なぜかウザカワ後輩美少女に惚れられました

木嶋隆太

第九話 買い物デート







 放課後の校門。あそこを過ぎれば学校から解放されるのだが……。


「先輩」


 校門で待ち構えるは、藤村だ。甘えた声なのは、周囲に人がいるからだ。
 よくもまあ疲れないもんだな。
 特に返事もしないで歩き出すと、彼女はすっと隣に並んだ。


「先輩、今日は暇ですか?」
「荷物持ちなら付き合わないぞ」
「荷物持ちじゃないですよ。この前、先輩の部屋にいって思ったことがあるんです」


 部屋が汚いとかか? なら余計なお世話だ。自分でどこに何が置いてあるかはわかるからな。住んでいる人間が住み心地よければ、それで問題ないだろ。


「お菓子とか、ジュースとかまったくないじゃないですか。だから、今日買いに行こうと思ったんです!」


 そういって彼女はばーんとくしゃくしゃになったチラシをこちらへと見せつけてきた。
 ……ああ、なるほどね。そこには、おひとり様何点まで! と書かれた恐らくは安いのだろう商品がいくつかのっていた。


 近くのスーパーだ。俺も安くなった弁当を買いに行くことがある。食堂にいけば、寮生は安く食事がとれる。だが、食堂には人が多いからな……たまにはのんびり部屋で食事を楽しみたいときもあるんだ。


「そうか。それじゃあ買いにいくといい」
「先輩も行くんですよ! 先輩の部屋に置いておくんですから!」
「……めんどくさいな」
「ついでに、デートもできるんですよ? こんな可愛い後輩と」


 可愛いと自分で言うんじゃない。まあ、それなりに可愛いのではあるが。
 学校ではこういった部分は隠しているそうだ。


 ぶりっ子と思われたくはないらしいからな。
 つまり、彼女的にも半分は冗談なんだろう。藤村の性格から本気で言っているんじゃないかとも思えなくはないが。


 目的のスーパーまでそう遠くはない。
 十分ほど歩くと到着した。中に入ると、うちの生徒と思われる人たちがいた。やはりここはうちの生徒が利用者として多いようだ。


 お菓子とか結構安く売られているしな。
 俺はお菓子は好きでも嫌いでもないから家にはおいていない。あれば食べるが、なければ食べない。そんな感じ。


 俺たちに気づいた生徒がちらちらとこちらを見てくる。
 「あれって藤村さんじゃないか?」みたいなやり取りがそこかしこから聞こえた。


「……なるほど。先輩私たちのカップルをアピールするのに一ついい作戦を思いつきましたよ」
「いい作戦?」


 たぶんロクでもない作戦だ。
 少なくとも、俺にとっては面倒なことしかないだろう。


「こうやって、うちの生徒がよく利用する店にデートで行けばいいんですよ! そうすれば、私たちが付き合っているっていう何よりの証明ができます!」


 周りには聞こえない程度に、彼女は笑顔とともに言っている。近くでこちらを見ていた男子生徒が見とれている。……あぁ、この発言をこのスーパーの放送を借りて流したいな。


「確かにそれは賢いやり方ではあるかもしれないが――」
「でしょう!? 私って天才ですねっ。早速今度実行しましょう!」


 賢いやり方ではあるが、カップルというのを見せつけて歩くんだろ? 大変いやな奴ではなかろうか。
 というか、一番問題視されるのは俺だ。彼女と付き合っていて、何よりも嫉妬されることになるのは俺だろうからな。


 しかし、そのあたりのことをは考えてはくれないようだ。
 俺たちはきっちり広告の品をかごに入れていく。


「これ全部先輩の部屋に置いてくださいね」
「何回来るつもりだ……」
「終わるまでは遊びに行ってあげますよ」


 こっそり食べておけば、藤村が来ることはなくなる? 俺は思いついた天才的発想に自分が恐ろしくなった。


「私がいないときに食べたら怒りますからね」
「そんなこと考えるわけないだろ。今日の夕食を買ってから帰りたいから、弁当コーナーに行ってもいいか?」
「え、先輩食堂で食べないんですか?」
「たまには、一人で夜空でも楽しみながら食べたいんだよ」
「……いや寮のベランダからじゃ大したもん見れないでしょ? あっ……先輩ぼっちだから、みんなと食事できる時間が地獄でしかないんだ……」
「いやな納得の仕方をするんじゃない。単純に、一人でいたいときってのは誰だってあるだろ? 俺はただその頻度が多いだけだ」


 年中無休といっても過言ではない。
 弁当やカップ麺をかごに入れていくと、藤村は露骨に眉間を寄せた。


「先輩。そんなものばかり食べていたら体壊しますよ?」
「大丈夫大丈夫。人間なんていつかは壊れるさ」
「いや、自らそれを早める必要はないんじゃないですか?」


 藤村がじっとかごを見ていると、不意に俺の手をつかんで引っ張っていく。


「どうした藤村。持つならこっちを持ってくれないか」


 かごを持ち上げると彼女はベーっと舌をだす。


「先輩の部屋も冷蔵庫ありますよね?」
「ああ」


 俺たちの寮には簡易的なキッチンと小さな冷蔵庫がついている。一人暮らしをするには申し分ない。
 本格的な料理をするのなら、物足りない、そんなキッチンだ。


「今度料理作りにいってあげますから、お腹すいたら教えてくださいね」
「えぇ……おまえはおかんかよ」
「別に。ただ、一応は彼氏なんですから体調崩されても困るんですからね」


 真面目な奴だな。それから、いくつかの野菜やら肉やらを購入することになった。
 ……野菜は別にいらないんだがな。肉さえあればいい、と言ったらにらまれた。


 店員はうちの生徒だ。アルバイトをしているようだ。俺たちが購入したものを見て、手がふるえていた。
 ……そりゃあそうか。まるで一緒に暮らしているかのようなものしか買ってないんだからな。


「ていうか、お前料理できたのか?」


 以前はおいしい冷凍食品三昧だったはずだ。
 二人でレジ袋に食材を入れていく。よし、俺が持つほうはお菓子とかの軽いものだけにしよう。


「できますよ。この前だって作ってあげたじゃないですか」
「いやあれは冷凍食品だったろ」
「あのときは時間なかったですからね。思いついたその日のうちに買い物きたら、あんまりいい野菜とか残っていなかったので。次は、ちゃんとしたのを作ってあげますよ」


 意外だ。
 俺が軽いレジ袋を握りしめていると、すっと藤村が奪い取った。
 あ、待て! 俺が取り返そうとしたが、さっとかわされた。藤村が視線を向けたのは、野菜などが入ったレジ袋だ。


 俺はあきらめてそれを持ち上げる。ちくしょう……。
 外に出ると、すっかり陽が沈んでいた。


「結構長く見てましたね」
「そうだな」


 俺たちは並んで寮まで歩く。男子寮のところまで付くと、彼女がレジ袋を渡してきた。


「野菜とかは別にいいですけど、勝手にお菓子は食べないでくださいよ」
「わかってる」


 確かキャベツやレタスもあったな。あれなら、そのまま食べられるから俺でも問題ない。
 レジ袋を両手で持ったところでハッと気づく。


「送っていったほうがいいか?」


 女子寮の入り口までも別に遠くはない。目と鼻の先とはいえ、夜道となると不安に感じる人もいるだろう。俺ってなんて紳士なのだろうか。


「え、先輩どうしたんですかそんな気遣いができるなんて……偽物ですか!」
「一応暗いからな。っていっても、おまえなら大丈夫か?」
「え、なんでですか?」
「動きいいからな。運動神経いいとも言っていたし、何かあっても逃げられるか?」
「だからってそう提案しておいて送っていかないというのは、男としてどうなんですか?」
「信頼してんだ」
「面倒なだけでは?」
「見事」


 藤村が頬をぶーっと膨らませる。まあ、送ってはいってやるさ。
 何かあって俺のせいにされても困るからな。


「なんだかんだいって、先輩ってやさ――意外と、本当に意外と優しいところもありますよね」
「そういうなら一人で帰るか?」
「彼氏なんですから、きちんとしてくださいね」


 そういいながら、彼女は歩き出す。特に返事をいただいてはいないが、一緒について来いという感じだろう。
 藤村の隣に並ぶと、彼女は満足そうであった。


「先輩も、もう少し頑張ってくださいね」
「へいへい」


 そう返事をすると、藤村は楽しそうに笑った。





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