なぜかウザカワ後輩美少女に惚れられました

木嶋隆太

第三話 彼氏彼女



「なあ藤村」
「何ですか先輩」
「告白するときに胸倉掴むってある? 若干首しまってんだけど」
「細かいこと気にするのは男らしくないですよ?」


 細かくないんだが? ただ、気にしても仕方なさそうだ。


「付き合う? どういうことだ?」
「そのままの意味ですよ。あたし、今こうして先輩と話していて、惚れちゃいました」
「それではいそうですかと信じるバカがどこにいるんだ?」
「え、先輩違うんですか?」
「いや、騙されたわ。藤村めっちゃ可愛い! 付き合おう! 抱きしめていいか?」
「近づかないでくれませんか?」


 何が付き合ってくれだ。
 俺はため息をつき、彼女を見る。


「正直に話せ、どういう意味だ」


 俺がそういうと、彼女は人差し指を顎に当てる。
 考えているポーズなんだろう。それもサマになっているな。


「先輩、傷つくことになってもいいですか?」
「それなら言わなくていいや」
「先輩って誰にもモテないし、ぼっちでしょ? そんな人が彼氏ってなれば、誰もうらやましがるなんてことないでしょ?」


 人の話聞いてた? ざっくざっくとナイフでめったさしにしてくる彼女に、俺は小さくため息をついた。


「話が見えてこないんだが、どういうことだ?」
「簡単にいえば、先輩を彼氏にしておけば、同情はされても嫉妬されることはないんじゃないかな、って思ったんです。いわゆるブス専、みたいな感じです。あっ、別に先輩の顔がそこまでひどいとは言っていませんからね?」


 なんかそういっているように聞こえるのだが。別に俺の顔は普通の男子高校生らと比べても変わらないんじゃないだろうか。
 目つきや猫背が悪いだけで、別にかっこ悪いなんてことは決してないと思う。ああ、きっとそうだ。思い込みじゃない。


「……誰かに同情されたいってことか?」
「そんなことのために、わざわざ先輩を彼氏に指名なんてしませんよ。単純な話です」


 一度間を作ってから、彼女はにこりとはにかんだ。


「私ってかわいいですよね」


 いきなりの宣言に驚く。こいつはよっぽどのナルシストのようだ。


「毎日、告白されて、男子たちからいろいろな目を向けられるんです。学校の優等生になるために、同性、異性と関係なく仲良くしたいのに、学校のかっこいいランキング上位に入るような男子たちが告白してくるんですよ?」
「何そのランキング。俺もいるのか?」
「ランキングのどこかに名前自体はあるかもしれないですけど、たぶん下位のほうじゃないですか? 下のほうはみんな0票だったと思います」


 何その残酷ランキング。


「って人の話に割り込んでこないでくれませんか? とにかく……私は学校内でコミュニケーション能力で上位に入りたいんですよね。そのためにも、同性から不必要な嫉妬で評価をさげたくないんです」
「……なるほど。けど、それで俺を彼氏にしたら、そりゃもう嫉妬の嵐なんじゃないか?」
「なんで?」
「ほ、ほら……俺も、そのかっこ……いい、し……」
「先輩なら大丈夫ですよ」


 ぐっとまっすぐな笑顔のサムズアップ。今すぐに泣きたいね。


「そういうわけで、先輩お願いしますね。人の告白の現場を見るという最悪な行為をしたんですから、このくらいは協力してくれてもいいですよね?」
「……協力、というか。俺は別にのぞくために来たわけじゃないんだが」
「それじゃあなんであんなところにいたんですか?」
「おまえがこれを落としたから届けようと思っただけだ。ほらよ」


 俺はポケットに入れていたキーホルダーを彼女に渡す。
 彼女はえ? と目を見開いてから、スマホを取り出して目を見開く。


「……ありがとうございます、それ大事なキーホルダーなんです」


 意外とお礼はちゃんと言えるんだな。


「そうか。それじゃあよかった。少し汚れてしまったかもしれないが、悪いな」
「いえ……届けてくれただけで十分です。ありがとうございます」
「ああ、大事なものなら、なくさないようにな。それじゃあ、これで」
「それはそれとして」


 がしっと、藤村が首根っこを捕まえてきた。
 ばたばたと手足を動かしてみるが、彼女は逃がしてくれない。
 振りかえると、悪魔のような笑みを向けてくる。


「先輩、付き合ってくれませんか?」


 けれど、甘えるような声だ。思わずうなずきそうになるね。


「わかったよ。名前だけならいくらでも使ってくれて構わない」
「名前だけとは?」
「『私、金剛寺先輩と付き合っているんですー』みたいな」
「金剛寺、そういえば、自己紹介がまだでしたね。私のことはもちろん知っていますよね?」
「裏表の激しい後輩、くらいには……」
「藤村夏樹です。先輩の名前は?」
「金剛寺恭介だ」


 彼女は満足げにうなずいた。


「それじゃあ、金剛寺先輩――うーん、付き合うっていうのに、苗字で呼び合うのもなんか距離感がありますね」
「初々しいカップルっぽくていいじゃないか」
「別にいまさら高校生で初々しいも何もないでしょう」


 え、ないの? 付き合うって高校生とか大学生くらいになったらするもんじゃないの?


「恭介先輩……うん、これでいきましょうか。はい、先輩も私の名前を呼んでください」
「それじゃあ、えっと……悪魔」


 うん、ちょっと照れ臭いな。


「誰の名前ですか?」


 藤村が満面の笑顔を浮かべる。下手な構えよりも威圧感があるな。


「なんだ、夏樹」
「はい、それでいいですよ。とりあえず、これからよろしくおねがいしますね」


 今後一切呼ぶつもりはない。
 ていうか、


「……まて。自然に流していたが、別におまえと付き合うとは……」
「何が不満なんですか先輩は。こんなにかわいい後輩と偽装とはいえ恋人の関係になれるんですよ? ま、先輩に好きな人ができたら別れてあげますよ」
「単純に面倒くさいんだが――おまえは俺を使って同性との交流も深めたいのかもしれないがな。俺はただたんに男子生徒から嫉妬でにらまれるだけなんだぞ? 利点がまったくないんだがな」
「利点ならあります。これから放課後と休日にデートをしてカップルというアピールをしていくんです。つまり、先輩なら未来永劫叶うことのないことができるというわけです!」
「人の来世を決めるなよ……」


 もしかしたらできるかもしれないだろ? ほら、街中みると意外なカップルだっているじゃないか。


「ほかには何かあるのか? 例えば手を握ったりはありなのか?」
「私からなら」
「ほかには――」
「基本的に私からならなんでもいいです。先輩が仕掛けてきたら警察に通報します」
「理不尽すぎないか」


 つまり、何もできないようなものというわけだな。
 俺がため息をついていると、彼女はスマホを取り出す。


「連絡先の交換でもしましょうか」
「……そうだな」


 もう逃げるのは難しそうだ。
 楽しそうに笑う彼女に、俺はあきらめてスマホを差し出した。
 なんだったか。クラスのみんなが入れているトークアプリ。俺もいつ聞かれても大丈夫なように入れているんだよな。今初めての友達が追加された。


「アプリ、サクサク動いて使いやすそうですね」
「まあな。自慢のスマホだ」


 俺はそれをポケットにしまう。
 藤村は一度教室に荷物を取りに戻るそうだ。それだけを伝えて去っていった。


 藤村と付き合うねぇ。
 ……これも一つの勉強か。俺はこの学校に人とのかかわりについて学びに来ている。こういうヤベェ奴とかかわるのも、将来のことを考えればよい経験になるのではないだろうか。


 黙ってれば可愛いし。黙ってれば。



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