くなる。……一ヵ月後に、自分の身を守れるくらいになるつもりなんだ」
「……わかりました。勇人くんがそういうなら、私ももう言いません。……ただ、約束してください。生きて戻ってきてくださいね」


 桃に頷いて、そこで俺たちはひとまず話し合いを終わらせた。



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