お隣さんの可愛い後輩が俺にだけ滅茶苦茶優しい

木嶋隆太

第二十九話





「大富豪……そういえば、部長って大富豪は一人派でしたよね?」


 ナツがそういった。
 ……そういえば、以前部長がそんな話をしていたな。


「勝手なことを言わないでくれるかしらっ。別に一人が良くて一人でしているわけではないわよ!」
「そうでしたっけ」


 そういえば、前に話していたな。部長は一人で大富豪をしているとかなんとか。


「一人で大富豪って……才能だよね」


 アキの言葉に部長の頬がひきついた。


「やったことないからわからないのかもしれないけれど、楽しいわよ? 他の人が何を持っているのかわかる、全能感がいいわ。……ユキもわかるでしょう」


 ふん、っと部長が腕を組む。
 正直いって巻き込まれたくはなかったが、彼女の理論もわからないではない。


「俺も昔カードゲームにはまっていたことがあったから、まあわからないでもないかな」
「わかるの!? これと!?」


 本気で驚くアキに、部長の頬の引きつきが激しくなる。
 誤解されないように、つけたしておく。


「例えば、自分でデッキを組むだろ? その試運転で自分のもう一つのデッキと戦うことはあるな」
「でしょう?」
「まあ、大富豪ではやらんが」


 あげて落とすと、部長が露骨に元気がなくなった。


「少しは友達を作ったらいいんじゃないかな?」


 アキがちょっと優し気な声をかける。俺の言葉を思い出して、優しい言葉をかけたのかもしれない。
 しかし、部長には逆効果だ。


「そんな気軽にできるわけないでしょうがっ! 赤の他人と話すときの緊張があなたにはわからないからそんな無責任なことが言えるのよ! わかるでしょう、ユキ!」
「いちいち巻き込まないでくれ……。けど、緊張するならまだ部長は可能性があるんじゃないか?」
「どういうことかしら?」


 俺に全員の視線が集まる。
 それは簡単だ。


「人が人と話すときに緊張するってのは、ようは自分を変な奴だって見られたくないからじゃないのか? あるいは、相手に変な印象を与えたくない、当たり障りなくしたい……そういう感情があるからだ」
「……そうね」
「つまり裏を返せば、自分を相手によく見せたいからゆえのそういう行動になる。俺のレベルまで行くとだ。……何も感じない」


 俺の言葉にアキと部長が一瞬で理解して、頬を引きつらせる。
 若干二人に比べて頭の回転が遅いナツが少し考えている。


 つまり、何が言いたいかというと、


「どう思われてもいい。別に変な奴と思われようが、嫌われようが構わないから好き勝手に行動できてしまうのが俺。部長は、まだ誰かに好かれようと、あるいは嫌われないようにしようと考えるだけ俺よりましってわけだ」
「……なるほど。確かにそう考えると緊張しているのは悪くない気がするわね」


 うんうん、と部長は俺の理論に納得した様子で頷いている。


「それに部長はぼっちぼっちってバカにされて涙目にしている姿が可愛いからな」
「あっ、それは同意します」
「あなたたち! 部長をもっと敬いなさい!」


 アキも何も言わないが、それには同意のようで目を閉じ、腕を組む。
 大変憤慨している部長にナツが持ってきたチョコレートを渡すと、それを受け取った彼女はわーいと喜んでいる。
 ……買収が非常に簡単なお嬢様だな。


「とにかく、部長からぼっちをとったら何も残らないので部長はこれからもクラス内ではぼっちを貫いてくださいね」
「何も残らないはないでしょう! 他にもあるでしょう!」
「何があるんですか?」
「……か、カワイイとか?」


 そういって部長が顔を両手に当てた。
 恥ずかしいようだが、俺は結構嫌いじゃないな。


「自分のことを正当に評価できているのは悪いことじゃないと思うんだがな」


 世の中はナルシストと馬鹿にするが、自分の魅力を理解していないふりをする人間よりは好印象だ。


「そうですね。私も同意です。部長はまだカワイイし、頭の良さも残ってますね。ぼっちでもやっていけるだけのスペックです」
「ふ、ふふんそうでしょう」


 俺とナツは元気になった部長を見てハイタッチ。
 からかうときはフォローまで。それが俺とナツの間での決め事だ。


「とにかく、大富豪をするとして……負けた時は罰ゲームでもしましょうか?」
「いいわね。それ。ゲーム部らしいわ」


 部長がゲーム部に求めているものが時々わからなくなる。
 一応、この部の活動としてはチャンネル登録数を一万人にするつもりだが、今のところそれが達成されそうな気配はまったくない。


 トランプを渡された俺が軽くシャッフルをしていく。


「けど、大富豪って地域によって変なルールが色々あるよね?」
「基本的なものでいいのではないかしら? ほら、ここにあるルールくらいで」


 部長がスマホの画面をこちらに向けてくる。
 八切り、イレブンバックとまあそのくらいのルールだけだ。


 一般的に知られているルールならこのあたりが妥当だろう。


「それで、罰ゲームはどうするのナツ?」
「そうですねぇ……それじゃあ、初恋の相手について語るとかはどうですか?」


 びくっ、と部長とアキが肩をあげ、それから二人の視線がお互いを向いた。
 お? 今の反応はどう見てもお互いを意識しているものだ。
 これは……もしかして一歩前進か?


「あなた、なぜこちらを見てきたのかしら?」
「そりゃあ。キミが誰かを好きになったことがあるのかと思ってね。罰ゲームをするうえで、罰ゲームにもならないのは意味がないと思ってね」
「それは私のセリフよ。あなたこそ、誰かを好きになったことなんてあるのかしら?」
「それじゃあ、せーので答えようか」
「ええ」
「「せーの、ない!」」
「「……」」


 二人は揃って合図をだし、揃って答えて、揃って落ち込んだ。
 ……お互い、初恋がないということは、自分のことを好いていることもないということだからな。
 無駄に頭の良い二人は、そこまでの考えに一瞬で到達したのだ。


 理解していない、ナツにこっそりと教えてやると納得したようにポンと手を叩いていた。
 俺がフォローしてやろうと思ったのだが、ナツがこちらに来た。


「先輩はどうですか?」
「あるぞ?」
「え、あるんですか?」
「あれは、五年前か。初めて読んだ異世界もののラノベでな、もう作者は死んじゃってるんだが……その作品のメインキャラが滅茶苦茶可愛くてな……」
「あー、はいはい。そうですか」


 ナツがぶすっと頬を膨らませ、それから首を振った。


「これだと答えられるのが私だけみたいなので、やめましょう。罰ゲームは好きなタイプの異性について語るというのはどうでしょうか?」
「好きなタイプの異性?」


 若干回復したアキが首を傾げた。


「はい。別にゲームのキャラクターでもいいですし、リアルでも似たような人がいるならその人について特徴を言ってみるんです。どうですか?」
「……まあ、そのくらいはいいかな? 部長はどう? いえる?」
「え、ええ、そのくらいは……」
「それじゃあ、先輩。カードを配ってくださいね」


 ナツもうまいところに罰ゲームを用意したな。
 俺はカードをシャッフルしながら、アキに近づき、ぼそりという。


「チャンスだなアキ。地味に部長を意識させるようなことを言ってみたらどうだ?」
「……そう、だね」


 一歩前に進むためにもな。
 ナツも同じように部長にアピールしている。その後、部長が何かを言うと、ナツがこちらを見てきた。
 早くシャッフルしろってか? わかってるっての。


 ていうか、俺にトランプを渡してきたのもある程度計算してだろうな。
 俺はカードをざっくり切って、全員に渡していく。
 最初にトランプを受け取ったときに、だいたいのトランプの並びは覚えている。


 あとは弱いカードがアキに集まるように配っていった。
 アキは俺のことを天才だと言っていたからな。頑張ってみたわ。おかげで、試合前にすでに頭が痛い。
 そして、大富豪が始まる。


 一位は部長だ。彼女は腕を組み、胸を張っている。彼女の手札は結構強かったからな。
 ほぼ全員の手札を把握している俺は無難に二位を確保する。
 滑り込みでナツが三位。……おまえの手札一番強かったのに、頭で負けそうになりやがって。


 そしてビリはアキだ。


「おっ、罰ゲームはアキ先輩ですね! それじゃあどうぞ!」
「……そ、そうだね」


 アキはこほんと咳ばらいをして、ゆっくりと口を開いた。


「まずは容姿から話していこう、かな。見た目的には、こう……大和撫子な感じの黒髪ロングの女性、かな」


 おうっ! アキが男を見せた。
 まさに部長ずばりの容姿である。
 部長は何か考えるように眉間を寄せていた。


「そうなんですね。それじゃあ性格とかはどうですか?」
「そ、そうだね……普段は、その真面目で……」
「はいはい、なるほど……」
「けど、内向的であんまり人と話すのが得意じゃなくて……でも、仲良くなった人には、明るい笑顔を見せるような人、かな」
「……それってもしかして」


 さすがの鈍い部長も、なんとなくではあるが理解したようだ。
 彼女の表情が明るくなり、そして――。


「昨日やっていたアニメのヒロインね? あのキャラクターカワイイわよね! 最初はツンツンしていたけれど、昨日の話で一気にデレたわよね!」


 部長の言葉に、アキが頬を引きつらせ、目を見開く。


「違うよ! そんなんどうでもいいよ!」
「ど、どうでもいいって何かしら! じゃあ見なさいよ! あなたの好みばっちりの子がいるわよ!」
「うるさい! バーカ!」
「バカって言った奴がバカなのよ!」


 駄目だこの二人……。
 俺のほうにあきれ顔のナツがやってきた。


「ほんと、どっちもニブチンですよね」
「そうだな」
「ちなみに私の好みのタイプってユキ先輩みたいな人ですよ?」
「何の罰ゲームだ?」
「本心ですよー」


 ナツが甘えたような声をあげてきた。
 まったくこの後輩も適当なことばっかり言うんだから。照れちゃうぞ。

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